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第二章 毒娘、王都デビューする
45:気を取り直してニートスキルの検証をします
しおりを挟む「なんか余計な邪魔が入ったけど、今日の本題、ネルトのスキル検証やるよ」
「ん」
「だ、大丈夫ですか? もう付けられてないですよね?」
王都を出て南の森、いつも練習に使っている場所までやって来た。
木に囲まれてるけど拓けた練習場。
ポロリンはあれから、また筋肉ダルマたちが絡んでくるんじゃないかとビクついている。
その内股で怯える仕草やめなさい。あなた、筋肉好きでしょう?
ま、それはともかく今日はネルトの冒険者デビューの日。
だと言うのに依頼も受けずに検証及び特訓です。
時間を見て適当に魔物狩ったり採取したりすればいいしね。
ちなみに検証のお題はこちら。
①<空間魔法>グリッドで認識した″視認できない″空間に<念力>は働くのか
②<念力>に″物を動かす″以外の用途はないのか。具体的には攻撃・防御に使えないか。
③<念力>で自分を動かす事はできないか。
とりあえずこんな感じです。
「……なんかボクの思ってた<念力>と違う。昨日聞いた話とも全然違いますよね」
「うん、あれから私も考えたんだけどね。<念力>の可能性を」
「おー」
「ピーゾンさんの発想力って言うか、想像力って言うか……ボクらと全然違いますよね。さっき【唯一絶対】の人が言ってた″普通″っていうのとピーゾンさんが違いすぎて……」
そりゃ普通の十歳児とは違うしね。さらに言えばこの世界の人間とも思考回路は違うし。言えないけど。
まぁ固有職同士で助け合うってのは、向こうも私たちも同じなんだから勘弁して欲しい。
【唯一絶対】が固有職を集めてみんなで協力して検証や成長するのと、私があれこれアイデアを出すのは変わらないでしょう。
さて、そんなわけでさっさと検証するよ。
安心しなさい、下級MPポーションもあるぜよ。
という事で①から順に試させる。
ネルト自身が自分の能力の可能性を見出せていない現状、私が「多分こうやれば出来るからやってみて」と言えば、「出来るかも」という思考になり、結果本当に出来るようになったりする。
この『イメージによる変化』というのは結構馬鹿に出来ない。
おっさん曰く「【魔法】や【アーツ】に個人差はあっても、【スキル】に個人差はない」というのが一般常識らしいが、私はちょっと違うと思っている。
おそらく「1」から「2」にするのは難易度が高いのだろう。
しかし「0」から「1」にするのはイメージ・想像力で割と楽に補えるのではないかと思っている。
具体的に言えば、私自身が<毒弾>の大きさを調整出来ないかと強くイメージする事で変化させる事が出来た。
ポロリンの<呼び込み>に関してもイメージする事で一定方向に限った<呼び込み>が出来るようになった。
どちらも【スキル】であり、「誰でも同じようにしか使えない」「個人差のない」ものであるにも関わらず、イメージで多少なりとも変化させる事が出来たのだ。
話をネルトに戻すと、私の<毒弾>と同じようにネルトにしか使えない<念力>という【スキル】。
おそらく何も考えずに使えば、単に「物を動かすスキル」なのだろう。これは「0」が「1」になった状態。
そこにイメージを加える事で新たな事が出来るようになるかもしれない。
「0」から「新たな1」を作り出せるのでは。もしくは「1」を「2」に出来るのではないかと。
つまり――がんばれがんばれやればできるどうしてそこであきらめるんだもっとあつくなれよおおお!!! と、やらせてみるわけです。
やる気になれば何だって出来るでしょ? ここ、魔法あふれるファンタジーの世界なんだぜ?
