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赤くなっていた目が治まってからしばらくして、神官の一人が僕たちを呼びに来た。別の部屋に行くらしく、ユールに抱えられたままの僕は首を傾げる。
「うー?」
「何処に行くのか気になる?」
「うゆ!」
「ふふ、教えてあげたいけど、内緒だよ。ランディーにとってとてもいい事だから、楽しみにしててね」
僕にとっていい事なら、待つのもいいかもしれない。ドキドキしながらユールに抱えられて部屋を移動する。移動している間ずっとそわそわして、いつの間にかユールに初めて貰った白い紐を握りしめていた。
「こちらでごさいます。中でお待ちですので、どうぞお入りください」
ぺこりと神官がお辞儀をしてから去っていく。後ろを着いてきていたアンヘルが一歩前に出て、部屋をノックしてから返事も待たずに扉を開けた。
その先の部屋では、長い間会うことのなかった人達がびっくりした顔の後満面の笑みで迎えてくれた。
「ユリウス殿下、お待ちしておりました」
「……ランドルフ!」
父がユールに挨拶をした直後、兄が此方に駆け寄ってくる。それを父が窘めたが、ユールは笑って「構いませんよ」と言う。
僕は家族に会えるとは思っておらず、びっくりしたまま固まってしまった。ずっと会えなかったから、もう会えないんじゃないかとすら思っていた。またねって言っていたけど、忘れられてたらどうしようって。でも、家族はちゃんと僕を覚えていて会いに来てくれたんだ。
「ランディー、特訓の成果を見せようか」
固まったままの僕に、ユールがにっこり笑ってそう告げる。僕はずっとユールと一緒におしゃべりの練習をしていたけれど、この日のためだったんだ。よし、と頭の中で気合を入れてから兄の方へと顔を向ける。
「特訓、ですか?」
「そうだよ。アレクシス、そこで膝立ちになって両手を出してくれるかい」
「は、はい!」
ユールに指示されたように兄は床に膝立ちになり、此方に向けて両手を差し出す。ユールがその兄の前に僕をゆっくりと降ろしたので、僕は掴まり立ちをするようにして兄の両手をしっかりと握った。
「まあ……!」
「ランドルフはもう立てるようになっていたのですね」
「凄い、凄いよ、ランドルフ!」
兄の後ろでは母が口に手を当てて驚き、父は冷静に言葉を紡ぎながらもすごく嬉しそうだ。兄は僕が倒れないようにしっかりと手を握って支えながら、いっぱい褒めてくれる。
「それだけじゃありませんよ」
ユールが得意げにそう言ったので、僕は今だ! と思って口を開いた。
「にっに!」
「え?!」
元気いっぱいに兄を呼べば、目の前の兄は酷く驚いた顔をした。もう一度「にー、に!」と呼ぶと、ぎゅっと抱きしめられる。ちょっと苦しいけど、久しぶりに兄に抱きしめて貰えたことが嬉しかったから抵抗せずに受け入れた。
「い、いま……ランドルフ、兄様のこと呼んだよね? わああ、嬉しい、ありがとう! ランドルフ、大好きだよ!」
僕も大好きだよって返す代わりに、抱きしめ返す。床に膝をついたままの兄は暫く僕を離してくれなさそうだったからか、両親とユールは苦笑しながら会話を始めた。
「まさか、こんなハッキリと喋れるとは思わなかったですわ」
「アレクの時ですらこんなに早くは無かったのに」
兄は僕よりも喋り始めるのが遅かったらしい。じゃあこれは僕の自慢のひとつかな。まだハッキリ喋れているわけじゃないけれど、ユールにもいっぱい褒めて貰えたから。
後で父と母も呼んで、兄みたいにびっくりしてくれたらいいな。そう思いながら、兄の腕の中でふふっと笑った。
「私も正直最初はここまで成長が早いとは思いませんでした。けれど、記憶のこともありますので、不思議では無いかと」
「そうですわね。その成長を傍で見届けられないのが悲しいですけれど、離れていても私たちのことを覚えてくれているならそれだけで十分ですわ」
