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第二章
05.暗闇への誘い ②
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「ねえ、先生、してみます?」
楢崎は甘く囁くように呟き、小首を傾げる。分厚い眼鏡であまり表情が確認できないのに、その姿が妙に艶っぽく感じられた。
「何言って――」
矢神が言葉を最後まで口にする前に、楢崎がワイシャツの下から背中に腕を回し、抱きしめてきた。
「ボク、もう勃ってます。わかりますよね?」
太ももに硬いものがあたっていたから、それはわかった。なるべく楢崎を挑発しないように、静かな声で言い聞かせる。
「楢崎、君とは、もう、そういう関係にはならない」
「どうしてですか? 学校に言ってもいいんですか? このままボクのものになってください」
早口でまくしたてられた後、矢神に唇を寄せてきた。顔を背ければ、首元に唇を押し付けてくる。
「楢崎!」
やめさせようと楢崎の身体を押しやった。だが、反対に壁に押さえつけられ、低い声で彼は言う。
「責任、取ってくれるんでしょ?」
矢神は動けなくなった。それをいいことに、楢崎は舌を首筋に這わせた。生ぬるい舌の感触は、矢神にとって嫌悪感しかなかった。耐えるように目を瞑っていれば、そのまま胸の方へと唇を移動させていく。吸い付くような音を立てながら。
ここで身を委ねれば、彼は満足してくれるのだろうか。きっと、今が終わってもまた次がある。矢神が楢崎と付き合うまで続くのだ。彼の好きなようにさせていても解決はされない。
どう償えばいいのかは全くもってわからない。それでも前に進むには、楢崎が納得してくれるまで話し合うしかないのではないか。過ちを繰り返すよりは、いいはずだ。
そう思った瞬間、携帯電話が鳴り響き、驚きで二人は身体を小さく震わせた。
矢神の携帯電話は職員室に置いてきていたから、楢崎のものなのだろう。その音が鳴った途端、楢崎は急に矢神から身体を離し、震える手でポケットから自分の携帯を取り出した。画面をしばらく眺めていた後、怖々と電話に出る。
「はい」
相手が誰なのかは、矢神にはわからなかった。だけど、電話の相手に対して楢崎はすごく低姿勢だった。しかも、話しているうちにどんどん顔が青ざめていく。電話を持つ反対の手で、眼鏡を何度も上げたり、髪の毛を掴むように触ったりと落ち着かない。ぼそぼそと小さな声で話していたから内容までは理解できなかったが、まるで相手を恐れているようにも感じられた。
電話を切った後、楢崎はふらふらと鞄を持って相談室から出ようとした。様子がおかしい楢崎が心配になり、矢神は声をかける。
「楢崎、大丈夫か?」
その問いかけに、楢崎はただ「帰ります」と答えるだけだ。
「おい」
先ほどまでとは違い、矢神の方には一切目もくれず、出て行ってしまう。
ネクタイは外れ、ワイシャツがはだけた状態の矢神は、楢崎を追いかけることはできなかった。ただ突然襲いかかった嵐が過ぎ去り、ホッとして力が抜ける。
崩れるようにしゃがみ込めば、何だか泣きたくなるのだった。
楢崎は甘く囁くように呟き、小首を傾げる。分厚い眼鏡であまり表情が確認できないのに、その姿が妙に艶っぽく感じられた。
「何言って――」
矢神が言葉を最後まで口にする前に、楢崎がワイシャツの下から背中に腕を回し、抱きしめてきた。
「ボク、もう勃ってます。わかりますよね?」
太ももに硬いものがあたっていたから、それはわかった。なるべく楢崎を挑発しないように、静かな声で言い聞かせる。
「楢崎、君とは、もう、そういう関係にはならない」
「どうしてですか? 学校に言ってもいいんですか? このままボクのものになってください」
早口でまくしたてられた後、矢神に唇を寄せてきた。顔を背ければ、首元に唇を押し付けてくる。
「楢崎!」
やめさせようと楢崎の身体を押しやった。だが、反対に壁に押さえつけられ、低い声で彼は言う。
「責任、取ってくれるんでしょ?」
矢神は動けなくなった。それをいいことに、楢崎は舌を首筋に這わせた。生ぬるい舌の感触は、矢神にとって嫌悪感しかなかった。耐えるように目を瞑っていれば、そのまま胸の方へと唇を移動させていく。吸い付くような音を立てながら。
ここで身を委ねれば、彼は満足してくれるのだろうか。きっと、今が終わってもまた次がある。矢神が楢崎と付き合うまで続くのだ。彼の好きなようにさせていても解決はされない。
どう償えばいいのかは全くもってわからない。それでも前に進むには、楢崎が納得してくれるまで話し合うしかないのではないか。過ちを繰り返すよりは、いいはずだ。
そう思った瞬間、携帯電話が鳴り響き、驚きで二人は身体を小さく震わせた。
矢神の携帯電話は職員室に置いてきていたから、楢崎のものなのだろう。その音が鳴った途端、楢崎は急に矢神から身体を離し、震える手でポケットから自分の携帯を取り出した。画面をしばらく眺めていた後、怖々と電話に出る。
「はい」
相手が誰なのかは、矢神にはわからなかった。だけど、電話の相手に対して楢崎はすごく低姿勢だった。しかも、話しているうちにどんどん顔が青ざめていく。電話を持つ反対の手で、眼鏡を何度も上げたり、髪の毛を掴むように触ったりと落ち着かない。ぼそぼそと小さな声で話していたから内容までは理解できなかったが、まるで相手を恐れているようにも感じられた。
電話を切った後、楢崎はふらふらと鞄を持って相談室から出ようとした。様子がおかしい楢崎が心配になり、矢神は声をかける。
「楢崎、大丈夫か?」
その問いかけに、楢崎はただ「帰ります」と答えるだけだ。
「おい」
先ほどまでとは違い、矢神の方には一切目もくれず、出て行ってしまう。
ネクタイは外れ、ワイシャツがはだけた状態の矢神は、楢崎を追いかけることはできなかった。ただ突然襲いかかった嵐が過ぎ去り、ホッとして力が抜ける。
崩れるようにしゃがみ込めば、何だか泣きたくなるのだった。
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