無彩色の空の下で

みらる

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偉人

鍛錬

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「そろそろか童よ、やってみろ」
炎壁ファイアーウォールの向こう側から坂本龍馬の声が聞こえた。
「どういう事だね、透君」
ポセイドンは状況が吞み込めずにいた。
「多分__。正解だって事だと思います」

透は左腕を突き出し、詠唱を始めた。

神 々 の 御 加 護トゥエルブ・オーケストラ

すると透の腕時計の文字盤からピンク色の光が放たれた。
透が続けて詠唱した。

慈 愛 の 再 構 築ビックリ・ポン

すると、隆起した地面が静まり、それと共に立ち昇っていた炎も消えて無くなった。
「やってくれたのう」
坂本龍馬は何処か嬉しそうに言った。
「どうゆう事なんだ、透君。説明してくれ」
訳の分からないポセイドンは透に聞いた。

「多分、アインちゃんが言っていたNPO修復の例外の場所が此処なんです。坂本龍馬さんの炎壁ファイアーウォールは隆起した地面が起因となってバリアを張る能力で、アインちゃんの能力とは相性が悪い。犬猿の仲というのも頷けるんです」

「そこまでバレてちゃあ仕方がない。アインシュタインから連絡があってのう、能力もろくに使えないヤツだと聞いて軽くあしらってやろうと思ったが、なかなか腕の立つヤツよのう」
そう坂本龍馬が言うと左腰に下げている刀に手が触れた。

「第一関門突破といったところか」
ポセイドンが安堵したのも束の間だった。

次の瞬間、刀を抜いた坂本龍馬が透に切り掛かっていた。
「__。カキンッ」
案の定、透の絶対防御パーフェクトシェルが発動していたが、透は押し負けるように後ろに倒れた。
「な、何するんですか?!」
透がそのまま後ずさりすると坂本龍馬が続けた。
「アインシュタインの話はまことの事よのう。この程度じゃ気絶はせんか。立て童」
透は坂本龍馬に言われるがまま立ち上がった。

「童よ、お主に問う。お主はなんの為に戦う」
坂本龍馬がそう言うと持っていた刀が赤く光を放ち、坂本龍馬が唱えた。

炎 纏ファイアーバード

すると刀は炎を纏い、炎が刃先を伝うように幾つもの炎の玉が空中に浮いた。
坂本龍馬が刀を振り下ろすと炎の玉は飛ぶ鳥の様に透目掛けて飛んで来た。
「ちょ、ちょっと待って下さい」
炎の玉は逃げる間もなく透に連続で直撃し、透は気絶してしまった。


2時間が経った頃だろうか、透は自室で眼を覚ました。
隣の部屋で泣いているナナの声が聞こえる。
透は起き上がり、大広間に行く事にした。
階段を降り、大広間に出ると辺りはシーンとしていた。
華奏はナナの傍に寄り添っているのだろう。ポセイドンはキッチンを覗いても見当たらなかった、自室にでもいるのだろう。

透は大広間のソファーに座り少しの間物思いに更けた。

そのうちにポセイドンが階段から降りてきた。
「調子はどうだい?」
「はい。まぁ、大丈夫です」
透の気のない返事に心配したのかポセイドンがキッチンからコーヒーを持って透の横に座った。
「透君。何をそんなに気に悩んでいるんだ。ララの事もあるが、まだ修行は始まったばかりだ焦る事はない」
そう言ってポセイドンは透にコーヒーを渡し、自室に戻って行った。

透は少し悩んだ後、自ずと外に足を運んでいた。
「やはりいらっしゃいましたか」
透は分かっていたかの様な口ぶりで言った。
「若い奴は回復が早いのう」
地べたにあぐらをかいて座って待っていた坂本龍馬は飛び上がるように立ち上がり和服の裾に付いた砂を叩いた。

「お待たせしました」
透の声がどこか震えている。
「童よ、怖気づいているのではあるまいな」
坂本龍馬がそう言うと刀を抜いて戦闘態勢に入った。

炎 纏ファイアーバード

坂本龍馬が唱えると刀に炎が灯った。
「童よ、もう一度問う。お主は何の為に戦う」
炎は刃先を伝い玉となって宙を舞った。
「僕は__。」
透の言葉には迷いがあった。

「お主は兄者を倒すのではないのか?」
坂本龍馬は喝を入れるように透に言葉を放った。

「兄さんを倒す?__。そんなんじゃない、それなら、それなら僕は兄さんを救う為に戦います」

「それがお主の答えだ」
坂本龍馬が優しく微笑んだ。

すると透の腕時計が白く光りを放ち、透を包み込んだ。
坂本龍馬が刀を振り下ろすと炎の玉が透を目掛け飛んで来る。
波状攻撃にたじろぎはするものの、透の意識はしっかりとしていた。

その後3日3晩坂本龍馬との修行は続いた。


「童、メシを食うたら修行だ。と、言いたいところだが、今日は休め」
「明日の朝4時、わしと真剣勝負じゃ」
坂本龍馬はそう言い残し寺院へと帰って行った。

「真剣勝負?!」
透は戸惑いながらも坂本龍馬の意志を受け入れる事にした。


明朝4時、まだ夜が明けきらない透き通った空に、少し冷たい風が砂を攫っていた。
透が外に出ると、まだ人気は無く寺院がいつもより大きく見えた。

「透君。本当に坂本龍馬と戦うつもりか?」
後ろからポセイドンの声が聞こえた。
振り向くと華奏とナナも外に出てきていた。
「はい」
透の指先は震えていたが眼はしっかりと前を見据えていた。

5分もしない内に寺院から坂本龍馬が出てきた。
「この感覚、久々じゃのう。武者震いというやつか」
坂本龍馬は右肩を回しながら向かってきた。

透も坂本龍馬の方へ向かいながら言った。
「龍馬さん、おはようございます。」

「童よ、敵にあいさつをしてどうする」
坂本龍馬は既に臨戦態勢に入っていた。
眼は強く、禍々しい殺気と出で立ちは幕末の世を生きた坂本龍馬そのものだった。
「いざ、勝負じゃ」
坂本龍馬は刀を抜き、その切っ先は透に一直線に向いていた。
一瞬、坂本龍馬と透の間の空気が止まった。
次の瞬間、坂本龍馬は一蹴りで透との間合いを詰め切り掛かった。
「__。キンッ、キンッ、」
一振りで2度切り付けるが透の絶対防御パーフェクトシェルに阻まれた。
「お主は固いのう」
坂本龍馬は呆れるように笑った。
「だが、先手あるのみ」
坂本龍馬がそう言うと刀が赤く光りこう詠唱した。
「出でよ」
一 つ 目 の 創 造 者サイクロプス

すると、地響きが鳴り、透と坂本龍馬との間の地面が2つに割れた。
狼狽える透に割れた地面から炎とともに這い上がる一つの影が見えた。
「な、なんですか?!」
ヘパイストスわしの弟子じゃよ」
3メートルはあろうかその者が炎を突き破ると姿を現した。
深紅のローブを羽織り、筋肉隆々のその者は単眼で2メートルを超える大きな金槌をもっていた。
透は唸りを上げるサイクロプスに動けずに固まっていた。
「いたぶれサイクロプスよ」
赤々と光る坂本龍馬の刀の切っ先はほかでもない透に向いていた。
サイクロプスが大きな足音を立てながら透に向かって来た。
金槌を振り上げると透目掛けて振り下ろした。
鈍い音とともに砂埃が上がる。

