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第1部 目指せゲームオーバー!

第14話 オレ終了のお知らせ

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 オレが全力の悲鳴を上げた直後、それに驚いたのか、草蜥蜴グラスリザードの右腕が飛び出した。
 鳩尾みぞおちにレバーブローが突き刺さる。

「ヴォフッ!!」

 変な声が出る。
 そのままオレは、少し離れた場所にいたメンバー3人の近くまで吹き飛ばされた。

「なんで!? なんであのトカゲ生きてんの!? 生き返ったの!?」

 仕留めたと思ったら生きていた驚きと、ラッ●ースケベとぬか喜びしたことへの八つ当たりで叫ぶと、ドルーオが淡々と答えた。

「恐らく、水魔法を使うタイミングが少し早かったのだろう」
「完全に炭化する前に水やりしちゃったって感じでしょうか」
「やっぱり再生すごいねー」

 リフレや天の声ナレーターも補足してくる。
 いや、どうなってんだよ異世界。
 水やりされたからって、炭化寸前から復活する草とか意味わかんねぇよ。グラスじゃなくてキモいグロスだよ。
 幸い復活したのは1体だけらしいけど。

「だ、大丈夫ですよ! 誰だって、慣れないうちはそのくらいのドジも踏みます!」

 リフレがフォローしてくれる……が、まったくフォローになっていない。体だけでなく、心にまでダメージが来る。
 異世界転生した主人公は、序盤から無双して最強ムーブかますものじゃなかったのか……!
 そのとき、竜人が素早くきびすを返した。
 直後、立ち去ろうとするその背中を、鈍色の短槍が貫いた。
 隣を見ると、ドルーオが魔剣を投げたフォームのまま口を開いた。

草蜥蜴グラスリザードは再生能力に特化してるが、単体での戦闘力は低いからな。群れが壊滅した以上、逃走するのは自明だ」

 そこで句切り、元魔王は続ける。

「まぁ何はともあれ、カイトも近接で動けるようにはならないとな。これから旅をしながら、俺が鍛えてやろう」
「え」
「魔法の腕が優秀なメイジも、接近戦の最低限の心得がなかったら半人前だよね。さっきみたいに、ふところに入られたら即負けだもん」
「そうですね。いくら死んでも生き返るとは言え、毎回死んで生き返ってっていうのも……人が死ぬところとか、あまり見たくないですし……」

 天の声ナレーターとリフレの援護射撃も飛んでくる。正論すぎて何も言えない。
 うわー、筋トレとか嫌だなぁ……
 などと思っていると、リフレと目が合った。
 少し心配そうな表情を浮かべている。

「カイトさん、大丈夫ですか? お腹痛みますか?」

 トカゲの腹パンを痛がっていると思われたらしい。
 実際まだジンジンと痛むが。

「あ、そうだ。ドルーオさんの解体が終わったら、少し早いですけど夕飯作りますね」

 ニコッと笑うと、リフレは近くの川へと水をみに行った。
 その後方では、ドルーオがリフレから借りたナイフで草蜥蜴グラスリザードを解体している。
 川から戻ってくると、リフレは炎弾ブレイズ・バレットで火を起こした。
 水の入ったなべを火にかけ、沸いたところでトカゲ肉や調味料を放り込む。
 程なくして、オレ達の前に、緑色のスープが入った器とスプーンが差し出された。

草蜥蜴グラスリザードの肉は草の魔力が宿ってるので、食べると傷の治りが促進するんです。魔獣の肉は魔力が強すぎるので、食べると魔力と肉体が変質してしまいますけど、普通の猛獣くらいの魔力なら大丈夫です」
「あ、ありがとう……」
「ありがとー!」
「ありがとう」

 お礼を言って受け取るが、オレの脳裏には竜人の在りし日の姿がチラついていた。
 よく考えたら、十数分前まで生きてたんだよな、この肉……
 今の状況、かなりグロいよな……
 助けを求めるように天の声ナレーターとドルーオに視線を向けるが、ガイド役達は既にスープに口を付けていた。

「ん、美味しい!」
「……うむ、美味うまいな」
「なぬ」

 美味いなら話は別だ、さっそくいただこう。
 そう思い、オレもズズッとスープをすすった。
 口いっぱいに草の味が広がり、新鮮な草の香りが鼻腔びくうを抜けた。
 より端的に言えば、不味まずい。
 つーか草の味しかしねぇ……!
 改めて器に視線を落とすと、スープの緑色が濃くなっている気がした。
 気を取り直して、スプーンでトカゲ肉をすくう。
 一口サイズの新鮮な肉を口に放り込み、咀嚼そしゃくする。
 ほどよい弾力が一瞬だけ歯を押し返し、しかしすぐにみ切れる。鶏肉に近い食感。
 噛めば噛むほど口いっぱいに草の味が広がり、新鮮な草の香りが鼻腔びくうを以下略。

「草の味しかしねぇ!!」

 思わず叫んでしまった。
 作ってくれたリフレには申し訳ないが、それでも声を大にして言いたかった。
 なにこれヴィーガン用の肉なの?

草蜥蜴グラスリザードは、草の魔力を肉体に宿しているからな」
「うん。だから細胞の性質は、動物よりも植物に近いんだよね」
「味も!?」

 意味わかんねぇよ、どうなってんだよ異世界。
 これを美味いって言ってモリモリ食べてる天の声ナレーターとドルーオも意味わかんねぇよ。
 愕然がくぜんとしていると、リフレが申し訳なさそうに口を開いた。

「すみません。薬草液の調合なら得意なんですけど、料理ってなると上手くできなくて……そちらのお2人のお口には合ったみたいですけど……」
「えぇ……」

 料理音痴のリフレと、リフレが作った食事を美味いと言う味音痴の天の声ナレーターとドルーオと、料理経験ゼロのオレ。
 想像する。
 元魔王直々のトレーニングで疲弊した心身が、草の味しかしない不味い食事で追い打ちされる。
 終わったくね……?
 腹の痛みが引いていくのを感じながら、オレは草味のスープと薄っすらした絶望を味わった。


(つづく)
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