と、やらせてみた結果。
「おお」
「へぇ~出来るもんなんですね」
「まぁこれは思ったとおりかな」(ドヤ顔)
まず『<空間魔法>グリッドで認識した″視認できない″空間に<念力>は働くのか』の検証を行った。
木の裏や茂みの中に私の魔剣を置いて、それを離れた場所から念力で動かす。
結果は成功。やはり視認できなくてもグリッドで″確認″できれば、それは動かせる。
なんでこれを一番始めに検証したかって言うと、パーティー戦闘した場合、【魔女】のネルトは後衛だ。
おそらくポロリンの後ろで戦うのが基本になる。
ポロリンが邪魔で敵が視認できない場合が出るだろう。
そうなると使えませんでは非常に困る。パーティー戦闘出来ない。
だからこの検証は必要だった。これで″確認″さえ出来れば<念力>は使えるということが分かった。
まぁこれは出来るって確信があった。
要はネルトが「動かせる」とイメージ出来るならば可能だろうと。
問題はここからだ。
ここからの検証で、実際に戦闘で使えるのかが決まる。
というわけで、次に『<念力>に″物を動かす″以外の用途はないのか。攻撃・防御に使えないか』の検証を行う。
「<念力>って透明な大きな手を動かしてるんでしょ?」
「ん」かっくん
「その手を″掴む″じゃなくて″叩く″とか″殴る″とか出来ない?」
「んー?」
<念力>がいわゆるサイコキネシスよろしく、物に干渉して動かすだけならナイフ投げでもしてもらうつもりだった。
だけど″大きな手″を動かしているイメージであれば話は変わる。
そして<念力>が【魔法】のように攻撃属性を持つものであれば、<念力>で敵にダメージを与えられるのでは、と。もしくは攻撃を防ぐ盾代わりに使えるのでは、と。
草むら相手に<念力>の手を動かすイメージをしてもらい、押しつぶしたり薙ぎ払ったりしてもらう。
慣れてきたら私やポロリン相手に試してもらう。
私もネルトの<念力>の手に触れてみた結果、透明ながら物理的な感触を実感できた。
「うわっ、ホントに透明な壁ですよ! これ押してもビクともしない!」
「トンファーで攻撃してみて」
「了解!」
「んー、魔力がもたない」
どうやら<念力>は使っている時間に対して魔力が消費し続けるらしい。
杖の効果で『消費MP軽減』が付いていてもネルトは未だレベル1だ。
本当ならもうちょっとレベル上げてから検証すべきだったんだろうね。
……だがやるがね。
休憩を挟みながら時間をかけて検証した結果、<念力>で何が出来そうか、ある程度は分かった。
・手のひらを前に出すイメージで盾になる。透明の防壁。非常に優秀。硬さが魔力依存なのか不明。
・殴って相手にダメージを与える。威力はあまりない。攻撃依存? 魔力依存? レベルを上げれば有用かも。
・物理的な感触はあるが魔力攻撃には違いない。しかし属性攻撃ではない。これゴーストとかに効くのか?
・相手の足とかを掴んで引っ張るもしくは放り投げる。上に投げれば落下ダメージ、遠くに投げれば距離が稼げる。相手の重量と投げる距離で余計にMPが減る。
・自分の真下に手のひらを出現させ、その上に乗った状態で動かせる。つまりは浮遊。密着すれば三人同時に乗ることも可能。ただし消費MPが重く、二秒でMPが切れる。
・<念力>の手を二つ出すのは不可能。常に片手状態。今後出来るようになるかは不明。
「とりあえずこんなとこかな」
「つかれた」
「お疲れさま、ネルトさん。でもなんかすごい汎用性ありますね。ボクびっくりしましたよ」
攻撃はともかく防御と行動阻害が便利な感じかな。
汎用性がありすぎてネルトが意識的に使い分けられるか不安だよ。
<グリッド>の範囲はおそらく自分の周囲50m程度。
一方で<念力>の範囲はそれより狭い。約30m。
<グリッド>で確認出来れば<念力>で動かせるというのは甘かったらしい。
それでも射程30mの魔力攻撃という事だから後衛には違いない。【魔法使い】としたら物足りないけどね。
全体的なネルトの問題点としては、やはりMPの消費が激しい事。
そして【魔法使い】枠であるはずの【魔女】だと言うのに属性魔法攻撃手段がない。
さらに<念力>の手は片手なので、範囲攻撃手段もない。
世にも珍しい『タイマン型・近中距離専門・無属性魔法使い』という事になる。
固有職ってヤツがピーキーすぎて困る。ブーメランですけどね。
ま、とりあえずは盾と邪魔をメインで練習したほうが良いかな。
ネルトを盾にしてポロリンを攻撃に集中させてもいいし。今はポロリンがメイン盾だけどね。
浮遊は装備の付与効果をもってしても二秒しかもたないから保留です。
緊急回避手段として自分を掴んで投げるって事もさせたいけど要練習。
パーティーとしてのダメージソースはやはり私の魔剣頼りになりそうだ。
ポロリンも盾役メインだろうし。
こうなると魔剣持ってて良かったと改めて感じる。山賊(偽)さんありがとう。
この日はそれからネルトの特訓をしつつ適度に魔物を倒し、採取をして切り上げた。
そして翌日。
待ちに待った魔剣の鞘の受け取りである。
魔剣屋は南西区にあるので、その前にギルドに寄って依頼を見る。
FランクからDランクまでで、南門近辺で達成できそうなものを探す。
EランクのコボルトとかFランクの角カエルとかが狙い目。
採取はネルトが意外と得意なのだが、見た目と植生は分かっても植物名が分からないという状態。
まぁ一人で森に入って喰い漁っていればそうなるのか。
その知識不足をポロリンの道具屋知識で補完している。いいパーティーじゃないか。
えっ、私ですか? 私毒草とか専門なんで、それ関係は任せて下さい。
あ、依頼票ありますね、頂きますね。どうして人気ないんですかね。
それから魔剣屋に向かった。ギィと扉を開けて中に入る。
「おっ、らっしゃ…………うさぎ?」
いやまぁそうなるだろうけどさ。
「おお、嬢ちゃんか! 鞘は出来てるぜ!」
そう言ってハゲ店主(名前知らない)がカウンターの奥から持ってきた。
大きくて真っ白い鞘。
「「「おお」」」
「ちょっと貸してみろ……おう、バッチリだな! あとは柄巻すりゃ、納剣してる分には魔剣って分かんねえだろ。柄巻の色はどうする?」
「ピンクで」
「……ピ、ピンクはさすがにねえなぁ。赤か黄色じゃダメか?」
「んじゃ赤で」
「よし、ちょっと待ってろ。急ぎでやるからな」
やっぱピンクはないか。染色技術はあってもピンクはないんだよなぁ。
マリリンさんのトコでは見たけど……となるとやはり需要の問題か。
それはそうと柄巻って時間かかると思ったけど、あれは日本刀だけなのかな?
