2 / 5
2
しおりを挟む
一団は、先頭に騎士団長の騎馬、中央にラリーの乗る馬車が位置して周囲を騎馬が取り囲む。馬車の隣には、ニールの騎馬が並走している。
そろそろ自領地を出るというときには、初めてのことに寂しくなってしまった。
「ラリー様、領地を出ます。次の領土では、綺麗な花畑で昼食の時間を取りますね」
ニールが気遣い、話し掛ける。
「ありがとうございます。カーテンを開けて外を見ても大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫ですよ。人目を避ける場所ではまた声を掛けるので、そうしたら閉めてください」
窓の外には牧草地帯が広がる。山がちな自分の家の辺りと違う景色を見て楽しむ。
花畑で一旦停止して、野営での食事準備が始まった。
「あの~、僕にも手伝わせて頂けませんか?野菜を切るのは得意です。いつも料理を手伝っていましたから、待っているだけなのは落ち着かないので」
「ゆっくりなさっていいんですよ。でも、そうですね。野菜を切るのはお願いしましょうか」
「はい!」
旅が始まってから初めてのニコニコ笑顔に騎士団の皆が和む。大きなアーモンドアイを細め、口角を上げた可愛らしい顔は、厳つい騎士達の保護欲を掻き立てた。
ラリーは貴族子息とは思えぬ程の鮮やかな手さばきで洗った野菜を刻んでいく。後は干し肉と香辛料で煮込むだけとなった。
騎士の一人が土を掘って石や木を積み作った即席のかまどで火をおこしていた。火力を増すため木筒で息を吐きかけていた時
「あちっ!」
火の粉が飛んで手を火傷してしまう。道中近くに川は無く、貴重な水を自分の火傷を冷やす事に使うのをためらっていると
「少し洗い流したらアロエで治療しましょう。僕、新鮮なアロエを持ってきています」
ラリーは荷物からアロエを出して、火傷した騎士の手を果肉で覆い、布で縛った。
「ラリー様、ありがとうございます」
「アロエとは、王都ではあまり見かけない植物ですね」
ニールが話し掛ける。
「そうですか?うちの辺りでは一般的です。食べると健胃消化にも良いですし、火傷には良く使うんです。田舎の知恵ですかね」
「すごいですね。ラリー様、色々ご存知で、お料理までお出来になるなんて」
褒められて頬を赤らめるラリー。その姿は大変魅力的だった。
旅はすすみ、夕方になって宿に到着した。他の領地の街中の景色にキョロキョロと視線を彷徨わせると
「危ない輩に目をつけられませんように、すぐお部屋にご案内します」
「ありがとうございます。ニールさん、お願いします」
華美では無いが美しく整えられた部屋には、ベッドとバスルームがある。荷物を騎士達が運びいれ、宿の雇い人から使い方の説明を受けた。
「夕食はこちらにお持ちします」
ニールの言葉に
「皆さんもお部屋でお食事ですか?」
「我々は、下の食堂ですが」
「僕も一緒に食べても良いですか?うちはいつも家族と一緒だったので、一人だと寂しいです」
「わかりました。後でお迎えに参ります」
部屋で待っていると、馬を繋いだり、装備の確認を終えた騎士団の皆が食事を取る時間になった。
ニールがラリーの部屋に迎えに行く
「お食事のお時間ですが大丈夫ですか?」
「はい、楽しみです」
地元の食材がふんだんに使われ、自分の所とは異なる調理法や調味料に興味深く、楽しんで夕食を終えた。
宿の料理人から、調理の事を教えてもらったり、食材の値段を聞いたり。見聞が広まる事を楽しむラリーに周囲も暖かい眼差しを送った。
「では、お部屋にお送りしましょう。ゆっくりお休みください」
「すみません、休む前にお湯を少し頂けませんか?」
「はい。宜しいですが、どうされるのですか?」
「初めての一人旅で緊張して眠れないかも知れません。持ってきた乾燥カモミールをお茶にして飲んでから休みたいんです」
「カモミール?」
「ハーブです。お花のお茶は、鎮静と睡眠に良いので」
「わかりました。一度お部屋にお送りしてから私が再度お湯を持って伺います」
お湯とポット、カップを持って来てくれたニールに、一緒にお茶をお誘いした。
「よかったら、こちらどうぞ」