兄の後ろにしゃがみ込んだ父と母が、僕の頭を交代で撫でていく。ユールの手とはまた違った暖かさを感じて、えへへと笑みがこぼれた。
「今まで会わせてあげられず、すみません」
「いえ、仕方の無いことですから。でも、此度の誕生日は我が家で行えるのですよね?」
「警備に関しては陛下からも手配して頂けるとの事ですので。そのまま準備を進めていただいて構いませんよ」
両親とユールは誰かの誕生日をお祝いする話をしているようで、その話を続けるために部屋にある大きなソファに座った。僕はずっと兄に抱えられたままだ。
話を聞いていれば、どうやら僕の誕生日をお祝いしてくれるらしいことが分かった。彩霞の時も幸人さんや幸人さんの家族にお祝いしてもらったことがあるけれど、あれは本当に嬉しかったことを思い出す。プレゼントを貰って、いつもは食べれないケーキを口いっぱいに頬張る。幸せすぎて、また明日も誕生日だったらいいのになって思ってた。流石にそんなワガママは言えなかったけど、代わりに幸人さんの誕生日も同じようにケーキを食べてもいいよってお医者さんに言ってもらえて、一年のうちに二回もケーキを食べられたんだ。ここでもケーキは食べれるのかな。まだ見たことがないし、そもそもまだ赤ちゃんの僕には無理かもしれないけど、いつか食べられるといいな。
「……話しすぎましたね。ランドルフが寝てしまいそうです」
「なぃ、なぃ……」
まだバイバイしてないし、何よりまだ両親のこと呼べてないから寝ないよって言ったけれど、瞼が落ちてくる。だめだめ、頑張って起きておかなきゃ!
「寝てもいいんだよ、ランドルフ。僕達は明日もここに居る予定だからね」
「んぅー……? に、っに……いぅ?」
「うん、居るよ。だから今日はもうおやすみしようね。また明日、一緒に遊ぼう」
「あぃ」
明日も居るならいいかな。だって本当にもう眠たいの。兄に背中をぽんぽんと撫でられながら、僕はゆっくりと瞼を閉じたのだった。
「うー?」
「何処に行くのか気になる?」
「うゆ!」
「ふふ、教えてあげたいけど、内緒だよ。ランディーにとってとてもいい事だから、楽しみにしててね」
僕にとっていい事なら、待つのもいいかもしれない。ドキドキしながらユールに抱えられて部屋を移動する。移動している間ずっとそわそわして、いつの間にかユールに初めて貰った白い紐を握りしめていた。
「こちらでごさいます。中でお待ちですので、どうぞお入りください」
ぺこりと神官がお辞儀をしてから去っていく。後ろを着いてきていたアンヘルが一歩前に出て、部屋をノックしてから返事も待たずに扉を開けた。
その先の部屋では、長い間会うことのなかった人達がびっくりした顔の後満面の笑みで迎えてくれた。
「ユリウス殿下、お待ちしておりました」
「……ランドルフ!」
父がユールに挨拶をした直後、兄が此方に駆け寄ってくる。それを父が窘めたが、ユールは笑って「構いませんよ」と言う。
僕は家族に会えるとは思っておらず、びっくりしたまま固まってしまった。ずっと会えなかったから、もう会えないんじゃないかとすら思っていた。またねって言っていたけど、忘れられてたらどうしようって。でも、家族はちゃんと僕を覚えていて会いに来てくれたんだ。
「ランディー、特訓の成果を見せようか」
固まったままの僕に、ユールがにっこり笑ってそう告げる。僕はずっとユールと一緒におしゃべりの練習をしていたけれど、この日のためだったんだ。よし、と頭の中で気合を入れてから兄の方へと顔を向ける。
「特訓、ですか?」
「そうだよ。アレクシス、そこで膝立ちになって両手を出してくれるかい」
「は、はい!」
ユールに指示されたように兄は床に膝立ちになり、此方に向けて両手を差し出す。ユールがその兄の前に僕をゆっくりと降ろしたので、僕は掴まり立ちをするようにして兄の両手をしっかりと握った。