間一髪だった。サイクロプスが振り下ろした金槌は透の右を反れ、地面を叩きつけた。
その威力とあらば地面を陥没させる程の破壊力を誇っていた。

透は微動だにしていなかった。すなわち、サイクロプスの脅威にただ動けずにいた。
顔は血の気が引き、冷たくなった体は震え上がっていた。

サイクロプスの第2打、今度は横からのモーションで振りかぶった。
すかさず坂本龍馬は詠唱に入る。

炎 纏ファイアーバード

炎の玉が飛ぶ鳥の様に透に集中砲火させた。
オートで絶対防御パーフェクトシェルが発動しているとは言え、透の目の前は炎で包まれていた。
次の瞬間、透は物凄い勢いで左に10メートル程吹っ飛ばされていた。
サイクロプスの第2打が透の右側を見事に命中させていた。
透が起き上がる間もなく、第3打、第4打とサイクロプスの金槌の猛攻が続く。
「そろそろ降参かのう」 
坂本龍馬は眉を歪めながら言った。
「透君。大丈夫か?」
うつ伏せになって倒れている透に3人が駆け寄ろうとした。
「大丈夫です、まだ終わってませんから」
透がそう言うとゆっくりと立ち上がった。
「ほほう、まだやる気かね。状況が変わるとは思えんがね」
再度、透の震える身にサイクロプスが迫る。
「行きます!」
透ははっきりとした声で言った。
すると透はサイクロプス目掛けて走り出した。
「あぶない!」
ナナが体当たりかの如く走る透に向けて言った。
サイクロプスにぶつかる寸前、透は地面を滑ってサイクロプスの股の間をくぐった。
体制を立て直した透はすかさず坂本龍馬に向けて走り出した。

神 々 の 御 加 護トゥエルブ・オーケストラ

慈 愛 の 再 構 築ビックリ・ポン

透は目の前の地割れを修復し一直線に坂本龍馬へと走った。
「悪あがきに体当たりか?!」
坂本龍馬は詠唱を端折った。
炎を纏った刀から炎の玉を幾つも出し、透に向けて飛ばした。
事実、レベル4の能力を無詠唱で放てるのは無彩色でも坂本龍馬ただ1人だけであった。
透は炎纏ファイアーバードを喰らう、絶対防御パーフェクトシェルが発動するも立ち止まらずを得なくなっていた。
後ろからはサイクロプスが金槌を振り上げながら迫っていた。
炎纏ファイアーバードを防ぎきった透の腕時計からピンク色の光が点滅するように放たれた。
「教えてくれたんだね、ありがとう」
「龍馬さん、これで最後です」
坂本龍馬は頷くようにけたたましく笑った。

神 々 の 御 加 護トゥエルブ・オーケストラ

イ ル カ の 夜 遊 びテレパスバイブレーション

そう透が詠唱するとバブルリングと呼ばれる輪っかが宙に3つ浮んだ。
その輪っかをくぐるようにピンク色のイルカが3体出現した。
イルカ達は宙を浮かびながら舞い遊ぶように透の周りをぐるぐると回っていた。

透は先ほどとは違い、ゆっくりと坂本龍馬に近づく。
サイクロプスは危険を察知したかのように透の4メートル後方でピタリと足を止めた。

透から坂本龍馬まで3メートル。そこで異変は起きた。
坂本龍馬が頭を押さえ蹲ってしまったのだ。
「童よやめろ」
アプロディーテ最大のレベル5の能力、イルカの夜遊びテレパスバイブレーションはイルカの発する低周波を増幅させ、発動者を守りながら半径3メートル以内の敵を攻撃するというものだった。
透はまた歩き出し、坂本龍馬まで2メートルまで来ていた。
「頼む、やめてくれ。降参だ降参」
「イルカさん達有難う、もう大丈夫だよ」
透がそう言うとイルカ達は出てきたバブルリングを通って帰って行った。
「まんまとやられたわい童よ、強くなったのう」
坂本龍馬が起き上がり、地面にあぐらをかくと頭をかきながらそう言った。
「はい、龍馬さんの修行のお陰です。ありがとうございました」
「完敗じゃ完敗。なんだ、その、持ってけ宝石強盗よ」
坂本龍馬がそう言うと透の腕時計が赤く光を放ち、文字盤の8時の方向の補助コピースロットにヘパイストスの宝石が格納された。

満を持して3人が透に駆け寄った。
「やったわね透」
透は久しぶりに華奏の声を聴いた気がして安堵した。
ナナとポセイドンはお祭り気分になったような笑顔を見せた。
「ナナ。大丈夫かい?」
「大丈夫よ。時間がかかってもナナはララを迎えにいくわ」
ナナはキリッとした態度で笑顔を見せた。
ナナの笑顔も久しぶりに見た。
「さぁ、今夜はパーティーだ!」
ポセイドンが号令の様にそう言うと、その夜は坂本龍馬を交えての宴会となった。
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