14 / 33
第1部 目指せゲームオーバー!
第14話 オレ終了のお知らせ
しおりを挟む
オレが全力の悲鳴を上げた直後、それに驚いたのか、草蜥蜴の右腕が飛び出した。
鳩尾にレバーブローが突き刺さる。
「ヴォフッ!!」
変な声が出る。
そのままオレは、少し離れた場所にいたメンバー3人の近くまで吹き飛ばされた。
「なんで!? なんであのトカゲ生きてんの!? 生き返ったの!?」
仕留めたと思ったら生きていた驚きと、ラッ●ースケベとぬか喜びしたことへの八つ当たりで叫ぶと、ドルーオが淡々と答えた。
「恐らく、水魔法を使うタイミングが少し早かったのだろう」
「完全に炭化する前に水やりしちゃったって感じでしょうか」
「やっぱり再生すごいねー」
リフレや天の声も補足してくる。
いや、どうなってんだよ異世界。
水やりされたからって、炭化寸前から復活する草とか意味わかんねぇよ。草じゃなくてキモいだよ。
幸い復活したのは1体だけらしいけど。
「だ、大丈夫ですよ! 誰だって、慣れないうちはそのくらいのドジも踏みます!」
リフレがフォローしてくれる……が、まったくフォローになっていない。体だけでなく、心にまでダメージが来る。
異世界転生した主人公は、序盤から無双して最強ムーブかますものじゃなかったのか……!
そのとき、竜人が素早く踵を返した。
直後、立ち去ろうとするその背中を、鈍色の短槍が貫いた。
隣を見ると、ドルーオが魔剣を投げたフォームのまま口を開いた。
「草蜥蜴は再生能力に特化してるが、単体での戦闘力は低いからな。群れが壊滅した以上、逃走するのは自明だ」
そこで句切り、元魔王は続ける。
「まぁ何はともあれ、カイトも近接で動けるようにはならないとな。これから旅をしながら、俺が鍛えてやろう」
「え」
「魔法の腕が優秀なメイジも、接近戦の最低限の心得がなかったら半人前だよね。さっきみたいに、懐に入られたら即負けだもん」
「そうですね。いくら死んでも生き返るとは言え、毎回死んで生き返ってっていうのも……人が死ぬところとか、あまり見たくないですし……」
天の声とリフレの援護射撃も飛んでくる。正論すぎて何も言えない。
うわー、筋トレとか嫌だなぁ……
などと思っていると、リフレと目が合った。
少し心配そうな表情を浮かべている。
「カイトさん、大丈夫ですか? お腹痛みますか?」
トカゲの腹パンを痛がっていると思われたらしい。
実際まだジンジンと痛むが。
「あ、そうだ。ドルーオさんの解体が終わったら、少し早いですけど夕飯作りますね」
ニコッと笑うと、リフレは近くの川へと水を汲みに行った。
その後方では、ドルーオがリフレから借りたナイフで草蜥蜴を解体している。
川から戻ってくると、リフレは炎弾で火を起こした。
水の入った鍋を火にかけ、沸いたところでトカゲ肉や調味料を放り込む。
程なくして、オレ達の前に、緑色のスープが入った器とスプーンが差し出された。
「草蜥蜴の肉は草の魔力が宿ってるので、食べると傷の治りが促進するんです。魔獣の肉は魔力が強すぎるので、食べると魔力と肉体が変質してしまいますけど、普通の猛獣くらいの魔力なら大丈夫です」
「あ、ありがとう……」
「ありがとー!」
「ありがとう」
お礼を言って受け取るが、オレの脳裏には竜人の在りし日の姿がチラついていた。
よく考えたら、十数分前まで生きてたんだよな、この肉……
今の状況、かなりグロいよな……
助けを求めるように天の声とドルーオに視線を向けるが、ガイド役達は既にスープに口を付けていた。
「ん、美味しい!」
「……うむ、美味いな」
「なぬ」
美味いなら話は別だ、さっそく頂こう。
そう思い、オレもズズッとスープをすすった。
口いっぱいに草の味が広がり、新鮮な草の香りが鼻腔を抜けた。
より端的に言えば、不味い。
つーか草の味しかしねぇ……!
改めて器に視線を落とすと、スープの緑色が濃くなっている気がした。
気を取り直して、スプーンでトカゲ肉をすくう。
一口サイズの新鮮な肉を口に放り込み、咀嚼する。
ほどよい弾力が一瞬だけ歯を押し返し、しかしすぐに噛み切れる。鶏肉に近い食感。
噛めば噛むほど口いっぱいに草の味が広がり、新鮮な草の香りが鼻腔を以下略。
「草の味しかしねぇ!!」
思わず叫んでしまった。
作ってくれたリフレには申し訳ないが、それでも声を大にして言いたかった。
なにこれヴィーガン用の肉なの?
「草蜥蜴は、草の魔力を肉体に宿しているからな」
「うん。だから細胞の性質は、動物よりも植物に近いんだよね」
「味も!?」
意味わかんねぇよ、どうなってんだよ異世界。
これを美味いって言ってモリモリ食べてる天の声とドルーオも意味わかんねぇよ。
愕然としていると、リフレが申し訳なさそうに口を開いた。
「すみません。薬草液の調合なら得意なんですけど、料理ってなると上手くできなくて……そちらのお2人のお口には合ったみたいですけど……」
「えぇ……」
料理音痴のリフレと、リフレが作った食事を美味いと言う味音痴の天の声とドルーオと、料理経験ゼロのオレ。
想像する。
元魔王直々のトレーニングで疲弊した心身が、草の味しかしない不味い食事で追い打ちされる。
終わったくね……?
腹の痛みが引いていくのを感じながら、オレは草味のスープと薄っすらした絶望を味わった。
(つづく)
鳩尾にレバーブローが突き刺さる。
「ヴォフッ!!」
変な声が出る。
そのままオレは、少し離れた場所にいたメンバー3人の近くまで吹き飛ばされた。
「なんで!? なんであのトカゲ生きてんの!? 生き返ったの!?」
仕留めたと思ったら生きていた驚きと、ラッ●ースケベとぬか喜びしたことへの八つ当たりで叫ぶと、ドルーオが淡々と答えた。
「恐らく、水魔法を使うタイミングが少し早かったのだろう」
「完全に炭化する前に水やりしちゃったって感じでしょうか」
「やっぱり再生すごいねー」
リフレや天の声も補足してくる。
いや、どうなってんだよ異世界。
水やりされたからって、炭化寸前から復活する草とか意味わかんねぇよ。草じゃなくてキモいだよ。
幸い復活したのは1体だけらしいけど。
「だ、大丈夫ですよ! 誰だって、慣れないうちはそのくらいのドジも踏みます!」
リフレがフォローしてくれる……が、まったくフォローになっていない。体だけでなく、心にまでダメージが来る。
異世界転生した主人公は、序盤から無双して最強ムーブかますものじゃなかったのか……!
そのとき、竜人が素早く踵を返した。
直後、立ち去ろうとするその背中を、鈍色の短槍が貫いた。
隣を見ると、ドルーオが魔剣を投げたフォームのまま口を開いた。
「草蜥蜴は再生能力に特化してるが、単体での戦闘力は低いからな。群れが壊滅した以上、逃走するのは自明だ」
そこで句切り、元魔王は続ける。
「まぁ何はともあれ、カイトも近接で動けるようにはならないとな。これから旅をしながら、俺が鍛えてやろう」
「え」
「魔法の腕が優秀なメイジも、接近戦の最低限の心得がなかったら半人前だよね。さっきみたいに、懐に入られたら即負けだもん」
「そうですね。いくら死んでも生き返るとは言え、毎回死んで生き返ってっていうのも……人が死ぬところとか、あまり見たくないですし……」
天の声とリフレの援護射撃も飛んでくる。正論すぎて何も言えない。
うわー、筋トレとか嫌だなぁ……
などと思っていると、リフレと目が合った。
少し心配そうな表情を浮かべている。
「カイトさん、大丈夫ですか? お腹痛みますか?」
トカゲの腹パンを痛がっていると思われたらしい。
実際まだジンジンと痛むが。
「あ、そうだ。ドルーオさんの解体が終わったら、少し早いですけど夕飯作りますね」
ニコッと笑うと、リフレは近くの川へと水を汲みに行った。
その後方では、ドルーオがリフレから借りたナイフで草蜥蜴を解体している。
川から戻ってくると、リフレは炎弾で火を起こした。
水の入った鍋を火にかけ、沸いたところでトカゲ肉や調味料を放り込む。
程なくして、オレ達の前に、緑色のスープが入った器とスプーンが差し出された。
「草蜥蜴の肉は草の魔力が宿ってるので、食べると傷の治りが促進するんです。魔獣の肉は魔力が強すぎるので、食べると魔力と肉体が変質してしまいますけど、普通の猛獣くらいの魔力なら大丈夫です」
「あ、ありがとう……」
「ありがとー!」
「ありがとう」
お礼を言って受け取るが、オレの脳裏には竜人の在りし日の姿がチラついていた。
よく考えたら、十数分前まで生きてたんだよな、この肉……
今の状況、かなりグロいよな……
助けを求めるように天の声とドルーオに視線を向けるが、ガイド役達は既にスープに口を付けていた。
「ん、美味しい!」
「……うむ、美味いな」
「なぬ」
美味いなら話は別だ、さっそく頂こう。
そう思い、オレもズズッとスープをすすった。
口いっぱいに草の味が広がり、新鮮な草の香りが鼻腔を抜けた。
より端的に言えば、不味い。
つーか草の味しかしねぇ……!
改めて器に視線を落とすと、スープの緑色が濃くなっている気がした。
気を取り直して、スプーンでトカゲ肉をすくう。
一口サイズの新鮮な肉を口に放り込み、咀嚼する。
ほどよい弾力が一瞬だけ歯を押し返し、しかしすぐに噛み切れる。鶏肉に近い食感。
噛めば噛むほど口いっぱいに草の味が広がり、新鮮な草の香りが鼻腔を以下略。
「草の味しかしねぇ!!」
思わず叫んでしまった。
作ってくれたリフレには申し訳ないが、それでも声を大にして言いたかった。
なにこれヴィーガン用の肉なの?
「草蜥蜴は、草の魔力を肉体に宿しているからな」
「うん。だから細胞の性質は、動物よりも植物に近いんだよね」
「味も!?」
意味わかんねぇよ、どうなってんだよ異世界。
これを美味いって言ってモリモリ食べてる天の声とドルーオも意味わかんねぇよ。
愕然としていると、リフレが申し訳なさそうに口を開いた。
「すみません。薬草液の調合なら得意なんですけど、料理ってなると上手くできなくて……そちらのお2人のお口には合ったみたいですけど……」
「えぇ……」
料理音痴のリフレと、リフレが作った食事を美味いと言う味音痴の天の声とドルーオと、料理経験ゼロのオレ。
想像する。
元魔王直々のトレーニングで疲弊した心身が、草の味しかしない不味い食事で追い打ちされる。
終わったくね……?
腹の痛みが引いていくのを感じながら、オレは草味のスープと薄っすらした絶望を味わった。
(つづく)
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
15
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる