2 / 149
第一章
01.悪いことは続くもの? ①
しおりを挟む
矢神は、高校の数学教師をしている。
今、一番大変な時期でもある高校三年の担任をしていたから、とにかく毎日が忙しく、生徒のことで頭がいっぱいだった。
休日といっても、自分のためではなく、全て生徒のために時間を費やしていた。
そんな矢神にも、結婚を約束していた女性がいる。
基本、仕事重視にしてしまうところがあるので、なかなか会う時間を作れずにいたが、彼女はとても気立てが良く、矢神を支えてくれる人だった。
だから、どんなに忙しく辛くても、乗り越えることができる。
そのことを口には出さないが、彼女のことを大切に思っていたのだ。
受け持っているクラスの大半が大学や就職を決め、ほっと一息ついた頃、矢神はある決意をしていた。
彼女と付き合ってもうすぐで二年を迎える。そろそろケジメをつけるときだ。
結婚を約束したと言っても、きちんとプロポーズしたわけではなかった。
密かに婚約指輪を準備していた矢神は、彼女の誕生日のこの日に、ケーキを持って家に向かったのである。
久しぶりに会うせいか、照れくさいというのもあり、連絡を入れずにいた。
彼女の部屋の前まで来た矢神は、深呼吸をする。
これからプロポーズをするのだから緊張するのは当たり前のことだった。
上着のポケットに手を入れ、婚約指輪の箱を取り出しては何度も確認した。
その動作を繰り返した後、やっと覚悟を決める。
矢神は、チャイムを押さずに合い鍵で部屋の中に入った。
無断で入ることに抵抗はあったが、以前チャイムを鳴らしたら、何のために合い鍵があるのかと彼女に言われたからである。
こういうことを律義に守る男なのだ。
中に入ると、玄関に客の靴があることに気づき、連絡を入れなかったことをすぐに後悔した。
「眞由美」
自分が訪ねて来たことを知らせるために、彼女の名前を呼んだ。居間の灯りは点いているのに返事はない。
仕方がなく靴を脱いで玄関を上がり、廊下を進んで居間の扉を開けた。
やはり、部屋には誰もいない。どこかに出掛けているのかもしれなかったが、客人の靴が不思議で仕方がなかった。
なぜ客の靴だとわかったかというと、それは男物だったからである。
首を傾げながら、買って来たケーキをテーブルの上に置き、ソファに腰掛けた。
彼女の部屋というだけで安心したらしく、一気に疲れが出たのか、ソファに身体を預けて目を瞑ると、そのまま眠ってしまいそうになった。
そんな時、奥の部屋から物音がしたような気がして、身体を起こした。
彼女は一人暮らしではあったが、親が借りてくれているとかで、部屋数の多い広いところに住んでいた。
その一番奥の部屋から人の気配を感じた。そこは寝室である。
今、一番大変な時期でもある高校三年の担任をしていたから、とにかく毎日が忙しく、生徒のことで頭がいっぱいだった。
休日といっても、自分のためではなく、全て生徒のために時間を費やしていた。
そんな矢神にも、結婚を約束していた女性がいる。
基本、仕事重視にしてしまうところがあるので、なかなか会う時間を作れずにいたが、彼女はとても気立てが良く、矢神を支えてくれる人だった。
だから、どんなに忙しく辛くても、乗り越えることができる。
そのことを口には出さないが、彼女のことを大切に思っていたのだ。
受け持っているクラスの大半が大学や就職を決め、ほっと一息ついた頃、矢神はある決意をしていた。
彼女と付き合ってもうすぐで二年を迎える。そろそろケジメをつけるときだ。
結婚を約束したと言っても、きちんとプロポーズしたわけではなかった。
密かに婚約指輪を準備していた矢神は、彼女の誕生日のこの日に、ケーキを持って家に向かったのである。
久しぶりに会うせいか、照れくさいというのもあり、連絡を入れずにいた。
彼女の部屋の前まで来た矢神は、深呼吸をする。
これからプロポーズをするのだから緊張するのは当たり前のことだった。
上着のポケットに手を入れ、婚約指輪の箱を取り出しては何度も確認した。
その動作を繰り返した後、やっと覚悟を決める。
矢神は、チャイムを押さずに合い鍵で部屋の中に入った。
無断で入ることに抵抗はあったが、以前チャイムを鳴らしたら、何のために合い鍵があるのかと彼女に言われたからである。
こういうことを律義に守る男なのだ。
中に入ると、玄関に客の靴があることに気づき、連絡を入れなかったことをすぐに後悔した。
「眞由美」
自分が訪ねて来たことを知らせるために、彼女の名前を呼んだ。居間の灯りは点いているのに返事はない。
仕方がなく靴を脱いで玄関を上がり、廊下を進んで居間の扉を開けた。
やはり、部屋には誰もいない。どこかに出掛けているのかもしれなかったが、客人の靴が不思議で仕方がなかった。
なぜ客の靴だとわかったかというと、それは男物だったからである。
首を傾げながら、買って来たケーキをテーブルの上に置き、ソファに腰掛けた。
彼女の部屋というだけで安心したらしく、一気に疲れが出たのか、ソファに身体を預けて目を瞑ると、そのまま眠ってしまいそうになった。
そんな時、奥の部屋から物音がしたような気がして、身体を起こした。
彼女は一人暮らしではあったが、親が借りてくれているとかで、部屋数の多い広いところに住んでいた。
その一番奥の部屋から人の気配を感じた。そこは寝室である。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
29
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる