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クラスメイトに知られる
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高校入学から、三週間が経ち。
瀬咲朔は、ようやく 学校という場所のリズムを覚え始めていた。
朝の混雑具合い、階段の流れ、移動教室のタイミング。
クラッチを突く速度も、人を避ける角度も。
全部、計算して動く。
そうしないと避けきれずにぶつかってしまう。
動きずらい足のせいで、踏ん張りが効かずに転ぶ。
途端に視線が集まる。
それが一番きついから…。
その日、担任に呼び出された。
「瀬咲、ちょっと職員室いいか」
「……はぃ」
嫌な予感しかしなかった。
職員室には、担任と、 養護教諭。
そして見知らぬ男性。
「学校医に配属された橘です」
軽く会釈される。
朔の表情は、瞬時に固まった。
医師が来る時点で分かる。
病気の話だ。
担任が慎重に言葉を選ぶ。
「今後の学校生活について、安全面を考えて……」
長い前置き。
つまり。
「クラスに、瀬咲の体調のことを共有したい」
頭が真っ白になった。
「……ぇ?」
「トイレ使用や体調不良時の理解が必要だから」
理解。
その言葉が重い。
朔は、即座に首を振った。
「やめてください」
空気が止まる。
「…知られたくないです」
声が震えた。
でも橘先生は静かだった。
「君を守るためだよ」
守る。
その言葉が、 逆に胸を締め付けた。
翌日のホームルーム。
教室は、異様な静けさだった。
担任が教壇に立つ。
「今日は大事な話があります」
嫌な汗が背中を伝う。
朔は、机の下で拳を握った。
逃げられない。
「瀬咲朔くんについてです」
教室中の視線が、一瞬にして集まる。
「瀬咲くんは生まれつきの腸疾患と、 下肢の障害があります」
ざわ…と空気が揺れた。
「体調管理や身体補助のため、 特別な配慮が必要です」
言葉が続く。
でももう聞こえない。
耳鳴りが周囲の音を掻き消す。
心臓の音が、やけに大きく聞こえる。
そんな中、誰かが小さく言った。
「だから杖なんだ」
違う。
クラッチだ。
訂正する気力もない。
「トイレで時間がかかる場合があります。 体調不良で急に退出することもあります」
全部…全部…クラスメイトの前で、暴かれていく。
俺の「普通じゃない部分」が…。
説明が終わった。
担任が続けて言う。
「困っている時は助けてあげてください」
優しい言葉。
なのに…朔は、地面に溶けてしまいたかった。
休み時間。
静かな視線と好奇心。
それから遠慮。
腫れ物を見る空気。
誰一人として話しかけてこない。
その中で後ろの席からの声。
「なあ」
振り向くと男子二人。
名前もまだ覚えていない。
「そんな大変ならさ」
笑いながら言った。
「特別支援学校行けばよくね?」
頭が真っ白になった。
もう一人が続ける。
「普通科キツくない?」
悪意というより軽いノリ…。
だから余計に刺さる。
朔は何も言えなかった。
言葉が出ない。
喉に引っかって声にならない。
周囲も黙る。
止める人はいない。
その時、大きな音を立てて椅子から立ち上がった聖。
「それ、言っちゃダメだろ!」
真っ直ぐ相手を睨む。
「本人いる前で言う?」
空気が変わる。
さらに前から声がする。
「普通って何?」
朝陽と夕陽だった。
「歩けるかどうかで決まるの?」
双子が、腕を組み並ぶと妙に迫力がある。
さっきの男子がたじろいだ。
「いゃ、別に…」
「じゃあ黙っとけよ」
聖が言い切った。
完全に沈黙。
朔は俯いたまま動けなかった。
助けられた。
でも嬉しいより先に。
惨めさに襲われる。
…守られる側。
…説明される側。
…配慮される側。
昼休み。
屋上階段の踊り場の誰もいない場所に逃げ込み朔は壁にもたれた。
呼吸が浅く胸が苦しい。
知られ出しまった。
全部…。
病気のことも。
足のことも。
静かな空間に足音が1つ。
「朔」
聖だった。
ジュースを差し出される。
「飲む?」
首を横に振った。
「……ごめん」
朔が呟く。
「何が?」
「…面倒なやつで」
聖は少し考えてから言った。
「面倒なのは病気だろ」
そして笑う。
「朔じゃない」
その言葉で。
初めて。
涙が零れた。
その日の放課後。
望月診療所の診察室で俯いて座る朔の姿。
「学校どうだった?」
織悠先生が聞く。
朔は答えなかった。
代わりに暁彦先生が言う。
「顔見れば分かる」
重い沈黙。
そして小さく漏れる言葉。
「……知られた」
織悠先生が頷く。
否定もしない。
慰めもしない。
ただ言った。
「それでも通ったんだろ」
