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偉人
科学者
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どれくらい時間が経っただろうか、眼を開いてもまだぼんやりとしている。
知らない天井見るのはこの世界に来て2回目だ。
「ナナ。起きたわ。怒ってないかしら。」
「ララ。私たち頑張ったもの。きっと大丈夫よ。」
双子が心配そうに覗き込む。
「大丈夫だよ。まだ目眩はするけど。怒ってない。」
そう言いながら透は双子に笑顔を見せる。
「ララ__。」
「ナナ。分かってるわ。ポセ達を呼んで来るわ。」
ナナがララに促そうとして名前を呼んだ途端、ララが食い気味にそう言い残しドアから出て行った。
シーンとした部屋の中でナナが興味深そうの丸い目をパチクリとしながら見て来る。
双子はいつもそうだった。
「君たち双子も12なんだろう?」
透は自分から問いかける事にした。
「そうよ。私たちまだレベル3だけどすっごいんだから。私がアポロンでララがアルテミスなんだから。」
ナナは誇らしげに長い髪を後ろに振り払いながら言った。
「ナナ。呼んで来たわ。」
駆け足でララが帰って来た。
連れられて部屋に入って来たポセイドンと華奏はほっとした顔をしていた。
「その、具合の方は大丈夫かね。」
バツが悪そうにポセイドンが聞くや否やポセイドンと華奏の間を掻き分けて口髭を生やしたお爺さんが部屋に入って来た。
「あ・な・た・ね。カワイ子ちゃんは。ずーっと起きるのを待っていたのよ。あらヤダ。どのくらいだったかしらねぇ。私、アプロディーテ。誰だと思う?びっくりしちゃうわよ」
透は完全に呆気に取られていた。
「あの_。その_。お医者さんとかですか?」
透から見たその人物は白衣を着たその出で立ちから医者とも似つかわしかった。
但し、その人物はピンク色をした白衣を身にまとっていた。
「このお方は君も授業で習った事があるだろう。アルベルト・アインシュタイン先生だ。」ポセイドンが検討違いな答えにすかさずフォローを入れた。
「ポセちゃんったら、答え言うの早すぎ。しかも結構重要機密事項よ。私がかの有名なアルベルト・アインシュタインである。なんちゃって。宜しくね。透ちゃんで良かったかしら?私の事はアインちゃんって呼んでね。」
手を伸ばして握手を求めながらアインシュタインが言った。
透はアインシュタインの握手に応じながら、全ての突っ込み所を省略して一つの疑問を直球で聞いてみる事にした。
「アインちゃんはどうしてこの世界に?」
「というより、どうやってこの世界に?でしょ?」
アインシュタインが質問を訂正した。
「私ドイツ生まれなんだけど、死んだ時はアメリカにいたの。そして私のDNAを冷凍保存していてね。宝石と一緒にこの世界にぶち込んだのよ。手荒ったらありゃしないわ。そしたら偶然、私が復活したっては・な・し。だから、私はこの世界でしか生きられないの、ポセちゃんに協力しているのもそういった経緯があるわ。」
アインシュタインが話している事は事実。様々な国が冷凍保存されたDNAを使い偉人の復活を試みたが、成功したのは12の宝石を使って復活を果たしたアインシュタインを含めて2名のみであった。
「さてと、ここに来た理由に戻りましょう。ラボを案内するわ。立てるかしら。」
アインシュタインがパチンと手を叩きながらそう言うと途端に双子が元気になった。
「ララ。今日も面白いものが見れるわ。」
「ナナ。そうね。わくわくしちゃうわ。」
透も重い腰を上げて、部屋から出ていくアインシュタイン達を追った。
「透ちゃん、貸して欲しいモノがあるの」
いくつもの部屋がある廊下をまっすぐに進みながらアインシュタインが聞いた。
「これですか?」
透が左腕を指さしながら言った。
「そうなのよ。気を失ってる間に拝借しようとしたんだけど、バリアが張っていてあなたには指一本触れられなかったわ」
アインシュタインは悲しそうに言った。
「わかりました。アインちゃんに預けます」
透は何か決意したように腕時計を外し、アインシュタインに渡した。
「透ちゃん有難う。そこのあなた、直ぐにこの検体を調査して」
アインシュタインが透に感謝を述べ、通りかかったピンク色の白衣を着た女性に腕時計を渡した。
「さあ、こっちよ」
長い廊下を抜けると突き当りに大きなドーム型の部屋に出た。
部屋には画面がいくつもあり、町の至る所が映し出されていて、何人かの人が慌てるように