「まあ……!」
「ランドルフはもう立てるようになっていたのですね」
「凄い、凄いよ、ランドルフ!」
兄の後ろでは母が口に手を当てて驚き、父は冷静に言葉を紡ぎながらもすごく嬉しそうだ。兄は僕が倒れないようにしっかりと手を握って支えながら、いっぱい褒めてくれる。
「それだけじゃありませんよ」
ユールが得意げにそう言ったので、僕は今だ! と思って口を開いた。
「にっに!」
「え?!」
元気いっぱいに兄を呼べば、目の前の兄は酷く驚いた顔をした。もう一度「にー、に!」と呼ぶと、ぎゅっと抱きしめられる。ちょっと苦しいけど、久しぶりに兄に抱きしめて貰えたことが嬉しかったから抵抗せずに受け入れた。
「い、いま……ランドルフ、兄様のこと呼んだよね? わああ、嬉しい、ありがとう! ランドルフ、大好きだよ!」
僕も大好きだよって返す代わりに、抱きしめ返す。床に膝をついたままの兄は暫く僕を離してくれなさそうだったからか、両親とユールは苦笑しながら会話を始めた。
「まさか、こんなハッキリと喋れるとは思わなかったですわ」
「アレクの時ですらこんなに早くは無かったのに」
兄は僕よりも喋り始めるのが遅かったらしい。じゃあこれは僕の自慢のひとつかな。まだハッキリ喋れているわけじゃないけれど、ユールにもいっぱい褒めて貰えたから。
後で父と母も呼んで、兄みたいにびっくりしてくれたらいいな。そう思いながら、兄の腕の中でふふっと笑った。
「私も正直最初はここまで成長が早いとは思いませんでした。けれど、記憶のこともありますので、不思議では無いかと」
「そうですわね。その成長を傍で見届けられないのが悲しいですけれど、離れていても私たちのことを覚えてくれているならそれだけで十分ですわ」
兄の後ろにしゃがみ込んだ父と母が、僕の頭を交代で撫でていく。ユールの手とはまた違った暖かさを感じて、えへへと笑みがこぼれた。
「今まで会わせてあげられず、すみません」
「いえ、仕方の無いことですから。でも、此度の誕生日は我が家で行えるのですよね?」
「警備に関しては陛下からも手配して頂けるとの事ですので。そのまま準備を進めていただいて構いませんよ」
両親とユールは誰かの誕生日をお祝いする話をしているようで、その話を続けるために部屋にある大きなソファに座った。僕はずっと兄に抱えられたままだ。
話を聞いていれば、どうやら僕の誕生日をお祝いしてくれるらしいことが分かった。彩霞の時も幸人さんや幸人さんの家族にお祝いしてもらったことがあるけれど、あれは本当に嬉しかったことを思い出す。プレゼントを貰って、いつもは食べれないケーキを口いっぱいに頬張る。幸せすぎて、また明日も誕生日だったらいいのになって思ってた。流石にそんなワガママは言えなかったけど、代わりに幸人さんの誕生日も同じようにケーキを食べてもいいよってお医者さんに言ってもらえて、一年のうちに二回もケーキを食べられたんだ。ここでもケーキは食べれるのかな。まだ見たことがないし、そもそもまだ赤ちゃんの僕には無理かもしれないけど、いつか食べられるといいな。
「……話しすぎましたね。ランドルフが寝てしまいそうです」
「なぃ、なぃ……」
まだバイバイしてないし、何よりまだ両親のこと呼べてないから寝ないよって言ったけれど、瞼が落ちてくる。だめだめ、頑張って起きておかなきゃ!
「寝てもいいんだよ、ランドルフ。僕達は明日もここに居る予定だからね」
「んぅー……? に、っに……いぅ?」
「うん、居るよ。だから今日はもうおやすみしようね。また明日、一緒に遊ぼう」
「あぃ」
明日も居るならいいかな。だって本当にもう眠たいの。兄に背中をぽんぽんと撫でられながら、僕はゆっくりと瞼を閉じたのだった。
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