鉈の柄をグルグル巻くだけならそんなにかからないのか、それともファンタジー世界特有の現象か……。
そんな事を考えながら、店内で三人してブラブラと過ごす。
と、そこで店の扉がギイと開いた。どうやらお客さんらしい。
私が言うのも何だけど、魔剣屋に来る客なんているもんなんだね。前回はミルローゼさんに会ったし。
と訝しんでいたら、入って来た人が私たちにすぐ気付く。
「ん? おや、珍しく別の客が居ると思ったら君たちか」
「あっ、貴方は……」
「ス、ストレイオさんっ! 先日はありがとうございました!」
そうだ、ストレイオって名前だ。ナイスポロリンよく覚えてた。
私とポロリンが最初にギルドに行った時にギャル男に絡まれ、それを助けてくれた貴公子風イケメンのAランク。
あれから装備も変わってるのによく気付くもんだ。
「確か【輝く礁域】だったか。その見た目のせいで最近ギルドじゃ話題らしいね」
どうやらそういう事らしい。変に知名度が上がっていると。私たちは苦笑いしか出来ない。
ストレイオさんは「目立ち過ぎてまた絡まれたりしないように」と忠告してくれる。
残念ですね、昨日また絡まれたばかりなんですよ、ええ。HAHAHA。
「しかし君たちがここに来るって事は、あの大剣は魔剣だったって事かい?」
「そう言うストレイオさんも?」
ストレイオさんは腰に直剣を佩いている。
いかにも豪奢な柄と鞘。形状はロングソードのようだ。
ここへ来て「違います」とも言えず、私の武器が魔剣という事で話を合わせるしかない。
刀身を見る事は出来なかったが、ストレイオさんは魔剣のメンテナンスの為に来たらしい。
ミルローゼさんもそうだったけど、やっぱ定期的に魔剣のメンテナンスはするべきって事だね。私も気を付けよう。
「ただでさえその恰好で注目を集めているんだ。魔剣持ちなら尚更注意は払っておくべきだよ。これは先輩としてのアドバイスだから」
「ですよね。気を付けます」
魔剣持ちを殺せば自分用の魔剣が手に入る。
そう考える輩が居るって事だろう。
もしかしたら実際にストレイオさんも襲われた経験があるのかもしれない。
「君たちの場合、それに加えて固有職なんだろ? 【唯一絶対】が狙っていたくらいだ。余計に気を付けるんだね」
「アハハ……」
あの場では「固有職じゃない」って誤魔化したけど、やっぱりお見通しか。
まぁ職の名前までは言うつもりないけど。
【毒殺屋】とか知られたら悪評が広がりまくるだろうし。
そんな感じでストレイオさんと喋っていると、ハゲ店主が綺麗に柄巻された魔剣を持ってきた。正味三〇分ってとこだろうか。
「待たせたな! 握りの確認と、鞘からの出し入れを確認してくれ……って、ストレイオじゃねえか。ちょっと待ってろ。この嬢ちゃんのが終わったら見るからよ!」
「順番で構わないよ……しかしすごい魔剣だね。片刃の大剣……いや大鉈か。初めて見るよ」
「俺だって初めてだぜ? いい客が来てくれたもんだよ」
ハゲ店主とストレイオさんを無視しつつ、出来上がった魔剣を受け取る。
完全に仕上がった魔剣を持つとテンションが上がる。おおお、と。
これが私専用の武器かぁ。ゲームとかでもユニーク武器とか嬉しかったけど、本物はそれ以上に感動ものだ。
私は鞘をたすき掛けに背負う。身長と同じくらいの魔剣が地面に付かない事を確認。
歩く分には問題ないけど左手を後ろに振ると鞘に当たるっぽい。気を付けよう。
その状態で右手で柄を握る。非常に持ちやすいね!
前は金属を握ってる感覚だったから少し怖かったんだよ。
そこから魔剣を真上にスライドさせるように抜剣し、構える。
店内だけど軽く振ってみる。よしよし。
そして納剣……あ、むずい。
上手いこと鞘の側面に刀身を持って行くのがむずい。これ練習いるなぁ。
「納める時は戦闘終了時だろ? 鞘を下ろして納めてもいいんだぜ?」
あ、そりゃそうか。でも背負ったまま納剣するのもカッコイイから練習しよう。
「親父さん、最高だよ。ありがとう」
「おうよ! またメンテなんかで持ってこいや」
「ストレイオさん、失礼します」
「ああ、くれぐれも気を付けてね」
挨拶を交わし、私は大満足で店を後にした。
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