「はい。頂きます。…とても良い香りのお茶ですね。確かにリラックスできます」
「でしょう?これで眠れそうです」
「ところで、ラリー様。失礼ながら伺っても宜しいですか?」
「どうぞ、何なりと」
「ラリー様はオメガでいらっしゃるのにあまり薫りがなされないようですが、何か特別な方策でもされているのでしょうか?」
「ああ、ご存知ないですか?クラリの葉」
「クラリ?」
「うちの庭で育てている薬草です。我が家は代々アルファ、オメガが産まれますが田舎でなかなか番を見つけるのも抑制剤を調達したりするのも大変で。クラリの葉を煎じて飲んでいると発情周期が安定したり、フェロモンが周囲に漏れにくく、自分も感じにくくなるんです。抑制剤みたいなもんですね」
「なるほど...そんな物が」
「いつからか、家の庭で代々育てて飲む習慣になっています。僕の弱いフェロモンがわかるの、ニールさんがアルファだからですね?僕にはニールさんの薫りがわかりませんが」
「ええ、アルファです。でも私も抑制剤を飲んでいるので漏れにくく、感じにくくもなっています。では、ごゆっくりお休みなさいませ」
そろそろ自領地を出るというときには、初めてのことに寂しくなってしまった。
「ラリー様、領地を出ます。次の領土では、綺麗な花畑で昼食の時間を取りますね」
ニールが気遣い、話し掛ける。
「ありがとうございます。カーテンを開けて外を見ても大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫ですよ。人目を避ける場所ではまた声を掛けるので、そうしたら閉めてください」
窓の外には牧草地帯が広がる。山がちな自分の家の辺りと違う景色を見て楽しむ。
花畑で一旦停止して、野営での食事準備が始まった。
「あの~、僕にも手伝わせて頂けませんか?野菜を切るのは得意です。いつも料理を手伝っていましたから、待っているだけなのは落ち着かないので」
「ゆっくりなさっていいんですよ。でも、そうですね。野菜を切るのはお願いしましょうか」
「はい!」
旅が始まってから初めてのニコニコ笑顔に騎士団の皆が和む。大きなアーモンドアイを細め、口角を上げた可愛らしい顔は、厳つい騎士達の保護欲を掻き立てた。
ラリーは貴族子息とは思えぬ程の鮮やかな手さばきで洗った野菜を刻んでいく。後は干し肉と香辛料で煮込むだけとなった。
騎士の一人が土を掘って石や木を積み作った即席のかまどで火をおこしていた。火力を増すため木筒で息を吐きかけていた時
「あちっ!」
火の粉が飛んで手を火傷してしまう。道中近くに川は無く、貴重な水を自分の火傷を冷やす事に使うのをためらっていると
「少し洗い流したらアロエで治療しましょう。僕、新鮮なアロエを持ってきています」
ラリーは荷物からアロエを出して、火傷した騎士の手を果肉で覆い、布で縛った。
「ラリー様、ありがとうございます」
「アロエとは、王都ではあまり見かけない植物ですね」
ニールが話し掛ける。
「そうですか?うちの辺りでは一般的です。食べると健胃消化にも良いですし、火傷には良く使うんです。田舎の知恵ですかね」
「すごいですね。ラリー様、色々ご存知で、お料理までお出来になるなんて」
褒められて頬を赤らめるラリー。その姿は大変魅力的だった。
旅はすすみ、夕方になって宿に到着した。他の領地の街中の景色にキョロキョロと視線を彷徨わせると
「危ない輩に目をつけられませんように、すぐお部屋にご案内します」
「ありがとうございます。ニールさん、お願いします」
華美では無いが美しく整えられた部屋には、ベッドとバスルームがある。荷物を騎士達が運びいれ、宿の雇い人から使い方の説明を受けた。
「夕食はこちらにお持ちします」
ニールの言葉に
「皆さんもお部屋でお食事ですか?」
「我々は、下の食堂ですが」
「僕も一緒に食べても良いですか?うちはいつも家族と一緒だったので、一人だと寂しいです」
「わかりました。後でお迎えに参ります」
部屋で待っていると、馬を繋いだり、装備の確認を終えた騎士団の皆が食事を取る時間になった。
ニールがラリーの部屋に迎えに行く
