14 / 47
3 出張
8日目 夢の中の戦い
しおりを挟むーーぼくは、身体を蜃気楼にして、排気口から倉庫内へ侵入した。
アナちゃんの声が脳内に響く。
1人が倉庫内に戻った。
ぼくは、蜃気楼になったまま頷いた。
天井から、倉庫内を見下ろす。
25mプールほどの広さの倉庫内。
高さは4mほど。
棚やコンテナなどはなく、空っぽの屋内に、8人の男がいた。
ぼくは、会話に聞き耳を立てた。
売り手と買い手が4人ずつ。
気さくに会話をしているようだったが、それは上っ面だけの、相手の機嫌を伺い、相手を騙すための立ち振る舞いだった。
男たちはみんな人間だった。
ぼくは、ダミアンさんから預かった閃光手榴弾のピンを抜き、男たちのど真ん中に落とした。
反射神経の良い1人が、手榴弾を蹴ったが、すでに手遅れだ。
手榴弾は目が眩む様な閃光を放った。
ぼくは、倉庫内を照らしていた唯一の照明に向けて、糸の先にぶら下がる球をぶつけた。
倉庫内は暗闇に包まれる。
人間である彼らには、なにも見えないはずだ。
ぼくは、蜃気楼の魔法を解き、タンパク質の肉体に戻った。
ぼくは、倉庫の真ん中に、音もなく舞い降りた。身を伏せながら左足を軸に回転し、右足で男たちの足を払う。
倒れ込んだ男たちの背中を足場に、ぼくは飛び上がり、銃を手に持ち、今まさに引き金をひこうとしていた男の手を左足で蹴り、男の顎を右足で軽く蹴り上げた。
ぼくがコンクリートの床に、つま先をつけると同時に、男の体もまた、床の上に倒れ込んだ。
暗闇の中で混乱に包まれ、騒ぎ出す男たち。
残りは4人。
ぼくは、一番近くに立っていた男の懐に飛び込み、その腹を、靴の裏で押した。
男の身体は宙を舞い、背中から倉庫の壁に突っ込んでいった。
人間である彼らの身体は、異常なほどに軽く感じられた。
ぼくは、先端に球がぶら下がった糸を振り回して、男たちを見た。
男たちは、暗視スコープを手に持っていた。
念の為に持ってきていたのかも知れない。
ぼくは、糸を振り回し、先端にぶら下がる球で、男たちの手にある暗視スコープを狙った。
1つ目の暗視スコープは、男の手の骨とともに砕けた。
2つ目の暗視スコープは、男の鼻の骨とともに砕けた。
3つ目は、間に合わなかった。
暗視スコープを着けた男は、サブマシンガンの銃口をこちらに向けていた。
引き絞られる引き金。
ぼくは、身体に銃弾を受けながら、久々の、身体を貫くような痛みを感じながら、3年前の戦争を思い出していた。
ぼくは、身体に、首に、頭に、足に、顔に銃弾を受けながら、男の下へと歩みを進めた。
ぼくは、男の前で立ち止まり、銃弾が空になるのを待った。
男は、拳銃を持ち、ぼくの顔に向けて、引き金を引いた。
1発、2発、3発、4、5、6、7、8。
男は、空になった銃の引き金を追加で3回引くと、拳銃で殴りかかってきた。
ぼくは、男の腕を払い除け、男の鼻に頭突きをした。
男の身体は力を失い、床の上に崩れ落ちた。
ぼくは、鉄の匂いを嗅ぎながら、深呼吸をした。
唇を伝う、鉄臭い液体を舐め取り、ぼくは、もう一度深呼吸をして、男たちの身体を、糸で拘束した。ーー
ぼくは、リクライニングチェアの上で目を覚ました。
アナちゃんが、ぼくを見下ろしていた。
「おはよ」
「大丈夫?」アナちゃんは、何気なくという感じでそう言った。
「うん」ぼくは、身体を起こした。「ちょっと夢見てた」
「良い夢?」
「どうして?」
「にやにやしてたから」
ぼくは、小さく笑った。「内緒」
「秘密が多いね」
ぼくは、腕時計を見た。9時3分。空はまだ薄暗い。毎朝4時にアラームをかけているはずだったのだけれど、無意識に止めてしまっていたのかもしれない。「今日はどうしよっか」
「ベネチアに行こ」
ぼくは、あくびをした。「良いね。シャワー浴びるからちょっと待ってて」
96
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる

