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第1部 目指せゲームオーバー!

第17話 カイトVS勇者VS●●

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 初手から思い知らされた格の違いが、むしろオレのゲーマー魂に火を着けた。
 高難度クエストや強力なボスに挑戦したくなるのは、ゲーマーのさがだ。
 転生ボーナスで人族最強をぶっ飛ばす。
 クエストスタートだ。

「待ってください! 話を聞いてください!」

 リフレが何か叫んだようだが、集中したオレには届かなかった。
 オレの目からやる気が失せていないのを見て、勇者は少しだけ感心したらしい。

「思ったよかイイ目すんなァ。……気が変わったァ、テメェもこっちで遊んでやんよォ」

 瞬間、大剣から強烈な光が弾けた。
 いや、光ではない。
 すさまじい切れ味と轟音をともなった──雷撃。
 嫌な予感がして、オレは反射的に右に跳んだ。
 直後、数瞬前までオレがいた場所が貫かれた。

「や、やっぱこれ、さっきの……!?」

 先刻の恐怖がよみがえり、ひざが笑い出す。
 しかし、そんな余裕などない。
 再度の嫌な予感。
 思い切りかがむと、背中の上を何がが雷速で通過するのを感じた。

「なんなんだよ、この攻撃!」

 ヤケになって叫ぶと、脳内に直接声が聞こえた。

『魔剣ストリ-ク。雷電に包まれた四肢で天を駆けた、《雷狼らいろうストリーク》の爪でできた魔剣だ』

 驚いて振り返りそうになるが、それどころじゃない。
 飛び退いた直後、またも至近距離を紫電が通過した。
 そう言えば、ドルーオは以前言っていた。
 高純度の闇魔力は、脳や精神に干渉できると。
 その応用でテレパシーができるのかも知れない。
 とりあえず今それは置いといて、問題はあの大剣だ。
 説明からして、あれは雷をまとって高速飛行する魔剣ということか。
 ……待てよ、雷?
 頭の片隅かたすみに、何かが引っかかった。
 そのまま少し思案していると、勇者がわらった。

「思ったよか頑張るなァ、だいぶ無様ぶざま愉快ゆかいだがよォ」

 その言葉に、今さらながら後ろの方でも声が上がった。

「ドルーオの特訓の成果?」
「いや、俺がカイトに施したのは、基礎体力向上のトレーニングだ。動体視力や反射神経は鍛えていない」

 その通りだ。これはドルーオの特訓の成果ではない。
 陰キャオタクであるオレの、数少ない特技だ。

「ナメんなよ、陰キャはドッジボールじゃ避け専なんだぜ!!」
「「「……は?」」」

 そう。オレは昔から、ドッジボールの避ける側に限って言えば最強だった。
 ダブルドッジでだって生き残ったオレにとって、魔剣1つを避けるなんて造作もない!
 ちなみに投げる側は無理。

「何ワケ分かんねぇこと言ってんだァ、頭イカれたかァ!?」

 勇者が軽く手を振り、再び魔剣が飛翔する。
 その直前、オレは動いた。

「《地壁グランド・ウォール》!!」

 オレの眼前に、オレンジ色のオーラを纏った岩壁が屹立きつりつした。
 岩の防壁と雷の魔剣が衝突する。
 果たして──防壁は無傷だった。

「よしっ!」
「ちィ、気付きやがったかァ」

 ガッツポーズをするオレとは対照的に、勇者は小さく舌打ちした。
 魔剣は魔獣の能力を継いでいる。
 それは言い換えれば、ある1つの能力に特化しているってことだ。
 例えばドルーオの魔剣デビリティは、毒蛇の魔獣《瘴蛇しょうだデビリティ》の猛毒を継いでおり、弱体化に特化している。
 どんな強敵も短槍の一撃で衰弱すいじゃくさせられるが、逆に毒に耐性を持つ相手や遠距離の相手には効果が薄いだろう。
 特化型の武器は強力だが、それゆえの弱点があるのが鉄板だ。
 そして、勇者の魔剣ストリークは《雷狼ストリーク》の飛翔能力を継いでいて、それは魔獣が宿していた雷魔力に由来している。
 つまり、魔剣ストリークのダメージはほとんどが雷魔力由来ということだ。
 だったら、大剣の物理攻撃も防げるくらい頑丈な地魔法の防壁を作れば、それで簡単に防げる。
 そんなオレの読みは、どうやら正解だったようだ。
 もう楽勝だ。 地魔法でガード固めれば行ける。

「《地壁グランド・ウォール》、《地壁グランド・ウォール》、《地壁グランド・ウォール》!!」

 追加でそびえ立った3つの岩壁で、オレは自分の周囲4方向を城塞じょうさいのように囲んだ。

完璧かんぺき! これで無敵!!」

 叫んだ次の瞬間、緑色の光が弾け、全ての岩壁が粉々になった。
 開けた視界の中で、勇者があきれた目を向けていた。

「アホかテメェはァ。んなもん草魔法でぶっ壊しゃしまいだろうがァ」
「あ」

 うわやっべ恥ずかしあー終わったコレ。
 焦りと羞恥しゅうち諦念ていねんが、心の中で入り混じる。
 そんな中、オレが苦し紛れに口にした提案は、

「オッケー、テイク2行こう」
「知るかアホがァ」

 すげなく却下された。ですよね。
 同時に、大剣がジャギッ! と音を立て──
 直後、視界がに染まった。
 オレと勇者の間を横切るように、草属性の攻撃魔法が放たれたのだ。

「へ?」
「あァ?」

 突然のことに、オレと勇者が間抜けな声をらした。
 2人そろって、魔法弾が飛んできた方向を見やる。
 手許に緑の魔法陣を浮かべた乱入者──リフレがニッコリと笑顔を浮かべた。

「だから、待ってくださいって、言ったじゃないですか」

 どこまでもおだやかで優しげな口調。
 だが、そこに込められたすさまじい怒気に、オレの首筋を冷たいものが全力疾走した。
 見れば、彼女の隣に立つドルーオと天の声ナレーターも、少し後退あとずさりしている。

「2人して、さっきからずーっと聞く耳も持たずに暴れて……危ないじゃないですか」

 そう言って、少女は可愛らしく小首をかしげた。
 しかし、いやだからこそ、ある意味では勇者の魔剣攻撃よりも怖かった。


(つづく)
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