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第5章 鳥籠の少女

21、踏み込んだ話題

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咲夜が満足するまで会話を続けて、そろそろ夕方になる頃に俺は帰ろうとしていた。

「別にウチは秀頼が泊まっていっても良いんだが」
「宿泊道具もないのにどうしろと……」
「じゃあ次看病する際は、お泊まりセット持ってこい」
「風邪を引かない努力をしてくれませんかね……」

堂々と次の看病までさせようとする鬼畜っぷりである。
確かに咲夜は体調崩しやすそうな見た目をしているが。

「あ!秀頼がウチの風邪移って寝込んだら、ウチが貴様の家で泊まり掛け看病をしてやるぞ!」
「メイドのコスプレ着てないと追い出すからな」
「ナースじゃなくて、メイドというところに貴様の性癖が見えるな……」

咲夜と軽口を叩きながら部屋を出ていき、マスターのいる店まで2人で歩いて行く。

「マスター、そろそろ帰ります」
「いやー、本当に今日はありがとうね秀頼君」

マスターがカップを拭きながらお礼を言っていた。
それを聞き届けた咲夜はマスターに近付いて行く。

「ウチはもうピンピンだマスター!」
「めっちゃ元気になってるじゃん。僕が用意した氷水が良かったんだね」
「親子で同じこと言うてるやん」

そう突っ込むとマスターがあははと笑う。
カップを置きながら、マスターは咲夜へ顔を向ける。

「咲夜はまだ病み上がりなんだから寝てなさい。あとで夕飯持ってくるから」
「はーい。じゃあまたな秀頼」
「はいはい、じゃあまた明日な」

咲夜がブンブンと手を振りながら部屋へと戻っていく。
元気な姿を見届けたし、俺も帰ろう。

「あー、待って待って秀頼君。ちょっと僕と話をしようよ」
「君ら親子は喋るのが好き過ぎると思うの……」
「遺伝かねぇ……。というか君と会うまであの子無口側だったんだけど……」

苦笑しながらマスターは、コーヒーを注ぎ、俺の目の前に差し出す。
1口飲みながら、マスターの話とはなんだろうと思い、じっと顔を見る。

「僕は君とあまり踏み込んだ話題をしてこなかったと思ってね」
「何を言ってる、ディープな話で沢村ヤマが好きとか色々言っていたじゃないか」
「そういうことじゃないよ。真面目な話という意味だよ」

こほんとわざとらしく咳払いをするマスター。
なんだ?また娘をよろしくとかアホみたいな話じゃないだろうな?

「君さ、もしかしてギフト持ち?」
「あぁ?」
「ギフト、持ってるんでしょ」

マスターが確信を得た声で訪ねる。
なぜ、突然ギフトの話になったのか意味がわからない。

「咲夜の熱、今朝38度弱あったんだよ?数時間であんなに変わるわけないでしょ」
「知らねぇよ、そんなの。氷水が優秀なんでしょ」
「そんな氷水は存在しない。別に今日確信したわけじゃないよ。僕はずっと前から。それこそ秀頼君がはじめてこの店に来る前からギフト持ちだと読んでいた」
「…………」

コーヒーを飲みながらギフトについて考える。
マスターの意図が全然見えてこない。
ただ、否定をしなくても良いくらいには、マスターを信用はしている。

「俺がギフト持ちだと思ったきっかけはなんだ?」
「ギフト持ちの親から生まれる子供はギフト所持者になりやすいというのが通説でね。君のお父さんギフト持ちだったしね。可能性は高いと踏んでいた」
「ただあくまで通説ってだけだろ?」

ギフト持ちの両親からでもギフトなしは生まれるし、逆にギフトない両親からでもギフト持ちが生まれる可能性はある。
要するにその辺は運に近い。

「そうだね。でも姉貴の旦那。……つまり君の叔父ってクズじゃん」
「あぁ、そうだな」
「あのクズな人が引き取った秀頼君を暴力してるってのは想像が容易だったよ。ただ、今の姉貴の旦那はなんだいあれ?真面目に働き、君に色々と買い与え、挙げ句の果てに姉貴と結婚記念日の旅行をしてきた?そんな人じゃないよ、あの人は」

マスターと姉のおばさんの仲は良好そうに見えていたが、どうやら叔父さんについては軽蔑しているようなニュアンスを感じる。
実際、俺も叔父さんがクズってのは肯定する。

「じゃあ明智家で何かあったわけだよね。姉貴が旦那を変えた?ないない、あの人にそんな度胸があるわけない。じゃあ、引き取った子供の秀頼君が叔父をどうにかしたわけだ。こうしか考えられないよね」
「俺が叔父さんを説得したんだよ」
「無理無理。旦那が耳を貸すわけないでしょ。彼は腹ペコのライオンだよ。『肉を食べるな』って指示しても守らないよ。がつがつ肉を喰うタイプでしょ。バカだし、獣だし」
「ははっ、言えてる」
「じゃあ、君がギフトで旦那を変えた。僕は旦那が秀頼君に家庭内暴力を不自然に止めたと聞いた時からそればかりを疑ってきた」

会ってもない段階から俺をギフト持ちと睨んでいたとか推理力高い……。
マスターもただの親バカマスターではないらしい。

「ここからが本題。これは咲夜にもしたことがない話だから内緒だよ」
「え?今から本題なの?」

「良いじゃん、良いじゃん」と笑いながら呟く。

「僕はね、ギフト持ちなんか大嫌いなのよ。咲夜は憧れているみたいだけど、ギフトなんか無いに越したことないよね」
「そういえば昔、そんな話をしていたな」
「店にギフト持ちなんか入れさせたくもないよね」
「なるほど、なるほど」

コーヒーを口に入れながら色々考える。
飲み終わって、マスターの言いたいことがだいたいわかった。

「つまり俺を出入り禁止にしたいと?」
「…………その答えを口にする前に聞いて欲しい話がある」
「再婚はノーサンキュー」
「君と結婚したいとか絶対言わないよ」

マスターからプロポーズされるかと身構えたが、普通に拒否された。
良かった……、俺ノンケだからさ。

「僕がギフト持ちを憎むには理由があるんだ」

なんでマスターのギフト所持者に対する持論を聞く必要があるのか、俺もよくわからなかったが茶々を入れずに続きを促す。

「僕の友人がさギフト所持者の被害者になり殺害されたんだ。しかも、ギフトを使ったのはその友人の夫。なんというか、兄弟揃ってクズだよね」
「どういうこと?」

友人がギフト所持者の被害者になった。
だからマスターがギフト嫌いなのは理にかなっている。
その後だ。
兄弟って単語が意味不明だ。

この流れで、話を繋げるとしたら……。

「俺の母親がマスターの友人。父親がギフト所持者で母親殺害の犯人。その俺の父の兄貴がマスター姉の旦那ーー俺から見たクズな叔父さんってところか?」
「流石だね。秀頼君は優秀だ」

明智秀頼に生まれ変わり7年くらい経ったが、はじめて俺の両親に言及されて不思議な気分である。
色々なマスターの背景が見えてきた。
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