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第1部 目指せゲームオーバー!
第18話 勇者の正体
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ニッコリ笑顔の奥で、猛烈な怒りを燃やすリフレ。
その前で大人しく正座すると、オレはおずおずと口を開いた。
「えっと、話聞かなかったのはごめんだけど……勇者がリフレのこと知らないヤツとか言うもんだから、ちょっとムカついちゃって……」
「わぁ、ありがとうございます。カイトさん、優しいんですね。でも……」
そこで句切ると、リフレは再び小首を傾げた。
「そうやってわたしのことを思ってくれたなら、1回わたしの話を聞いてくれても、良かったですよね?」
「はい、おっしゃる通りです……」
何も言えなかった。
しゅんと音がしそうなほど縮こまっていると、リフレは軽く息を吐いて言った。
「……カイトさん、勘違いしてます。わたしをパーティーから追放した勇者さんと、そちらの勇者さんは別人です」
「……え?」
「……あァ?」
オレと勇者の声が重なった。
どうやら勇者にも気になることがあるようだが、それを気にする余裕はオレにはなかった。
「えっと……それってつまり、リフレとこの人は知らない人同士ってことだったり……?」
「します。まったくの初対面です。わたしもそちらの勇者さんのこと知りません」
はっきりとそう言われた瞬間、オレは隣の勇者に向き直り、
「本っ当にすみませんでしたあああああああっ!!」
長閑な草原に、フルパワー謝罪with土下座が響かせた。
◇
リフレを追放した後、勇者もまた無能すぎて追放を喰らった。
その後釜がこの魔剣使いの男で、しかしオレはそれを知らずに、新勇者にヤンキーのごとく因縁をつけて喧嘩をふっかけた。
これが事の真相だったらしい。
異世界転生したら無双するのが定番なのに、なんでオレはこんなんばっかなんだ。
昨日までは筋トレで体に負担がかかっていたが、今日はメンタルへのダメージがとんでもない。
「おい女ァ。勇者にパーティー追放されたってなぁどーいうこったァ?」
オレの土下座をガン無視した勇者の問いに、リフレは普段通りの口調で答えた。
「先代勇者のルーフさんが、前任のサポーターの方を無能と言ってパーティーから追放して、その穴埋めでわたしが入ったんですが、すぐにわたしも無能と言われて追放されたんです」
リフレは淡々と簡潔に説明しているが、それを聞く勇者は顔をしかめている。
無理もない、改めて聞いても扱いがひどすぎる。
追放系は大体これと同じ流れだが、冷静に考えるとアホらしい。
長々とため息を吐くと、勇者は頭をガリガリとかいた。
盛大に舌打ちし、吐き捨てるように言う。
「ったくよォ、あのゴミクズろくなことしねぇなクソがァ」
「当たりキッツ」
先代勇者のことゴミクズって言い放ったぞ。
気持ちは分からんでもないけど、それにしても辛辣すぎるだろ。
「先代勇者と知り合いのような言い方だな」
そう横から口を挟んだドルーオに、勇者が再びため息混じりに吐き捨てる。
「知り合いたくもなかったぜェ、あんなカス野郎とはよォ。兄弟ってのも受け入れたかねぇよォ」
「兄弟かよ!?」
「あァ、先代は俺の兄だァ。認めたかねぇがなァ」
何度も言う辺り、本当に嫌なのだろう。
実の弟からそのレベルで嫌われるとか、何をやったんだ勇者兄。
見ず知らずの元勇者に呆れつつ、ふと気になって天の声に訊ねた。
「兄弟で2代続けて勇者やってるってことは、勇者って一族で受け継がれる感じなのか?」
「そういうわけじゃないけど、そうなるパターンは割とあるかなー。また説明するよ」
そこで答えを打ち切られる。
そういうわけじゃないけどそうなることが多い。
ワケが分からん。
などと思っていると、勇者が再度リフレに訊ねた。
「女ァ」
「リフレです」
「お前ェ……つーかこのパーティーの目的はなんだァ?」
「カイトさんと天の声さんとドルーオさん……こちらの3人が、魔界に行くためにパーティーを組んでいて、わたしはそこに加入した形です」
端的かつ過不足ない説明を聞き、
「ならァ、テメェら全員俺のパーティー入れェ。俺も魔界行くとこだからちょうどいいわァ」
「えっ?」
予想外な言葉に、オレは思わず声を上げた。
視線の先では、リフレ達も驚いたような表情を浮かべている。
「いや、こっちとしてはありがたいけど……そっちはいいのかよ? そんな軽いノリで……」
「あのゴミ兄の尻拭いするのも当面の俺の仕事だからなァ。あのカスに追放されたヤツへの補償も仕事のうちだァ」
「だから辛辣かって」
やれゴミクズだのカスだのと、当たりがキツすぎる。
内心そうツッコミつつ、オレに断るという選択肢はなかった。
魔界に行くという目的を満たす以上、その道のりは険しいものになるだろう。
リフレが言った通り、勇者パーティーへの加入は、その旅路をかなり楽にしてくれるはずだ。
あと勇者パーティー入りたい。
オレ勇者パーティーに入ってるぜ、とか言ってみたい。
そんなことを考えながら、オレは他のメンバーに視線を送った。
他パーティー(ソロ)との合併は、さすがにオレの一存で決められない。
カイトの視線に気付き、ドルーオと天の声は無言で頷いた。
隣のリフレも「大丈夫です」と一言。
3人からの了承を受け、オレは改めて勇者に向き直った。
「それじゃあよろしく……えっと、勇者さん?」
そう言えば、名前知らなかった。
オレの雑な挨拶にため息を吐くと、勇者は短く名乗った。
