100日後に〇〇する〇〇

Zazilia

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4 映画撮影

19日目 戦争のその後

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9時3分


 ぼくとアナちゃんは、屋上で子どもたちの面倒を見ながら、サングラスをかけて、例の万引き犯を探していた。
 こういう仕事は楽で良い。
 コーヒーやサンドウィチを食べながらでも、子どもたちの面倒を見ながらでもこなせる。
 たくさんの選択肢の中から好きな場所を選べば良いと言うようなことを行ってしまった手前、きみたちが行くのはリヨンの学園なんだよと伝えるのは、少しばかり心苦しかったけど、その嫌な役目はアナちゃんがこなしてくれた。
 はじめは子どもたちから鬼のように嫌われていたヤコだけれど、今となってはみんなに抱きつかれて屋上でじゃれ合う程にまで距離が縮まっていた。
 そもそも、ヤコは子どもが好きな性格なので、初対面のゴタゴタがショックだったのは、子どもたちだけでなくヤコも同じだろう。もっとも、この件に関しては、そもそもの原因を作ったのはヤコなので、同情はしてやらないわけだけれど。
 期間限定の、10人でのルームシェア。
 1人の方が気軽ではあるのだけれど、ヤコがいると学生時代を思い出せるし、アナちゃんとはすっかり打ち解けていた。
 子どもたちと一緒だと心も和むし、たまにはこういうのも良いかもしれない。
 ぼくは、サングラスで2つの航空映像を見ながら、昨晩の事を考えていた。
 アーヴィンさん。
 彼はラシェルさんの同僚だと言っていた。
 もしも、並々ならぬ事情があって、どうしてもということでぼくを必要としているのなら、ラシェルさんから連絡が来るだろう。
 彼の名刺は、一応財布に入れておいたけれど、ぼくから連絡をするつもりはなかった。
 昨晩、彼が言っていた【連中】とは、ぼくが3年前に、魔法使いの世界を旅しているときにあっちこっちで問題を起こしていた人たちのことだろう。
 彼らは、革命の戦士を名乗りながら、自分たちの欲望を満たすのに都合の良い世界を作ろうとしていた。
 それ自体は特に責められることでもないけれど、問題は、彼らが取った方法だ。
 彼らは、革命に、暴力を選んだ。
 大勢の人を傷つけ、大勢の人々の平穏を踏みにじり、そうすることによって周囲に恐怖を与え、世界をコントロールしようとしたのだ。
 無知な人々は、容易に操られ、もう少しで、魔法使いの世界が狂乱に包まれた民衆による暴動に満たされるところだった。
 ぼくが正気を保っていられたのは、ぼくが、いつも一人だったからだ。
 ぼくが連中と戦えたのは、彼らの選んだ手段を許せないと感じ、そして、一緒に戦う人たちが居たからだ。
 当時、ぼくはぼくに与えられた役目をまっとうするべく、何度も殺され、心も折られかけた。
 その時の心の傷が癒えたかと言えば、気軽にそうだとも言えない。
 再び同じ状況に放り込まれ、戦えと言われれば、戦えないこともないだろう。
 むしろ、前回よりも上手く戦えるはずだ。
 上手いこと勝利を収めたとして、その後に起こることはなにか。
 また同じことが起こる度に、アーヴィンさんの様な人が接触してくる。
 こちらはこちらで、経験を積めば、依頼を引き受けるハードルも下がってしまうだろう。
 その末には、ぼくが望む、自由気ままな人生はなくなってしまう。
 今回だけだと言って、彼らがはいわかりましたと言ってくれたとしても、ぼく自身にも変化は起こる。
 ぼくが行える善行は、ぼくに出来ることだけだ。
 知らない方が良いのだ、自分になにが出来るかなど。
 こういったことに関しては。
 今のところは、もしもインターポールのインターンを終えたら、正規の捜査官になりたい。
 でも、役職は情報分析とかの裏方が良い。
 現場に立つのは、必要最低限で良い。
 人の助けにはなりたい。
 でもそれは、自分の安全と安定が保証された上でのことだ。
「なに考えてるの?」
 ぼくは、隣に座るアナちゃんを見た。「ちょっとね。昨日、捜査官から接触があったんだ」ぼくは、一瞬だけ間をおいて、言葉を選んだ。「捜査に協力して欲しいって」
「良いじゃん」
「そうかな」
「うん。そういうのは人物評価に反映されるし」
 ぼくはコーヒーを啜った。「まあね。でも、聞いた話だと、少し危ない仕事みたいなんだ」
「ソラなら大丈夫でしょ」
「そうなんだけどね。でも、今回引き受けたら、今後もお願いされるでしょ。そういうのはもう嫌なんだよ」
「どうして」
「心をすり減らすから」
「わたしらの仕事なんて、どれもそうでしょ」
「もしかしたら、3年前と同じ感じになるかも」
 アナちゃんは頷いた。「犯人を殺したことはある?」
 ぼくの脳裏に浮かんだのは、ぼくを何度も殺した、凄腕の剣士の顔だった。「1度だけ」
「どうだった?」
「2度とごめんだよ」
「そっか。今回はどうなの?」
「そうなるかもしれない」
 アナちゃんは、深く深呼吸をした。「わたしも、いつかそういう場面が来るのかな」
「かもね」
「わたしがやらなかったら、別の誰かがやるのかな」
 ぼくは頷いた。「かもしれない」
「ハリエットから聞いたよ。ベネチアで、精神の魔法使いと戦ったんだって?」
「うん」
「殺さなかったんでしょ? なんで」
「捕まえるのが仕事だから。ああいう連中は、たくさんの情報を持っている」
「ソラなら、それが出来るんじゃない?」
「たぶんね。でも、いつだってそうだとは限らない」
「どうするの?」
「断ったよ」
「そっか」
 その時、スズメが屋上にやってきた。
 子どもたちが、スズメを見て、可愛い声を上げた。
 スズメは、次の瞬間、シャンパンゴールド色の光に包まれ、人の形に姿を変えた。
 そこに現れたのは、ラシェルさんだった。
 ラシェルさんは、子どもたちを抱きしめたり、頭をなでたりして、ぼくとアナちゃんを見た。
「良いところに住んでるのね。仕事は順調?」
「こんな仕事、わたしらじゃなくて良いじゃないですか」アナちゃんが、甘えるような口調で言った。
 ラシェルさんは、アナちゃんにデコピンをした。「文句言わないの。事件に大きいも小さいもないんだから」ラシェルさんは、ぼくを見た。「ソラ? リヨンの学園に連絡取ったから、今日か明日にでも、見学に行ってらっしゃい」
「ありがとうございます」ぼくは、子どもたちを見た。この子達とも、もうすぐお別れだと思うとなんだか寂しくなってしまう。「じゃあ、明日にでも」
「万引き犯の捜索は別の連中に引き継ぐから、アナもリヨンにいってらっしゃい」
 アナちゃんは、サングラスを外した。その琥珀色の瞳が輝いていた。「良いんですか?」
「子どもたちのことを別の連中に引き継がせようと思ったんだけど、みんな懐いているでしょう? そのままあなた達が面倒を見てあげて」
「了解です」アナちゃんは元気いっぱいに返事をした。心の底から嬉しそうだけれど、たぶん、子どもたちと一緒に居られるからというよりは、この退屈な仕事から開放されるからという意味合いが強いのだろう。アナちゃんはぼくを見た。「どうする? 今から?」
「明日にしよ」今夜はパーティにしよう。ゲイリーくんの大好きなお肉をたくさん買ってあげて、イリーナちゃんにはこっそりスパークリングワインを飲ませてあげよう。他の子達にも、たくさんのお菓子と、ごちそうを用意してあげよう。きっと、喜んでくれるはずだ。「アナちゃん、なにか食べたいものある?」
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