100日後に〇〇する〇〇

Zazilia

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変な夢を見た

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 ぼくは、ハンモックの上で目を覚ました。
 見上げれば、星明かりが煌々と輝く星空が広がっていた。
 ぼくは、背伸びをして、ハンモックから降りた。
 ここはヨーロッパのとある国のとある有名な街、その片隅にあるアパルトマンの屋上。
 ぼくの家だ。
 下着の上にシャツとハーフパンツを身にまとい、屋上の隅にある、箱のようなワンルームのスペースへ向かう。
 ここには雨風を凌げる屋根や壁、ベッドやバスルームもあったが、なにぶん箱のように狭いので、この空間は主に荷物置き場やクローゼットとして利用していた。
 くつろぐ場所はいつも、この箱の外の屋上だ。
 この建物は、この街に建築物の規制が設けられる前のもので、この街で1番高い場所にある。
 だから、周りの目を気にすることなくのんびり過ごせるのだ。
 シャワーを浴びて、歯を磨き、身支度を整えたぼくは、コーヒーを入れ、バゲットをかじりながら、屋上のくつろぎスペースへ向かった。
 ここには、焚き火、リクライニングチェア、ビーチパラソル、ハンモック、ラジオ、小さな本棚がある。
 縦横12mの広々とした空間。
 その空間を、ぼくは持て余していた。
 ペットでも飼おうかな。
 ぼくは、コーヒーを啜りながら、そんなことを思った。
 コーヒーを啜り、ラジオに電源を入れる。
 流れてくる朝の音楽。
 ぼくは、それを聴きながら、コーヒーを啜り、本屋さんで買った本を読んだ。
 しばらくすると、現地語でニュースが流れてくる。
 ぼくは、ちらりと顔を上げた。
 昨晩、近所で事件が起こったらしい。
 ぼくは、コーヒーを啜りながら、昨晩見た夢を思い出そうとしたけれど、なんだかとても幸せな夢を見た気がするだけで、その中身までは思い出せなかった。
 ぼくは、ストレッチをして、体をほぐしてから、周りに誰もいないことを確認して、ついでにポケットに鍵と財布が入っていることも確認して、5階建ての屋上から、早朝の街へと飛び降りた。
 路地裏にふわりと着地したぼくは、早朝のランニングがてら、川へ向かった。
 




 ランニングを終えたぼくは、川沿いの運河に腰を下ろして、ハムの挟まったバゲットのサンドウィッチとカフェオレを飲みながら、新聞を読んでいた。
 周りには、ぼくと同じような感じでくつろいでいる人たちがたくさんいた。
 昨晩、この街で事件が起こったらしい。
 なんて事のない窃盗事件。
 それならどうして朝刊に乗っているのか。
 世界有数の大都市であるここは、大勢の現地人に加えて、年間数千万に及ぶ観光客で溢れている。
 当然その分事件の数も増えていく。
 なんて事のない窃盗事件なら、わざわざ新聞に載る理由もない。
 ぼくは、少し考えて肩をすくめた。
 まあ、ぼくには関係ないけれど。
 ぼくは、バゲットサンドを頬張り、カフェオレで飲み下してから、新聞を小脇に挟んで立ち上がった。
 帰りはゆっくり歩いて帰ろう。
 ぼくは今、暇を持て余していた。
 ワーキングホリデーでこの街にやって来たは良いけれど、生来のあがり症が災いして、職場のカフェからはこいつに接客させて大丈夫かなと思われてしまっているのだ。
 シフトは減らされる一方で、ついでに最近は豪遊もしてしまった。
 帰りの航空券は5ヶ月後。
 このままでは毎日プロテインだけを飲んでしのぐハメになる。
 このままではいけない。
 そんな危機感も今となってはどこへやら。
 ぼくはすっかり自堕落な生活に染まってしまっていた。
 ベレー帽を目深に被り、人の目を避けて、人通りの少ない道を選び、アパルトマンへ戻る。
 このアパルトマンの大家さんは、人付き合いがあまり好きではないぼくを理解してくれる良い人だった。
 家賃は、この街にしては破格の1年間で1200ユーロ。
 代わりにアパルトマンの掃除を週3で手伝うことが条件だった。
 ぼくは、大家であり画家でもある中年のマダムに挨拶をして、階段を登り屋上へ戻った。
 シャワーを浴び、屋上の中央、くつろぎスペースに戻ったぼくは、ハンモックの上でワインを啜りながら、本を読むことにしたけれど、すぐにうとうとして眠ってしまった。
 




