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第一章

18.映画はデートじゃない ③

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「びっくりしましたね」

 映画を観終わった後、呆気らかんと言う遠野の二の腕を矢神は思いっきり叩いた。

「なんだ、あれ!」
「あんな内容だったんですね」
「まさかおまえ、知らなかったのに見たいって言ったのか?」
「だって人気の映画だって聞いたから面白いのかなって」

 矢神は頭を抱えて、その場にしゃがみ込んだ。

「矢神さん、大丈夫ですか?」

 この男を信じた自分が馬鹿だった。

 映画が始まって三十分くらいが経った頃から、何かおかしいなとは感じてはいた。だが、最後まで観ないと評価はできない。きっと何か深い意味があるんだ。そう信じて疑わなかった。

 しかし、予感は的中。遠野の説明通り、内容は時代物なのは間違ってはいない。時代物の恋愛、しかも全て男同士なのだ。

 内容は全然頭に入ってこないし、クローズアップされるのは男同士のそういうシーンばかり。
 遠野が意識させるために、わざとこの作品を選んで自分に見せたのかと思った。

 上映中もずっと隣に座る遠野のことが気になって仕方がなかった。だが、知らなかったというのだから遠野の天然なのだろう。

 なぜ、この作品が人気で女性に受けるのか、全く理解できない。しかも、こんな内容の映画のチケットを生徒に買ってもらったというのも問題だ。
 頭の中がぐちゃぐちゃで整理がつかなかった。

「次はきちんと調べますから」
「もうおまえと映画なんか見るか!」

 振り回されるのは勘弁してほしい。
 その場を立ち上がり、駅に向かって足早に歩き出した。

 空は日が落ち、辺りが薄暗くなっていた。皆自宅に帰るのか、駅に向かう人たちで道が混み合っている。そんな中、遠野が駆け足で追いかけてきた。

「もう帰っちゃうんですか?」
「はぁ? あとどこに行くっていうんだよ!」
「お腹空きませんか? お詫びに食事をごちそうします」
「……お詫び?」
「つまらない映画に付き合わせてしまったので」

 そこまで言われると、こんなことで怒っている自分が子どもみたいに思えた。
 遠野は別に悪気があって誘ったわけではない。純粋に映画を一緒に観たかっただけなのだろう。
 歩みを止め、遠野と向き合った。

「腹、空いた……」
「ですよね。ここの近くに知り合いのお店があるんですが、そこでもいいですか?」
「……いいよ」

 どんな態度を取っても、遠野は笑顔を絶やさない。そんな姿勢を少し見習うべきだと思うのだった。
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