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第1部 目指せゲームオーバー!
第19話 勇者と元魔王のコーチング
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ナッシュの仲間になった日の夜、オレ達は簡単な自己紹介程度に情報を交換した。
比較的紹介が簡単なリフレとドルーオ、天の声の自己紹介が終わり、オレの番になる。
リフレが夕飯を作っている横で、オレは自分に起きた出来事と目的を要約して語った。
その結果、
「お前もうパーティー抜けろォ」
「なんで!?」
オレはいきなりクビ宣告を喰らった。
多分リフレが勇者パーティー追放されたのより早い。
「俺の目的はァ、魔王と聖王に会って和平条約を締結させるためだァ。そのパーティーメンバーが魔王に殺されに行くだァ? 自己矛盾もいいところだろうがァ」
「確かに……」
全種族完での和平条約を結ぼうとしているところに、魔王に魂ごと完膚なきまでに殺されに行く人族のオレ。
……うん、和平もへったくれもない。
「いや、まぁでも、ほら。俺この世界本来の住人じゃないからさ。ギリセーフってことで」
「ギリギリどころの話じゃねぇだろうがァ」
そう言って睨んでくるナッシュ。
その前に、スッと器が差し出された。
「ナッシュさん、ご飯です」
「おォ」
短く答えて器を受け取るナッシュを、オレはじっと見つめた。
あの器の中身──超青汁を飲んで、ナッシュはどんな反応を見せるのか。
頼むからこれ以上パーティーに味音痴は増えないでくれ。
そう願うオレの前で、ナッシュはスープをすすった。
直後、
「おい女ァ! なんだこの味付けェ! 草の味しかしねぇじゃねぇかァ!!」
良かった、ナッシュの味覚はオレと同じく正常だったらしい。
「す、すみません。お母さんの料理見て練習してたんですけど、昔から上手くできなくて……」
「お前の母親どんな腕前してんだァ!!」
「いや、リフレの母親は酒場を営んでいたぞ。それもかなり繁盛してるようだった」と、ドルーオが助け船。
「じゃあ逆に何見たらこの味になるってんだァ!?」
ごもっともすぎる指摘に、ドルーオも沈黙した。
助け船2秒で沈んでんじゃねぇか。
「おいィ、お前まさか飯の味のせいでクソ兄から追放されたんじゃねぇだろうなァ?」
そんなまさか……とも思うが、分からなくもない。
それがあり得なくもないレベルの味なのだ。
疑るナッシュに、リフレが苦笑しつつ答えた。
「さ、さすがにないですよ。それにルーフさんのパーティーは、わたしが料理を振る舞う間もなく壊滅したので……」
「「……」」
……いや、かなし。
何とも言えない空気になり、オレもナッシュも黙って超青汁をすすった。
◇
翌日、やはり超青汁の朝食をとった後、オレ達は魔界に向けて出発した。
広々とした草原をひたすらに進む。
たまに林や森に入ったが、特に遭難することなく通り抜ける。
問題があったとすれば、
「おいテメェ! 戦い方雑すぎんだろうがァ!! 無駄撃ちしてんじゃねぇぞォ!!」
ナッシュにめっちゃ怒られた。
猛獣の群れに向けて、オレが大量の高火力魔法をぶっ放したあとだった。
「え、ダメだった?」
「テメェただひたすらに上級攻撃魔法ブチ込みまくってるだけじゃねぇかァ! 無駄が多すぎんだよォ、調整しろやァ!」
確かに、オレは戦闘になったら、まず初手に上級攻撃魔法を放り込む。
次に上級攻撃魔法を放り込んで、そしてさらに上級攻撃魔法を放り込む。
こんなやり方で戦っている。
転生ボーナスのお陰で高火力魔法も撃ち放題なんだが、ナッシュからすると無駄撃ち──言わばオーバーキルらしい。
……あれ、ちょっと待て。
「……そう言えば魔法の種類とか詳しく知らねぇや」
ゴブリンや魚を焼くときに使った《炎弾》に《地壁》、それと各種上級魔法。
それ以外の魔法に関しては、特に教わっていない。
キレ気味──というか半ギレ状態で舌打ちすると、ナッシュは「ったくゥ、いいかァ!?」と説明を始めた。
口調は悪いが、案外面倒見はいいらしい。
「自然属性魔法はァ、攻撃・壁・点の3つに大別できるゥ。そんで攻撃系は下級・中級・上級の3つに分けられんだァ、覚えとけェ!」
「なるほど」
つまり、炎属性の攻撃魔法なら初級が《炎弾》、中級が《炎撃》、上級が《炎撃・終》となるわけか。
「で、点ってなんだ? 壁は防壁作るやつだろ?」
「点は、魔力を噴射する極小の魔法陣を展開するタイプの魔法だ」
そう言って、ドルーオは地面に向けて右手を伸ばした。
「《闇点》」
すると、ドルーオから少し離れた地面に、黒い小さな魔法陣が出現した。
ほとんど点のようなサイズの魔法陣から、バシュッ! と黒いオーラが噴き出す。
その勢いは思いの外強い。
「なるほど、相手の死角に仕込んで罠に使う感じか」
「……お前は魔法への理解が早すぎないか?」
感心なのか呆れなのか分からないコメントを零すドルーオ。
そのとき、後ろで何か音がした。
振り向くと、天の声が地面に膝をついて項垂れていた。
ナッシュ達に少し待ってもらい、オレは天の声に駆け寄った。
「どうした? 大丈夫か?」
言葉をかけるオレに、天の声は震える声で答えた。
「ガ、ガイド役のポジションが……私のアイデンティティが……」
「知らん、それは」
ドルーオと天の声のダブル解説で既に十二分だった。
それが面倒見のいいナッシュにポジションを持っていかれた以上、天の声は正直いなくても問題ない。
つーかそもそも、こいつガイド役初めてとか言ってたし。
元魔王と勇者のガイドの方が信頼できる気がする。
「ほら、いいから行くぞ。仕事減って楽になったと思っとけ」
「まぁ確かに……ガイドとか前の仕事と勝手違いすぎて分かんなかったし……」
「前の仕事? 何してたの?」
「最強騎士団のリーダー!」
……嘘くせぇ。
シカトして歩を進めるオレを、天の声は慌てて追いかけた。
その口が小さく動いてたのに、オレも、ナッシュ達も気付かなかった。
「まぁ、魔界にさえ行ければ何でもいいんだけどね」
(つづく)
比較的紹介が簡単なリフレとドルーオ、天の声の自己紹介が終わり、オレの番になる。
リフレが夕飯を作っている横で、オレは自分に起きた出来事と目的を要約して語った。
その結果、
「お前もうパーティー抜けろォ」
「なんで!?」
オレはいきなりクビ宣告を喰らった。
多分リフレが勇者パーティー追放されたのより早い。
「俺の目的はァ、魔王と聖王に会って和平条約を締結させるためだァ。そのパーティーメンバーが魔王に殺されに行くだァ? 自己矛盾もいいところだろうがァ」
「確かに……」
全種族完での和平条約を結ぼうとしているところに、魔王に魂ごと完膚なきまでに殺されに行く人族のオレ。
……うん、和平もへったくれもない。
「いや、まぁでも、ほら。俺この世界本来の住人じゃないからさ。ギリセーフってことで」
「ギリギリどころの話じゃねぇだろうがァ」
そう言って睨んでくるナッシュ。
その前に、スッと器が差し出された。
「ナッシュさん、ご飯です」
「おォ」
短く答えて器を受け取るナッシュを、オレはじっと見つめた。
あの器の中身──超青汁を飲んで、ナッシュはどんな反応を見せるのか。
頼むからこれ以上パーティーに味音痴は増えないでくれ。
そう願うオレの前で、ナッシュはスープをすすった。
直後、
「おい女ァ! なんだこの味付けェ! 草の味しかしねぇじゃねぇかァ!!」
良かった、ナッシュの味覚はオレと同じく正常だったらしい。
「す、すみません。お母さんの料理見て練習してたんですけど、昔から上手くできなくて……」
「お前の母親どんな腕前してんだァ!!」
「いや、リフレの母親は酒場を営んでいたぞ。それもかなり繁盛してるようだった」と、ドルーオが助け船。
「じゃあ逆に何見たらこの味になるってんだァ!?」
ごもっともすぎる指摘に、ドルーオも沈黙した。
