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第四章

16. 心が満たされる瞬間 ②

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「今日、忙しそうだったなあ」
「はい。オレ今、矢神さんが前にしていた個人授業を真似て、生徒に個人面談を試していて」
「へー」
「みんな普段からいろいろ話してくれるから意味ないかなと思ったんですけど、個人面談だと普段言えないようなことも話しやすいようで。なかなか好評です」
 
 何かを変えたい。そんな遠野の強い気持ちが伝わってきた。
 一時は使いものにならなくてどうなるかと思ったが、前を向いて突き進んでいるように感じる。

「良かったな」
「矢神さんみたいな先生に近づきましたか?」
「だから、オレじゃなくて、遠野らしくいればいいんだよ」
「矢神先生みたいになりたいんです。憧れてるんですからいいじゃないですか」
「おまえだけだよ、そんなこと言ってくれるの」
 
 自分に好意を向けてくれるだけあって、遠野は何かといえば嬉しい言葉をかけてくれる。

「オレだけじゃないですよ! 今日も生徒と矢神先生の話になったんですけど」
「なんで、生徒とオレの話してんだよ」
「矢神先生は厳しいけど、生徒のことを一番に考えてくれるから信用できるって。矢神さんの頑張りが生徒に伝わってるんですよ。何事にも一生懸命な姿がいつ見ても素晴らしくて、なかなか真似できません」
 
 ベタ褒めするから恥ずかしくて、矢神は返答に困った。

「なんで、そんなかわいい顔してるんですか?」
「かわいい顔なんかしてねーよ。ただ、褒め慣れてないから、なんて言っていいのか」
「矢神先生はいい先生だって、みんな言ってますよ。そうだよねって盛り上がっちゃって、個人面談が楽しいですもん」
「それ、オレの話で終わってんじゃねーか」
「あはは、本当ですね」
「まあ、いいんじゃねーの。それが遠野のやり方だと思うし、だから生徒も心許してくれるんじゃないか?」
 
 遠野はこちらをずっと見ながら矢神の話を聞いている。だが、ニヤニヤとかなりだらしない表情で、きれいな顔が台無しだ。
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