動いていた。
「ここは何をしているんですか?」
「ノンプレイヤーオブジェクト__。あなたも聞いた事はあるでしょ?」
「ここでは一部を除いて、町中で破損したNPOを修理しているの。」
アインシュタインがそう言うと1つの画面を指さした。
どこかの壁がプレイヤーの攻撃により破損している。
『慈 愛 の 再 構 築』
白衣を着た男性がそう唱えると壁はみるみる内に復元されていった。
「ここにいる科学者達はピンクの宝石を持った精鋭部隊よ。強いて言えば私がこの世界にいる為の義務みたいなものかしら」
「さぁ、本題はここからよ。」
アインシュタインが再度パチンと手を叩くと次の部屋へと案内された。
道中アインシュタインがルンルン気分になっていくのが透にもわかった。
「さーて、ここが私の研究室。通称ラボよ」
部屋に入るとそこはピンク色の世界が広がっていた。
壁紙から研究員の白衣まですべてがピンク色に染まっていたのだ。
「こ・こ・が・私の園。私の今の生きがいよ」
そこには様々な宝石が並べられ、日々研究が行われていた。
「そろそろあなたの検体の検査結果が出る頃だわ。わくわくしちゃう」
「大事な物をお借りしたわ。お返しするわね」
そう言ってアインシュタインがピンク色のトレーから腕時計を取り透に返した。
「ありがとう。アインちゃん」
透のほっとしたような顔にアインシュタインがほほ笑んだ。
「透ちゃん以外はここにいてちょうだい。」
「やったー!アインちゃん、補助宝石見てもいい?」
ナナのララが一斉に言うと走りだした。
「いいわ、好きにしてちょうだい」
アインシュタインのその言葉に甘えるようにポセイドンと華奏も並べられた宝石を見始めた。
「あなたは私の部屋で検査結果よ」
透はアインシュタインに隣の部屋へと案内された。
「僕だけですか?」
「この世界での個人情報は名前と宝石だけ。あまり他言しないものよ。」
アインシュタインはそう言うと自室のドアを開けた。
中に入るとピンク色の装飾で飾られた部屋に甘ったるい匂いが漂っていた。
「ここに座ってちょうだい。今調査資料を取って来るわ」
アインシュタインはせかせかと自身の机に向かい資料を手にして戻って来た。
「まずは基本的な宝石の仕組みを説明するわね。この世界の宝石は基本12種類に分かれていて、明度や彩度によって授かる能力が違うわ。入界が始まった3年前は個々で能力が違うと思われていた能力も細分化され、今は神の異名を持つ12個の宝石を筆頭に3分割にランク分けされていて、最大3つの能力を自身の成長や年齢、経験値などで使えるようになるわ。因みに補助スロットというものが最大2つ付いているから能力を補助宝石で底上げしたり、空が飛べたり、様々な補助能力を付与することができるわ。」
アインシュタインは間髪入れずに話を続けた。
「次に12の話ね。現在稼働している神の異名を持つ宝石は11個。
あなたのお母さんのヘラの宝石は市の中央にある競売場にて高値で掲載されているわ。
だから今は11個の宝石でこの世界の均衡を保っているのよ。12の宝石はすべてランク3でレベル3~レベル5までの能力が使えるようになるわ。さらに補助スロット2つに加え『12色のバタフライ』で無条件に空を飛べる能力が付与されているわ」
「そして最後に透ちゃんの能力ね。えーと__。」
アインシュタインは一通り資料を読んで一瞬固まった。
「透ちゃん、良く聞いてちょうだい。あなたの宝石のランクは1よ。」
アインシュタインの話は続いた。
「能力はレベル1絶対防御レベル2神々の御加護、レベル3は隠されているわね。絶対防御は再三あなたを助けてくれているバリアの様なもので透ちゃんに危害が加わりそうになるか、宝石が格納されている腕時計が透ちゃんの意志とは別に外されようとした時にオートで発動する能力よ。気を失ってしまうのは練度もそうだけど、一番は透ちゃんに強い意志が感じられないからかしら。能力に負けてしまっているのね」
「強い意志ですか__。」
「そうよ。ここまで強い防御系の能力は見たことないのよ。だから一筋縄では行かないとは思うけど、強い心が肝心よ。心を鍛えるには適任者がいるわ、あなたも知っている人物よ」
「それはそうと、透ちゃんの第2の能力、神々の御加護は12の能力を決められた1時間を1日に2回、借りる事ができる物凄い能力よ。その為に透ちゃんの腕時計には12個の補助スロットがあるわ」
「但し__。」
アインシュタインが大きく深呼吸をして話を続けた。
