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「何ということだ!王子ともあろうものが婚約していながら浮気をして相手の方を妊娠させるなど。王家としての正式な婚約を何と考えているのか」
「本当に。嘆かわしいことです。マテオはどうなってしまうのでしょう」
「王子有責とはいえ、婚約を解消されたのだからな。残念だがこれ以上の縁は無いかもしれない」
「そんな…何も悪いことはしていないのに。可哀想に。何とかならないものでしょうか。我が家の将来だって心配です」
「弟の為にも良い縁を得たと思ったのだが。マテオにも申し訳ないことをしてしまった」
「マテオにまた良いご縁を頂けるように、どうかお願いいたします」
「もちろんだよ。あるだけの伝を頼って他の婚約者候補を聞いてみるよ」
ディグビー伯爵家は、建国以来の由緒ある家柄で領地も広く裕福な貴族である。伯爵ではあるが国内での政治上有力だ。当主はアルファ男性、伴侶はオメガ男性で家族の仲は良い。
長男として産まれたマテオは、産まれた瞬間から天使のように可愛らしかった。成長するとさらさらの銀の髪に紫水晶の大きな瞳を持った美しい少年となった。その美しさから性別はおそらくオメガであろうと目されていた。
続いて次男が産まれると、両親はマテオを嫁に出し次男を跡取りにする事になるだろうと予測をしていた。
フィッツロイ王国には、マテオの二つ上に第一王子のヒューゴ、マテオと同じ年に第二王子のザッカリーが誕生していた。
王子は二人とも王家伝統の金髪にエメラルド色の瞳を持っていた。二人ともかわいらしい男の子であったが思慮深く頭脳明晰な第一王子に対して第二王子は活発で物怖じしない性格で違いがあった。
10歳になると、マテオは王宮でのお茶会に招待された。二人の王子の側近や婚約者候補を選ぶために貴族の子息令嬢を広く招待して、幾度も行われる。
初めての参加に緊張していたマテオに、第二王子のザッカリーが話しかけてきた。
「君、可愛いね。お名前は?」
「殿下初めまして。マテオ・ディグビーと申します。どうぞ宜しくお願い致します」
「マテオ。ふふ。かわいい。ねぇ、一緒に薔薇を見に行こう?薔薇は好き?」
「はい。お花大好きです」
「さあ、こっちだよ」
ザッカリーが手を引っ張ったので、マテオが転びそうになってしまった。すると、第一王子のヒューゴが体を支えて助けてくれた。
「ほら、無理に引っ張ったら危ない。気を付けてザッカリー」
「お兄様。ごめんなさい。マテオを薔薇園に連れて行ってあげたいの」
「では、皆でゆっくり歩いて行こう」
王子兄弟に両方の手を握られて、薔薇園に案内された。その姿は可愛い子を二人で挟む美少年であり、見目美しい光景である。
薔薇園には、蔦薔薇のアーチが大きく作られ、それを潜ると、先には広く色とりどりの薔薇が咲き誇っている。陽光を受けてキラキラと輝くようだ。
「わぁ。とってもきれいです!ありがとうございます」
にこにこと笑顔のマテオを見て、笑顔を浮かべたヒューゴ。
「マテオの頬もピンクの薔薇色だね。君の可愛さの前では薔薇も霞んでしまいそうだ」
「お兄様。マテオは僕が先に話しをしていたのに」
「ごめん、ごめん。ザッカリーのお気に入りの人なんだね」
それからもお茶会には何度も呼ばれるようになった。母と二人で伺うと、人垣の後方に控えていてもどちらかの王子がマテオを見つけて話しかけてくる。
話題は食べ物や飲み物、本や遊びから。兄弟の好きなものを聞いて、自分のことを話す。話は尽きずいくらでも続いた。
今日はヒューゴと好きな音楽について話をしていた。
「音楽の好みが似ていて嬉しいな。ねえ、マテオは観劇には行くの?今度一緒に音楽劇を見に行かない?」
「ありがとうございます。まだ観劇には行ったことはありませんが興味があります」
「ではぜひ僕と一緒に行こう。ふふ。楽しみだな」
「マテオ!美味しいタルトがあるよ。あっちに食べに行こう」
「あっ...はい。ありがとうございます」
どちらかといえば、ヒューゴの方が話が合うのだが、二人で話しているとザッカリーが手を引いて、池や庭のどこか、お菓子を勧めたりとマテオを連れて行くことがあった。
そうなるとヒューゴは残念そうな顔で側を離れて他の参加者の所へ行ってしまう。
マテオは、ヒューゴといることが楽しく居心地良く感じて、少し残念だなもう少しヒューゴと話して居たかったな、と思うようになっていった。
王子兄弟からは、王家のピクニックや観劇の際にもお誘いを受けて同行させて頂く機会が何度かあった。そうなると二人から絶えず話しかけられ、可愛がられる。マテオは王家の方、周囲の護衛や他の貴族達からもすっかり王子達のお気に入りとして認識されるようになった。
王子兄弟は、次第にたくましく育ち、美形になった。特に兄のヒューゴは背が高くなり通った鼻筋に二重まぶたのしっかりしたアーモンドアイ、話は聞くのも話すのも上手で頭が良い。
マテオはあまり大きくならないが白くすべすべの肌、滑らかな銀の長髪にアメジストの美しい瞳が大きく輝き、中性的な姿を保ち美人になった。
外見の美しさだけでなく好奇心があり、家庭での学びを深め、良く本を読んで伯爵家の仕事も学び、母の手伝いも積極的にして、どこに嫁いでも困らない令息と言われるようになっていった。
