10 / 171
第一章 毒娘、冒険者になる
09:調子こいてた新人ですがゴブリンに殺されそうです
しおりを挟む「ゲギャギャギャ!」
ゴブリンたちは私の後ろを追ってきている。
数は六体。どれも棍棒みたいな木の棒を振りかざし、ピョコピョコと跳ねるように森の小道を走る。
魔物と戦闘した事のない私は思わず逃げ出したが、ゴブリンからすれば人間の小娘が自分たちを見て逃げているわけで、享楽的に追いかけるには十分な理由だったらしい。
愉悦・欲・本能、そんなものを背後からひしひしと感じながらの逃避行だ。
ここまで少し追いかけっこして分かった事がある。
まず私の『敏捷:33』という値は、ゴブリンよりも相当速い。
森の中じゃなくて平原だったら、もしくは私が森に慣れていれば逃げ切るのも可能だろう。
しかし私は森に慣れていないし、ここは木々が入り組み足元も悪い。
マイナスイオンたっぷりで吸い込む空気が気持ちいい森だ。
魔物たっぷりでハアハアと息急き切って走る森だ。
そう、何が不安ってこのハアハア言ってる状態――つまり体力なのよ。
いくら敏捷が高くても持久力で負けてるんじゃないかと。
というか魔物に持久力とかスタミナとかいう概念がそもそもあるのかと。
ステータスには体力とか持久力とかいう表示はない。
だから体力をつけようと思ったら地道に走り込みとかしないとダメかもしれん。
レベルを上げるだけではダメかもしれん。
そんな一抹の不安がよぎる。
いくらこちらが速くても、バテたところでゴブリンに襲われたら死ぬ。
だからやっぱ今のうちに何とか対処しないといけないんだよね。
「ハァッハァッ! 考察も訓練もしないで本番とかっ! 勘弁して欲しいんですけどっ!」
そう言いながら後ろを振り返る。
30mは離れてるか。でも一向に追うのを止める気配なし。
私は魔法を使ったことなどない。魔法を使う仕組みも分からない。
もしかしたら、やれ「体内の魔力を感じろ」だとか、やれ「魔素を感じろ、イメージだ」とか必要なのかもしれない。
魔力操作的なサムシングが。
でもそんなの今考えても無理なので、とりあえず右手を先頭のゴブリンに向ける。
「頼むよ! <毒弾>!」
かくして願いは叶った。
私の伸ばした右手の先に野球ボールほどの紫の塊が現れたかと思うと、それはプロ野球のピッチャーさながらにゴブリンへと放たれたのだ。
内心はしゃぐ。おおっ! ホントに出た! 魔法じゃん! と。
紫の塊はゴブリンの顔面にベチャッとヒットし、まるで綿に水が吸収されるが如く、紫の水はゴブリンの表皮に吸い込まれるように消えた。
当てられたゴブリンは殴られたような衝撃に少し立ち止まったが、当てた事でのダメージはないようだ。
すぐに他のゴブリンと共に私を追いかけ始める。
「ダメージなし!? 毒は!? かかってるの!?」
見た目の変化が分からない。
そりゃそうか。ゲームみたいに紫バブルのエフェクトが出るわけじゃなし。
なんとなくゴブリンの皺くちゃな顔がさらに歪んでるように見えるけど、単純に怒ってるだけかもしれない。
毒状態が分からないのは盲点だったわ。
と、そんな考察している暇はない。
慌てて私はステータスを見る。
―――――
MP:25→23
―――――
2減った! <毒弾>一発でMP2消費か!
あと十一発は撃てるって事だね!
いや五分でMP1回復だから逃げながらならもっとか!
そして追いかけっこ再開。
少し距離を離して<毒弾>を打つ、また逃げるを繰り返す。
時々振り返りながらだから、最初に<毒弾>を当てたゴブリンがどれだか分からない。
適当に先頭に居るやつに当てる。
……五分後。
グギャと声を残し、ゴブリンの一体が倒れた。
「よぉしっ! ハァッ、ハァッ!」
それから少し、続けて四体が倒れた。
やっぱ毒効いてたんじゃん! 良かった! これで効いてなかったら死んでたよ!
