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第二章 毒娘、王都デビューする
44:新人だからって絡んで来ないで下さい
しおりを挟む――ピコピコ。
ギルドから出た私たちを背後から付けて来るやつらが居る。
ウサミミの<気配察知>がそう言っている。
「もふもふ」
こら、やめなさい。ピコるウサミミに反応するんじゃない。
あんた買ったばかりの自前のネコミミあるでしょうが。それで我慢しなさい。
えっ、ネコミミはピコらないって? 知らんがな。今はそれどころじゃないんだよ。
「ポロリン、ネルト。歩きながら聞いて。後ろから付いてくるやつらが居る」
「えっ」
「振り返らないで。で、このまま王都から出てもそこで襲われたら堪らないから、今のうちに接触するよ。助けを呼べる街中の方がマシだから」
ポロリンがギョッとした目でこっちを見て来る。
すごく振り返りたいけど、無理矢理顔を固定させてる感じだ。
ネルトは相変わらずのポーカーフェイス。
この娘は何が起きても動じないな。拉致から助けた時もそうだったけど。
「に、逃げないんですか?」
「ギルドに居る時から目を付けられていたからね。今日逃げても明日ギルドに行ったらまた付けられるよ」
「うわぁ……ど、どうするんです?」
「相手の出方次第だけど、向こうが仕掛けてきたらポロリンはネルト守って。私が前に出るから、出来ればそのままギルドに駆け込んで欲しい」
「わ、わかりました」「ん」
ネルトのスキル検証前ってのが痛いな。
確かめないうちは戦力に数えられないし、下手にスキル使わせるわけにもいかない。
今は完全に被保護者だね。ポロリンに守ってもらうしかない。
なんでネルトを登録して早々こんな事に……って考えるまでもないか。
ただでさえ目立つ新人の私たちに、さらなる新人が入った。しかも黒猫だ。
白ウサギ+黒猫+ピンクチャイナ=目立たないわけがない。
問題はどんな目的で私たちに近づくのか、だね。
固有職だからと近づくのか、新人への勧誘か、ただのナンパか、それとも……いくらでも考えつく。
王都の大通りは人が多い。よほど集中しないと距離が離れた追跡者に気付けなくなる。
むしろ裏道に入って近づいて来てから接触すべきかな。
人が少なく、それでいてすぐに逃げられそうな場所……お、こっちの裏道でいいか。
そうして少し進むと案の定近づいてくるのが分かった。
私は立ち止まり、振り返る。
「なんだ、バレてたのか。斥候職じゃねーよなぁ、そんな大剣持ってるくらいだ」
そう言いながら近づいてくる筋肉ダルマ。
野性的なオールバックでかなりの大柄。190cmくらいあるかも。
装備には見えないシャツは前開きで自慢の筋肉を見せつけている。
そいつの一歩後ろにはあのギャル男が居る。
こいつもシャツのような軽装。とがらせた金髪と相まって非常にチャラい。
二人とも武器もなし。冒険者というよりはチーマーのような見た目だ。
私はポロリンとネルトの前に出て、布に包まれたままの魔剣を右肩に担ぐ。
「あんたも【唯一絶対】の人? 勧誘ならお断りだよ」
「そっけねえなぁ。まぁその通りなんだがな、悪い話じゃねーぜ? お前らも自分の職やスキルを把握すんのに苦労してんだろ? それに協力してやろうってのさ」
筋肉ダルマは大仰に手を広げ、そう言って来る。ニヤニヤと気味悪い。
後ろのギャル男はこちらを睨みつけるだけだ。ああん? って感じで。チャラい。
お前、少なくとも勧誘目的で来てるんなら睨むんじゃないよ。
営業職ってもんを勉強してから来い。
「いいか? 『職決めの儀』を終えたばかりの十歳が自分の能力も把握せずに冒険者になったって、すぐに死ぬぜ? これが一般職なら問題ねえ。先達がいるからアドバイスも貰える。ギルドで訓練も出来る。情報もすぐに手に入るだろうさ。強くなる為の土台が溢れてる」
そりゃそうだろうね。
正直、私が転生者じゃなくて普通の十歳児だったら、固有職になった段階で学校ルート一直線だったろうし。
少なくとも独力で職とスキルを検証して冒険者になろうとは思わなかっただろう。
「だが固有職は違え。どこにも情報はねえし、大っぴらにギルドで訓練も出来ねえ。アドバイスっつっても管理局か学校の専門教師くらいだろう。ダチが出来たってそいつが一般職なら相談も出来ねえ。頼れねえ。だから絶対に行き詰まり、結局能力の把握もできず、強くもなれねえ。冒険者として大成できるはずもねえんだ」
言ってることは正しく当たり前の事なんだけどねぇ。
「だから固有職は固有職同士で助け合ってるのさ。それが普通ってもんだ。俺たちゃお前らを手助けしようって事だ。な? 悪い話じゃ――」
「話が長いよ。私たちは勝手にやるから勧誘は結構。前も言ったけど?」
「はぁ……ったく」
「だから言ったじゃないっすか、ベルバトスさん。こいつ全然ノらないって」