「その補助スロットは宝石を格納できないコピー専用の補助スロットで現12が透ちゃんに宝石をあげたいと思わない限り補助スロットに宝石が格納されることは無いわ」
アインシュタインが透に近づいてこう言った。
「実証してあげる。アプロディーテの宝石、透ちゃんにあ・げ・る・わ」
アインシュタインの左手の人差し指の爪に格納されていた宝石が1度大きく光った。
「あれ、なんともない__。」
透の腕時計は微動だにせず、アプロディーテの宝石は格納されなかった。
「うふふ。ただ宝石を光らせただけよ。これで説明は終わり。みんなの所に戻りましょう。」
透がアインシュタインの部屋を出ようとした時だった。
「ちょっと待ちなさい」
再度アインシュタインは透に近づき、透の左手を手に取った。
「ランクは1だけどあなたはれっきとした神レベルよ。そうね、異名を付けるとしたら【クロノス】かしら。」
すると今度は透の腕時計がピンクに光だし、文字盤の4時の方向にアプロディーテの宝石が格納された。
「気持ちは言葉じゃないのよ、覚えておきなさい」
透はみんなが待つ隣の部屋に向かう数分、アインシュタインからアプロディーテの宝石の事を聞いた。
「皆さんお待たせしたわ、集まってちょうだい」
ナナとララは補助宝石でも最高級の羽を格納していて羽の感触を楽しんでいる。
「ララ。これなら透を運べるわ」
「ナナ。そうね。でもアインちゃんが呼んでいるわ。行かなくちゃ」
ナナとララが机に補助宝石を置いて走って戻って来た。
「あなた達は12色のバタフライがあるはずよ。補助スロットは慎重に選びなさい」
「分かっているわ。アインちゃん。ねぇこれ貰ってもいい?」
ナナがそう言うと双子の小さな両手いっぱいに補助宝石が積まれていた。
「あなた達、補助スロットは2つよ。2人共2つずつにしなさい」
華奏がそう諭すと双子は残念な顔をしながら補助宝石を机に戻しに行った。
「さて、透ちゃん、個人情報だから他言しない事。とは言ったものの、あなたの能力は1人でどうにかなる問題じゃないわ。それでも、言うか言わないかはあなた次第よ」
透はまだ受け入れ難い自分の能力についてアインシュタインから聞いたままをレジスタンスの4人に話した。
「なんとまぁ、僕の想像以上だよ。透君」
驚いた顔でポセイドンが言った。
華奏は手で顔を隠し泣いているようにも見えた。
「ランラララン!やったね!透」
双子は手を合わせて踊っている。
「それじゃあ、帰る前にポセちゃんは私の部屋に来てちょうだい」
15分くらいだろうか、アインシュタインの部屋の前で待っているとポセイドンとアインシュタインが出てきた。
「さぁ、みんな次の目的地が決まったよ。今からだと夕方になってしまうがどのみち長期滞在になるかも知れないしな。」
部屋から出てくるなりポセイドンがみんなに伝えた。
「ララ。お泊りだわ」
「ナナ。そうね、嬉しいわ」
双子はお祭り騒ぎだ。
「今度は何処に行くんですか?」
透の言葉にアインシュタインが答えた。
「透ちゃんの心の修行よ。適任者がいるって言ったじゃない」
続けてポセイドンが説明した。
「ここからだと南東にある川沿いのフラワーパーク近くだ」
「アインちゃんとはここでお別れだね」
透が寂しそうに言いながら深く頭を下げた。
「何を言ってるの。いつでも来てちょうだい。それに、私はその時計の中にいつでもいるわ」
アインシュタインが優しく微笑んだ。
透は補助スロットにアプロディーテの宝石が格納されたことにより、12色のバタフライが使えるようになっていた。
「練度が上がれば無詠唱でも飛べるようになるが、最初は詠唱して飛ぶんだ。自分が軽くなったことをイメージして。」
ポセイドンが右足を庇いながらふわりと宙に浮くと透に声を掛けた。
『12 色 の バ タ フ ラ イ』
すると空に吸い付かれるような感覚に陥って、片足を上げるとそのままふわりと体が浮き上がった。
「そうそう。上手いよ」
華奏が梟に変身しながら言った。
「このまま南東を目指すけどついてこれそうかい?」
「頑張ってみます」
ポセイドンの言葉に透が応じた。
知らない天井見るのはこの世界に来て2回目だ。
「ナナ。起きたわ。怒ってないかしら。」
「ララ。私たち頑張ったもの。きっと大丈夫よ。」
双子が心配そうに覗き込む。
「大丈夫だよ。まだ目眩はするけど。怒ってない。」
そう言いながら透は双子に笑顔を見せる。
「ララ__。」
「ナナ。分かってるわ。ポセ達を呼んで来るわ。」