助け船2秒で沈んでんじゃねぇか。
「おいィ、お前まさか飯の味のせいでクソ兄から追放されたんじゃねぇだろうなァ?」
そんなまさか……とも思うが、分からなくもない。
それがあり得なくもないレベルの味なのだ。
疑るナッシュに、リフレが苦笑しつつ答えた。
「さ、さすがにないですよ。それにルーフさんのパーティーは、わたしが料理を振る舞う間もなく壊滅したので……」
「「……」」
……いや、かなし。
何とも言えない空気になり、オレもナッシュも黙って超青汁をすすった。
◇
翌日、やはり超青汁の朝食をとった後、オレ達は魔界に向けて出発した。
広々とした草原をひたすらに進む。
たまに林や森に入ったが、特に遭難することなく通り抜ける。
問題があったとすれば、
「おいテメェ! 戦い方雑すぎんだろうがァ!! 無駄撃ちしてんじゃねぇぞォ!!」
ナッシュにめっちゃ怒られた。
猛獣の群れに向けて、オレが大量の高火力魔法をぶっ放したあとだった。
「え、ダメだった?」
「テメェただひたすらに上級攻撃魔法ブチ込みまくってるだけじゃねぇかァ! 無駄が多すぎんだよォ、調整しろやァ!」
確かに、オレは戦闘になったら、まず初手に上級攻撃魔法を放り込む。
次に上級攻撃魔法を放り込んで、そしてさらに上級攻撃魔法を放り込む。
こんなやり方で戦っている。
転生ボーナスのお陰で高火力魔法も撃ち放題なんだが、ナッシュからすると無駄撃ち──言わばオーバーキルらしい。
……あれ、ちょっと待て。
「……そう言えば魔法の種類とか詳しく知らねぇや」
ゴブリンや魚を焼くときに使った《炎弾》に《地壁》、それと各種上級魔法。
それ以外の魔法に関しては、特に教わっていない。
キレ気味──というか半ギレ状態で舌打ちすると、ナッシュは「ったくゥ、いいかァ!?」と説明を始めた。
口調は悪いが、案外面倒見はいいらしい。
「自然属性魔法はァ、攻撃・壁・点の3つに大別できるゥ。そんで攻撃系は下級・中級・上級の3つに分けられんだァ、覚えとけェ!」
「なるほど」
つまり、炎属性の攻撃魔法なら初級が《炎弾》、中級が《炎撃》、上級が《炎撃・終》となるわけか。
「で、点ってなんだ? 壁は防壁作るやつだろ?」
「点は、魔力を噴射する極小の魔法陣を展開するタイプの魔法だ」
そう言って、ドルーオは地面に向けて右手を伸ばした。
「《闇点》」
すると、ドルーオから少し離れた地面に、黒い小さな魔法陣が出現した。
ほとんど点のようなサイズの魔法陣から、バシュッ! と黒いオーラが噴き出す。
その勢いは思いの外強い。
「なるほど、相手の死角に仕込んで罠に使う感じか」
「……お前は魔法への理解が早すぎないか?」
感心なのか呆れなのか分からないコメントを零すドルーオ。
そのとき、後ろで何か音がした。
振り向くと、天の声が地面に膝をついて項垂れていた。
ナッシュ達に少し待ってもらい、オレは天の声に駆け寄った。
「どうした? 大丈夫か?」
言葉をかけるオレに、天の声は震える声で答えた。
「ガ、ガイド役のポジションが……私のアイデンティティが……」
「知らん、それは」
ドルーオと天の声のダブル解説で既に十二分だった。
それが面倒見のいいナッシュにポジションを持っていかれた以上、天の声は正直いなくても問題ない。
つーかそもそも、こいつガイド役初めてとか言ってたし。
元魔王と勇者のガイドの方が信頼できる気がする。
「ほら、いいから行くぞ。仕事減って楽になったと思っとけ」
「まぁ確かに……ガイドとか前の仕事と勝手違いすぎて分かんなかったし……」
「前の仕事? 何してたの?」
「最強騎士団のリーダー!」
……嘘くせぇ。
シカトして歩を進めるオレを、天の声は慌てて追いかけた。
その口が小さく動いてたのに、オレも、ナッシュ達も気付かなかった。
「まぁ、魔界にさえ行ければ何でもいいんだけどね」
(つづく)
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