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第二章 毒娘、王都デビューする
43:とりあえずニート娘を冒険者仕様にします
しおりを挟む■ネルト 【ニートの魔女】 10歳
私はとある小さな町の孤児だった。
両親の事は知らない。孤児院のシスターが親代わりだった。
孤児院が合わさった、よくある教会。何人かのシスターの元には私と同じような十人以上の孤児が居た。
私は昔から他人と話すのが苦手だった。
よく「ちゃんと喋れ」とか「大きい声で喋れ」とか「何考えてるか分からない」とか色々言われた。
シスターにはどうやら私が孤児となって心を病んでしまったから感情表現が出来なくなってしまった、と思われていたらしい。
そんな事を話しているのを部屋の外から聞いた事がある。
うーん、自分ではそんな風には思ってないんだけど……確かに感情とか思ってる事を表に出すのは苦手だとは思う。
でも不機嫌でもないし陰湿でもないし、実は元気いっぱいなんだけどね。どうもそうは見られないらしい。
ともかく行動力のある子供が多い孤児たちの中で、一歩外れた存在。無表情で不気味、時折幼すぎる行動をとる子供、そんな印象をまわりは持っていたようだ。
そのくせ人一倍食べる。それは自覚している。
一応気を使って量を減らしていたつもりだったが、シスターたちからすれば「必要以上によく食べる子供」と見られていたと思う。
それでも優しいシスターたちは私を他の子どもと同じように接してくれた。分け隔てなく、それもまた個性の一つと。
でもどこか、シスターたちからもみんなからも変な目で見られているという自覚もあった。
実際に虐められたりとかはないんだけど、私の食事で孤児院のお金が余計に減るっていうのは、私自身がつらかった。
やがて教会裏からの抜け道で町の外に出ることが多くなった。たった一人、魔物の蔓延る森の中へ。
魔物から隠れながら、ひたすらに食せるものを探した。
草や木の実、茸に果物。たびたび腹痛に苛まれることがあったが、それを学習し食べられるもの、食べられないものを覚えていく。
今にして思えばとんだ野生少女だね。でもそれくらいしか私には出来ないと思っていた。
そうしてその分、孤児院での食事量を減らしていた。
十歳になり『職決めの儀』で固有職と判明した。
シスターたちは喜んだ。固有職というのは希少な職だ。
世界に一人しか居ない。王都に行って学校という所に入り無料で生活できる。そんな特別な職。
だからみんな喜んだ。
お金に苦しむ孤児たちの中で、国に未来が約束されたのだからシスターたちの喜びも当然だろう。
シスターたちが喜ぶのを見て、私も喜んだ。ああ、喜ばしいことなのだと。
すぐにでも王都に向かおうと決めた。
ここに居れば居るだけ、孤児院にとっては負担となる。だから早くに発とうと。
お金はない。馬車などは使えない。
でもさんざん森を歩き回った足がある。森に行けば食料もある。
何日かかろうが王都へたどり着ける。そんな自信があった。
……まぁその自信も、拉致られるまでの話だったけど。
森で食べ物を探している時に魔物に遭わなかったのは運が良いだけだったんだなぁ。
町の外には魔物以外にも危険な事はいっぱいあるんだなぁ。
そして――王都の人たちって思ってた以上に小食なんだなぁ、と。
まさか学校の食事が孤児院より少ないだなんて……。
■ピーゾン 【毒殺屋】 10歳
そんな割と重めの話を無表情でモフりながらされてもねぇ……。
何と言うか、感情移入できないと言うか。「お、おう」としか言えないのよ。
苦笑いのまま、その日の食事は終了した。尚、ネルトはたらふく食っていた。
翌日、私たち三人は宿での朝食を普通にとり、いざ出発。
まずはネルトの装備を整えに、マリリンさんのファンシーショップへと向かう。
向かう途中にある屋台でネルトの朝食を買い足ししながら……。
当然のように宿の朝食だけでは足りなかったらしい。
私たち、新人のくせに金持ちパーティーで良かったね、ホント。
昼食分も含めて余計に買うようにしよう。魔法の鞄があって良かった。
「ネルトさんって三人分くらい食べるんですね……」
「ん? もっといける」
「食べようと思えばってこと?」
「ん。食い溜めは得意」
大量に食べて三日間絶食でも大丈夫なんだとか。便利な特技だ。
しかし大量に食べずとも常人の三倍は食べると……やっぱ便利じゃないわ。
ともかくこの娘にお金を預けておくと全て食事に消えそうなので、山賊から強奪して分割していたお金をパーティー資金として没収しました。
もちろんネルトも了承の上でね。
「ん。あのお金はパーティーで使うべき。私はお小遣いで十分」
との事で、今現在のパーティー資金は金貨一三枚。
ネルト用の背嚢やら水袋やらも欲しいし多少の余裕は欲しいので金貨十枚としてネルトの装備を調達しようと目論んでいる。
