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後日談2:友人の恋路
12、善後策
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「バカとは失礼な。それは先ほどの本物のバカにこそ言うべきでは?」
「それとこれとは話が違うでしょうがっ!! これがきっかけになって、貴方の家が大騒動に巻き込まれでもしたら……っ!!」
イブリナは蒼白になり、目線でヘルミナに同意を求めてきた。
痛快であれば問題ない……とは、さすがに言えない。
ヘルミナもまた青ざめた表情で頷くことになる。
「た、確かにこれはその……」
間違いなく問題だろう。
カシューにとっての大問題だ。
嫡男とは言え、まだ嫡男に過ぎないのだ。
自身の言動によって生家と他家との紛争を引き起こしたとなれば、当主からの叱責はまぬがれない。
それどころか、嫡男の立場が危うくなる可能性もあり得る。
ただ、それを承知のはずのカシューだ。
ほぉ? と、嬉しそうに首をかたむける。
「イブリナ殿にこうも親身に心配をしていただけるとは。ははは、面白い。首を突っ込んでみた甲斐が……」
「カシュー!!」
本気で怒鳴られて、さすがの彼も苦笑だった。
「あー、はい。ふざけている場合ではありませんか」
「当たり前よっ!! そ、それでどうするつもりなの? 私がはもちろん実家に戻るとして、貴方もすぐに頭を下げればなんとか…… 」
「頭を下げたくは無ければご心配なく。さすがに善後策は練ってきていますから」
イブリナが「え?」と声を上げれば、ヘルミナはほっと一息だった。
「さすがはカシュー様です」
感心を声に上げることにもなれば、カシューはニヤリとした笑みを向けてきた。
「これは、はい。当然です。話に聞く限り、イブリナ様の婚約者はたしなめて終わりとは思えなかったので」
「い、いいから話しなさいっ!! その善後策は、まともなものなのよね? しっかりと貴方に危害が向かわないものなのよね?」
イブリナが催促すれば、カシューは軽く胸を張った。
「えぇ、もちろん。しかしながら、イブリナ殿には多少犠牲を払っていただく必要がありますが」
「わ、私に犠牲?」
「左様です。私の婚約者になっていただくという、少なくない犠牲ですな」
彼女の反応は当たり前だった。
イブリナがびしりと表情を凍りつかせる。
ヘルミナもまた凍りつきかけてはいたが、何とか疑問の声を発する。
「か、カシュー様? その……その善後策は一体どういう……?」
「ご説明が必要とあればもちろん。落ち目のハルビス公爵家は、勢いのある貴族と結ぶことで何とかその衰退を食い止めようとしている。それがイブリナ殿の婚姻の内実かと存じます」
「は、はい。私の理解でもそのような」
「でしたら、私でも良いはずでしょう? シャルニウク公爵家はキレル伯爵よりは数段は家格が上であり、実力もまたそれ相応の差がありますからな」
そうなれば確かに問題は無さそうだった。
ハルビス公爵家は、カシューの敵にはなりえない。
もっともキレル伯爵家の敵意は収まらないだろうが、二公爵家を敵にする道はなかなか選ぶことは出来ないだろう。
ヘルミナが納得すれば、当然聡明なイブリナもそうらしい。
彼女はぎこちなく頷いて、しかしいぶかしげに首をかしげた。
「そ、そんなこと大丈夫なの? 貴方の一存でどうにかなる話?」
「もちろん無理です。ですが、ご心配なく。父上とは話をつけてきましたから。自分の結婚で遊ぶなと怒られましたが、最後にはえぇ。茶番に付き合っていただけると」
であれば、ヘルミナも一安心……とは、なれなかった。
いや、善後策が成り立つであろうことは喜ばしかった。
ただ、茶番の一言だ。
全てが上手くいきつつある。
そんな喜びが湧きつつあったのだが、それに疑問を抱かせる一言だった。
「それとこれとは話が違うでしょうがっ!! これがきっかけになって、貴方の家が大騒動に巻き込まれでもしたら……っ!!」
イブリナは蒼白になり、目線でヘルミナに同意を求めてきた。
痛快であれば問題ない……とは、さすがに言えない。
ヘルミナもまた青ざめた表情で頷くことになる。
「た、確かにこれはその……」
間違いなく問題だろう。
カシューにとっての大問題だ。
嫡男とは言え、まだ嫡男に過ぎないのだ。
自身の言動によって生家と他家との紛争を引き起こしたとなれば、当主からの叱責はまぬがれない。
それどころか、嫡男の立場が危うくなる可能性もあり得る。
ただ、それを承知のはずのカシューだ。
ほぉ? と、嬉しそうに首をかたむける。
「イブリナ殿にこうも親身に心配をしていただけるとは。ははは、面白い。首を突っ込んでみた甲斐が……」
「カシュー!!」
本気で怒鳴られて、さすがの彼も苦笑だった。
「あー、はい。ふざけている場合ではありませんか」
「当たり前よっ!! そ、それでどうするつもりなの? 私がはもちろん実家に戻るとして、貴方もすぐに頭を下げればなんとか…… 」
「頭を下げたくは無ければご心配なく。さすがに善後策は練ってきていますから」
イブリナが「え?」と声を上げれば、ヘルミナはほっと一息だった。
「さすがはカシュー様です」
感心を声に上げることにもなれば、カシューはニヤリとした笑みを向けてきた。
「これは、はい。当然です。話に聞く限り、イブリナ様の婚約者はたしなめて終わりとは思えなかったので」
「い、いいから話しなさいっ!! その善後策は、まともなものなのよね? しっかりと貴方に危害が向かわないものなのよね?」
イブリナが催促すれば、カシューは軽く胸を張った。
「えぇ、もちろん。しかしながら、イブリナ殿には多少犠牲を払っていただく必要がありますが」
「わ、私に犠牲?」
「左様です。私の婚約者になっていただくという、少なくない犠牲ですな」
彼女の反応は当たり前だった。
イブリナがびしりと表情を凍りつかせる。
ヘルミナもまた凍りつきかけてはいたが、何とか疑問の声を発する。
「か、カシュー様? その……その善後策は一体どういう……?」
「ご説明が必要とあればもちろん。落ち目のハルビス公爵家は、勢いのある貴族と結ぶことで何とかその衰退を食い止めようとしている。それがイブリナ殿の婚姻の内実かと存じます」
「は、はい。私の理解でもそのような」
「でしたら、私でも良いはずでしょう? シャルニウク公爵家はキレル伯爵よりは数段は家格が上であり、実力もまたそれ相応の差がありますからな」
そうなれば確かに問題は無さそうだった。
ハルビス公爵家は、カシューの敵にはなりえない。
もっともキレル伯爵家の敵意は収まらないだろうが、二公爵家を敵にする道はなかなか選ぶことは出来ないだろう。
ヘルミナが納得すれば、当然聡明なイブリナもそうらしい。
彼女はぎこちなく頷いて、しかしいぶかしげに首をかしげた。
「そ、そんなこと大丈夫なの? 貴方の一存でどうにかなる話?」
「もちろん無理です。ですが、ご心配なく。父上とは話をつけてきましたから。自分の結婚で遊ぶなと怒られましたが、最後にはえぇ。茶番に付き合っていただけると」
であれば、ヘルミナも一安心……とは、なれなかった。
いや、善後策が成り立つであろうことは喜ばしかった。
ただ、茶番の一言だ。
全てが上手くいきつつある。
そんな喜びが湧きつつあったのだが、それに疑問を抱かせる一言だった。
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