「ーーあれ」
 ぼくは、目を覚ました。
 あたりは霧に包まれている。
 ぼくは、首をかきながら、身を起こし、ベッドから這い出た。
 ここはどこだろう。
「ここはお前の心の中です」
 ぼくは、その声に顔を上げた。
 そこにいたのは、世界一可愛くて、かっこいい、パンツスーツ姿のぼくだった。
「なるほど」ぼくは言った。「夢か」
「夢です」パンツスーツのぼくは言った。
 ぼくは頷いた。「良いスーツだね、どこで買ったの?」
「〇〇です」
 ぼくは頷いた。ぼくが知っている唯一のスーツのブランドだかメーカーだかの名前。間違いなく夢だ。「君はあれかな、なんかのお告げでもしてくれるのかな?」
 パンツスーツのぼくは頷いた。「お前、最近たるんでますよ」
「うん、わかってる。どうにかしないとなとは思ってるんだけどさ」
「わたしはお前の理想の姿です」
「ほぅ?」ぼくはパンツスーツのぼくを見た。
 すらっとしたシルエット、右側を耳にかけたショートカット、背筋はピンと伸びていて、力強い眼差しはキラキラと輝いていて、高級なスーツを仕事のためではなくまるでおしゃれのためであるかのように着こなしている。高校3年生で、社会が目前に迫っているぼくにとって、カッコよくスーツを着こなせる大人の女性はまさに憧れ。
 こいつの言っていることは、おそらく本当で、こいつはぼくの理想の姿なのだろう。
 ただ1つ気になるのが、こいつの胸が異常に膨らんでいることだった。
 ぼくは、パンツスーツのぼくの胸に手を突っ込み、中身を取り出した。
 ぼくは、中から出て来たハンドボール2つを遠くにぶん投げて、指先から飛ばしたビームで粉々に粉砕した。
「あぁ…!」悲しげな悲鳴をあげるパンツスーツのぼくだったが、ぼくの知ったことじゃなかった。
「それで、ぼくがたるんでるからなに?」
 パンツスーツのぼくは、悔しそうな目でぼくを見て言った。「リストを作りなさい。生活習慣を改めるためのリストを」
「確かに、そういうの必要だと思ってた」
「どうせ今は暇でしょう。やりたかったこと、やりたいことをやり、なりたい自分になるための時間だと思えば良い」
 ぼくは頷いた。同じことを他人から言われればムカつくだけだが、自分から言われる分にはなんてことない。もっともな意見だと受け入れることも出来る。「どういうリストが良いかな」
「それは自分で考えなさい」パンツスーツのぼくは、両手にハンドボールを生み出し、それをせっせと胸に詰め込んだ。「ふぅ……、防御力が上がった……」
 なんのだ。





「はっ!?」ぼくは、汗びっしょりになってハンモックの上で目を覚ました。
 胸をペタペタと触り、自分の胸が相変わらずぺったんこだということを確認してほっと胸を撫で下ろす。
 まったく、なんて悪夢だ。あれじゃぼくが自分の胸にコンプレックスがあるみたいじゃないか。
 はーやれやれ、と、ぼくはかぶりを振って、指を鳴らした。
 人差し指の上に灯った火が、ふわりと浮いて、焚き火に飛び込んでいく。
 空はすっかり夜になってしまっていた。
 ぼくは、箱のようなワンルームから、ハードカバーの日記帳と、万年筆を取り、くつろぎスペースへ戻った。
 ハードカバーの日記帳と万年筆は、ぼくが15の時に、とある世界を旅した時のお土産だ。
 ぼくは、日記帳を開き、妙に生々しく記憶に刻まれている夢の内容を書き記し、そして、生活習慣を改めるためのリストを書くことにした。
 時計を見れば、日付が変わっていた。
 ちょうど今日は月末。
 ダラダラと過ごすのは今日で終わりだ。
 そんな将来への夢と希望を持って、ぼくはリストを考え始めた。
 自分をほんのちょっぴり良くするためのリストを。


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