まぁ私の魔法の鞄とかネルトの生活魔法があれば大抵のものはいらないんだけど、手ぶらでいたらさすがに目立ち過ぎるからね。
えっ今さら? だったらウサミミどうにかしろ? いやいやいや……。
ファンシーショップ・マリリンは中央区の裏通り。ほどよく近い。
さっそくとばかりにパステル調のお店に入る。
「あらぁ~お嬢ちゃんたちじゃない。また来てくれたの~?」
「こんちわ、マリリンさん」
「うふふ、もしかして新しいお友達? これまたかわいいわね~」
初見のネルトはお店の雰囲気に「おお」と驚き、マリリンさんの風貌を見て「おお」と驚く。そしてモフモフコーナーを見ると「おお」と近づいた。
「もふもふ……もふもふ……」
「あらぁ、お嬢ちゃんはモフモフが好きなのね~。いい子ね~」
「ネルトは【魔法使い】なんですけど、何かオススメありますかね?」
「そうね~」
マリリンさんには固有職だと言ってないので一般職で伝えておく。
まぁ【魔女】も【魔法使い】も同じようなもんでしょ。
……ただポロリンの『セクシー縛り』みたいに『ニート縛り』とかあったら困るんだが。
ニートの装備って何だ? ジャージ? スウェット? そんなもんないしねぇ。
「予算は金貨十枚ね~……これなんてどうかしら?」
「おお」
「おおっ、モフモフローブ!」
「真っ黒ですね、このお店にしては珍しい……」
マリリンさんが取り出したのは猫耳フードがついた真っ黒のローブ。
もちろん私のウサウサ装備と同じくモフモフ。丈が長いから尻尾付きである。
それと【魔法使い】用の杖。こちらは木製っぽいけど先端が握られた猫の手の形をしている。
ローブがファンシーショップに似つかわしくない黒色なのは材料の関係らしい。
せめて黒猫にする事でファンシーさを維持したのだとか。
「ネコネコローブとネコネコロッド。付与は<MP回復増進>と<消費MP軽減>ね~。お値段が控えめだから効果も低めなのよ~ごめんね~」
「買います」
「ん」かっくん
「いやいや、魔装具のローブと杖がセットで金貨十枚って安すぎですよ!?」
試しにネルトに着させてみたけど、装備はできるらしい。
モフモフの黒猫だ。
ポロリンのチャイナが金貨一五枚ってのもかなり安いはずなのだが、このネコネコセットは本当に安い。お店が潰れないか心配になるわ。
……日本円換算だと百万円だけど。麻痺してくるなー。
「大丈夫よ~副業の付与依頼がたくさんあるからね~。ホントは本業のデザイン一本でやっていきたいんだけど~」
「(副業の方が本業だと思うんですが……)」
「(【上級魔装技師】だから依頼は多いんだろうなぁ……)」
「それにあなた達が活躍してくれればきっとファンシー好きなコも増えるはずだわ~。言わば先行投資ってとこね、うふふ~」
そう言われると責任重大だなー。
つまり私がファンシー界のファンションリーダー、この世界の「素材の色味を大事に」文化を変えていく存在になるのか!
そうしてやがて国中にパステルカラーが流行りだす……だして欲しい。
―――――
名前:ネルト
職業:ニートの魔女Lv1
武器・ネコネコロッド(魔力+15、消費MP軽減)
防具・ネコネコローブ(防御+10、抵抗+10、MP回復増進)
―――――
それから私たちは冒険者ギルドへと向かう。同じ中央区だからけっこう近い。
目的は依頼を受けることじゃなく、ネルトの登録とパーティー申請だ。
ちなみにネルトは試着したままずっとネコネコ装備を着ている。
気に入ったらしい。確かに可愛いからね、モフモフの黒猫。仕方ないね。
通りを歩いていても注目されたが、ギルドに入るともっと注目を浴びる。
まだ朝一の混雑が残っているらしい。マリリンさんのお店で時間潰せたと思ったが甘かったようだ。
「お、おい、【輝く礁域】に新人が入るのか!?」
「ウサギの次は黒猫かよ……パーティーのコンセプトなのか?」
「また可愛い女の子とか……まぁポロリンちゃんの圧勝だが」
「ウサギと猫が居ても可愛さで勝っちゃうポロリンちゃん素晴らしい」
……こっちを見てヒソヒソとしているが、いまいち内容までは分からない。
どうせ陰口の類だろう。新人のくせに目立ちすぎだ、みたいな。
私は目立ちたくないんですよ? ただ可愛い装備を身につけたいだけなんです。そこを声を大にして言いたい。
周りの有象無象を無視しつつ私たちは朝なのに空いている登録窓口に進んだ。
大人しそうな受付嬢さんにネルトの新規登録をお願いする。
記入した登録用紙を見て、受付嬢さんが首をひねった。
「(ニートの魔女……ニート?)……分かりました。説明は個室で致しましょう。こちらへどうぞ」
どうやら戦闘職の固有職だと判断されたらしい。
良かった、良かった。
私たちは受付嬢さんに続き、二階の応接室のような個室へと向かった。
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