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八潮市
回想
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これは、透が無彩色に入界する1週間前の物語。
兄さんと連絡が取れなくなってから早3週間が経っていた。
テレビからは数日前から集団失踪のニュースが頻繁に流れている。
透は約3年前に両親が失踪した時の事を思い出していた。
当時、研究者だった両親は異空間の発見に伴い、富豪を中心に広まった『異空間移住化計画』の発起人として注目を浴びていたが、集団失踪が取り立たされてからは非難の的となってしまい、莫大な財産を残して失踪してしまった。
その後、失踪者が戻ってきた事例もあり、ニュースも緩和されていったが、両親が帰って来ることは無かった。
憂鬱な毎日に項垂れていた透は机にダラっと伏しながら腕時計を眺めていた。
チクタクと無常に時は流れていく__。
『ピーンポーン』
シーンとした家にインターホンの音が鳴り響いた。
透はこの音が嫌いだ。
両親が失踪した時に幾度となく聞かされた音だからだ。
毎日、メディアや記者に囲まれた思いはもうしたくない。
2階の自分の部屋からノソノソとスエット姿で玄関までの階段を下りる。
玄関に着くとまずチェーンを閉める。3年前からの癖だ。
「はい。どちら様でしょうか。」
ドアを少し開き、か細い声で応答するも、返事は返ってこない。
ドアの下を覗くと隙間から小包が見える。
ドアを一回閉じ、チェーンを開ける。
今度はドアを大きく開いた。
何日振りの日差しだろうか、目眩がする程だ。
こんな格好で髪もボサボサだ。
「おーい、透。久しぶりじゃないか。」
誰にも会うつもりも無かった透からしたら一大事だ。
微かに聞き覚えのある声にゆっくりと振り返る。
「お、おう。翔。どうした?」
幼馴染の松田 翔が玄関先で自転車に腰掛けながら手を振っていた。
「どうした?じゃないよ。最近学校にも来ないし心配してたんだよ。」
透とは正反対に明るい声で話す翔は自転車を降り、駆け足で透に近づいた。
「まぁ、ここじゃなんだから。中で話そうぜ。」
透が断る間もなく、翔は家の中に入っていった。
「十中八九そん中にいるな。」
兄さんと連絡が取れなくなった話をしたら翔から即答で返って来た言葉だ。
「透のご両親のアレだよ。異空間なんちゃらってヤツ。」
透は考えもしなかったが、あれから3年準備期間には多いくらいだ。
おのずと兄さんの部屋に足が向いた。
ドアを開けるとカーテンが閉まっていて真っ暗だ。
直ぐに灯りを付けて部屋を見回すととても簡素な部屋で、ベッドに机、開きっぱなしのパソコンに開けたであろう小包の箱が乱雑に置かれていた。
「まずはパソコンだな。」
翔が後ろからパソコンを指さしながら言うと、透は兄さんの机に座りパソコンを起動した。
兄さんの事だ、パスワードも厳重にしてるはずだ。
透は兄さんの生年月日を思い出しながらパソコンの起動を待ったが、パスワードの画面は表示されずにクリック一つでデスクトップが表示された。
呆気に取られていた透とは反対に翔は冷静だった。
「検索履歴から見てみよう。」
翔がそう言うと、透は検索エンジンの履歴一覧を開いた。
【異空間 入り方】【無彩色 入り方】【無彩色 宝石】
「無彩色ってなんだ?」
透が声に出した途端、翔が食い気味で言葉を挟んだ。
「デスクトップだよ。早く。」
透が訳も分からずデスクトップに戻ると、いくつかのフォルダの中に題名が【無彩色】と書かれたフォルダを見つけた。
フォルダの中には異空間が【無彩色】という名前と言うことや、入る為に必要な道具、入る場所などが事細かく書いてあった。
