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第1部 目指せゲームオーバー!

第28話 終わりしバイトと始まりの予感

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「お疲れ様。半年間ありがとうねぇ」
「ありがとう店長!」
「お世話になりました!」

 笑顔で手を振る店主にお礼と別れを告げ、オレ達は八百屋を後にした。
 街全体がオレンジ色に染まる夕方、ナッシュとドルーオもバイトを終える頃だ。
 昨日のうちに、バイトを終えたらリフレ達が働く酒場に集合すると決めてある。
 ちょうど向かいから、ナッシュとドルーオが歩いてきた。
 それぞれのバイト先であったことなどを話しながら、3人と1羽で歩く。

「え!? ナッシュとドルーオで試合したの!?」

 何それ、元魔王と勇者のタイマンとか超気になる。

「このオッサンは基礎ができてるっつうよりィ、体に染み込んでやがるゥ。うまさで分かるゥ、動きの練度れんど尋常じんじょうじゃねェ」
「へー……」
伊達だてに198年も生きてないからな。鍛練たんれんした時間、実戦の経験値、どちらも負けないさ」
「でも、それでも互角だったんなら、ナッシュもすげーってことだよな!」
「あぁ、大したものだ」

 そのとき、ガヤガヤとした喧騒けんそうが聞こえてきた。
 顔を上げると、いつの間にか酒場が目と鼻の先にまで近づいていた。
 隣を歩くクトが、幸せそうな顔で鼻をひくつかせる。

「うおー、すげーいい匂い! リフレ達、美味いモン食ってんのかな?」
「あいつらは食う側じゃねぇよ!?」。
「えっ!? じゃあ食われる側!?」
「もっとちげぇわ!!」

 食う側じゃないイコール食われる側なわけねぇじゃん、自然界のおきてヤメロ。
 先頭のナッシュに続いて、オレ達は店に入った。
 すぐに「いらっしゃいませー!」と声が飛んでくる。
 メニューを見ると、オシャレな料理からボリュームのある料理、甘いデザートまで幅広く提供されていた。
 ファミレスみたい……ってか、もろファミレスだな。

「おいじょうちゃん! グラスが汚れてるぞ!!」

 人相の悪い大男が、酒を飲み終えた後と思しきグラス片手にわめいている。
 視線の先にいるのは……リフレだ。

「飲み終わった後のグラスに汚れもヘッタクレもねぇだろうがァ、アホかァ」
「適当なクレームで無銭飲食にもっていくハラか、迷惑な客がいたものだ」

 ナッシュとドルーオ呆れ声を聞き、人間社会にだいぶ慣れたクトが「てことはアイツ泥棒か!?」と指差す。
 うん、間違っちゃいないけど微妙に違う。あと指差すな。
 大柄な男ににらまれ、しかしリフレは毅然きぜんとした態度で応じた。
 さすが酒場の娘、慣れてるっぽいな。

「申し訳ありません、すぐに新しいグラスとお酒をお持ちします。ですが、他のお客様のご迷惑になりますので、あまり大声は……」
「あぁっ!? なんだその態度は、バカにしてんのかぁ!?」

 話通じてねぇな、悪酔いしてるのか。
 顔を真っ赤にした男が、イスを蹴り飛ばす勢いで立ち上がる。
 そのイスが、ちょうど後ろの席に料理を運んでいた天の声ナレーターに当たった。
 突然の大声と衝撃と痛みに襲われ、天の声ナレーターは持っていた料理を落とした。
 器が割れる甲高い音と、スープパスタが床に飛び散る湿った音が聞こえた。

「クト、衛兵を呼んできてくれ」
「オッケー」

 短く答えるや、クトはダッシュで店を出た。
 やはり圧巻のスピードだが、クトがこれから呼ぶ衛兵はそんなスピードで走れない。
 どうしても数分はかかる。

「その数分の間で暴力沙汰になりそうだったら、俺たちで止めよう」
「オ、オレにもやれることとか……」
「お前に魔法ぶっ放す以外の能があんのかよォ」
「泣くぞ!?」

 まぁ間違ってないけど。物理バトルとかオレには無理だけども。

「オジサン、そーゆーの良くないよ」

 そんな声がした。
 いつの間にか、大男の背後に小さな人影があった。
 女の子だ。オーバーサイズ気味の青いパーカーと、同じくダボダボの白い半ズボン、黒いマフラーに身を包んでいる。
 身長はクトと大差ない。11歳くらいか。
 右目を隠す長く青白い前髪と、褐色かっしょく肌……好きな属性だ。
 驚いたような顔をするリフレ同様、小さな子供の乱入に、さしものクレーマーも言葉を詰まらせる。
 だが、すぐに調子を取り戻し、今度はリフレでなくメカクレ少女を見下ろして怒鳴り出した。

「な、何が良くないってんだ!」
「いい歳した大人が、14歳の女の子にワーワー言ってるのみっともないよってこと」

 うっわー、バッサリと言ったー。
 ……ん? なんであの子、リフレが14歳って知ってるんだ?
 そのとき、男の顔が酔いではなく、羞恥しゅうち屈辱くつじょくで真っ赤になった。

「なんっだと、このガキィーッ!!」

 えるや否や、大男が床を蹴って飛び出し、太い両腕を少女に伸ばす。
 それより早く、ナッシュとドルーオが飛び出そうとした。
 しかし、少女の方がさらに早かった。
 スルリと横にスライドすると同時に、男のひざの裏に蹴りを入れる。いわゆる膝カックンだ。
 ガクッと体を沈ませる大男。
 その後頭部に、少女が裏拳を叩き込んだ。
 転倒が加速し、受け身を取る余裕もなく、クレーム男はうつ伏せで床に倒れた。
 ドダーン! と音が鳴り、テーブルがいくつも揺れた。

「あと、スープパスタの復讐ふくしゅうだぜ。なんてね」

 ベッと舌を出して、少女が告げる。
 さっき天の声ナレーターが落としたスープパスタは、彼女の注文らしい。
 倒れたまま動かない男にはもう興味もないらしく、少女は驚いたまま固まるリフレに向き直り、ニコニコ顔で声をかけた。

「久しぶり、。大丈夫だった?」
「だ、大丈夫だけど……レッ君、なんでここにいるの……?」

 ……ん? レッ君……君?
 ってことは、少女じゃなくて少年……!?

「……ナッシュ、今の動き……」
「あァ……あんな小せぇガキがあの体捌たいさばきィ……何者だァ?」

 小さく言葉を交わすドルーオとナッシュの表情は、どちらも険しい。
 うん、あの身のこなしにはオレも驚いてる。
 だけど、身のこなしとかそんなものより……

「メカクレに褐色におとこ……? 盛りだくさんすぎる……!?」
「……あァ?」

 やべぇ、新しい性癖せいへきの扉が開きそう。


(つづく)
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