ナナがララに促そうとして名前を呼んだ途端、ララが食い気味にそう言い残しドアから出て行った。
シーンとした部屋の中でナナが興味深そうの丸い目をパチクリとしながら見て来る。
双子はいつもそうだった。
「君たち双子も12なんだろう?」
透は自分から問いかける事にした。
「そうよ。私たちまだレベル3だけどすっごいんだから。私がアポロンでララがアルテミスなんだから。」
ナナは誇らしげに長い髪を後ろに振り払いながら言った。
「ナナ。呼んで来たわ。」
駆け足でララが帰って来た。
連れられて部屋に入って来たポセイドンと華奏はほっとした顔をしていた。
「その、具合の方は大丈夫かね。」
バツが悪そうにポセイドンが聞くや否やポセイドンと華奏の間を掻き分けて口髭を生やしたお爺さんが部屋に入って来た。
「あ・な・た・ね。カワイ子ちゃんは。ずーっと起きるのを待っていたのよ。あらヤダ。どのくらいだったかしらねぇ。私、アプロディーテ。誰だと思う?びっくりしちゃうわよ」
透は完全に呆気に取られていた。
「あの_。その_。お医者さんとかですか?」
透から見たその人物は白衣を着たその出で立ちから医者とも似つかわしかった。
但し、その人物はピンク色をした白衣を身にまとっていた。
「このお方は君も授業で習った事があるだろう。アルベルト・アインシュタイン先生だ。」ポセイドンが検討違いな答えにすかさずフォローを入れた。
「ポセちゃんったら、答え言うの早すぎ。しかも結構重要機密事項よ。私がかの有名なアルベルト・アインシュタインである。なんちゃって。宜しくね。透ちゃんで良かったかしら?私の事はアインちゃんって呼んでね。」
手を伸ばして握手を求めながらアインシュタインが言った。
透はアインシュタインの握手に応じながら、全ての突っ込み所を省略して一つの疑問を直球で聞いてみる事にした。
「アインちゃんはどうしてこの世界に?」
「というより、どうやってこの世界に?でしょ?」
アインシュタインが質問を訂正した。
「私ドイツ生まれなんだけど、死んだ時はアメリカにいたの。そして私のDNAを冷凍保存していてね。宝石と一緒にこの世界にぶち込んだのよ。手荒ったらありゃしないわ。そしたら偶然、私が復活したっては・な・し。だから、私はこの世界でしか生きられないの、ポセちゃんに協力しているのもそういった経緯があるわ。」
アインシュタインが話している事は事実。様々な国が冷凍保存されたDNAを使い偉人の復活を試みたが、成功したのは12の宝石を使って復活を果たしたアインシュタインを含めて2名のみであった。
「さてと、ここに来た理由に戻りましょう。ラボを案内するわ。立てるかしら。」
アインシュタインがパチンと手を叩きながらそう言うと途端に双子が元気になった。
「ララ。今日も面白いものが見れるわ。」
「ナナ。そうね。わくわくしちゃうわ。」
透も重い腰を上げて、部屋から出ていくアインシュタイン達を追った。
「透ちゃん、貸して欲しいモノがあるの」
いくつもの部屋がある廊下をまっすぐに進みながらアインシュタインが聞いた。
「これですか?」
透が左腕を指さしながら言った。
「そうなのよ。気を失ってる間に拝借しようとしたんだけど、バリアが張っていてあなたには指一本触れられなかったわ」
アインシュタインは悲しそうに言った。
「わかりました。アインちゃんに預けます」
透は何か決意したように腕時計を外し、アインシュタインに渡した。
「透ちゃん有難う。そこのあなた、直ぐにこの検体を調査して」
アインシュタインが透に感謝を述べ、通りかかったピンク色の白衣を着た女性に腕時計を渡した。
「さあ、こっちよ」
長い廊下を抜けると突き当りに大きなドーム型の部屋に出た。
部屋には画面がいくつもあり、町の至る所が映し出されていて、何人かの人が慌てるように
動いていた。
「ここは何をしているんですか?」
「ノンプレイヤーオブジェクト__。あなたも聞いた事はあるでしょ?」
「ここでは一部を除いて、町中で破損したNPOを修理しているの。」
アインシュタインがそう言うと1つの画面を指さした。
どこかの壁がプレイヤーの攻撃により破損している。
『慈 愛 の 再 構 築』
白衣を着た男性がそう唱えると壁はみるみる内に復元されていった。
「ここにいる科学者達はピンクの宝石を持った精鋭部隊よ。強いて言えば私がこの世界にいる為の義務みたいなものかしら」
「さぁ、本題はここからよ。」
アインシュタインが再度パチンと手を叩くと次の部屋へと案内された。