そして乱雑においてあった小包の箱を見て翔が言った。
「箱、箱だって!箱!」
それを聞いて透は先ほどまで翔と話していた1階のリビングまで走った。
テーブルの上に置いてあった小包を直ぐに開けにかかった。
きちんと包装紙にくるまっていたが今はそれどころじゃない。
ビリビリに破かれた包装紙は床に散乱し、外箱は手で引きちぎって開けた。
中から化粧箱が出てきた。
「一度冷静になろう。」
透が放った言葉は翔に向けてではなく、自分に向けての言葉だった。
一度、化粧箱をテーブルに置き、椅子に座る。
翔は向かいの椅子に座って今か今かと心待ちにしている。
一度深呼吸をして、化粧箱を開ける。
「やっぱりだ!」
翔が立ち上がり、前のめりになりながら叫んだ。
中には、一枚のカードと宝石の付いた指輪、ポストカードに数字の羅列が書かれてあった。
「僕も行きたい。一緒に行こうよ。」
翔が思わぬ提案をしてきた。
「僕はまだ行くとは言っていない。それに、翔の分は無いだろう?」
透は困惑した状況下で本音を覗かせた。
「行きたいんだろう?お兄さんに会いに行くべきじゃないのか?それに1週間待ってくれれば自分の分は自分で用意するよ。」
透は翔を玄関まで見送り、こう答えた。
「わかったよ。1週間後の今日、ここで待ち合わせな。」
翔の言葉に根負けしたのか、透がうなづきながら話した。
「そう来なくっちゃ!よーし早速準備に取り掛かるから。またな!」
翔はうきうきした気分で颯爽と帰って行った。
透はリビングに戻り、開いた化粧箱を再度見返した。
この数字の羅列は何だろうか。
兄さんのパソコンのフォルダにも書いてあったような気がした。
後でもう一度兄さんのパソコンを見てみよう。
ポストカードを化粧箱にしまう前にふと気になって裏面を見てみると、
【happy birthday】の文字が3秒ほど浮き上がり、消えた。
「そっか。忘れてたや。」
今日は透の16回目の誕生日で、長い旅の始まりとなった一日であった。
兄さんと連絡が取れなくなってから早3週間が経っていた。
テレビからは数日前から集団失踪のニュースが頻繁に流れている。
透は約3年前に両親が失踪した時の事を思い出していた。
当時、研究者だった両親は異空間の発見に伴い、富豪を中心に広まった『異空間移住化計画』の発起人として注目を浴びていたが、集団失踪が取り立たされてからは非難の的となってしまい、莫大な財産を残して失踪してしまった。
その後、失踪者が戻ってきた事例もあり、ニュースも緩和されていったが、両親が帰って来ることは無かった。
憂鬱な毎日に項垂れていた透は机にダラっと伏しながら腕時計を眺めていた。
チクタクと無常に時は流れていく__。
『ピーンポーン』
シーンとした家にインターホンの音が鳴り響いた。
透はこの音が嫌いだ。
両親が失踪した時に幾度となく聞かされた音だからだ。
毎日、メディアや記者に囲まれた思いはもうしたくない。
2階の自分の部屋からノソノソとスエット姿で玄関までの階段を下りる。
玄関に着くとまずチェーンを閉める。3年前からの癖だ。
「はい。どちら様でしょうか。」
ドアを少し開き、か細い声で応答するも、返事は返ってこない。
ドアの下を覗くと隙間から小包が見える。
ドアを一回閉じ、チェーンを開ける。
今度はドアを大きく開いた。
何日振りの日差しだろうか、目眩がする程だ。
こんな格好で髪もボサボサだ。
「おーい、透。久しぶりじゃないか。」
誰にも会うつもりも無かった透からしたら一大事だ。
微かに聞き覚えのある声にゆっくりと振り返る。
「お、おう。翔。どうした?」
幼馴染の松田 翔が玄関先で自転車に腰掛けながら手を振っていた。
「どうした?じゃないよ。最近学校にも来ないし心配してたんだよ。」
