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第二章 毒娘、王都デビューする
閑話9:とある暗躍と変質者のさらなる憂鬱
しおりを挟む■ベルバトス 【???】 27歳
「ベルバトスさん、あいつらですよ。どうやら新しく仲間を見つけたみたいだ」
受付カウンターにほど近い酒場の席。向かいに座るギャレオが小声でそう言う。
ギャレオは俺の派閥の中でも一番の舎弟と言っていい。クランの中じゃなかなか使えるヤツだ。
固有職のスキルも面白いしな。不意打ち、即発動が出来る後衛ってのは珍しい。
ギャレオには今年の新人固有職に目を付けておくよう指示を出していた。
毎年この時期になると国中から集まっては来るが、ただでさえ王都のギルドは人が多い上に、『職決め』が終わって一般職の新人も増える。
その中で固有職を見つけるってのは結構難しい。外見的な特徴があれば別だがな。
中には故郷のヤツ同士でパーティーを組んだ一般職に紛れた固有職が居たり、王都に居る知り合いの冒険者に最初から頼って上京してきた固有職も居る。
そういうのは見つけにくいし、引き込みにくい。
しかし、明らかに固有職と分かる外見だったり、らしい行動をとるヤツも居る。
ギルドで最近噂の【輝く礁域】もそんなヤツらだ。
明らかな新人二人で拠点変更。得物も見た目も、どう見ても一般職じゃねえ。
黒猫の新人が固有職なのかは外見では分からねえが、あいつら二人と組んだ時点で固有職の可能性は非常に高い。
と、思っていたら登録の説明に個室を使うらしい。こりゃ確定だな。
ギャレオを見てニヤリと笑う。なるほど良いヤツに目をつけたな、こいつは。
「三人も揃ってる固有職なんて珍しいもんだ。やつらをこっちの陣営に引き込めば少しは足しになるな」
「でもやつらクランには入らねえみてえな生意気言ってましたよ」
「だったら痛めつけて情報仕入れるだけだな。それだけで金になる」
俺たちのクランに入れて俺の派閥に入れられれば最高だ。
しかし意地でもクランに入らねえって言うなら痛めつけるしかねえ。
本当に欲しいのはそいつらの情報だからな。
ヤツらがどんな職でどんなスキルを持っているのか。
それは国が欲しがっている情報だ。どんなカスみたいな新人でも固有職ってだけで値千金の価値がある。
そいつを無理矢理聞き出してもいいし、もしくは――
「そのまま引き渡してもいいかもなぁ。その方が色々と美味い」
「ですね。あーあー、あの時大人しくクランに入ってりゃあ穏便に済んだのになぁ。ハハハッ」
そうギャレオは笑うが、全くその通りだ。
固有職に選ばれたからって調子に乗るヤツが多い。新人は特にな。
さて、そうと決まればヤツらにも声を掛けねえといけねえな。
とりあえず接触して探らないと始まらねえか……こりゃ忙しくなりそうだ。
■アローク 【???】 32歳
ピーゾンのヤツは本当に頭がおかしい。あれで十歳ってのは詐欺だろ。
精神力とか戦闘力とか思考回路とか、すでに大人以上のものを持っているのは分かっている。
これを天才の一言で片付けていいもんなのか分からねえけどな。
俺としちゃあただの天才ってんじゃなくて、全く別種の生物だと思っているが……だからこそ報告するのも難しいわけで。
ピーゾンたちが王都に来た事で俺が管理局に顔を出す事も多くなったわけだが、そのたびに色んなヤツに言われる。
「あの報告書は正しいのか?」「本当に【毒殺屋】は危険じゃないのか?」「本当にそんな娘が居るのか?」「職の習熟が早すぎる。一般職以上だ」「研究室のヤツらが連れて来いって五月蠅いんだが」
報告書を読んでも信じられないヤツらが多い。
信じ、理解した所で、余計に危険に思えるし、だからこそ未知の職を調べたいヤツだって居る。
幸いにも俺の上司は俺の性格をよく分かっているから報告書を信じてくれている。
信じた上で、その裁量を俺に任せてくれている。