朔は頷いた。
「じゃあ十分だ」
“普通”じゃなくても、逃げなかった日。
瀬咲朔は、ようやく 学校という場所のリズムを覚え始めていた。
朝の混雑具合い、階段の流れ、移動教室のタイミング。
クラッチを突く速度も、人を避ける角度も。
全部、計算して動く。
そうしないと避けきれずにぶつかってしまう。
動きずらい足のせいで、踏ん張りが効かずに転ぶ。
途端に視線が集まる。
それが一番きついから…。
その日、担任に呼び出された。
「瀬咲、ちょっと職員室いいか」
「……はぃ」
嫌な予感しかしなかった。
職員室には、担任と、 養護教諭。
そして見知らぬ男性。
「学校医に配属された橘です」
軽く会釈される。
朔の表情は、瞬時に固まった。
医師が来る時点で分かる。
病気の話だ。
担任が慎重に言葉を選ぶ。
「今後の学校生活について、安全面を考えて……」
長い前置き。
つまり。
「クラスに、瀬咲の体調のことを共有したい」
頭が真っ白になった。
「……ぇ?」
「トイレ使用や体調不良時の理解が必要だから」
理解。
その言葉が重い。
朔は、即座に首を振った。
「やめてください」
空気が止まる。
「…知られたくないです」
声が震えた。
でも橘先生は静かだった。
「君を守るためだよ」
守る。
その言葉が、 逆に胸を締め付けた。
翌日のホームルーム。
教室は、異様な静けさだった。
担任が教壇に立つ。
「今日は大事な話があります」
嫌な汗が背中を伝う。
朔は、机の下で拳を握った。
逃げられない。
「瀬咲朔くんについてです」
教室中の視線が、一瞬にして集まる。
「瀬咲くんは生まれつきの腸疾患と、 下肢の障害があります」
ざわ…と空気が揺れた。
「体調管理や身体補助のため、 特別な配慮が必要です」
言葉が続く。
でももう聞こえない。
耳鳴りが周囲の音を掻き消す。
心臓の音が、やけに大きく聞こえる。
そんな中、誰かが小さく言った。
「だから杖なんだ」
違う。
クラッチだ。
訂正する気力もない。
「トイレで時間がかかる場合があります。 体調不良で急に退出することもあります」
全部…全部…クラスメイトの前で、暴かれていく。
俺の「普通じゃない部分」が…。
説明が終わった。
担任が続けて言う。
「困っている時は助けてあげてください」
優しい言葉。
なのに…朔は、地面に溶けてしまいたかった。
休み時間。
静かな視線と好奇心。
それから遠慮。
腫れ物を見る空気。
誰一人として話しかけてこない。
その中で後ろの席からの声。
「なあ」
振り向くと男子二人。
名前もまだ覚えていない。
「そんな大変ならさ」
笑いながら言った。
「特別支援学校行けばよくね?」
頭が真っ白になった。
もう一人が続ける。
「普通科キツくない?」
悪意というより軽いノリ…。
だから余計に刺さる。
朔は何も言えなかった。
言葉が出ない。
喉に引っかって声にならない。
周囲も黙る。
止める人はいない。
その時、大きな音を立てて椅子から立ち上がった聖。
「それ、言っちゃダメだろ!」
真っ直ぐ相手を睨む。
「本人いる前で言う?」
空気が変わる。
さらに前から声がする。
「普通って何?」
朝陽と夕陽だった。
「歩けるかどうかで決まるの?」
双子が、腕を組み並ぶと妙に迫力がある。
さっきの男子がたじろいだ。
「いゃ、別に…」
「じゃあ黙っとけよ」
聖が言い切った。
完全に沈黙。
朔は俯いたまま動けなかった。
助けられた。
でも嬉しいより先に。
惨めさに襲われる。
…守られる側。
…説明される側。
…配慮される側。
昼休み。
屋上階段の踊り場の誰もいない場所に逃げ込み朔は壁にもたれた。
呼吸が浅く胸が苦しい。
知られ出しまった。
全部…。
病気のことも。
足のことも。
静かな空間に足音が1つ。
「朔」
聖だった。
ジュースを差し出される。
「飲む?」
首を横に振った。
「……ごめん」
朔が呟く。
「何が?」
「…面倒なやつで」
聖は少し考えてから言った。
「面倒なのは病気だろ」
そして笑う。
「朔じゃない」
その言葉で。
初めて。
涙が零れた。
その日の放課後。
望月診療所の診察室で俯いて座る朔の姿。
「学校どうだった?」
織悠先生が聞く。
朔は答えなかった。
代わりに暁彦先生が言う。
「顔見れば分かる」
重い沈黙。
そして小さく漏れる言葉。
「……知られた」
織悠先生が頷く。
否定もしない。
慰めもしない。
ただ言った。
「それでも通ったんだろ」
朔は頷いた。
「じゃあ十分だ」
“普通”じゃなくても、逃げなかった日。
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