透とは正反対に明るい声で話す翔は自転車を降り、駆け足で透に近づいた。
「まぁ、ここじゃなんだから。中で話そうぜ。」
透が断る間もなく、翔は家の中に入っていった。
「十中八九そん中にいるな。」
兄さんと連絡が取れなくなった話をしたら翔から即答で返って来た言葉だ。
「透のご両親のアレだよ。異空間なんちゃらってヤツ。」
透は考えもしなかったが、あれから3年準備期間には多いくらいだ。
おのずと兄さんの部屋に足が向いた。
ドアを開けるとカーテンが閉まっていて真っ暗だ。
直ぐに灯りを付けて部屋を見回すととても簡素な部屋で、ベッドに机、開きっぱなしのパソコンに開けたであろう小包の箱が乱雑に置かれていた。
「まずはパソコンだな。」
翔が後ろからパソコンを指さしながら言うと、透は兄さんの机に座りパソコンを起動した。
兄さんの事だ、パスワードも厳重にしてるはずだ。
透は兄さんの生年月日を思い出しながらパソコンの起動を待ったが、パスワードの画面は表示されずにクリック一つでデスクトップが表示された。
呆気に取られていた透とは反対に翔は冷静だった。
「検索履歴から見てみよう。」
翔がそう言うと、透は検索エンジンの履歴一覧を開いた。
【異空間 入り方】【無彩色 入り方】【無彩色 宝石】
「無彩色ってなんだ?」
透が声に出した途端、翔が食い気味で言葉を挟んだ。
「デスクトップだよ。早く。」
透が訳も分からずデスクトップに戻ると、いくつかのフォルダの中に題名が【無彩色】と書かれたフォルダを見つけた。
フォルダの中には異空間が【無彩色】という名前と言うことや、入る為に必要な道具、入る場所などが事細かく書いてあった。
そして乱雑においてあった小包の箱を見て翔が言った。
「箱、箱だって!箱!」
それを聞いて透は先ほどまで翔と話していた1階のリビングまで走った。
テーブルの上に置いてあった小包を直ぐに開けにかかった。
きちんと包装紙にくるまっていたが今はそれどころじゃない。
ビリビリに破かれた包装紙は床に散乱し、外箱は手で引きちぎって開けた。
中から化粧箱が出てきた。
「一度冷静になろう。」
透が放った言葉は翔に向けてではなく、自分に向けての言葉だった。
一度、化粧箱をテーブルに置き、椅子に座る。
翔は向かいの椅子に座って今か今かと心待ちにしている。
一度深呼吸をして、化粧箱を開ける。
「やっぱりだ!」
翔が立ち上がり、前のめりになりながら叫んだ。
中には、一枚のカードと宝石の付いた指輪、ポストカードに数字の羅列が書かれてあった。
「僕も行きたい。一緒に行こうよ。」
翔が思わぬ提案をしてきた。
「僕はまだ行くとは言っていない。それに、翔の分は無いだろう?」
透は困惑した状況下で本音を覗かせた。
「行きたいんだろう?お兄さんに会いに行くべきじゃないのか?それに1週間待ってくれれば自分の分は自分で用意するよ。」
透は翔を玄関まで見送り、こう答えた。
「わかったよ。1週間後の今日、ここで待ち合わせな。」
翔の言葉に根負けしたのか、透がうなづきながら話した。
「そう来なくっちゃ!よーし早速準備に取り掛かるから。またな!」
翔はうきうきした気分で颯爽と帰って行った。
透はリビングに戻り、開いた化粧箱を再度見返した。
この数字の羅列は何だろうか。
兄さんのパソコンのフォルダにも書いてあったような気がした。
後でもう一度兄さんのパソコンを見てみよう。
ポストカードを化粧箱にしまう前にふと気になって裏面を見てみると、
【happy birthday】の文字が3秒ほど浮き上がり、消えた。
「そっか。忘れてたや。」
今日は透の16回目の誕生日で、長い旅の始まりとなった一日であった。
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