胡蝶は揺りかごの中で眠る

玲瓏

文字の大きさ
14 / 16

14

しおりを挟む
 あれからどれくらいの日が経ったのかは知らないけれど、少しだけ分かるようになったことがいくつかある。
 まずひとつが、『ゆりうすでんか』のことだ。彼の名前は『ゆりうす、うぃん、おーくりっど』って言うらしい。『でんか』っていう言葉の意味は聞いてもよく分からなかったけれど、僕は呼ばなくてもいいから『ゆりうす』が名前だってことだけ知っていてって。出来れば大きくなって、名前がしっかり呼べるようになったら『ゆーる』って呼んで欲しいとも言っていた。特別な呼び方だから、僕以外は呼ばないんだって! 同じように、彼は僕のことも特別な名前があるんだよって教えてくれて、それからは僕のことを『らんでぃー』って呼ぶようになった。
 あと、やっぱり彼は僕の知っている『幸人さん』だって言っていた。それを聞いた僕は嬉しくていっぱい泣いちゃった。
 彼は、二人きりの時には『彩霞』って呼んでくれる。僕はランドルフだけど、あの時幸人さんが僕のサイカという名前に新しい漢字を付けてくれたから特別なんだ。幸人さんは、サイカのお母さんが付けてくれた漢字はあまりいいものじゃないからって言ってた。僕には漢字ひとつひとつの意味は難しくて分からなかったけど、幸人さんが書いてくれた文字の方が綺麗で好きだった。だから、お母さんから名前を呼ばれるのも好きだったけど、幸人さんから呼ばれた方がもっと自分の名前が好きになれたんだ。

「彩霞はやっぱりいろんなことを覚えているんだね」
「ん!」

 少し大きくなった僕を膝に乗せて、落ちないように片腕でお腹を支えながら反対の手で僕の小さな両手をその手に乗せていた。彼の大きな手はいつも僕を優しく撫でてくれるから、大好き。

「今更だけど、彩霞のこと見つけるのが遅くなってごめんね。ランディーも、産まれてから半年も経ってしまった」
「んむぅ? だー、ぶぅ!」

 大丈夫って言いたいけれど、まだちゃんと喋れない。それでも彼は僕の言いたいことを分かってくれたようだ。

「ふふ、ありがとう。彩霞にまた会えて嬉しいよ。今度こそちゃんと番になろうね」
「ちゅ、あーい? なぅ!」

 番が何か分からないけれど、彼の言うことは何にも悪いことなんてないって思うから、頷いておく。ずっと一緒にいられるなら何だっていい。
 ふと父が前に話していた「死にかけていた」という言葉が思い出されたが、今のところ元気に育っているから大丈夫だと信じたい。彩霞の時みたいに、彼をまた置いていきたくないのだ。どうせなら今度は僕の方が長生き出来たらいいなぁ。
 暫く彼の膝の上で話しながら遊んでいると、コンコンと扉を叩く音がした。

「ユリウス殿下、アンヘルです。ランドルフ様のお食事をお持ちしました」
「入れ」
「失礼致します」

 僕の侍従のアンヘルが、沢山の食べ物を載せた台を押して部屋へと入ってくる。侍従という言葉の意味はユールに教えてもらった。自分のお世話をしてくれる人だよって。お世話をするのは家族とかユールじゃだめなのかなって思ったけど、聞く方法もなくてそこは分からないままだ。でもアンヘルは大好きだし一緒に居てくれて嬉しいから、分からないままでもいいのだ。
 アンヘルは食事の準備をし、それをユールが僕に食べさせてくれる。最近はミルクよりもドロドロとしたものを食べる回数の方が多い。ミルクも美味しいけれど、このドロドロしたものも美味しくていつも食事の時はニコニコしちゃう。

「本当に美味しそうに食べるね」
「むん!」

 口をもぐもぐと動かしながら、ほっぺたに両手を添えて美味しいよって表現する。そんな僕の頬を彼は指先でつついて、ふふっと笑った。横で見ていたアンヘルも、顔がにこにこしている。

「さあ、ゆっくりでいいからまだまだ頑張って食べようね。ランディーはいっぱい食べないと魔力が体に貯まらないから」
「ぁいっ」

 両手を上にあげて元気よく返事をすると、彼は優しく頭を撫でてくれた。それからゆっくりと時間をかけて食事をすると、体がポカポカとしてきて眠気が訪れる。その上ユールに抱きしめられて、おやすみなんて言われたら眠ってしまうに決まっている。
 トントン、とリズム良く背中を叩かれてうとうとしながらも、ユールとアンヘルの会話をぼんやりと聞く。

「公爵は何時来る?」
「もうすぐランドルフ様の誕生日を迎えられますので、その前には一度此方へ起こしになるようです。流石に誕生日は公爵邸で行いたい、と」
「はは、まあそれくらいは仕方がないな」
「ありがとうございます。正直私が此方で一人ランドルフ様に毎日お会い出来ることを羨ましがっている公爵様方にチクチクと刺されているので、出来るだけ早くにお会いさせていただければ……」
「君も大変だな。私は何時でもいいから、日取りに関しては神官長と相談してくれ」
「畏まりました」

 アンヘルは部屋を出ていく前に、僕へ「おやすなさいませ」と言った。眠たくて仕方なかったからそれにちゃんと答えられたかは分からないけれど、アンヘルが笑ったのが見えたから大丈夫かな。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。 2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました 2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。 様々な形での応援ありがとうございます!

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

処理中です...