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第1部 目指せゲームオーバー!
第15話 新キャラとの出会い
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オレが異世界に転生して、4日目の朝を迎えたこの日。
「うぼぁぁああ……!!」
オレは、そんな呻き声を上げることしかできていなかった。
理由は簡単、元魔王ドルーオ直々のトレーニングの成果だ。
曰く、今のオレでは、たとえ《超駆》で強化したところで話にならないのだという。
近接の心得以前に、そもそもオレの素の身体能力が低すぎるのが問題だとか。
そこでドルーオは、2日間に渡ってオレにトレーニングをつけた。
移動を徒歩から、荷物を背負ってのうさぎ跳びやバーピージャンプや匍匐前進に変えるという、至ってシンプルなトレーニングだったが、陰キャオタクにとっては十分すぎるスパルタだった。
そして、オレの全身はしっかり筋肉痛になった。
「えっと……とりあえず朝ご飯です」
這いつくばりながら、オレはリフレが苦笑混じりに差し出したスープを受け取ろうとした。
しかし、オレの腕は軽く痙攣しただけで動かない。
器を持っても即落下だ。
「すまないリフレ、器を貸してくれ」
器を受け取ると、ドルーオは中から草蜥蜴の肉を取り出し、スープが残った器をオレに近付けた。
途端、昨日までの光景が蘇る。
「やだ! その新手の拷問やだ!」
「拷問ではない。そもそも今日トレーニングをやるやらないとは別に、そのままでは満足に動けないだろう」
「そんなレベルの筋トレやらしたのどこの誰だよ!?」
「お前の目の前にいる俺だ」
できる範囲のフルパワーで駄々をこねるが、ドルーオはまったく意に介さず、カイトの頭をガシッと掴んだ。
1ヶ月前まで魔王だった男のアイアンクローに、頭をがっちり固定される。
「イダダダダダ!!」
悲鳴を上げるオレの口の中に、ドルーオはリフレ特製のスープを流し込んだ。
口いっぱいに草の風味が広がり、同時に全身から痛みが消えた。
草の魔力の癒し効果だ。
「よし、これで動けるな」
この2日間、ドルーオは限界を迎えたオレの体を草蜥蜴のスープで回復させ、そこから移動を始めていた。
めちゃくちゃ強引なトレーニングだ。
ちなみにオレはこのスープを、心の中で超青汁と呼んでいる。
オレの恨めし気な視線を、しかしドルーオは特に意に介したふうもなく、
「少々駆け足になってしまったが、この2日でそれなりに鍛えることができた。今日からは移動のペースを上げてもいいだろう」
そう言って、美味そうに超青汁を食べている。
見れば、天の声も超青汁を食べて満足げだ。
草の味しかしない肉とスープのどの辺が美味しいのか疑問でならない。
だが──味の是非は別として──料理ができる者がリフレしかいないため、受け入れるもとい諦める他ない。
ため息を吐いて、スープからサルベージされた肉を口に運ぶ。
そのとき、ドルーオと天の声がピタリと動きを止めた。
何かに反応したようにサッと顔を上げ、遠くに視線を向ける。
「……? 2人共、どうし……あ」
少し遅れて、オレもそれに気付いた。
「雷の魔力……ちょっと遠いか?」
魔力にかなり慣れた今、オレはドルーオ達ほどの高感度では無理だが、一般人と同程度には魔力を感知できる。
一般人のリフレもオレと同時に気付いたらしく、同じ方向に視線を向ける。
「一瞬でしたけど、かなり強かったですね……魔獣でしょうか?」
そう呟くが、ドルーオは首を横に振った。
「いや、魔獣なら魔力を常に放出しっぱなしのはずだ。一瞬だけということは人族だろうが……」
「それにしては魔力の出力がすごかったね……」
そこで口を閉じると、ドルーオと天の声は一気にスープの残りを平らげた。
オレとリフレも、慌てて朝食を片付ける。
手早く支度を終えると、オレ達はドルーオを先頭に、離れた空間に薄く残る魔力を追った。
◇
移動を始めて数分後、それを見つけた。
長い茶髪をポニーテールのようにまとめた人物が1人、こちらに背を向けて歩いていた。
金糸で刺繍が施された黒いロングコートと、赤紫色に輝く大剣が目を惹く。
この距離まで来ればオレにも感じれる。
さっきのと同じ魔力を、あの剣が薄く纏っている。
魔獣かと疑うほどの魔力を放つ剣──恐らくあれは魔剣だ。
そのとき、ドルーオが「やはりか」と呟いた。
納得したような表情で、離れた場所の人影を見つめる。
「魔剣の使い手なのはいいが、問題は先ほどの魔力の出力だ。一瞬だけとは言え、あれほどの出力の魔力に、普通の人族は耐えられない。言い換えれば、ヤツは普通の人族ではないということだ」
「普通の人族じゃない……」
物々しいフレーズを思わず復唱すると、ドルーオは小さく頷いて続けた。
「ヤツが普通の人族じゃないと仮定して、考えられる可能性は2つだが……魔力の純度からして、片方は除外していいだろう」
「除外した方すげぇ気になるけど……もう1つの方はなんだよ?」
天の声だけはドルーオと同じ考えらしく、何やら頷いている。
分かっていないオレとリフレに向けて、
「こちらの可能性も稀ではあるのだが……」
