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第2章 【side 皇祐】
29.愛と傷の交錯 ③
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このまま縋ることができれば、どんなに幸せだろうか。
だけど、大切な敦貴の人生を狂わせるわけにはいかない。
「敦貴、もう充分だ。放してくれ」
「コウちゃん、一緒に北海道行こう?」
「なんで、突然そうなるんだ? 旅行に行ったって、僕の気持ちは変わらない」
こういう時でも話が飛ぶ敦貴に、呆れすぎて泣きそうな声になっていた。
彼は常に、明るく前を向いている。それなら尚更、自分が敦貴のお荷物にはなりたくない。
「旅行じゃないよ」
暗く沈んでいる皇祐とは反対に、晴れやかないきいきとした表情で敦貴は話を続けた。
「オレの伯父さん、北海道でラーメン屋やってるんだけど、前からその店をオレに譲るって言ってくれててさ。それで考えたんだ。そこでラーメン屋やれば、自分で店を持つよりはお金かかんないし、コウちゃんと一緒に住めるかなって」
「一緒に?」
「そう! いい案でしょ? そんな裕福な暮らしはできないだろうけど」
敦貴の人生設計に自分が入っているなんて、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。だが、喜びが溢れているのも事実で、その両方の感情に混乱していた。
敦貴は握っていた皇祐の手を一度離し、プラスチックのカプセルを開いた。
そして皇祐の左手を取り、カプセルの中から出したものを薬指に嵌めてくる。
それは、オモチャの指輪だった。
本物ではないから、リングの部分はかなり大きくて、皇祐の指にはぶかぶかだ。だけど、大きなダイヤモンドみたいな透明のガラスがはめ込まれ、キラキラと光って見える?
「これはオモチャだけど、給料入ったら二人の結婚指輪買おう? あんまり高くないやつ」
敦貴が、輝くような眩しい笑顔を見せた。胸の奥から喜びと感動が込み上げてくる。
彼が、ここまで考えているなんて、まったくわからなかった。
何かを言いたいのに、思うように言葉を発せられない。指輪を嵌められた手も震えている。もう、自分の考えを整理するのは不可能だった。
「オレと北海道に行こう。そこでずっと一緒に過ごすの。コウちゃん、ダメ?」
甘えるような声を出し、あどけない顔で、皇祐の顔を覗き込んできた。
今の皇祐に拒否する言葉を口にするのは困難だった。何とかゆっくりと口を開く。
「後悔、しないのか?」
「うん、後悔しないよー」
そう言って、皇祐を包み込むように抱きしめてきた。
いつものように、あまり深く考えていないようにも感じる。
このまま敦貴と一緒にいてもいいのだろうか。
また彼を傷つけてしまわないだろうか。
どう答えれば正解なのかわからない。
「コウちゃん、オレと一緒にいてくれる?」
考えがまとまらないうちに、再び訊ねられた。
ぐるぐると、いろんな思いが頭の中で回っている。
敦貴のことを思えば、正解は一つしかないのはわかっていた。
だけど、彼の暖かい腕の中で今、敦貴と離れることを考えることはできなかった。
皇祐は敦貴の身体に腕を回し、消えそうな小さな声だったが、溢れてくる気持ちを伝える。
「敦貴と、一緒にいたい……」
皇祐を抱きしめる敦貴の腕に、力がこもった。
「ホント? ふふっ、やったー。すっげー嬉しい」
頭上で、いつも耳にする彼の明るい弾んだ声が上がった。
皇祐にとって、敦貴のいるところが、幸せで安心できる場所だ。
敦貴にもらった指輪が薬指から外れないように、皇祐はそっと拳を握った。
だけど、大切な敦貴の人生を狂わせるわけにはいかない。
「敦貴、もう充分だ。放してくれ」
「コウちゃん、一緒に北海道行こう?」
「なんで、突然そうなるんだ? 旅行に行ったって、僕の気持ちは変わらない」
こういう時でも話が飛ぶ敦貴に、呆れすぎて泣きそうな声になっていた。
彼は常に、明るく前を向いている。それなら尚更、自分が敦貴のお荷物にはなりたくない。
「旅行じゃないよ」
暗く沈んでいる皇祐とは反対に、晴れやかないきいきとした表情で敦貴は話を続けた。
「オレの伯父さん、北海道でラーメン屋やってるんだけど、前からその店をオレに譲るって言ってくれててさ。それで考えたんだ。そこでラーメン屋やれば、自分で店を持つよりはお金かかんないし、コウちゃんと一緒に住めるかなって」
「一緒に?」
「そう! いい案でしょ? そんな裕福な暮らしはできないだろうけど」
敦貴の人生設計に自分が入っているなんて、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。だが、喜びが溢れているのも事実で、その両方の感情に混乱していた。
敦貴は握っていた皇祐の手を一度離し、プラスチックのカプセルを開いた。
そして皇祐の左手を取り、カプセルの中から出したものを薬指に嵌めてくる。
それは、オモチャの指輪だった。
本物ではないから、リングの部分はかなり大きくて、皇祐の指にはぶかぶかだ。だけど、大きなダイヤモンドみたいな透明のガラスがはめ込まれ、キラキラと光って見える?
「これはオモチャだけど、給料入ったら二人の結婚指輪買おう? あんまり高くないやつ」
敦貴が、輝くような眩しい笑顔を見せた。胸の奥から喜びと感動が込み上げてくる。
彼が、ここまで考えているなんて、まったくわからなかった。
何かを言いたいのに、思うように言葉を発せられない。指輪を嵌められた手も震えている。もう、自分の考えを整理するのは不可能だった。
「オレと北海道に行こう。そこでずっと一緒に過ごすの。コウちゃん、ダメ?」
甘えるような声を出し、あどけない顔で、皇祐の顔を覗き込んできた。
今の皇祐に拒否する言葉を口にするのは困難だった。何とかゆっくりと口を開く。
「後悔、しないのか?」
「うん、後悔しないよー」
そう言って、皇祐を包み込むように抱きしめてきた。
いつものように、あまり深く考えていないようにも感じる。
このまま敦貴と一緒にいてもいいのだろうか。
また彼を傷つけてしまわないだろうか。
どう答えれば正解なのかわからない。
「コウちゃん、オレと一緒にいてくれる?」
考えがまとまらないうちに、再び訊ねられた。
ぐるぐると、いろんな思いが頭の中で回っている。
敦貴のことを思えば、正解は一つしかないのはわかっていた。
だけど、彼の暖かい腕の中で今、敦貴と離れることを考えることはできなかった。
皇祐は敦貴の身体に腕を回し、消えそうな小さな声だったが、溢れてくる気持ちを伝える。
「敦貴と、一緒にいたい……」
皇祐を抱きしめる敦貴の腕に、力がこもった。
「ホント? ふふっ、やったー。すっげー嬉しい」
頭上で、いつも耳にする彼の明るい弾んだ声が上がった。
皇祐にとって、敦貴のいるところが、幸せで安心できる場所だ。
敦貴にもらった指輪が薬指から外れないように、皇祐はそっと拳を握った。
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