ギャルゲーのヘイトを溜めるクズでゲスな親友役として転生してしまいました。そして主人公が無能すぎて役にたたない……。

桜祭

文字の大きさ
67 / 136
第5章 鳥籠の少女

23、明智秀頼は自己開示をする

しおりを挟む
「前世ねぇ……、やっぱり君中学生だね」
「もういいや、萎えたわ」

『前世を信じるか?』、それを尋ねた反応がこれだった。
俺だって『悲しみの連鎖を断ち切り』シリーズがなければ前世なんか信じないだろうしな。

「良いじゃない、そのまま続けなよ。僕もそういう話題好きだし。そんで、そんで?」
「俺さ、前世の記憶あるんだよ」
「…………はぁ」

マスターは既に俺の話題が飛躍しすぎていてポカーンとしていた。
常にリアリストだった俺から突然世界観の変わった話をされたからであろう。

「ははは……、今日はやけに変なことを語るね」
「その世界ではさ、ギフトなんか存在しない場所で俺は高校生をしていた。高2の夏、俺さ信号無視してきたトラックに跳ねられた……。右肩より上に上がらないケガをして受け身取れなかったから即死したんだろうな……」
「ちょ、ちょっと?秀頼君……?」
「そういう記憶が、叔父さんに虐待されていて5歳の頃頭の中に入ってきた。そのまま腹を蹴られて……」
「ほ、本当なの?それ……?」

俺の身の上話が、あまりにも異質だったのか、ドン引きしながらもマスターは話を聞いていた。
十分におかしい話だと、我ながらそう思う。

「ギフトが覚醒した。……そして、将来俺は高校生で死ぬ自分の末路を目の当たりにする」
「…………はは。えっと、どうしよう。何から聞けば良いんだろう?」
「明智秀頼という男は悪魔だ」
「え?」
「色々な人を罠にかけて、自分のやりたい欲に衝動的に動く。ギフトを用いて人を騙し、犯し、殺害。そういう人間の皮を被ったクズでゲスな悪魔だ」
「……待ってよ、そんな君の父親みたいな」
「マスターの話を聞いてすぐにピンときたよ。あぁ、性根が腐ってるのは親子の血なんだ。遺伝なんだって。はじめて父親について聞いたけど、なんだよそれ……。未来の俺の方がやばい存在じゃねーかってな」

マスターは俺の未来の姿に父親と重ねているようだった。
『そんなのあり得ない』、そうやって笑うこともできるはず。
でも、父親の話を持ちだされると、マスターも茶々を入れなくなってきた。

それから俺のこと、全部明かした。
ここがゲームの世界。
俺がクズゲスな悪役で、人を不幸にする存在があてがわれることなど。
ゲームで起こる出来事。
色々、はしょったところはあるがきちんと聞いてくれた。


ーーーーー


「この世界がギャルゲーって……。しかも、君や咲夜の友達でも前世持ちでこの世界がゲームと知っている子がいる……?……やばいな、色々と信じられない」
「でも、あながち嘘とも言いきれない」

そう言うとマスターが考え込む。

「……僕は小学生の時から君をずっと見てたけど、君全然成長してないよね」
「バカにしてんのか?」
「そうじゃなくてさ。君の自我が昔から既に完成されてたんだよね。子供は成長するけど、大人は成長しないからね。こんな子供っぽくない内面の子供いる?って疑問だったけどそっか前世持ちか。確かに、そこは腑に落ちるね」
「内面的にマスターと同じ心が廃れた大人だからな。マスターを親ではなくて兄弟に思うし、咲夜ら同級生は妹とか娘とかそういう目で見ちゃうんだよな」
「誰が廃れた大人だよ!(……でも、あぁ。同い年を女として見てないから無自覚すけこましなのか……。咲夜も厄介者を好きになったねぇ)」

突っ込み、そして小声でボソボソとマスターは何か呟いていた。
徐々に俺の話を信じていることがわかる。

「色々と大変だねぇ……」
「わかってくれるか、マスター!?」
「咲夜も」
「なんでだよっ!?」
 
突然、咲夜を同情し始めた。
今の会話のどこに咲夜が関わる要素があったのかまったくわからない。

「で、君のギフトが『命令支配』だって…………?冗談じゃないレベルでかなり危険なギフトじゃんよ……」
「あぁ。マスターに咲夜を殺せってギフトで命令したら誰も逆らえないくらいにはやばい。俺を信じないなら今すぐにそれを実行する」
「脅すんじゃないよ君は!」
「ゲームでは、俺が中学に上がる前に叔父さんとおばさんを自殺に見せかけて殺害した描写があったな」
「…………、うん。前世を思い出してくれて良かったよ」

唖然として、苦笑いをするマスター。
カウンターに常備された水をコップに注ぎ、一気飲みをしていた。
『ふーっ』と、ため息を付く。

「それで、ゲームの主人公というのが……、咲夜の友達の1人なんだね」
「あぁ。十文字タケルっていう俺の親友だ。『アンチギフト』という、ギフトの効果を打ち消す能力だ」
「うわー、主人公っぽい」
「だろ?俺のギフトはあくまで主人公のかませ犬なんだよ。だから悪役の俺にチートにさせて、それを主人公が打ち破ってざまあさせるのがゲームの流れだ」

まだタケル本人は『自分がギフトを所持している自覚がない』なども教えておいた。


「で、当然ギャルゲーの主人公だからモテる」
「羨ましいねぇ。君はその……残念だね……」

オブラートに包もうとして失敗したってニュアンスのマスター。
俺も、どうせならタケルに生まれたかったよ。

「それを言うなよ……。で、咲夜もどうやら主人公のタケルに片思いしてるみたいなんだよ」
「は……?」
「凄いよなぁ。タケルは咲夜と関わりが薄いと思ったのに無自覚にたらし込むんだからな。親父のあんたもタケルから『お義父さん』って呼ばれる日がくるかもな」
「凄いな」
「あぁ、タケルは凄いよ」
「いや、秀頼君が凄いよ」
「え?」

さっきからちょいちょい俺と違う意見になるマスター。
大人の視点と、俺の視点に少しズレがあるようだった。

「ところで咲夜はゲーム的にいうとパッケージヒロインだよね?」
「あり得るはずがないだろ……。咲夜とマスターはゲームに登場しないよ」
「そうなん?」
「うん。だからこそ、マスターと咲夜はゲームの流れから外れているはずなんだ。だからこの話を相談できたのも、マスターがゲームの登場人物じゃないからだ。原作キャラにこんな相談できないよ」

幸せが約束された2人だ。
多分2人でささやかに喫茶店を運営しているとかそんな役割なんだと思う。

「マスター、……俺はまた若くして死にたくない。きちんと大人になってから死にたい……。だから相談役としてだけで良い……。力になって欲しい」
「……」
「結局、口悪いのもおちゃらけるのも、すかしているのも俺に自信がない現れなんだ……。本当は毎日怯えている。高校に入ったら、色々なことに巻き込まれるかもしれない」
「わかったよ。なんでも相談しな。可愛い弟の頼みだ。話くらいならいくらでも聞くよ」

マスターからしたら『何言ってんだこいつ?』案件だが、渋々納得はしてくれた。
津軽も相談役みたいなもんだが、どうしても男女の壁、遠慮の壁を感じる。

そういう意味ではそれらを取っ払らえるマスターとの関係はやりやすい。

「あと、この話題は人に言うなよ」
「言うわけないでしょ。ただ、これからも咲夜だけはよろしく頼むよ。それだけ約束してくれたらいくらでも相談乗るからさ」
「交換条件というやつだな。俺が咲夜を相手するから、マスターが俺を相手にするという」
「…………条件なしで咲夜と関わって欲しいところだけど」

今日は色々と喋り過ぎたし、マスターも頭の整理が必要だろう。
そろそろ打ち切ろうと俺は立ち上がる。

「ありがとうマスター、すっげー気が楽になったよ」
「はいはい、じゃあまたねー」
「信じてくれてありがとうな!」

まさかマスターに全部ぶちまけるとは思ってなかったけど、ギフト持ちがバレていたし良いかとなる。
そのまま、喫茶店を後にして自宅へと戻って行った。


ーーーーー

「最近の女の子は年上好きが流行っているとか言うけど、本当なのかもねぇ……。まぁ年齢が10とか20上を連れてくるとショックがデカイけど、精神年齢が20弱程度年上で同い年か…………。ありだな」

マスターは誰もいない店内で1人考え込んでいた。

「このまま娘とどうやって結婚までさせよう……。妹か娘としてしか見ていない同い年を落とすのは大変そうだ」

無人になった喫茶店内に1つ、大きいため息の音が響いたのであった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。 それは、最強の魔道具だった。 魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく! すべては、憧れのスローライフのために! エブリスタにも掲載しています。

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

処理中です...