道中アインシュタインがルンルン気分になっていくのが透にもわかった。
「さーて、ここが私の研究室。通称ラボよ」
部屋に入るとそこはピンク色の世界が広がっていた。
壁紙から研究員の白衣まですべてがピンク色に染まっていたのだ。
「こ・こ・が・私の園。私の今の生きがいよ」
そこには様々な宝石が並べられ、日々研究が行われていた。
「そろそろあなたの検体の検査結果が出る頃だわ。わくわくしちゃう」
「大事な物をお借りしたわ。お返しするわね」
そう言ってアインシュタインがピンク色のトレーから腕時計を取り透に返した。
「ありがとう。アインちゃん」
透のほっとしたような顔にアインシュタインがほほ笑んだ。
「透ちゃん以外はここにいてちょうだい。」
「やったー!アインちゃん、補助宝石見てもいい?」
ナナのララが一斉に言うと走りだした。
「いいわ、好きにしてちょうだい」
アインシュタインのその言葉に甘えるようにポセイドンと華奏も並べられた宝石を見始めた。
「あなたは私の部屋で検査結果よ」
透はアインシュタインに隣の部屋へと案内された。
「僕だけですか?」
「この世界での個人情報は名前と宝石だけ。あまり他言しないものよ。」
アインシュタインはそう言うと自室のドアを開けた。
中に入るとピンク色の装飾で飾られた部屋に甘ったるい匂いが漂っていた。
「ここに座ってちょうだい。今調査資料を取って来るわ」
アインシュタインはせかせかと自身の机に向かい資料を手にして戻って来た。
「まずは基本的な宝石の仕組みを説明するわね。この世界の宝石は基本12種類に分かれていて、明度や彩度によって授かる能力が違うわ。入界が始まった3年前は個々で能力が違うと思われていた能力も細分化され、今は神の異名を持つ12個の宝石を筆頭に3分割にランク分けされていて、最大3つの能力を自身の成長や年齢、経験値などで使えるようになるわ。因みに補助スロットというものが最大2つ付いているから能力を補助宝石で底上げしたり、空が飛べたり、様々な補助能力を付与することができるわ。」
アインシュタインは間髪入れずに話を続けた。
「次に12の話ね。現在稼働している神の異名を持つ宝石は11個。
あなたのお母さんのヘラの宝石は市の中央にある競売場にて高値で掲載されているわ。
だから今は11個の宝石でこの世界の均衡を保っているのよ。12の宝石はすべてランク3でレベル3~レベル5までの能力が使えるようになるわ。さらに補助スロット2つに加え『12色のバタフライ』で無条件に空を飛べる能力が付与されているわ」
「そして最後に透ちゃんの能力ね。えーと__。」
アインシュタインは一通り資料を読んで一瞬固まった。
「透ちゃん、良く聞いてちょうだい。あなたの宝石のランクは1よ。」
アインシュタインの話は続いた。
「能力はレベル1絶対防御レベル2神々の御加護、レベル3は隠されているわね。絶対防御は再三あなたを助けてくれているバリアの様なもので透ちゃんに危害が加わりそうになるか、宝石が格納されている腕時計が透ちゃんの意志とは別に外されようとした時にオートで発動する能力よ。気を失ってしまうのは練度もそうだけど、一番は透ちゃんに強い意志が感じられないからかしら。能力に負けてしまっているのね」
「強い意志ですか__。」
「そうよ。ここまで強い防御系の能力は見たことないのよ。だから一筋縄では行かないとは思うけど、強い心が肝心よ。心を鍛えるには適任者がいるわ、あなたも知っている人物よ」
「それはそうと、透ちゃんの第2の能力、神々の御加護は12の能力を決められた1時間を1日に2回、借りる事ができる物凄い能力よ。その為に透ちゃんの腕時計には12個の補助スロットがあるわ」
「但し__。」
アインシュタインが大きく深呼吸をして話を続けた。
「その補助スロットは宝石を格納できないコピー専用の補助スロットで現12が透ちゃんに宝石をあげたいと思わない限り補助スロットに宝石が格納されることは無いわ」
アインシュタインが透に近づいてこう言った。
「実証してあげる。アプロディーテの宝石、透ちゃんにあ・げ・る・わ」
アインシュタインの左手の人差し指の爪に格納されていた宝石が1度大きく光った。
「あれ、なんともない__。」
透の腕時計は微動だにせず、アプロディーテの宝石は格納されなかった。
「うふふ。ただ宝石を光らせただけよ。これで説明は終わり。みんなの所に戻りましょう。」
透がアインシュタインの部屋を出ようとした時だった。
「ちょっと待ちなさい」
