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4 映画撮影
18日目 レストラン
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18時6分
その後、子どもたちのメンタルケアとヤコのインスピレーションの刺激も兼ねてパリのあちらこちらを散歩して、ついでにパリ警視庁のラシェルさんに子どもたちを紹介したぼくたちは、テキトーなビストロで食事をすることにした。
動画の編集を終え、ようやく脚本を読んだヤコは、静かに深く息をして、頷いた。「良いね。なんかテイスト変わった?」
ぼくは、ワインを啜りながら頷いた。「そう、この子達に手伝ってもらったの」ぼくは、こっそりぼくのワイングラスを取って飲もうとしたイリーナちゃんの頭をぽんと叩いた。「まだ早い」
「くっ」イリーナちゃんは悔しそうな顔でトマトジュースを飲んだ。ちなみに、吸血鬼は血を飲むから吸血鬼と呼ばれていると思われているようだけれど、実際のところは違う。吸血鬼たちからすれば、赤ければ何でも良いのだ。
ぼくはふっ、とほくそ笑んだ。「まだまだ修行が足りないね」
「ソラってどこで魔法勉強したの?」
「学園だよ。あとは、魔法が上手い先輩たちとかにも教えてもらったんだ」
「早く行きたいなー」
「頑張って大人になるが良い」ぼくは、勝利の美酒を啜った。それなりに広い店内、教室2、3個分の空間には、ディナーを楽しむ大人たちで溢れかえっていた。入店前に外から店内を見たところ、お客さんはみんな、正装を身にまとっていたので、ぼくは急遽、ヤコと子どもたちを路地裏に連れ込み、新しい服に着替えることにした。ぼくはブレザー、ヤコはパンツスーツ、子どもたちにはジャケットを作ってあげた。
「これさぁ、きついからやなんだよな……」そうぼやくヤコの胸元はパツパツになっていた。ヤコはやたらと痩せ細っているくせに、謎によく食べるし、謎に特定の部位に栄養が行っていた。余裕を見てあつらえたつもりだったけれど、いつの間にか、また新たなる成長を遂げていたらしい。「パーカじゃだめ? そっちの方が天才っぽいじゃん」
「だめだよ」ぼくは首を横に振った。「この中じゃあんたが一番年上に見えるんだから、まともに振る舞ってもらわないと」
「いつもまともだろうが」
「まともな芸術家なんか芸術家じゃないんでしょ?」
「だからまともに芸術家やってんじゃん」
「今ぐらいはまともな社会人をやってもらわないと困るんだよ」
「まともね」ヤコはワインを啜ると、ステーキを切り分け、フォークに刺した牛肉を、隣りに座っているイリーナちゃんにあーんした。「美味いか?」
イリーナちゃんは、笑顔を浮かべてうんうんと頷いた。この中で一番最初に、ヤコに心を許したのはイリーナちゃんだった。
ちなみに、今となっては子どもたちはみんなヤコのことを受け入れ始めていた。
ヤコは、目尻を下げて、聖母の様な笑顔でイリーナちゃんの頭を撫でた。「こんな感じ?」
「うん。その調子」ぼくは、自分のステーキを切り分けて、口に含んだ。
「みんなたくさん食べて良いよ。今日はうちが奢ったげる」
ゲイリーくんとエドワードくんは、顔を見合わせて、メニューをパラパラし始めた。
「良いの?」ぼくは訊いた。
ヤコは頷いた。「良いんだよ。さっき、ウェンディから口座に振り込まれたし」
「いくら?」
ヤコは、iPhoneの画面をこちらに見せてきた。
そこには、入金の記録が載っていた。ぼくはツバを飲んだ。「これは、ドル?」
「ポンド」
「ぼくも良い?」
「たーんと食いな」
「やだもう愛しちゃう」ぼくは、ヤコを抱き寄せて、そのほっぺにチューをした。
ヤコはまんざらでもない感じでほくそ笑んだ。「男はみーんなうちに惚れるんよね」