「お食事のお時間ですが大丈夫ですか?」
「はい、楽しみです」
地元の食材がふんだんに使われ、自分の所とは異なる調理法や調味料に興味深く、楽しんで夕食を終えた。
宿の料理人から、調理の事を教えてもらったり、食材の値段を聞いたり。見聞が広まる事を楽しむラリーに周囲も暖かい眼差しを送った。
「では、お部屋にお送りしましょう。ゆっくりお休みください」
「すみません、休む前にお湯を少し頂けませんか?」
「はい。宜しいですが、どうされるのですか?」
「初めての一人旅で緊張して眠れないかも知れません。持ってきた乾燥カモミールをお茶にして飲んでから休みたいんです」
「カモミール?」
「ハーブです。お花のお茶は、鎮静と睡眠に良いので」
「わかりました。一度お部屋にお送りしてから私が再度お湯を持って伺います」
お湯とポット、カップを持って来てくれたニールに、一緒にお茶をお誘いした。
「よかったら、こちらどうぞ」
「はい。頂きます。…とても良い香りのお茶ですね。確かにリラックスできます」
「でしょう?これで眠れそうです」
「ところで、ラリー様。失礼ながら伺っても宜しいですか?」
「どうぞ、何なりと」
「ラリー様はオメガでいらっしゃるのにあまり薫りがなされないようですが、何か特別な方策でもされているのでしょうか?」
「ああ、ご存知ないですか?クラリの葉」
「クラリ?」
「うちの庭で育てている薬草です。我が家は代々アルファ、オメガが産まれますが田舎でなかなか番を見つけるのも抑制剤を調達したりするのも大変で。クラリの葉を煎じて飲んでいると発情周期が安定したり、フェロモンが周囲に漏れにくく、自分も感じにくくなるんです。抑制剤みたいなもんですね」
「なるほど...そんな物が」
「いつからか、家の庭で代々育てて飲む習慣になっています。僕の弱いフェロモンがわかるの、ニールさんがアルファだからですね?僕にはニールさんの薫りがわかりませんが」
「ええ、アルファです。でも私も抑制剤を飲んでいるので漏れにくく、感じにくくもなっています。では、ごゆっくりお休みなさいませ」
1,426
あなたにおすすめの小説
「オレの番は、いちばん近くて、いちばん遠いアルファだった」
星井 悠里
BL
大好きだった幼なじみのアルファは、皆の憧れだった。
ベータのオレは、王都に誘ってくれたその手を取れなかった。
番にはなれない未来が、ただ怖かった。隣に立ち続ける自信がなかった。
あれから二年。幼馴染の婚約の噂を聞いて胸が痛むことはあるけれど、
平凡だけどちゃんと働いて、それなりに楽しく生きていた。
そんなオレの体に、ふとした異変が起きはじめた。
――何でいまさら。オメガだった、なんて。
オメガだったら、これからますます頑張ろうとしていた仕事も出来なくなる。
2年前のあの時だったら。あの手を取れたかもしれないのに。
どうして、いまさら。
すれ違った運命に、急展開で振り回される、Ωのお話。
ハピエン確定です。(全10話)
2025年 07月12日 ~2025年 07月21日 なろうさんで完結してます。
婚約破棄された悪役令息は隣国の王子に持ち帰りされる
kouta
BL
婚約破棄された直後に前世の記憶を思い出したノア。
かつて遊んだことがある乙女ゲームの世界に転生したと察した彼は「あ、そういえば俺この後逆上して主人公に斬りかかった挙句にボコされて処刑されるんだったわ」と自分の運命を思い出す。
そしてメンタルがアラフォーとなった彼には最早婚約者は顔が良いだけの二股クズにしか見えず、あっさりと婚約破棄を快諾する。
「まぁ言うてこの年で婚約破棄されたとなると独身確定か……いっそのこと出家して、転生者らしくギルドなんか登録しちゃって俺TUEEE!でもやってみっか!」とポジティブに自分の身の振り方を考えていたノアだったが、それまでまるで接点のなかったキラキライケメンがグイグイ攻めてきて……「あれ? もしかして俺口説かれてます?」
おまけに婚約破棄したはずの二股男もなんかやたらと絡んでくるんですが……俺の冒険者ライフはいつ始まるんですか??(※始まりません)
この世界で、君だけが平民だなんて嘘だろ?