「しゃーねーな、今日のところは――」
筋肉ダルマがそこまで言いかけた所で、その後方から声が響いた。
「何をしている貴様ら!」
二人が後ろを振り返る。
私たちもその声の方向を見た。
白銀の鎧と青い修道女のローブを合わせたような独特の姿。
黄金の髪を束ね上げ、青く鋭い目つきをした美人が歩いてくる。
「あ、あの人は……」
ポロリンがそう呟いた。
そう。私とポロリンはその人を知っている。
魔剣屋で見かけたAランク冒険者の――
「ベルバトス! ギャレオ! 何事だ!」
「ミルローゼ……チッ、ただの勧誘だよ。もう帰るとこだ」
ミルローゼ。挨拶を交わした時に確かにそう名乗っていた。
彼女は険しい顔つきで足早にこちらへと歩き、対して筋肉ダルマとギャル男は舌打ちしながら一歩二歩と引いていく。
筋肉ダルマは「じゃあな」を軽く手を上げ、背を向けた。大股で遠ざかっていく。
ギャル男はバツの悪そうな顔をしてからミルローゼを睨みつけ、次いで私たちも睨みつけると、筋肉ダルマの後を追って去って行った。
私たちの隣まで来た彼女――ミルローゼさんは大きな溜息を一つ、私たちに話しかけて来た。
「はぁ、まったく……君ら、やつらに変な事はされな――ん? その剣は……君は魔剣屋の時の? 確かEランクのピーゾンといったか」
おお、よく覚えているね。名前まで。
一回ちらっと挨拶しただけの新人冒険者の事なんて普通覚えてないでしょ。
と思ったら、どうやら私の魔剣(布でぐるぐる巻きの巨大な剣)が特徴的なのと、新人冒険者なのに『魔剣持ち』という印象が強かったせいらしい。
私、これが魔剣だって言ってないけどね。無駄なんだろうね。
これ持って魔剣屋に行けばそりゃそう思うか。
「あの時とは装備もまるで違うから気付かなかった。そんな装備がある事に驚きだが……」
ウサミミを見ながら若干の苦笑いを浮かべる。
ピコらせると「おおっ?」と反応した。
後ろからネルトの手が伸びて来て「もふもふ」と撫で始める。
やめなさい。あなたに反応させたかったわけじゃない。
まぁ私はウサウサ装備でポロリンもチャイナだからね。
印象がまるで違うのは認める。
しかし魔剣のインパクトは強いと。それも認める。
一通り挨拶を交わした後、改めて筋肉ダルマとギャル男に変な事をされなかったか、という話になった。
「まぁ変な事と言うか……傲慢な勧誘と言うか、恐喝に近いと言うか……」
「やはりか……すまない、身内が迷惑をかけた。やつらには厳しく言っておく」
「身内? じゃあミルローゼさんは【唯一絶対】の……」
「ああ、私は【唯一絶対】のクランマスターなんだ」
クランマスター!? トップじゃん!
聞けばこのミルローゼさんが数年前に立ち上げたのが【唯一絶対】というクランらしい。
その目的は固有職の相互協力と保護。
固有職で冒険者になるという事は非常に困難で、特に自分の能力がはっきりしないうちはろくに戦えず、かと言って自分の能力を吹聴も出来ず、相談もままならない。
だから固有職同士で協力し合い、まとまろうとクランを立ち上げたのだとか。
しかし人数が増えるにつれて派閥のようなものも出来てきた。
クランの協力で能力が使えるようになれば全能感と言うか、特別感と言うか、それによって傲慢になる者も居るそうだ。
元から『世界唯一の才能』という意味で世間的には特別視される存在だからこそ、それはより顕著になる。
筋肉ダルマの派閥はその筆頭。ミルローゼさんも頭が痛いらしい。
最近では強引な新人勧誘で人数を増やし、自分の勢力をさらに強めようとしているそうだ。
それにより『【唯一絶対】の中でも一番特別な存在』になりたいのだろうと。
特別の中の特別ですか。酷いですね、頭。
ミルローゼさんは愚痴るように続ける。
「何やらそれ以外にも怪しい動きもあるらしい。良からぬ者と接触しているとの噂もある。私も目を光らせておくが、君たちも気を付けてくれ。何かあればギルドや私を頼ってくれ」
いや、何とかしてよ。あんたリーダーでしょう。
それこそギルドや衛兵や管理局に話しておくべきでしょう。
えっ、憶測で動くわけには行かないって?
それで動かれたら迷惑なんですが?
「第一、管理局の固有職担当員は数が少ない。君たちも分かるだろうが固有職と局員の接点というのは定期的な報告に限られるのが普通だ。一個人の監視に当てるなど到底頼めるものではない」
……私、とっくに監視されてるんですがね?
……有名クランからも普通じゃないって言われるほどなんですかね、【毒殺屋】の危険性ってのは。
ミルローゼさんからは「今度改めてお詫びさせてくれ」と言われたが、【唯一絶対】には関わりたくないのでやんわり断っておいた。
クランとか入らないんで、普通の冒険者させて下さい。
スローライフとかしたいんですよ、私。
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