ぼくはメニューを開いて、ステーキとサラダと、ちょっと高めのワインとシャンパンとキャビアを追加で注文した。
「そうだ、ソラ? あとでちょっと仕事の話があるんだけど」
ヤコがそう言ったのは、ぼくたちのテーブルにワインとシャンパンとキャビアが届いた時のことだった。
「映画のこと?」
「そう」
「エロい系?」
「ちがう」
「良いよもうなーんでも聞いちゃう」ぼくは、トーストにキャビアを乗せながら言った。
ヤコはにやりとして、シャンパンを啜った。
ぼくは、キャビアトーストを口に頬張り、シャンパンを啜った。
ぼくは首を傾げた。
あんまり美味しくないなぁ。
隣りに座っているオドレイちゃんが、キャビアを見て、ぼくを見上げた。
ぼくは、トーストにキャビアを載せて、オドレイちゃんにあーんした。
もぐもぐ、ごくん。
オドレイちゃんは、なんとも言えない顔で、視線を下げた。「……うん」
「あんまり美味しくないよね」
オドレイちゃんは笑った。「うん」
ぼくはシャンパンの入ったグラスを、オドレイちゃんはジンジャーエールの入ったグラスを持って、乾杯した。
19時5分
「っ!? ぐっ、ふぐぅ……、ち、ちょっと失礼」唐突な腹痛に襲われたぼくは、トイレに飛び込んだ。
どうにか人としての尊厳を守り切ることに成功したぼくは、顔を洗って、鏡の中の自分と見つめ合った。
あぁ、ほんとに可愛いなこの子……。
良い感じにお酒が回ってきたのもあって、鏡の中のぼくは、いつもの3割増で可愛く思えた。
ほっぺは赤く染まっていて、シャンパンゴールド色の瞳はとろんとしていて、瞳孔が開いている。
ぼくは、眉をひそめた。
瞳孔が開いている。
脈拍が、いつもより大きい。
こめかみの血管が、うずく。
ぼくは、全身を巡る生命の魔素に意識を傾けた。
意識が目覚め、体と脳を支配していたアルコールとかが、分解されていく。
ぼくは、狭いトイレの中を観察した。
ドアは全部空いている。
大気中に意識を傾けると、万能の魔素が漂っているのがわかった。
ぼくは、深呼吸をした。「なにか御用ですか?」ぼくは、日本語で言った。
ぼくの目の前で、琥珀色のモヤが渦を巻き、それは一瞬で人の形になった。「こんばんは」短く整えられたブロンドの髪に、琥珀色の瞳、芝生のように整えられたヒゲ、コケた頬、中肉中背で、これといった特徴もない男性だった。ここは女子トイレ。つまり変態だ。
「こんばんは。どちら様ですか?」
「ラシェルの同僚だ。アーヴィンと呼んでくれ」
「なにを盛ったんですか?」
アーヴィンさんは、少し驚いたように目を見開いた。「下剤と自白剤だ」
「なんのつもりですか?」
「きみと話がしたくてね」
「こういう手段を取る人とは話したくないですね。これから先、気をつけて言葉を選んでください。ご要件は?」
「簡潔に言うぞ。東欧に来てくれ」
「東欧のどこ」
「〇〇だ」
ぼくは、首を横に振った。「そこは好きじゃない。お断りします」
「きみが来なくても、別のヤツがどうにかするさ。でも、きみが来てくれれば、被害を最小に出来ると確信してる」
「なにが起こるんですか?」
「2010年12月」
「それが?」
「きみが英雄になった月だ」
「なにが起こるんですか? 答えてくれないなら話は終わりです」
「連中の残党が、〇〇で活動している。400年前に眠りについた吸血鬼を起こそうとしている」
連中、アーヴィンさんが先に出した年と月。3年前に、ぼくたちが倒した連中のことだろう。「それが?」
「きみにどうにかして欲しい」
「お断りします。そういう話にはもう関わりたくない」
「そうは思えないな。パリ、ベネチア、ここ最近ずいぶんと楽しんでいるようじゃないか」
「自分から首を突っ込んだわけじゃない」
アーヴィンさんは、頷いた。「気が向いたら連絡をくれ」アーヴィンさんは、洗面台の上に名刺を置くと、その体を琥珀色のモヤに変えて、排気口に吸い込まれていった。
トイレのドアが開き、オドレイちゃんが入ってきた。「ソラ?」
ぼくは、手の平で洗面台を撫でるようにして、名刺をつかみ、ポケットに滑り込ませた。「飲みすぎちゃった?」
「ううん、遅いから大丈夫かなって」
「ちょっとお腹痛くなっちゃってね」
「大丈夫?」
「うん」ぼくは、手を洗い、顔を洗って、ペーパーナプキンで手と顔を拭き、オドレイちゃんの肩に手を添えて、テーブルに戻った。
テーブルに戻ると、ヤコがイヤフォンでなにかを聞いていた。
ヤコは、ぼくを見ると、にやりとした。ぼくのジャケットに手を伸ばすと、襟からなにかをつまみとった。それは、豆粒サイズの小さなマイクのように見えた。「400歳の吸血鬼ってなに?」
ぼくは、眉間にシワを寄せて、ヤコを睨みつけた。「お前には関係ない。なんでそんなの着けてんだよ」
「映画の話なんだけどさ、空に密着したいと思ってて」
「今なら見逃してあげるから、今までのデータ全部消して」
「どうしよっかな」
「マジだよ」
ヤコは意地悪な感じで微笑んだ。「シャンパンとワインとキャビア食べたでしょ」
ぼくは、鼻で深く息を吸い込み、怒りを抑え込もうと思ったけれど、上手くいかなかった。ぼくは、ヤコを睨みつけた。「そういうノリで済ませられないんだよ。こればっかりは」
「マジなの?」
ぼくは、ヤコに見せつけるように、テーブルを軽く叩いた。「あんたのそういうノリは嫌いじゃないけど、今となっては、ぼくはぼくで働いてるんだ。話せることと話せないことがある。今あんたをぶん殴って、巻き込まないで済むなら、喜んでぶん殴る」
ヤコは、ぼくの目を見て、動きを止め、頷いた。ヤコは、iPhoneを操作して、画面をぼくに見せながら、音声データを消した。
ぼくは頷いた。
ヤコは、iPhoneをポケットにしまった。「いつ行くの?」
「行かないよ」
「ほんと?」
「選べって言われた。ぼくは行かない。あの人との話はこれで終わり」ぼくは、シャンパンを啜った。「今聞いたことは忘れて。撮影の話しよ」
その後、子どもたちのメンタルケアとヤコのインスピレーションの刺激も兼ねてパリのあちらこちらを散歩して、ついでにパリ警視庁のラシェルさんに子どもたちを紹介したぼくたちは、テキトーなビストロで食事をすることにした。
動画の編集を終え、ようやく脚本を読んだヤコは、静かに深く息をして、頷いた。「良いね。なんかテイスト変わった?」
ぼくは、ワインを啜りながら頷いた。「そう、この子達に手伝ってもらったの」ぼくは、こっそりぼくのワイングラスを取って飲もうとしたイリーナちゃんの頭をぽんと叩いた。「まだ早い」
「くっ」イリーナちゃんは悔しそうな顔でトマトジュースを飲んだ。ちなみに、吸血鬼は血を飲むから吸血鬼と呼ばれていると思われているようだけれど、実際のところは違う。吸血鬼たちからすれば、赤ければ何でも良いのだ。
ぼくはふっ、とほくそ笑んだ。「まだまだ修行が足りないね」
「ソラってどこで魔法勉強したの?」
「学園だよ。あとは、魔法が上手い先輩たちとかにも教えてもらったんだ」
「早く行きたいなー」
「頑張って大人になるが良い」ぼくは、勝利の美酒を啜った。それなりに広い店内、教室2、3個分の空間には、ディナーを楽しむ大人たちで溢れかえっていた。入店前に外から店内を見たところ、お客さんはみんな、正装を身にまとっていたので、ぼくは急遽、ヤコと子どもたちを路地裏に連れ込み、新しい服に着替えることにした。ぼくはブレザー、ヤコはパンツスーツ、子どもたちにはジャケットを作ってあげた。
「これさぁ、きついからやなんだよな……」そうぼやくヤコの胸元はパツパツになっていた。ヤコはやたらと痩せ細っているくせに、謎によく食べるし、謎に特定の部位に栄養が行っていた。余裕を見てあつらえたつもりだったけれど、いつの間にか、また新たなる成長を遂げていたらしい。「パーカじゃだめ? そっちの方が天才っぽいじゃん」
「だめだよ」ぼくは首を横に振った。「この中じゃあんたが一番年上に見えるんだから、まともに振る舞ってもらわないと」
「いつもまともだろうが」
「まともな芸術家なんか芸術家じゃないんでしょ?」
「だからまともに芸術家やってんじゃん」
「今ぐらいはまともな社会人をやってもらわないと困るんだよ」
「まともね」ヤコはワインを啜ると、ステーキを切り分け、フォークに刺した牛肉を、隣りに座っているイリーナちゃんにあーんした。「美味いか?」
イリーナちゃんは、笑顔を浮かべてうんうんと頷いた。この中で一番最初に、ヤコに心を許したのはイリーナちゃんだった。
ちなみに、今となっては子どもたちはみんなヤコのことを受け入れ始めていた。
ヤコは、目尻を下げて、聖母の様な笑顔でイリーナちゃんの頭を撫でた。「こんな感じ?」
「うん。その調子」ぼくは、自分のステーキを切り分けて、口に含んだ。
「みんなたくさん食べて良いよ。今日はうちが奢ったげる」
ゲイリーくんとエドワードくんは、顔を見合わせて、メニューをパラパラし始めた。
「良いの?」ぼくは訊いた。
ヤコは頷いた。「良いんだよ。さっき、ウェンディから口座に振り込まれたし」
「いくら?」
ヤコは、iPhoneの画面をこちらに見せてきた。
そこには、入金の記録が載っていた。ぼくはツバを飲んだ。「これは、ドル?」
「ポンド」
「ぼくも良い?」
「たーんと食いな」
「やだもう愛しちゃう」ぼくは、ヤコを抱き寄せて、そのほっぺにチューをした。
ヤコはまんざらでもない感じでほくそ笑んだ。「男はみーんなうちに惚れるんよね」
ぼくはメニューを開いて、ステーキとサラダと、ちょっと高めのワインとシャンパンとキャビアを追加で注文した。
「そうだ、ソラ? あとでちょっと仕事の話があるんだけど」
ヤコがそう言ったのは、ぼくたちのテーブルにワインとシャンパンとキャビアが届いた時のことだった。
「映画のこと?」
「そう」
「エロい系?」
「ちがう」
「良いよもうなーんでも聞いちゃう」ぼくは、トーストにキャビアを乗せながら言った。
ヤコはにやりとして、シャンパンを啜った。
ぼくは、キャビアトーストを口に頬張り、シャンパンを啜った。
ぼくは首を傾げた。
あんまり美味しくないなぁ。
隣りに座っているオドレイちゃんが、キャビアを見て、ぼくを見上げた。
ぼくは、トーストにキャビアを載せて、オドレイちゃんにあーんした。
もぐもぐ、ごくん。
オドレイちゃんは、なんとも言えない顔で、視線を下げた。「……うん」
「あんまり美味しくないよね」
オドレイちゃんは笑った。「うん」
ぼくはシャンパンの入ったグラスを、オドレイちゃんはジンジャーエールの入ったグラスを持って、乾杯した。
19時5分
「っ!? ぐっ、ふぐぅ……、ち、ちょっと失礼」唐突な腹痛に襲われたぼくは、トイレに飛び込んだ。
どうにか人としての尊厳を守り切ることに成功したぼくは、顔を洗って、鏡の中の自分と見つめ合った。
あぁ、ほんとに可愛いなこの子……。
良い感じにお酒が回ってきたのもあって、鏡の中のぼくは、いつもの3割増で可愛く思えた。
ほっぺは赤く染まっていて、シャンパンゴールド色の瞳はとろんとしていて、瞳孔が開いている。
ぼくは、眉をひそめた。
瞳孔が開いている。
脈拍が、いつもより大きい。
こめかみの血管が、うずく。
ぼくは、全身を巡る生命の魔素に意識を傾けた。
意識が目覚め、体と脳を支配していたアルコールとかが、分解されていく。
ぼくは、狭いトイレの中を観察した。
ドアは全部空いている。
大気中に意識を傾けると、万能の魔素が漂っているのがわかった。
ぼくは、深呼吸をした。「なにか御用ですか?」ぼくは、日本語で言った。
ぼくの目の前で、琥珀色のモヤが渦を巻き、それは一瞬で人の形になった。「こんばんは」短く整えられたブロンドの髪に、琥珀色の瞳、芝生のように整えられたヒゲ、コケた頬、中肉中背で、これといった特徴もない男性だった。ここは女子トイレ。つまり変態だ。
「こんばんは。どちら様ですか?」
「ラシェルの同僚だ。アーヴィンと呼んでくれ」
「なにを盛ったんですか?」
アーヴィンさんは、少し驚いたように目を見開いた。「下剤と自白剤だ」
「なんのつもりですか?」
「きみと話がしたくてね」
「こういう手段を取る人とは話したくないですね。これから先、気をつけて言葉を選んでください。ご要件は?」
「簡潔に言うぞ。東欧に来てくれ」
「東欧のどこ」
「〇〇だ」
ぼくは、首を横に振った。「そこは好きじゃない。お断りします」
「きみが来なくても、別のヤツがどうにかするさ。でも、きみが来てくれれば、被害を最小に出来ると確信してる」
「なにが起こるんですか?」
「2010年12月」
「それが?」
「きみが英雄になった月だ」
「なにが起こるんですか? 答えてくれないなら話は終わりです」
「連中の残党が、〇〇で活動している。400年前に眠りについた吸血鬼を起こそうとしている」
連中、アーヴィンさんが先に出した年と月。3年前に、ぼくたちが倒した連中のことだろう。「それが?」
「きみにどうにかして欲しい」
「お断りします。そういう話にはもう関わりたくない」
「そうは思えないな。パリ、ベネチア、ここ最近ずいぶんと楽しんでいるようじゃないか」
「自分から首を突っ込んだわけじゃない」
アーヴィンさんは、頷いた。「気が向いたら連絡をくれ」アーヴィンさんは、洗面台の上に名刺を置くと、その体を琥珀色のモヤに変えて、排気口に吸い込まれていった。
トイレのドアが開き、オドレイちゃんが入ってきた。「ソラ?」
ぼくは、手の平で洗面台を撫でるようにして、名刺をつかみ、ポケットに滑り込ませた。「飲みすぎちゃった?」
「ううん、遅いから大丈夫かなって」
「ちょっとお腹痛くなっちゃってね」
「大丈夫?」
「うん」ぼくは、手を洗い、顔を洗って、ペーパーナプキンで手と顔を拭き、オドレイちゃんの肩に手を添えて、テーブルに戻った。
テーブルに戻ると、ヤコがイヤフォンでなにかを聞いていた。
ヤコは、ぼくを見ると、にやりとした。ぼくのジャケットに手を伸ばすと、襟からなにかをつまみとった。それは、豆粒サイズの小さなマイクのように見えた。「400歳の吸血鬼ってなに?」
ぼくは、眉間にシワを寄せて、ヤコを睨みつけた。「お前には関係ない。なんでそんなの着けてんだよ」
「映画の話なんだけどさ、空に密着したいと思ってて」
「今なら見逃してあげるから、今までのデータ全部消して」
「どうしよっかな」
「マジだよ」
ヤコは意地悪な感じで微笑んだ。「シャンパンとワインとキャビア食べたでしょ」
ぼくは、鼻で深く息を吸い込み、怒りを抑え込もうと思ったけれど、上手くいかなかった。ぼくは、ヤコを睨みつけた。「そういうノリで済ませられないんだよ。こればっかりは」
「マジなの?」
ぼくは、ヤコに見せつけるように、テーブルを軽く叩いた。「あんたのそういうノリは嫌いじゃないけど、今となっては、ぼくはぼくで働いてるんだ。話せることと話せないことがある。今あんたをぶん殴って、巻き込まないで済むなら、喜んでぶん殴る」
ヤコは、ぼくの目を見て、動きを止め、頷いた。ヤコは、iPhoneを操作して、画面をぼくに見せながら、音声データを消した。
ぼくは頷いた。
ヤコは、iPhoneをポケットにしまった。「いつ行くの?」
「行かないよ」
「ほんと?」
「選べって言われた。ぼくは行かない。あの人との話はこれで終わり」ぼくは、シャンパンを啜った。「今聞いたことは忘れて。撮影の話しよ」
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