安堵して座り込みたいところだが、あと一体残っている。
おそらく後方に居て今まで<毒弾>を当てられてないヤツだろう。
残りMPは11。じゅーぶん! 私は足を止め、生き残りゴブリンに相対する。
毒が効く事も分かった。ゴブリンの素早さも分かった。
もう恐れる事はない。これはフラグではない。
実験につきあってもらうよ! ゴブ太郎!
左手に鉈を構えた私はゴブリンと対峙する。
ゴブリンは仲間が倒れた事も気にしないようで、走る速度のまま棍棒を振り下ろしてきた。
――身体を横に向けて避ける。すぐ横を棍棒が通り過ぎた。
そのまま一歩後退。
今度は横薙ぎに振るってきた。当たるわけない。
皺くちゃな顔を歪ませて「グギャッ!」と一鳴き、ぶんぶんと振り回すようになった。
避ける、避ける、避ける。
そんな大振りの攻撃、当たるはずがない。
私は乱れていた息を整えながら、頭を冷静に、動きを見続けた。
そして実感、再認識する。
(やっぱりあの頃の経験が生きてるんだ……)
学生時代にやり込んだVRMMO『クリーチャーハンター』、仮想空間で実際に敵を倒す、その動き。
魔物相手に初めて試してみたが、アルス相手の模擬戦と大差なく回避出来る。
しかし回避は出来ても大差ある部分も多すぎる。
例えば地面の感触、衣服の擦れ、十歳の身体による歩幅の違い、体力低下によるキレ、などなど。
分かってはいたけど仮想空間と現実世界の差は大きい。
でも敵を見られるし、身体を動かす感覚も分かる。
ブランクからか微妙に遅れたり間合いが遠すぎる時もあるけど、これは今後の課題だ。
徐々に取り戻さないといけない。
私が『クリハン』で使っていたアバターは『回避特化の大剣使い』。
受けて防御するのも、遠距離から攻撃するのも苦手だ。
そもそも武器じゃない鉈を持ち、少女という生身で実在するゴブリンを相手にしているのだから、色々と無理がある。
だから前に出て避け続けるというのは今の自分に出来る精一杯。
本当は避けながら大剣で攻撃したいところなんだけど……。
左手の鉈をグッと握る。
ゴブリンの攻撃を躱した隙に、腹目がけて鉈を薙いだ。
――ガッ!
(傷もつかないとか……! 物理法則仕事しろ!)
木に食い込むような鉈の攻撃が、ゴブリンにはまるで通じない。
木よりも硬い皮膚をしているわけじゃあるまいし――これだから異世界はっ!
そもそも鉈……って言うか片手剣の使い方って苦手だ。大剣とは慣れ方が段違い。
なるべく大きな鉈にしてもらったけど、とても大剣とは言えないサイズだ。
重さも間合いもまるで違う。
おまけに攻撃が通らないとなれば、これはもう防御に使うしかないね。
それも、『受け』じゃなくて『逸らし』くらい。
武器じゃない鉈がゴブリンの棍棒を受けようものならすぐに破壊されそうだし。
(後はこっちのスタミナが切れる前に終わらせる……!)
ゲームとの最大の違いは『実際に疲れる事』だと思う。
スタミナゲージがあるわけでもない。体力のステータスがあるわけでもない。
そして実際に戦っていればどんどん疲れて、回避も甘くなる。動けなくなる。
これはいくらゲームの戦闘経験があっても大問題だ。
私としてはもうこれだけで今日一番の収穫と言えるほど。
だから回避訓練もそこそこに終わらせよう。
私は相変わらず大振りなゴブリンの攻撃を避けたと同時に、超至近距離から右手を向けた。
「<毒弾>!」
ビシャンとゴブリンの身体に付着した毒水は、あっという間にゴブリンの身体に吸収されたように見えた。
よし、これで毒ったはず。
あとは数分間、避け続ければ――
――そこで私に異変が起きた。
7
あなたにおすすめの小説
【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~
シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。
前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。
その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜
ケイソウ
ファンタジー
チビで陰キャラでモブ子の桜井紅子は、楽しみにしていたバス旅行へ向かう途中、突然の事故で命を絶たれた。
死後の世界で女神に異世界へ転生されたが、女神の趣向で変装する羽目になり、渡されたアイテムと備わったスキルをもとに、異世界を満喫しようと冒険者の資格を取る。生活にも慣れて各地を巡る旅を計画するも、国の要請で冒険者が遠征に駆り出される事態に……。
ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?
八神 凪
ファンタジー
ある日、バイト帰りに熱血アニソンを熱唱しながら赤信号を渡り、案の定あっけなくダンプに轢かれて死んだ
『壽命 懸(じゅみょう かける)』
しかし例によって、彼の求める異世界への扉を開くことになる。
だが、女神アウロラの陰謀(という名の嫌がらせ)により、異端な「回復魔王」となって……。
異世界ペンデュース。そこで彼を待ち受ける運命とは?
政治家の娘が悪役令嬢転生 ~前パパの教えで異世界政治をぶっ壊させていただきますわ~
巫叶月良成
ファンタジー
政治家の娘として生まれ、父から様々なことを学んだ少女が異世界の悪徳政治をぶった切る!?
////////////////////////////////////////////////////
悪役令嬢に転生させられた琴音は政治家の娘。
しかしテンプレも何もわからないまま放り出された悪役令嬢の世界で、しかもすでに婚約破棄から令嬢が暗殺された後のお話。
琴音は前世の父親の教えをもとに、口先と策謀で相手を騙し、男を篭絡しながら自分を陥れた相手に復讐し、歪んだ王国の政治ゲームを支配しようという一大謀略劇!
※魔法とかゲーム的要素はありません。恋愛要素、バトル要素も薄め……?
※注意:作者が悪役令嬢知識ほぼゼロで書いてます。こんなの悪役令嬢ものじゃねぇという内容かもしれませんが、ご留意ください。
※あくまでこの物語はフィクションです。政治家が全部そういう思考回路とかいうわけではないのでこちらもご留意を。
隔日くらいに更新出来たらいいな、の更新です。のんびりお楽しみください。
[完結]前世引きこもりの私が異世界転生して異世界で新しく人生やり直します
mikadozero
ファンタジー
私は、鈴木凛21歳。自分で言うのはなんだが可愛い名前をしている。だがこんなに可愛い名前をしていても現実は甘くなかった。
中高と私はクラスの隅で一人ぼっちで生きてきた。だから、コミュニケーション家族以外とは話せない。
私は社会では生きていけないほどダメ人間になっていた。
そんな私はもう人生が嫌だと思い…私は命を絶った。
自分はこんな世界で良かったのだろうかと少し後悔したが遅かった。次に目が覚めた時は暗闇の世界だった。私は死後の世界かと思ったが違かった。
目の前に女神が現れて言う。
「あなたは命を絶ってしまった。まだ若いもう一度チャンスを与えましょう」
そう言われて私は首を傾げる。
「神様…私もう一回人生やり直してもまた同じですよ?」
そう言うが神は聞く耳を持たない。私は神に対して呆れた。
神は書類を提示させてきて言う。
「これに書いてくれ」と言われて私は書く。
「鈴木凛」と署名する。そして、神は書いた紙を見て言う。
「鈴木凛…次の名前はソフィとかどう?」
私は頷くと神は笑顔で言う。
「次の人生頑張ってください」とそう言われて私の視界は白い世界に包まれた。
ーーーーーーーーー
毎話1500文字程度目安に書きます。
たまに2000文字が出るかもです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる