上 下
49 / 87
第1章 【side 敦貴】

46.言えなかった想い

しおりを挟む
 つい、皇祐から身体を離してしまった。触れていては、いけないような気がして。

「なにが違うの?」

 皇祐は黙っている。漂う重苦しい空気が、ますます敦貴を不安にさせた。

「ねえ、コウちゃん、何か言ってよ」

 心臓が早鐘を打ち、息ができないほど苦しくなった。この先を聞いていいのか、だけど、聞かないと前には進めない。
 皇祐がぼそりと呟くように声を出した。

「敦貴のこと……友だちだと思えなかった」

 胸に苦しい波が打ち寄せた。
 自分のことをあまり話さない皇祐の本音が聞けるのは貴重だ。
 だけど、刺されているような鋭い痛みが身体中に走って呼吸ができない。

「……やっぱり、オレに合わせてただけ? 本当は一緒に……いたくなかったの?」

 皇祐の話を最後まで聞いてから話をしよう。そう思っていたのに、気が焦って先に口から言葉が出ていた。
 敦貴の話す声は震えていてどうしようもならないし、皇祐の方は口を閉ざして顔を俯かせている。

「コウちゃん……」

 迫りくる不安に押しつぶされそうで、身体が震えてくる。

「ねえ、こっち見て……」

 皇祐の両腕を掴んで顔を覗き込もうとすれば、彼は小さな声で言った。

「好きだった、敦貴のことがずっと……」

 敦貴から顔を背けていたからわからなかったが、皇祐が泣いているようにも見える。
 学生の頃からきちんとしている皇祐は、正反対の敦貴と仲良くしてくれていた。
 嫌われてはいないとは思っていたが、好意を向けてくれているなんて想像がつかなかった。

「言ってくれたら良かったのに」

 好かれるのは嬉しい。しかも相手は皇祐だ。重く受け止めていなかった敦貴は、軽い調子で言った。
 だけど、皇祐は深刻そうな顔をして訴えてくる。
 
「言えるわけない! ずっと友だちでいてくれる敦貴を、男を好きだなんて気持ち悪いだろ? 嫌われたくなかった。だから留学する時に、この想いは全て忘れて敦貴には二度と会わないって決めたんだ。それなのに――」

 皇祐がずっと敦貴を拒絶するような態度をしていたのは、それが理由なのだろう。
 自分の気持ちを必死に抑えて我慢していた。だけど、その皇祐を今の自分は救えることができる。そう確信していた。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

VOICE-Run after me-

BL / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:13

彼女を悪役だと宣うのなら、彼女に何をされたか言ってみろ!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:12,370pt お気に入り:107

愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,485pt お気に入り:6,131

限界集落で暮らす専業主婦のお仕事は『今も』あやかし退治なのです

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:1,249pt お気に入り:1

盗賊とペット

BL / 連載中 24h.ポイント:127pt お気に入り:98

幸せの場所

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:14

【完結】断罪後の悪役令嬢は、精霊たちと生きていきます!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:11,942pt お気に入り:4,077

【完結】婚約破棄の代償は

恋愛 / 完結 24h.ポイント:3,061pt お気に入り:386

処理中です...