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体育の授業
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グラウンドに出た瞬間、乾いた土の匂いがした。
春の風…笛の音…
走り出すクラスメイト達。
朔はトラック脇の見学用ベンチに腰を下ろした。
クラッチを横へ立てかける。
装具に固定された両脚をゆっくり伸ばす。
体育は見学。
入学してから、ずっと。
「今日は50メートル走なー!」
教師の声に歓声が上がる。
スタートラインに並ぶクラスメイト。
聖がこちらを振り向き軽く手を振った。
朝陽と夕陽も「見てろよ」とジェスチャーする。
朔は笑って頷いた。
でも胸の奥が少しだけ痛んだ。
笛の音に一斉に走り出す。
砂を蹴る音。
腕を振る動き。
呼吸。
全力で前へ進む身体。
昔は、自分もあの中にいた。
中学一年まだ自由に走れていた頃。
部活でボールを追いかけ、友達と競争して、汗だくで笑っていた。
運動神経は特別良いわけじゃない。
でも悪くもなかった。
リレーにも出た。
普通に、走れていた。
違和感が出始めたのは中学二年。
脚がつっぱる。
転びやすくなる。
思った通りに動かない。
それでも朔は続けた。
動けなくなるなんて思わなかったから。
やがて診断が下る。
進行性。
歩行困難。
そして始まったリハビリ。
「もう一回立ってみよう」
何度言われたか分からない。
脚は震え…汗が流れ…転倒して…泣いて…。
それでもやめなかった。
歩きたかったから…。
装具。
クラッチ。
激痛。
筋注。
ストレッチ。
逃げた日もあった。
怒鳴った日もあった。
でも立てた。
…歩けた。
“歩行可能”それが今の朔。
歓声が上がる。
ゴールテープを切る音。
聖が息を切らしながら戻ってくる。
「はー……無理!」
ベンチ前で崩れ落ちる。
「朔、タイムどうだった?」
自然に聞いてくる。
朔はストップウォッチを見る。
「7秒9」
「マジ!?自己ベスト!」
笑い合う。
普通の会話。
でもふと視線が自分の脚へ落ちる。
走れない。
もう分かっている。
教師が声をかける。
「瀬咲、大丈夫か?」
「はい」
反射的に答える。
慣れた返事。
大丈夫…そう言うしかない。
次の組がスタートする。
走る影を目で追う。
身体が覚えている。
スタートの感覚。
地面を蹴る瞬間。
風を切る感覚。
無意識に右足が動こうとして、装具が硬く止めた。
現実が戻る。
朔は小さく息を吐いた。
「……走りたいな」
誰にも聞こえない声。
悔しいわけじゃない。
羨ましいわけでもない。
ただ思い出がまだ身体に残っている。
その時、夕陽が走り終えて隣に座った。
何も言わない。
ただスポーツドリンクを差し出してくれる。
「はい」
朔は受け取った。
「ありがと」
夕陽は前を見たまま言った。
「朔さ」
「うん?」
「歩けるようになったの、普通にすごいと思う」
飾らない言葉。
同情じゃない。
評価。
朔は少し笑った。
「めちゃくちゃ痛かったけどね」
「知ってる」
夕陽が頷く。
「だから言ってんの」
グラウンドではまだ走り続けている。
朔はその光景を見つめながら思った。
走れなくなった。
でも立てなくなったわけじゃない。
ここに来れている。
同じクラスで、同じ時間を過ごしている。
それもまた自分が勝ち取った身体だった。
チャイムが鳴る。
体育終了。
朔はクラッチを握り、ゆっくり立ち上がる。
走れない脚。
でも前へ進める脚。
一歩。
また一歩。
グラウンドを後にした。
春の風…笛の音…
走り出すクラスメイト達。
朔はトラック脇の見学用ベンチに腰を下ろした。
クラッチを横へ立てかける。
装具に固定された両脚をゆっくり伸ばす。
体育は見学。
入学してから、ずっと。
「今日は50メートル走なー!」
教師の声に歓声が上がる。
スタートラインに並ぶクラスメイト。
聖がこちらを振り向き軽く手を振った。
朝陽と夕陽も「見てろよ」とジェスチャーする。
朔は笑って頷いた。
でも胸の奥が少しだけ痛んだ。
笛の音に一斉に走り出す。
砂を蹴る音。
腕を振る動き。
呼吸。
全力で前へ進む身体。
昔は、自分もあの中にいた。
中学一年まだ自由に走れていた頃。
部活でボールを追いかけ、友達と競争して、汗だくで笑っていた。
運動神経は特別良いわけじゃない。
でも悪くもなかった。
リレーにも出た。
普通に、走れていた。
違和感が出始めたのは中学二年。
脚がつっぱる。
転びやすくなる。
思った通りに動かない。
それでも朔は続けた。
動けなくなるなんて思わなかったから。
やがて診断が下る。
進行性。
歩行困難。
そして始まったリハビリ。
「もう一回立ってみよう」
何度言われたか分からない。
脚は震え…汗が流れ…転倒して…泣いて…。
それでもやめなかった。
歩きたかったから…。
装具。
クラッチ。
激痛。
筋注。
ストレッチ。
逃げた日もあった。
怒鳴った日もあった。
でも立てた。
…歩けた。
“歩行可能”それが今の朔。
歓声が上がる。
ゴールテープを切る音。
聖が息を切らしながら戻ってくる。
「はー……無理!」
ベンチ前で崩れ落ちる。
「朔、タイムどうだった?」
自然に聞いてくる。
朔はストップウォッチを見る。
「7秒9」
「マジ!?自己ベスト!」
笑い合う。
普通の会話。
でもふと視線が自分の脚へ落ちる。
走れない。
もう分かっている。
教師が声をかける。
「瀬咲、大丈夫か?」
「はい」
反射的に答える。
慣れた返事。
大丈夫…そう言うしかない。
次の組がスタートする。
走る影を目で追う。
身体が覚えている。
スタートの感覚。
地面を蹴る瞬間。
風を切る感覚。
無意識に右足が動こうとして、装具が硬く止めた。
現実が戻る。
朔は小さく息を吐いた。
「……走りたいな」
誰にも聞こえない声。
悔しいわけじゃない。
羨ましいわけでもない。
ただ思い出がまだ身体に残っている。
その時、夕陽が走り終えて隣に座った。
何も言わない。
ただスポーツドリンクを差し出してくれる。
「はい」
朔は受け取った。
「ありがと」
夕陽は前を見たまま言った。
「朔さ」
「うん?」
「歩けるようになったの、普通にすごいと思う」
飾らない言葉。
同情じゃない。
評価。
朔は少し笑った。
「めちゃくちゃ痛かったけどね」
「知ってる」
夕陽が頷く。
「だから言ってんの」
グラウンドではまだ走り続けている。
朔はその光景を見つめながら思った。
走れなくなった。
でも立てなくなったわけじゃない。
ここに来れている。
同じクラスで、同じ時間を過ごしている。
それもまた自分が勝ち取った身体だった。
チャイムが鳴る。
体育終了。
朔はクラッチを握り、ゆっくり立ち上がる。
走れない脚。
でも前へ進める脚。
一歩。
また一歩。
グラウンドを後にした。
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