それはありがたいんだが……俺の担当から外してくれるともっとありがたいんだけど……。
「バカ野郎、お前以外にあの娘に付けられるヤツなんて居るわけないだろうが」
その言葉には色々と含まれている。
ピーゾンの思考と察知能力の外から監視出来る能力を持つヤツがそもそも少ねえ。
ピーゾンが固有職である以上、やたら近づくのは止められている。管理局からも国からも。
そしてピーゾンが悪の道に走った時、それを止められる能力が必要だ。これがネック。
現段階でのピーゾンのレベル・ステータス・スキルを見ても厳しい。特に回避能力と戦闘思考力、精神力は異常だ。
そこへ持って来て、魔剣まで手に入れやがった。俺は神を呪ったね。
毒以外の攻撃手段がなかったのに、待望の物理攻撃手段。
しかもピーゾン自身が望んだのか、大剣という形状。いや大鉈か。どっちでもいいや。
ともかくそれからのピーゾンは水を得た魚のように、魔物を蹂躙している。
自分の背丈ほどの大鉈を、何年・何十年も使い込んだかのように自在に振り回している。
もはや毒を抜きにしてもAランク相当の腕前と言ってもいいだろう。【剣士】としてそこまで行ける。
だからこそ、もう俺以外に担当は考えられないと、そういう事も分かるんだが。
あいつの担当って疲れるんだよなー、精神的に。
ちょっと目を離した隙に魔剣を手に入れるし、ちょっと目を離した隙にウサギになってるし。
おまけに一緒に居るポロリンが可愛すぎるから目立つ、目立つ。
早くも冒険者ギルドの話題に上っている。今一番ホットな話題だ。
固有職は目立っちゃいけないってピーゾン自身も分かっている風だったんだがなぁ……どうしてこうなった。
もうピーゾンの性格と巻き込まれ体質、さらにポロリンと組んだ事で、これで目立つなって方が無理な話だ。
誰だって目を引く。俺だって街で見かけたら二度見する。
さらに今度はネルトまで引き込んだ。
いや、ピーゾンのパーティーに入れた方が良いって言い出したのは俺とか上司とかなんだけど。
ネルトは未知の【魔女】って事で期待される反面、魔法の内容が訳分からなすぎて経過観察みたいな所があった。
だからこそ早く能力を判明させたかったし、だからこそピーゾンと一緒にさせたかったって部分もある。
それが何というか……まさか職とスキルを知ったその日に、あれだけ考えつくとはな……。
<念力>の運用方法、<空間魔法>の能力の詳細と今後の危険性。
それは本来、研究者や学校の教諭が年月を掛けてじっくり判明していくものだ。
ネルトのレベルを上げつつ、能力に慣れさせて、その上で色々と試していく。
でないと本人が混乱するし、頭と身体がアンバランスになり、能力を十全に発揮できなくなっちまう。
ピーゾンの場合、少し話を聞いただけで、そこから先を想像し、考察し、それをごく当たり前みたいに言ったりやらせたりするもんだから、ネルト本人も「やれて当然なんだ」と言わんばかりにやれてしまう。
誰も、本人さえ考えてもいなかった結果が出る。
出て当然と思うのはそれを予想していたピーゾンだけ。
ポロリンの修行も見ていたが、やはりネルトでも同じような……いや、それ以上の事を起こしやがった。
それを指導者と言うのかリーダーと言うのか分からねえが、ともかくピーゾンがそんなヤツだからポロリンもネルトも大人しく従うんだろう。ピーゾンに任せておけば間違いないと。
そしてそれで俺の仕事は増すわけだ。ピーゾンが絶対的になればなるほど危険度は増す。
ネルトに関する報告書だって分厚くなる。報告も密になる。なのに監視しなきゃいけない。
あああああ! どうしろってんだよ、俺に!
出来ればあいつらにはしばらく大人しくしてもらって、こっちに少し余裕を持たせてもらいたい。
そんな時間は……ないんだろうな……ピーゾンとか出歩きゃ何かしら事件起こすんだろうし。
はぁ……ま、どうにかなるだろ。酒でも飲みに行こう。
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