「本当に。嘆かわしいことです。マテオはどうなってしまうのでしょう」
「王子有責とはいえ、婚約を解消されたのだからな。残念だがこれ以上の縁は無いかもしれない」
「そんな…何も悪いことはしていないのに。可哀想に。何とかならないものでしょうか。我が家の将来だって心配です」
「弟の為にも良い縁を得たと思ったのだが。マテオにも申し訳ないことをしてしまった」
「マテオにまた良いご縁を頂けるように、どうかお願いいたします」
「もちろんだよ。あるだけの伝を頼って他の婚約者候補を聞いてみるよ」
ディグビー伯爵家は、建国以来の由緒ある家柄で領地も広く裕福な貴族である。伯爵ではあるが国内での政治上有力だ。当主はアルファ男性、伴侶はオメガ男性で家族の仲は良い。
長男として産まれたマテオは、産まれた瞬間から天使のように可愛らしかった。成長するとさらさらの銀の髪に紫水晶の大きな瞳を持った美しい少年となった。その美しさから性別はおそらくオメガであろうと目されていた。
続いて次男が産まれると、両親はマテオを嫁に出し次男を跡取りにする事になるだろうと予測をしていた。
フィッツロイ王国には、マテオの二つ上に第一王子のヒューゴ、マテオと同じ年に第二王子のザッカリーが誕生していた。
王子は二人とも王家伝統の金髪にエメラルド色の瞳を持っていた。二人ともかわいらしい男の子であったが思慮深く頭脳明晰な第一王子に対して第二王子は活発で物怖じしない性格で違いがあった。
10歳になると、マテオは王宮でのお茶会に招待された。二人の王子の側近や婚約者候補を選ぶために貴族の子息令嬢を広く招待して、幾度も行われる。
初めての参加に緊張していたマテオに、第二王子のザッカリーが話しかけてきた。
「君、可愛いね。お名前は?」
「殿下初めまして。マテオ・ディグビーと申します。どうぞ宜しくお願い致します」
「マテオ。ふふ。かわいい。ねぇ、一緒に薔薇を見に行こう?薔薇は好き?」
「はい。お花大好きです」
「さあ、こっちだよ」
ザッカリーが手を引っ張ったので、マテオが転びそうになってしまった。すると、第一王子のヒューゴが体を支えて助けてくれた。
「ほら、無理に引っ張ったら危ない。気を付けてザッカリー」
「お兄様。ごめんなさい。マテオを薔薇園に連れて行ってあげたいの」
「では、皆でゆっくり歩いて行こう」
王子兄弟に両方の手を握られて、薔薇園に案内された。その姿は可愛い子を二人で挟む美少年であり、見目美しい光景である。
薔薇園には、蔦薔薇のアーチが大きく作られ、それを潜ると、先には広く色とりどりの薔薇が咲き誇っている。陽光を受けてキラキラと輝くようだ。
「わぁ。とってもきれいです!ありがとうございます」
にこにこと笑顔のマテオを見て、笑顔を浮かべたヒューゴ。
「マテオの頬もピンクの薔薇色だね。君の可愛さの前では薔薇も霞んでしまいそうだ」
「お兄様。マテオは僕が先に話しをしていたのに」
「ごめん、ごめん。ザッカリーのお気に入りの人なんだね」
それからもお茶会には何度も呼ばれるようになった。母と二人で伺うと、人垣の後方に控えていてもどちらかの王子がマテオを見つけて話しかけてくる。
話題は食べ物や飲み物、本や遊びから。兄弟の好きなものを聞いて、自分のことを話す。話は尽きずいくらでも続いた。
今日はヒューゴと好きな音楽について話をしていた。
「音楽の好みが似ていて嬉しいな。ねえ、マテオは観劇には行くの?今度一緒に音楽劇を見に行かない?」
「ありがとうございます。まだ観劇には行ったことはありませんが興味があります」
「ではぜひ僕と一緒に行こう。ふふ。楽しみだな」
「マテオ!美味しいタルトがあるよ。あっちに食べに行こう」
「あっ...はい。ありがとうございます」
どちらかといえば、ヒューゴの方が話が合うのだが、二人で話しているとザッカリーが手を引いて、池や庭のどこか、お菓子を勧めたりとマテオを連れて行くことがあった。
そうなるとヒューゴは残念そうな顔で側を離れて他の参加者の所へ行ってしまう。
マテオは、ヒューゴといることが楽しく居心地良く感じて、少し残念だなもう少しヒューゴと話して居たかったな、と思うようになっていった。
王子兄弟からは、王家のピクニックや観劇の際にもお誘いを受けて同行させて頂く機会が何度かあった。そうなると二人から絶えず話しかけられ、可愛がられる。マテオは王家の方、周囲の護衛や他の貴族達からもすっかり王子達のお気に入りとして認識されるようになった。
王子兄弟は、次第にたくましく育ち、美形になった。特に兄のヒューゴは背が高くなり通った鼻筋に二重まぶたのしっかりしたアーモンドアイ、話は聞くのも話すのも上手で頭が良い。
マテオはあまり大きくならないが白くすべすべの肌、滑らかな銀の長髪にアメジストの美しい瞳が大きく輝き、中性的な姿を保ち美人になった。
外見の美しさだけでなく好奇心があり、家庭での学びを深め、良く本を読んで伯爵家の仕事も学び、母の手伝いも積極的にして、どこに嫁いでも困らない令息と言われるようになっていった。
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