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第二章 毒娘、王都デビューする
53:強引な新人勧誘はお断りしたんですがね?
しおりを挟むパーティーランクがDランクに上がったことで受けられる依頼が増えた。
三人で話し合った結果、冒険者らしく遠征もアリなんじゃないかという事になった。
今まで王都の周りで依頼と特訓の日々だったので、ちょっとした遠足気分だ。
ポロリンもネルトも結構乗り気。私も楽しみである。
ただ遠征と言っても王都の東西南北どこに行けばいいのか分からない為、まずはお勉強しようという話になり、今日はギルドの資料室に来たのだ。
「お爺さん、こんちわー」
「おお、ウサギの嬢ちゃんたちか。勉強熱心じゃのう」
「またお邪魔しますね」
もうすっかり常連気取りである。実際、資料室を利用する冒険者が少なすぎるのでお爺さんの覚えも良い。
馴染みの席に陣取り、前にも見た魔物と採取物の資料を引っ張り出す。
それを広げて三人で話し合いながらメモっていくわけだが、普通なら私語厳禁なんだろうね。
他に誰も居ないから許されてるんであって。
「さて、どうしよっか」
「多い」
「南がアルフェト山、東がベット湿地、北がミガンマ森林とタデル鉱山、西がシープロ砂漠……数日圏内だとこの辺りかな」
王都の周りは平野だけど少し離れたら環境が結構変わる。
環境の変化に伴い住んでいる魔物も変わるし、採取物も変わる。
とりあえず東西南北の情報をまとめておいて、あとは依頼票を見て判断しようかという事になった。
「多い」
「すごい量になりそうですね、メモ……」
「いずれは勉強しないといけないんだからね。三人で手分けして頑張りましょう」
そうしてまたも数時間かけて情報をまとめた。
すでに昼過ぎだ。ネルトのお腹は大丈夫なのだろうか。あ、食い溜め出来るんだったわ。
慣れないデスクワークをしたことで身体はバキバキ。
「気晴らしに特訓でもしようか」と言うと二人は喜んで諸手を上げた。
……自分で言ってなんだけど特訓は気晴らしにするものじゃないんだよ?
特訓中毒なのかな? 戦闘中毒なのかな?
資料室がある二階から一階へと階段を下りる。
ピコピコ。うーん……。
「どうしたの? ピーゾンさん」
「とりあえずギルドを出るよ。屋台で昼ご飯食べて、そのまま南門に行こう」
「う、うん」
ギルドに来た時にもそうだったんだけど、私の<気配感知>に数人の悪意が反応してるんだよね。最近とんと少なくなったのに。
で、数時間も資料室に籠って、下りてきたらまだ居た。
これもう完全にロックオンされてるんじゃないかと。
ギルドを出ながら、二人に小声でそう話した。
「ええっ!? ほ、ほんとに!? また【唯一絶対】の……」
「いや分かんない。顔見たわけじゃないしね。ネルト、一応<ホークアイ>使って時々見ておいてくれる? 付けて来るかもしれないから」
「ん」かっくん
大通りを歩きながらピコらせるが、こうも人通りが多く、尚且つお目当ての下手人と距離が離れると<気配察知>も難しい。
前に筋肉ダルマたちに絡まれた時は「後ろを付いてきている」って感じだったけど、今回は「ちゃんとした尾行」な感じ。
気配も距離も人数もあやふやで何となくしか分からない。
ネルトの<ホークアイ>も人混みだと難しいだろうけど、念の為頼んでおく。
そして私たちは普通を装い、屋台でお気に入りのナンサンド的なものを食べ、南門へと向かう。
すでに私の<気配察知>では分からない。あとはネルト次第か……。
南門を出て平原を歩く。いつもの訓練場である森へと続く道。
見通しの良いここならば……
「ん。分かった」
でかした!
「この前の【唯一絶対】の二人」
「うわぁ」
「性懲りもなく……」
しかしネルトは言葉を続けた。
「それと……六人」
「六人!? あの二人のほかに!?」
「ネルト、そいつらの風貌は分かる? 歩きながら説明して。ポロリンも後ろ向いちゃダメよ。平静を装って」
「う、うん」
聞けばギャル男と筋肉ダルマの他に六人居て、そいつらは普通の冒険者っぽい見た目だと言う。
ローブを羽織った【魔法使い】風のヤツが一人、弓を背負ったのが一人、あとの四人は軽装鎧。剣を佩いている。
そう聞くと普通の冒険者パーティーっぽい。
むしろ普通すぎてギャル男たちと雰囲気が違いすぎる。
となると六人は【唯一絶対】じゃないのか?
雇われたのか、手下なのか、それとも……。
いや、八人全員が固有職だと思ってたほうがいいのかな。
「ポロリン、ネルト。森に入るのは止めて手前の平原で訓練するふりをするよ。多分戦うことになる」
「えっ、う、うん」「ん」かっくん
「作戦はこうだよ、まず私が――」
私たちは歩きながら作戦会議をした。
まぁ会議って言っても私からの一方的な指示だけどね。
ポロリンとかテンパってるから命令しないと動かなそうだし、覚悟決めてもらわないと。
そうして森の手前で訓練のフリをしていると案の定、奴らが現れた。
三人で固まる私たちの対面に筋肉ダルマとギャル男。
徐々に包囲するように広がる六人。左右に三・三で分かれている。
「ずいぶんと勧誘熱心なんだね、【唯一絶対】は」
「けっ! 相変わらずの減らず口だな、ウサギ。どうせ付けてんのは分かってたんだろ? 逃げなかった事は褒めてやるぜ」
「さあね、逃げるまでもないって事じゃないの?」
「てめえっ!」
筋肉ダルマとの舌戦から始まった形だけど、先にキレたのはギャル男だった。
それを筋肉ダルマが制す。もうギャル男が下っ端小悪党にしか見えない。
「クランマスターのミルローゼさんが言ってたよ? 二人が怪しい動きをしてるって。目ぇ付けられてるのによくやるよね」
「安心しろ、これが終われば国から出るさ。お前らが最後の獲物だよ」
『国から出る』『獲物』……か。
筋肉ダルマはニヤリと笑って続ける。
「お前らの選択肢は二つだ。大人しく俺らと来るか、痛い目を見て運ばれるか」
つまりは身柄確保が狙いか。
もう勧誘どうこうとか【唯一絶対】の派閥がどうこうじゃないね、これ。
固有職は五年経っても国から出るのに手続きとか必要なはず。一般職のように自由な行動はとれない。
それにギャル男とか十五歳を超えているか微妙なラインだと思う。
もし王都拠点五年の義務を終えてなければ国外とか無理に決まっている。
なのにジオボルト王国から出ると言う。不法に。私たちも拉致って。
これはあれか? この六人ももしかして……
「――固有職狩り?」
無表情で剣に手を掛ける周りの男たちを見回すと、微妙に笑うやつが居た。反応アリか。
追い打ちをかけよう。
「なんだ、帝国の犬か」
その言葉にピクンと反応する者が幾人か。
固有職狩りが帝国の手先だってのはアロークのおっさんの予想だったんだけど、どうやらビンゴらしい。ラッキー。
「ちいっ! てめぇ……どこまで知ってやがる。とんだガキだぜ」
「さあね。私は十歳の新人冒険者だよ」
「ほざきやがれ! てめえら! 遠慮はいらねえ! 叩き潰せ!」
筋肉ダルマのその声で六人の男たちが剣や弓を構えた。三人で固まる私たちを囲むように。
私は筋肉ダルマと話しながら、すでにポロリンとネルトにサインを送っている。
想定の二番。作戦は分かってるよね? 大丈夫だよね?
もう確かめることは出来ない。二人を信じるしかない。
私は私で仕事をしよう。
狙いは……!
■ベルバトス 【???】 27歳
【輝く礁域】とかいう珍妙なガキどもは日に日に注目度を増している。
正直、こちらの予想以上の早さで名を広めていると言っていいだろう。
ランクも二人がDになっちまった。早すぎる。
固有職だという事を考慮すればより早い。
仮に【唯一絶対】に入れた新人が俺ら先達からアドバイスを受け、自分の能力をものにし、結果を出すとして、一般職以上に時間が掛かるのが当たり前。
だと言うのにこいつらは……!
これ以上時間を掛けるのは無理だ。ギルドの注目度が高すぎる。
こっちも早くに動く必要がある。
そうして俺とギャレオは秘密裡に接触している帝国の固有職狩りに持ち掛けた。
ガキを三人、帝国に売るから捕らえるのを手伝え、と。
「ほう、固有職の貴様らでも捕らえられないという事か? まぁいい。我々も協力しよう」
帝国の一般職のくせして生意気なヤツらだ。固有職でもねえくせに……!
俺だってBランクだ。職の能力を完全にものにしている自信もある。
三人だろうが新人相手に負ける要素はねえ。
しかし油断するわけにもいかねえ。ヤツらはオークキングを倒したらしいからな。
どうやったのかは分からねえが、新人の働きじゃねえ。おそらくイカつい能力を有しているんだろう。
見た目で判断するなら『剣士系』『武闘家系』『魔法使い系』だ。
そこにウサギだの猫だの入るから訳が分からなくなるが、職種的にはそれのはず。
バランスが良く、尚且つ未知の能力を持っているなら、俺たち二人だけじゃなく、この六人も使って確実に捕らえるべきだ。
過剰戦力になろうと傷負いにさせるよりマシだろう。
帝国に連れていくのが面倒になるだけだ。
そして目立つ三人を拉致れば、すぐにギルドでバレるだろう。
その足で俺とギャレオも帝国へと一緒に行く。
帝国では王国以上に固有職に対する優遇措置がとられているらしい。
その上でガキの捕獲報酬と【唯一絶対】の連中の能力情報を売れば金はどっさり手に入る。
笑いが止まらねえ。大人しくしているのもあと少しの辛抱だ。
俺らは八人でギルドを張り込む事にした。
そうしてその日、【輝く礁域】のガキ三人はいつものようにギルドへとやって来たのだ。
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