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第1部 目指せゲームオーバー!

第29話 デストロイヤー

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「レッ君、なんでここにいるの……?」

 目を丸くするリフレに、青白い髪で右目を隠した褐色かっしょく肌の少女……っぽい少年が答えた。

「リフ姉ちゃんと一緒だよ、村を出て武者修行」

 言い方的に、あの子はリフレと同じ村にいたってことか。
 幼馴染み的な……ん? 待てよ?
 何かがオレの中で引っかかり、そして気付いた。
 そう、オレはとんでもないことに気付いてしまった……!

「幼馴染みのお姉ちゃん系女子と男の……あの2人のカップリングって、オネショタと百合を同時に味わえるっていう、とんでもねぇコンテンツなのでは!?」
「……お前さっきから何言ってんだァ?」
「……む、どうやら衛兵が来たようだな」

 ドルーオが呟いた通り、酒場の外からあわただしい足音が聞こえてきた。
 バン! と音を立ててスイングドアが開き、武装した男が2人なだれ込んできた。
 ドルーオに頼まれて、クトが呼んできた衛兵だ。
 入口ではクトがドヤ顔をキメてる。初めてのおつかいか。

「この男か。よし、連行するぞ」
「あぁ。……なんか鼻血出てるぞ」

 などと言いながら、衛兵たちは気を失っているクレーマー大男を連れて、店から出て行った。
 店員とか客に事情聴取もしないで連行して行った辺り、警察とは違うっぽいな。

「あーゆーお客さん、どこの酒場にもいるもんだね」
「うん、実家ウチの酒場でもたまにいたし……そういうとき、大体レッ君が助けてくれてたね。さっきもありがとう」

 驚きの色を消し、いつもの笑顔を浮かべたリフレ。
 それを見て、レッ君なる少年もうれしそうな笑顔を見せた。
 あの様子……間違いないな。

「あの子さ、もしかしなくても……」
「あァ」

 オレの言葉にナッシュがうなずいた。
 同じことに気付いたらしい──

「あのガキィ、オスのくせに見た目メスっぽいなァ」
「そっち!? てか人間相手にオスメスって言い方ヤメロ!!」

 全然同じことに気付いてなかった。
 てか若干女性っぽい顔立ちの上にポニーテールのお前が言うな。

「いや、分かるけどさ、オレが言いたいのはそうじゃなくてさ」

 今度はクトが口を開いた。

「あの日焼けしてるやつ、なんか発情期みてぇだな!」
「だから言い方! 人間相手にオスメスとか発情期とかって言うんじゃあねぇ!!」

 あとそれで言ったら飼い主がいた、つまり飼育下にあったウサギなんだからクトは年中発情期だろ。野生の場合は春だけど。

「あの少年は、リフレのことを好いているようだな」
「そう! そういう言い方!」

 ようやくマトモな表現が来た、ドルーオありがとう。
 まだ1分くらいしか会話していないが、あの少年がリフレによくなついているのが分かる。村でもずっと一緒にいたんだろう。
 そのとき、天の声ナレーターから声が飛んできた。

「リフレちゃーん! こっちの掃除しとくから、料理運んでー!」
「あ、はい! ごめんレッ君、またあとでね」
「うん、またねー」

 少年が頷くや、リフレは大急ぎで厨房へと向かった。

「ひとまず俺らも飯にすんぞォ」

 改めてメニューに視線を落としながら、ナッシュが言った。
 大賛成だ。酔っ払いクレーマーのゴタゴタも片付いたし、これで心置きなく食事できる。

「なーに食おっかなー」
「うわ、全部美味そうだな……」

 クトと揃ってメニューを覗き込んだオレだが、ふと顔を上げると、ナッシュとドルーオは鋭い視線を少年に向けていた。

 ◇

 その後、夕飯やリフレと天の声ナレーターの勤務が終わってから、オレ達は少年を連れて宿部屋に戻った。

「改めて、レラ君です。わたしが3歳くらいの頃からの付き合いで、幼馴染みというか、弟みたいな感じです」

 リフレの紹介を受けて、メカクレ褐色男の娘という属性山盛り少年レラが「初めましてー」と頭を下げた。

「……男、なんだよな?」

 よろしく、とかって言うつもりが、そんなことを言ってしまった。
 改めて見ても、やっぱり女の子に見える。
 そもそも背が低く体格も華奢きゃしゃな上に、衣服が上下共にダボダボなせいでより幼く見える。
 声も「女子にしては少し低いかな」程度の高さで、声を聞いただけでは女の子と判断してしまうだろう。

「あはは、よく間違われる」

 そう言って笑うと、レラが何か思い付いたような顔をした。
 リフレの服の袖を引っ張り、大部屋の端の小部屋に連れて行く。

「なんだァ?」
「あそこって、脱衣所だよね」

 ナッシュと天の声ナレーターが呟いた数十秒後、2人が脱衣所から出てきた。
 互いに服を交換した状態で。
 リフレはレラが着ていた青いパーカーと白い半ズボン、黒いマフラーを身に着けている。
 逆にレラは、リフレが着ていた白とピンクが基調のオープンショルダーのセーラー服を着ている。

「……いや、違和感仕事しろ」

 めっちゃ似合うじゃん。
 セーラー服もスカートも黒ニーハイも違和感ゼロだよ、どう見ても女の子だよ。
 これで登校しようもんなら、数割の生徒の性癖がぶっ壊れるであろうレベルで見事な男の娘に、オレは感動すら覚えた。

「うわー! レラ君すっごい似合ってる!」
「すげー! メスみてー!」
「だからメスって言うなって!」
「……なんと言うか、すごいな」
「……あァ」

 すげぇなレラ、元魔王と勇者から語彙力を喪失させたぞ。
 なんてオレが感心していると、リフレとレラが会話していた。

「似合ってるって。良かったね、レッ君」
「当然だよ。村でずっとリアおばさんにリフ姉ちゃんのお古着させられて太鼓判押されてたし」
「お母さん何してるの!?」
「リフ姉ちゃんのお古でファッションショー」
「お母さん……!」

 色んな感情が入り混じった表情でガックリするリフレ。
 その顔を覗き込むようにして、レラは訊ねた。

「それよりリフ姉ちゃん。どー? 可愛い?」

 言いながらニヤリと笑っている。
 うわ、あいつ分かっててやってるわ。自分から性癖ぶっ壊しに行ってる。
 オレがそう確信するのと同時に、リフレの口から「ぐふっ」って声が飛び出た。

「うん……か、可愛い、よ……」
「えへへ、やったー」

 顔を真っ赤にして、限界オタクみたいに悶絶もんぜつしてる。
 もう既に、性癖破壊されてたっぽいな。


(つづく)
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