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6話:失敗と異変②

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「よそ見してんじゃねぇよっ!! もういいっ!! 死ねっ!!」

 どうやら大男の目には、ちっちゃな天使の姿は見えていなかったらしいがそれはともかくである。

 大男は長剣を振りかぶって迫ってきた。
 フォレスはふと自らの手に視線を下ろす。
 よく考えると自身は素手だった。
 ここは得物を得ることを優先にすべきだろう。

「がっ!?」

 よって、男は手首を押さえてうずくまることになった。
 その手に長剣は無い。
 フォレスによって奪われたのであり、当然の光景だった。

「て、テメェ……な、何をしやがった!?」

 疑問の叫びには眉をひそめるしかなかった。
 何と言われても困るのだ。
 ただただ単純に、のっそりとした一撃をかわした上で手首を手刀で打っただけだ。
 
 防御系統のスキルは持っているだろうが、筋肉の薄い手首ではダメージを防ぐことは難しい。
 そのため男は長剣を手放すことになり、フォレスの手に渡ることになったと、まったくそれだけだった。

「おー! さすがふぉれす! でんせつのきこりさん!」

 思わず苦笑だった。
 世のきこりの多くは、そこまで対人戦闘に通じてはいないだろう。
 ともあれ、褒められて非常に気分は良かった。
 この勢いで片付けさせてもらうことにしよう。
 フォレスは長剣の切っ先を略奪者たちに向ける。

「さて、どうする? スキル無しの雑魚の前で怯え震えているつもりか?」

 誰かを人質に取られてしまうと面倒なのだ。
 彼らの意識を自身に集中させるための煽りだったが、効果はテキメンだった。
 数としては23。
 誰もが顔を真っ赤にして殺到してきた。

 多勢に無勢。
 しかし、苦戦のしようはなかった。
 さすがに戦歴が違う。
 適当に攻撃をいなし、剣の腹で打ち倒していく。
 結局、100秒もかかったのかどうか。
 フォレスを中心にして、略奪者たちは倒れ伏すことになった。

「……な、なにがフォレスだ、ふざけやがって。どう考えても戦闘スキル持ちじゃねぇかよ!!」

 死体の処理が億劫おっくうだったための結果だが、何とも元気な叫び声が上がった。
 現状とはまったく違うが、あえて否定する必要も無い。
 スキル持ちだと怯えてくれるのであれば、目的を達成するためには十分すぎる。

「それでどうする? お前たちの腕で俺に勝てそうか?」

 血気盛んな彼らだったが、惨敗を経て、これ以上頭に血を上らせることは出来ないようだった。
 それぞれ顔を見合わせて、そして、

「ひ、退けっ!! 逃げるぞ、退けっ!!」

 非常に好ましい選択をしてくれたのだった。

「……おー。えーと、ふぉれすってやっぱりすごいひと?」

 肩にくっついていたマグヴァルガが、そんなこそばゆいことを口にした。
 フォレスは再びの苦笑を返すことになる。

「そうでも無いな。さすがにあの程度には苦戦出来ないだけだ」

 第一魔王討伐隊の元隊長として、スキルがあってのただの力自慢共には負けようがない。
 ただ、そんな事実を知らない彼女は「ほー」とさらに感心してくれた。

「やっぱりけんきょだなー。でも、ふぉれす? わざと? わざとすきるつかわなかったかんじ?」

「は?」

 思わず首をかしげる。

「スキル? いや、君は『開拓神』だろ?」

「うん。だからあるよ。かいたくはたたかいのれきし」

 あるの? 
 フォレスはスキルを確認することになる。

〘開拓系スキル群〙
+【採取系統】
+【建築系統】
+【栽培系統】
+【迎撃系統 】

「……あるな」

 【迎撃系統】などと、物々しいスキル系統がしっかりとあった。
 彼女はぺしぺしと笑顔で肩を叩いてくる。

「だよー? ふふふ、ふぉれすったらうっかりさん」

「ふふふふ。なー? うっかりしてたな、うっかり」

 どうにももっと楽は出来たようだが、ともあれ目的は果たせた。

 周囲には略奪者たちに襲われていた人々が残ることになった。
 それぞれが呆然と見つめてきているが、気の毒なことだった。
 助かったことに呆然となるぐらいには、無事に生き残ることに絶望していたに違いないのだ。

 ただ、1人だけ様子は違った。
 
 衣服の乱れを整えながらに俺に近づく女性がいた。
 美しい黒髪と、やや冷たさを感じさせる端正な顔つき。  
 やはりである。
 フォレスは内心で頷く。
 彼女はやはり見知った人物だったのだ。

「……ご無沙汰ぶさたしておりました、フォレス様」

 静かに頭を下げてくる彼女に、フォレスは笑みで応じることになる。

「久しぶりだな、ルイーゼ。まさかこんな場所で会うとは思わなかったが」

 かつての同僚であった。
 直属の部下では無かったが、魔王討伐隊の支援組織、その荷駄隊の1つを指揮していた女性だ。

 しかし、さすがである。

 感心を禁じ得なかった。
 かつてから冷静沈着を絵に描いたような女性だったが、襲撃を受けた後でもこの冷静さである。

 この様子であれば、事情を聞いても大丈夫だろう。
 フォレスは早速尋ねかける。

「この人々はなんだ? 何故、こんな北の辺境に? そして、今の君の立場は? 彼らとの関係は?」

 矢継ぎ早の質問だったが、冷静にして聡明な彼女であればすかさず答えてくれる。
 その予定だったのだが。

「…………」

 目の前まで進み出てきたルイーゼは黙り込むのみだった。
 目を伏せて、ただじっと黙り込んでいる。

 一体どうしたのだろうか。
 首をかしげていると、不意にだった。
 ルイーゼは急に動いた。
 フォレスは思わず固まることになる。
 彼女は前のめりにくと、懐に飛び込んできた。

「る、ルイーゼ?」

 何事かと問いかけるのだが、それにも返答は無かった。 
 彼女は懐に顔をうずめて、ただその細い肩を震わせている。

 どうやら、よほどひどい目に遭って来たらしい。

 そのことだけは良く分かった。
 質問などは当然後回しである。
 フォレスは同情の思いで、彼女の背中を軽くさすってやるしかなかった。
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