再度アインシュタインは透に近づき、透の左手を手に取った。
「ランクは1だけどあなたはれっきとした神レベルよ。そうね、異名を付けるとしたら【クロノス】かしら。」
すると今度は透の腕時計がピンクに光だし、文字盤の4時の方向にアプロディーテの宝石が格納された。
「気持ちは言葉じゃないのよ、覚えておきなさい」
透はみんなが待つ隣の部屋に向かう数分、アインシュタインからアプロディーテの宝石の事を聞いた。
「皆さんお待たせしたわ、集まってちょうだい」
ナナとララは補助宝石でも最高級の羽を格納していて羽の感触を楽しんでいる。
「ララ。これなら透を運べるわ」
「ナナ。そうね。でもアインちゃんが呼んでいるわ。行かなくちゃ」
ナナとララが机に補助宝石を置いて走って戻って来た。
「あなた達は12色のバタフライがあるはずよ。補助スロットは慎重に選びなさい」
「分かっているわ。アインちゃん。ねぇこれ貰ってもいい?」
ナナがそう言うと双子の小さな両手いっぱいに補助宝石が積まれていた。
「あなた達、補助スロットは2つよ。2人共2つずつにしなさい」
華奏がそう諭すと双子は残念な顔をしながら補助宝石を机に戻しに行った。
「さて、透ちゃん、個人情報だから他言しない事。とは言ったものの、あなたの能力は1人でどうにかなる問題じゃないわ。それでも、言うか言わないかはあなた次第よ」
透はまだ受け入れ難い自分の能力についてアインシュタインから聞いたままをレジスタンスの4人に話した。
「なんとまぁ、僕の想像以上だよ。透君」
驚いた顔でポセイドンが言った。
華奏は手で顔を隠し泣いているようにも見えた。
「ランラララン!やったね!透」
双子は手を合わせて踊っている。
「それじゃあ、帰る前にポセちゃんは私の部屋に来てちょうだい」
15分くらいだろうか、アインシュタインの部屋の前で待っているとポセイドンとアインシュタインが出てきた。
「さぁ、みんな次の目的地が決まったよ。今からだと夕方になってしまうがどのみち長期滞在になるかも知れないしな。」
部屋から出てくるなりポセイドンがみんなに伝えた。
「ララ。お泊りだわ」
「ナナ。そうね、嬉しいわ」
双子はお祭り騒ぎだ。
「今度は何処に行くんですか?」
透の言葉にアインシュタインが答えた。
「透ちゃんの心の修行よ。適任者がいるって言ったじゃない」
続けてポセイドンが説明した。
「ここからだと南東にある川沿いのフラワーパーク近くだ」
「アインちゃんとはここでお別れだね」
透が寂しそうに言いながら深く頭を下げた。
「何を言ってるの。いつでも来てちょうだい。それに、私はその時計の中にいつでもいるわ」
アインシュタインが優しく微笑んだ。
透は補助スロットにアプロディーテの宝石が格納されたことにより、12色のバタフライが使えるようになっていた。
「練度が上がれば無詠唱でも飛べるようになるが、最初は詠唱して飛ぶんだ。自分が軽くなったことをイメージして。」
ポセイドンが右足を庇いながらふわりと宙に浮くと透に声を掛けた。
『12 色 の バ タ フ ラ イ』
すると空に吸い付かれるような感覚に陥って、片足を上げるとそのままふわりと体が浮き上がった。
「そうそう。上手いよ」
華奏が梟に変身しながら言った。
「このまま南東を目指すけどついてこれそうかい?」
「頑張ってみます」
ポセイドンの言葉に透が応じた。
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勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
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そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
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この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
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しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
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