そう前置きしてから、ドルーオは予想を口にした。
「あの男が、勇者であるという可能性だ」
(つづく)
「うぼぁぁああ……!!」
オレは、そんな呻き声を上げることしかできていなかった。
理由は簡単、元魔王ドルーオ直々のトレーニングの成果だ。
曰く、今のオレでは、たとえ《超駆》で強化したところで話にならないのだという。
近接の心得以前に、そもそもオレの素の身体能力が低すぎるのが問題だとか。
そこでドルーオは、2日間に渡ってオレにトレーニングをつけた。
移動を徒歩から、荷物を背負ってのうさぎ跳びやバーピージャンプや匍匐前進に変えるという、至ってシンプルなトレーニングだったが、陰キャオタクにとっては十分すぎるスパルタだった。
そして、オレの全身はしっかり筋肉痛になった。
「えっと……とりあえず朝ご飯です」
這いつくばりながら、オレはリフレが苦笑混じりに差し出したスープを受け取ろうとした。
しかし、オレの腕は軽く痙攣しただけで動かない。
器を持っても即落下だ。
「すまないリフレ、器を貸してくれ」
器を受け取ると、ドルーオは中から草蜥蜴の肉を取り出し、スープが残った器をオレに近付けた。
途端、昨日までの光景が蘇る。
「やだ! その新手の拷問やだ!」
「拷問ではない。そもそも今日トレーニングをやるやらないとは別に、そのままでは満足に動けないだろう」
「そんなレベルの筋トレやらしたのどこの誰だよ!?」
「お前の目の前にいる俺だ」
できる範囲のフルパワーで駄々をこねるが、ドルーオはまったく意に介さず、カイトの頭をガシッと掴んだ。
1ヶ月前まで魔王だった男のアイアンクローに、頭をがっちり固定される。
「イダダダダダ!!」
悲鳴を上げるオレの口の中に、ドルーオはリフレ特製のスープを流し込んだ。
口いっぱいに草の風味が広がり、同時に全身から痛みが消えた。
草の魔力の癒し効果だ。
「よし、これで動けるな」
この2日間、ドルーオは限界を迎えたオレの体を草蜥蜴のスープで回復させ、そこから移動を始めていた。
めちゃくちゃ強引なトレーニングだ。
ちなみにオレはこのスープを、心の中で超青汁と呼んでいる。
オレの恨めし気な視線を、しかしドルーオは特に意に介したふうもなく、
「少々駆け足になってしまったが、この2日でそれなりに鍛えることができた。今日からは移動のペースを上げてもいいだろう」
そう言って、美味そうに超青汁を食べている。
見れば、天の声も超青汁を食べて満足げだ。
草の味しかしない肉とスープのどの辺が美味しいのか疑問でならない。
だが──味の是非は別として──料理ができる者がリフレしかいないため、受け入れるもとい諦める他ない。
ため息を吐いて、スープからサルベージされた肉を口に運ぶ。
そのとき、ドルーオと天の声がピタリと動きを止めた。
何かに反応したようにサッと顔を上げ、遠くに視線を向ける。
「……? 2人共、どうし……あ」
少し遅れて、オレもそれに気付いた。
「雷の魔力……ちょっと遠いか?」
魔力にかなり慣れた今、オレはドルーオ達ほどの高感度では無理だが、一般人と同程度には魔力を感知できる。
一般人のリフレもオレと同時に気付いたらしく、同じ方向に視線を向ける。
「一瞬でしたけど、かなり強かったですね……魔獣でしょうか?」
そう呟くが、ドルーオは首を横に振った。
「いや、魔獣なら魔力を常に放出しっぱなしのはずだ。一瞬だけということは人族だろうが……」
「それにしては魔力の出力がすごかったね……」
そこで口を閉じると、ドルーオと天の声は一気にスープの残りを平らげた。
オレとリフレも、慌てて朝食を片付ける。
手早く支度を終えると、オレ達はドルーオを先頭に、離れた空間に薄く残る魔力を追った。
◇
移動を始めて数分後、それを見つけた。
長い茶髪をポニーテールのようにまとめた人物が1人、こちらに背を向けて歩いていた。
金糸で刺繍が施された黒いロングコートと、赤紫色に輝く大剣が目を惹く。
この距離まで来ればオレにも感じれる。
さっきのと同じ魔力を、あの剣が薄く纏っている。
魔獣かと疑うほどの魔力を放つ剣──恐らくあれは魔剣だ。
そのとき、ドルーオが「やはりか」と呟いた。
納得したような表情で、離れた場所の人影を見つめる。
「魔剣の使い手なのはいいが、問題は先ほどの魔力の出力だ。一瞬だけとは言え、あれほどの出力の魔力に、普通の人族は耐えられない。言い換えれば、ヤツは普通の人族ではないということだ」
「普通の人族じゃない……」
物々しいフレーズを思わず復唱すると、ドルーオは小さく頷いて続けた。
「ヤツが普通の人族じゃないと仮定して、考えられる可能性は2つだが……魔力の純度からして、片方は除外していいだろう」
「除外した方すげぇ気になるけど……もう1つの方はなんだよ?」
天の声だけはドルーオと同じ考えらしく、何やら頷いている。
分かっていないオレとリフレに向けて、
「こちらの可能性も稀ではあるのだが……」
そう前置きしてから、ドルーオは予想を口にした。
「あの男が、勇者であるという可能性だ」
(つづく)
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