「ナッシュだァ、覚えとけェ」
こうしてオレ達は、傲慢だけどちゃんと強い勇者、ナッシュの仲間に加わった。
(つづく)
その前で大人しく正座すると、オレはおずおずと口を開いた。
「えっと、話聞かなかったのはごめんだけど……勇者がリフレのこと知らないヤツとか言うもんだから、ちょっとムカついちゃって……」
「わぁ、ありがとうございます。カイトさん、優しいんですね。でも……」
そこで句切ると、リフレは再び小首を傾げた。
「そうやってわたしのことを思ってくれたなら、1回わたしの話を聞いてくれても、良かったですよね?」
「はい、おっしゃる通りです……」
何も言えなかった。
しゅんと音がしそうなほど縮こまっていると、リフレは軽く息を吐いて言った。
「……カイトさん、勘違いしてます。わたしをパーティーから追放した勇者さんと、そちらの勇者さんは別人です」
「……え?」
「……あァ?」
オレと勇者の声が重なった。
どうやら勇者にも気になることがあるようだが、それを気にする余裕はオレにはなかった。
「えっと……それってつまり、リフレとこの人は知らない人同士ってことだったり……?」
「します。まったくの初対面です。わたしもそちらの勇者さんのこと知りません」
はっきりとそう言われた瞬間、オレは隣の勇者に向き直り、
「本っ当にすみませんでしたあああああああっ!!」
長閑な草原に、フルパワー謝罪with土下座が響かせた。
◇
リフレを追放した後、勇者もまた無能すぎて追放を喰らった。
その後釜がこの魔剣使いの男で、しかしオレはそれを知らずに、新勇者にヤンキーのごとく因縁をつけて喧嘩をふっかけた。
これが事の真相だったらしい。
異世界転生したら無双するのが定番なのに、なんでオレはこんなんばっかなんだ。
昨日までは筋トレで体に負担がかかっていたが、今日はメンタルへのダメージがとんでもない。
「おい女ァ。勇者にパーティー追放されたってなぁどーいうこったァ?」
オレの土下座をガン無視した勇者の問いに、リフレは普段通りの口調で答えた。
「先代勇者のルーフさんが、前任のサポーターの方を無能と言ってパーティーから追放して、その穴埋めでわたしが入ったんですが、すぐにわたしも無能と言われて追放されたんです」
リフレは淡々と簡潔に説明しているが、それを聞く勇者は顔をしかめている。
無理もない、改めて聞いても扱いがひどすぎる。
追放系は大体これと同じ流れだが、冷静に考えるとアホらしい。
長々とため息を吐くと、勇者は頭をガリガリとかいた。
盛大に舌打ちし、吐き捨てるように言う。
「ったくよォ、あのゴミクズろくなことしねぇなクソがァ」
「当たりキッツ」
先代勇者のことゴミクズって言い放ったぞ。
気持ちは分からんでもないけど、それにしても辛辣すぎるだろ。
「先代勇者と知り合いのような言い方だな」
そう横から口を挟んだドルーオに、勇者が再びため息混じりに吐き捨てる。
「知り合いたくもなかったぜェ、あんなカス野郎とはよォ。兄弟ってのも受け入れたかねぇよォ」
「兄弟かよ!?」
「あァ、先代は俺の兄だァ。認めたかねぇがなァ」
何度も言う辺り、本当に嫌なのだろう。
実の弟からそのレベルで嫌われるとか、何をやったんだ勇者兄。
見ず知らずの元勇者に呆れつつ、ふと気になって天の声に訊ねた。
「兄弟で2代続けて勇者やってるってことは、勇者って一族で受け継がれる感じなのか?」
「そういうわけじゃないけど、そうなるパターンは割とあるかなー。また説明するよ」
そこで答えを打ち切られる。
そういうわけじゃないけどそうなることが多い。
ワケが分からん。
などと思っていると、勇者が再度リフレに訊ねた。
「女ァ」
「リフレです」
「お前ェ……つーかこのパーティーの目的はなんだァ?」
「カイトさんと天の声さんとドルーオさん……こちらの3人が、魔界に行くためにパーティーを組んでいて、わたしはそこに加入した形です」
端的かつ過不足ない説明を聞き、
「ならァ、テメェら全員俺のパーティー入れェ。俺も魔界行くとこだからちょうどいいわァ」
「えっ?」
予想外な言葉に、オレは思わず声を上げた。
視線の先では、リフレ達も驚いたような表情を浮かべている。
「いや、こっちとしてはありがたいけど……そっちはいいのかよ? そんな軽いノリで……」
「あのゴミ兄の尻拭いするのも当面の俺の仕事だからなァ。あのカスに追放されたヤツへの補償も仕事のうちだァ」
「だから辛辣かって」
やれゴミクズだのカスだのと、当たりがキツすぎる。
内心そうツッコミつつ、オレに断るという選択肢はなかった。
魔界に行くという目的を満たす以上、その道のりは険しいものになるだろう。
リフレが言った通り、勇者パーティーへの加入は、その旅路をかなり楽にしてくれるはずだ。
あと勇者パーティー入りたい。
オレ勇者パーティーに入ってるぜ、とか言ってみたい。
そんなことを考えながら、オレは他のメンバーに視線を送った。
他パーティー(ソロ)との合併は、さすがにオレの一存で決められない。
カイトの視線に気付き、ドルーオと天の声は無言で頷いた。
隣のリフレも「大丈夫です」と一言。
3人からの了承を受け、オレは改めて勇者に向き直った。
「それじゃあよろしく……えっと、勇者さん?」
そう言えば、名前知らなかった。
オレの雑な挨拶にため息を吐くと、勇者は短く名乗った。
「ナッシュだァ、覚えとけェ」
こうしてオレ達は、傲慢だけどちゃんと強い勇者、ナッシュの仲間に加わった。
(つづく)
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