春夜夢
BL
魔導学園で最下層の平民としてひっそり生きていた少年・リオ。
だがある日、最上位貴族の美貌と力を併せ持つ生徒会長・ユリウスに助けられ、
なぜか「俺の世話係になれ」と命じられる。
以来、リオの生活は一変――
豪華な寮部屋、執事並みの手当、異常なまでの過保護、
さらには「他の男に触られるな」などと謎の制限まで!?
「俺のこと、何だと思ってるんですか……」
「……可愛いと思ってる」
それって、“貴族と平民”の距離感ですか?
不器用な最上級貴族×平民育ちの天才少年
――鈍感すれ違い×じれじれ甘やかし全開の、王道学園BL、開幕!
【完結済】極上アルファを嵌めた俺の話
降魔 鬼灯
BL
ピアニスト志望の悠理は子供の頃、仲の良かったアルファの東郷司にコンクールで敗北した。
両親を早くに亡くしその借金の返済が迫っている悠理にとって未成年最後のこのコンクールの賞金を得る事がラストチャンスだった。
しかし、司に敗北した悠理ははオメガ専用の娼館にいくより他なくなってしまう。
コンサート入賞者を招いたパーティーで司に想い人がいることを知った悠理は地味な自分がオメガだとバレていない事を利用して司を嵌めて慰謝料を奪おうと計画するが……。
隣国のΩに婚約破棄をされたので、お望み通り侵略して差し上げよう。
下井理佐
BL
救いなし。序盤で受けが死にます。
文章がおかしな所があったので修正しました。
大国の第一王子・αのジスランは、小国の王子・Ωのルシエルと幼い頃から許嫁の関係だった。
ただの政略結婚の相手であるとルシエルに興味を持たないジスランであったが、婚約発表の社交界前夜、ルシエルから婚約破棄をするから受け入れてほしいと言われる。
理由を聞くジスランであったが、ルシエルはただ、
「必ず僕の国を滅ぼして」
それだけ言い、去っていった。
社交界当日、ルシエルは約束通り婚約破棄を皆の前で宣言する。
もう殺されるのはゴメンなので婚約破棄します!
めがねあざらし
BL
婚約者に見向きもされないまま誘拐され、殺されたΩ・イライアス。
目覚めた彼は、侯爵家と婚約する“あの”直前に戻っていた。
二度と同じ運命はたどりたくない。
家族のために婚約は受け入れるが、なんとか相手に嫌われて破談を狙うことに決める。
だが目の前に現れた侯爵・アルバートは、前世とはまるで別人のように優しく、異様に距離が近くて――。
孕めないオメガでもいいですか?
月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから……
オメガバース作品です。
【完結】王宮勤めの騎士でしたが、オメガになったので退職させていただきます
大河
BL
第三王子直属の近衛騎士団に所属していたセリル・グランツは、とある戦いで毒を受け、その影響で第二性がベータからオメガに変質してしまった。
オメガは騎士団に所属してはならないという法に基づき、騎士団を辞めることを決意するセリル。上司である第三王子・レオンハルトにそのことを告げて騎士団を去るが、特に引き留められるようなことはなかった。
地方貴族である実家に戻ったセリルは、オメガになったことで見合い話を受けざるを得ない立場に。見合いに全く乗り気でないセリルの元に、意外な人物から婚約の申し入れが届く。それはかつての上司、レオンハルトからの婚約の申し入れだった──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる