ぽぽぽぽいぞなぁ!~物騒すぎるジョブになっちゃったので、私、スローライフは諦めます~

藤原キリオ

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第一章 毒娘、冒険者になる

09:調子こいてた新人ですがゴブリンに殺されそうです

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「ゲギャギャギャ!」


 ゴブリンたちは私の後ろを追ってきている。
 数は六体。どれも棍棒みたいな木の棒を振りかざし、ピョコピョコと跳ねるように森の小道を走る。

 魔物と戦闘した事のない私は思わず逃げ出したが、ゴブリンからすれば人間の小娘が自分たちを見て逃げているわけで、享楽的に追いかけるには十分な理由だったらしい。

 愉悦・欲・本能、そんなものを背後からひしひしと感じながらの逃避行だ。


 ここまで少し追いかけっこして分かった事がある。
 まず私の『敏捷:33』という値は、ゴブリンよりも相当速い。
 森の中じゃなくて平原だったら、もしくは私が森に慣れていれば逃げ切るのも可能だろう。

 しかし私は森に慣れていないし、ここは木々が入り組み足元も悪い。

 マイナスイオンたっぷりで吸い込む空気が気持ちいい森だ。
 魔物たっぷりでハアハアと息急き切って走る森だ。


 そう、何が不安ってこのハアハア言ってる状態――つまり体力なのよ。

 いくら敏捷が高くても持久力で負けてるんじゃないかと。
 というか魔物に持久力とかスタミナとかいう概念がそもそもあるのかと。

 ステータスには体力とか持久力とかいう表示はない。
 だから体力をつけようと思ったら地道に走り込みとかしないとダメかもしれん。
 レベルを上げるだけではダメかもしれん。
 そんな一抹の不安がよぎる。


 いくらこちらが速くても、バテたところでゴブリンに襲われたら死ぬ。
 だからやっぱ今のうちに何とか対処しないといけないんだよね。


「ハァッハァッ! 考察も訓練もしないで本番とかっ! 勘弁して欲しいんですけどっ!」


 そう言いながら後ろを振り返る。
 30mは離れてるか。でも一向に追うのを止める気配なし。

 私は魔法を使ったことなどない。魔法を使う仕組みも分からない。

 もしかしたら、やれ「体内の魔力を感じろ」だとか、やれ「魔素を感じろ、イメージだ」とか必要なのかもしれない。
 魔力操作的なサムシングが。

 でもそんなの今考えても無理なので、とりあえず右手を先頭のゴブリンに向ける。


「頼むよ! <毒弾>!」


 かくして願いは叶った。
 私の伸ばした右手の先に野球ボールほどの紫の塊が現れたかと思うと、それはプロ野球のピッチャーさながらにゴブリンへと放たれたのだ。

 内心はしゃぐ。おおっ! ホントに出た! 魔法じゃん! と。

 紫の塊はゴブリンの顔面にベチャッとヒットし、まるで綿に水が吸収されるが如く、紫の水はゴブリンの表皮に吸い込まれるように消えた。

 当てられたゴブリンは殴られたような衝撃に少し立ち止まったが、当てた事でのダメージはないようだ。
 すぐに他のゴブリンと共に私を追いかけ始める。


「ダメージなし!? 毒は!? かかってるの!?」


 見た目の変化が分からない。
 そりゃそうか。ゲームみたいに紫バブルのエフェクトが出るわけじゃなし。

 なんとなくゴブリンの皺くちゃな顔がさらに歪んでるように見えるけど、単純に怒ってるだけかもしれない。
 毒状態が分からないのは盲点だったわ。

 と、そんな考察している暇はない。
 慌てて私はステータスを見る。


―――――
MP:25→23
―――――


 2減った! <毒弾>一発でMP2消費か!
 あと十一発は撃てるって事だね!
 いや五分でMP1回復だから逃げながらならもっとか!

 そして追いかけっこ再開。
 少し距離を離して<毒弾>を打つ、また逃げるを繰り返す。

 時々振り返りながらだから、最初に<毒弾>を当てたゴブリンがどれだか分からない。
 適当に先頭に居るやつに当てる。


 ……五分後。

 グギャと声を残し、ゴブリンの一体が倒れた。


「よぉしっ! ハァッ、ハァッ!」


 それから少し、続けて四体が倒れた。
 やっぱ毒効いてたんじゃん! 良かった! これで効いてなかったら死んでたよ!

 安堵して座り込みたいところだが、あと一体残っている。
 おそらく後方に居て今まで<毒弾>を当てられてないヤツだろう。
 残りMPは11。じゅーぶん! 私は足を止め、生き残りゴブリンに相対する。

 毒が効く事も分かった。ゴブリンの素早さも分かった。
 もう恐れる事はない。これはフラグではない。

 実験につきあってもらうよ! ゴブ太郎!


 左手に鉈を構えた私はゴブリンと対峙する。
 ゴブリンは仲間が倒れた事も気にしないようで、走る速度のまま棍棒を振り下ろしてきた。

 ――身体を横に向けて避ける。すぐ横を棍棒が通り過ぎた。

 そのまま一歩後退。
 今度は横薙ぎに振るってきた。当たるわけない。


 皺くちゃな顔を歪ませて「グギャッ!」と一鳴き、ぶんぶんと振り回すようになった。

 避ける、避ける、避ける。
 そんな大振りの攻撃、当たるはずがない。

 私は乱れていた息を整えながら、頭を冷静に、動きを見続けた。
 そして実感、再認識する。


(やっぱりあの頃の経験が生きてるんだ……)


 学生時代にやり込んだVRMMO『クリーチャーハンター』、仮想空間で実際に敵を倒す、その動き。
 魔物相手に初めて試してみたが、アルス相手の模擬戦と大差なく回避出来る。

 しかし回避は出来ても大差ある・・部分も多すぎる。

 例えば地面の感触、衣服の擦れ、十歳の身体による歩幅の違い、体力低下によるキレ、などなど。
 分かってはいたけど仮想空間と現実世界の差は大きい。

 でも敵を見られるし、身体を動かす感覚も分かる。
 ブランクからか微妙に遅れたり間合いが遠すぎる時もあるけど、これは今後の課題だ。
 徐々に取り戻さないといけない。


 私が『クリハン』で使っていたアバターは『回避特化の大剣使い』。
 受けて防御するのも、遠距離から攻撃するのも苦手だ。

 そもそも武器じゃないなたを持ち、少女という生身で実在するゴブリンを相手にしているのだから、色々と無理がある。


 だから前に出て避け続けるというのは今の自分に出来る精一杯。
 本当は避けながら大剣で攻撃したいところなんだけど……。


 左手の鉈をグッと握る。
 ゴブリンの攻撃を躱した隙に、腹目がけて鉈を薙いだ。

 ――ガッ!


(傷もつかないとか……! 物理法則仕事しろ!)


 木に食い込むような鉈の攻撃が、ゴブリンにはまるで通じない。
 木よりも硬い皮膚をしているわけじゃあるまいし――これだから異世界はっ!

 そもそも鉈……って言うか片手剣の使い方って苦手だ。大剣とは慣れ方が段違い。
 なるべく大きな鉈にしてもらったけど、とても大剣とは言えないサイズだ。
 重さも間合いもまるで違う。

 おまけに攻撃が通らないとなれば、これはもう防御に使うしかないね。
 それも、『受け』じゃなくて『逸らし』くらい。
 武器じゃない鉈がゴブリンの棍棒を受けようものならすぐに破壊されそうだし。


(後はこっちのスタミナが切れる前に終わらせる……!)


 ゲームとの最大の違いは『実際に疲れる事』だと思う。

 スタミナゲージがあるわけでもない。体力のステータスがあるわけでもない。
 そして実際に戦っていればどんどん疲れて、回避も甘くなる。動けなくなる。

 これはいくらゲームの戦闘経験があっても大問題だ。
 私としてはもうこれだけで今日一番の収穫と言えるほど。
 だから回避訓練もそこそこに終わらせよう。


 私は相変わらず大振りなゴブリンの攻撃を避けたと同時に、超至近距離から右手を向けた。


「<毒弾>!」


 ビシャンとゴブリンの身体に付着した毒水は、あっという間にゴブリンの身体に吸収されたように見えた。

 よし、これで毒ったはず。
 あとは数分間、避け続ければ――











 ――そこで私に異変が起きた。


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