無彩色の空の下で

みらる

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八潮市

家族

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透はポセイドンの一言に放心状態になっていた。
「君のご両親は【無彩色】の設立者で、特にお父さんの善(ぜん)さんは設立チームのリーダーだったんだ。」
「それにお兄さんは今、この世界を牛耳る支配者だ。」
透は常体を起こし前のめりに聞き入る。
ポセイドンは間髪入れずに透の両親と兄の事について話始めた。

それから、透はポセイドンから両親がこの世界を守る為に亡くなっている事、3か月前に兄が入界、現在支配者として登りつめている事。
そして、この世界を終わらせようとしているという事を掻い摘んで聞いた。

「そんなことになっていたなんて、僕はただ兄さんの後を追ってここに来ただけで__。」
透が困惑した表情を見せるとポセイドンが宥めるように話を続けた。

「今日はもう遅い。明日君の宝石や能力を精密に検査して貰える場所に出かけよう。」
「何より、お兄さんに会うには一筋縄では行かない、なぜならレジスタンスである私たちとは敵となる存在だからだ。」
「今日はここでゆっくりしておくれ。」
地図を閉じながらポセイドンがそう言うと、入って来たドアから出て行った。
続いてナナとララもまた明日ね、というように目で合図を送りながら部屋から出て行った。

「アテナさんは?」
部屋に残ったアテナに透は恐る恐る聞いた。
「華奏(かなで)でいい。」
「単刀直入に聞くわ、あなたはどちらに付く?」
迫るような物言いで華奏が話す。
「あなたの事はまだわからない事が多いけど、これだけははっきりしているの。このレジスタンスにはあなたが必要だって事だけはね。」
先ほどの迫るような物言いはレジスタンスの先行きを案じての事だろう。
「私のお父さんもあなたのご両親と同じ、この世界の設立メンバーの一人よ。」
先ほどとは違いゆっくりと華奏が語りだした。
「この世界が出来上がってから3年、設立メンバーの変死が相次いでいるの。あなたのお母さん、お父さん、そして私のお父さん__。きっかり1年に一度、儀式が行われ亡くなっているわ。」

「八潮市の南西にあるビル群には今あなたのお兄さんが君臨していて、この世界の総本山があるの。そこで行われている儀式というもの。ポセイドンはこの世界を守る為と言っているけど、事実、それはわからないわ。私は父がどのようにして亡くなったのか、この眼で見るまではこのレジスタンスにいるつもりよ。」

一通り話終えたのか、胸がいっぱいになり今にも泣きそうな眼で華奏は透を見つめる。
「僕は兄さんから、父さんと母さんは研究中の事故で死んだって聞いていたんだ。だからもう受け入れるしかなかった。今は兄さんが何故この世界を終わろうとしているのかが気になる。」
「どちらもその総本山に答えがあるみたいだし、僕が何者なのかまだ分からないけど、華奏さんの力になれるのなら僕もこのレジスタンスにいるよ。と言ってもこの世界で右も左もわからない僕には行く場所なんて無いんだけどね。」
透は華奏を勇気づけるように言いながらも自分の立場を自覚していた。

「ありがとう。その言葉で安心したわ。明日は凄い人に会えるわ、楽しみに今日はゆっくりおやすみ。」

華奏はそう言い残して部屋から出て行った。
透は不安を残しながらも、華奏と話せて落ち着いたのか、一日の疲れが眠気に変わり深い眠りについた。

翌朝__。
目覚めは酷いものだった。
「ナナ、私たちちゃんと運べるかしら」
「ララ、大丈夫よ。1度成功してるじゃない」
「ナナ、距離の問題よ。透ったら重いじゃない」
「ララ、でも私たちが運ぶしかないのよ」
「ナナ、まぁ最悪落としても怪我しないみたいだし」
「ララ、不謹慎なこと言わないで、あ、起きるわよ」

既に起きていた透はブツブツ話すナナとララの会話を聞きながら状態を起こした。
「おはよう。ナナ、ララ。」
透は何も聞いていなかった素振りで2人にあいさつをする。

「あはははは__。透おっはよー。」
ナナとララが後ろめたい笑いとともに同時に透にあいさつを返した。

コツンコツンと音がした後、コンコンとドアを叩く音が聞こえ、ポセイドンが部屋に入って来た。
「透君おはよう。ゆっくり出来たみたいだね。もう10時だ。」
少し困った顔でポセイドンがあいさつをした。
「おかげさまで、有難う御座います。」
透がそう言うと、ポセイドンが話を続けた。
「さーて、向こうには11時にアポイントを取ってある。しかしどんだけ早く見積もっても45分はかかるだろう。みんな15分後には表に集合だ。」
「透君はその間、ダイニングで朝食を取るといい。」
ポセイドンはそう言うと右足をさすりながら部屋を出て行った。

透はポセイドンに言われた通り、ダイニングに向かった。

部屋を出ると目の前の部屋が空いていてポセイドンが昨日見せてもらった地図を広げて独り言を言っている。
「やはり、多少迂回してでも北西を通って行った方が安全か」

ポセイドンは部屋から出てきた透に気がついたのか左の方を指さした。
透はポセイドンが指さした方へ足を進めると、直ぐにダイニングへとついた。
あまり家屋自体は広くなさそうだが、きちんと綺麗にされていてどこか未来の基地に来たような、そんな感覚を覚えた。

ダイニングのテーブルには朝食が用意されていた。
くるみパンにチーズとハム、レタスが挟まったサンドイッチで、まる1日ぶりの食事に
透はかぶりつきながら食べた。

「そろそろいけるか?」
丁度食べ終わった頃に表にいたポセイドンから声が掛かった。

声の方角を頼りに透も表に出た。
表に出ると今までいた家屋が資料館だと言うことが一目でわかった。
何故なら、外見は資料館そのものだったからだ。

「これって__。」
透が困惑しながら聞くと華奏が答えた。
「景観を損なわない為よ。あとはカモフラージュにもなるし、内装は文明の力ね。」

「さて、少し急がないとね」
「透君は昨日の様子を聞く限り神レベルであったとしても空は飛べないみたいだから、ナナとララに掴まって移動してくれ」
ポセイドンはふわりと浮きながらそう言うと飛び立っていった。

梟 貌アニマライズ
華奏はそう唱えると梟に変身し飛び立った。
「私は最後尾に付くからお先にどうぞ。」
上空を旋回しながら華奏が言った。

「ポセに続かないと__。行くよララ。」
「わかったよナナ。」
透は双子の間に入るように手を繋いで飛び立った。

ポセイドンと双子はあらゆる敵に見つからないように高度を上げて飛んだ。
更に目的地の八潮市北方面にある通称ラボには直線距離30分の所、北東部にある密林地区へ迂回して45分の距離を飛んで進んだ。

「ナナ。もうきつい。一回休憩しよ」
「ララ。ダメよ。下は密林地帯、何がいるか分からないわ」
飛行時間25分。片手ではもう透を持って飛べなくなっていたララは両手で透の右手を必死に掴んで飛んでいた。

透にふと、朝双子が話していた会話が頭を過った。
「あっ__。ごめんなさい。」
ララがそう言った瞬間、ララは掴んでいた透の右手を離してしまった。

急に高度が落ち、雲を抜け、眼下には密林が広がっていた。
「私も一人じゃ、もう限界。」
ナナもそう言うと掴んでいた透の左手を離した。

ナナの飛行で高度が下がったとはいえ、そこからの落下は即死を示していた。
透が微かに聞いた音は、木々がぶつかる音だった。
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