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第二章 毒娘、王都デビューする
55:新人だと甘く見るからこうなるんですよ
しおりを挟む■ネルト 【ニートの魔女】 10歳
固有職狩り六人。
麻痺しているのが二人、私が<念力>で倒したのが一人、ポロリンが混乱させたのが一人とそれに襲われているのが一人。
唯一無事だった【剣士】はポロリンが応戦するらしい。
じゃあそっち側はポロリンに任せよう。
私が叩いた【魔法使い】の人は気になるけど、まだ気絶してるみたいだし。
それより何とかすべきは混乱中の【弓使い】とその相手をしている【剣士】だ。
もっと何とかすべきなのは【唯一絶対】の二人なんだろうけどピーゾンが行ってるし。
ピーゾンの心配など微塵もしない。
この数日でよく分かった。あのコは普通じゃない。
常人とはかけ離れた何か異質な存在だ。
心配するだけ無駄。むしろ相手が死なないか心配するくらい。
というわけで私の次の標的は【弓使い】と【剣士】の二人。
【剣士】の人は何とか【弓使い】の人を無力化させたいみたいだけど、かと言って攻撃したくもないらしい。
腕を押さえて身体の自由を奪おうと奮闘している。
そんな二人に向けて、私はネコネコロッドを向けた。
「<グリッド><室内空調>」
<室内空調>は室内限定のスキル。屋外では使えない。
最初に宿屋で試した時は部屋の温度を好きに温めたり涼しくしたり、とても便利なスキルだと思った。
冒険者であれば野営とかするんだろうし、テントの中でも快適になるだろうなーと。
でもピーゾンの考えは違った。やっぱりあの子はおかしい。
翌日、森の訓練場で色々と試し、その考えが正しかったと知る。
「多分、こういう使い方が出来ると思うからやってみて」と簡単に言うのだ。
そして実際に出来てしまう。
私以上に私のスキルを理解し、使いこなせる事に、もはや悔しいとも思わない。
やっぱピーゾンはすごいと、素直にそう思う。頭がおかしいとも思うけど。
ピーゾンは「ただ部屋を快適にするだけのスキルなわけがない」と言い張った。
そして野外での戦闘時でも使えるようにするには、と考え始めたらしい。
野外を″室内″とする為に、まず<グリッド>を利用した。
<グリッド>は私以外には見えない透明な箱を作り、その中の事を″認識″する<空間魔法>。
箱を″部屋″と見る事によって、その中に<室内空調>を使えると分かった。
他のスキルとの併用というのは、見えない場所に<念力>を使う時に<グリッド>も使っている。
しかし私にとっても盲点だったと言わざるを得ない。
やっぱりピーゾンは私以上に私のスキルを使いこなしている。
そして野外で使える事が分かれば、それを利用して戦闘に活かせないかと試す。
色々と検証した結果がこれだ。
「な、なんだ? 急に暑く……いや、熱っ!?」
取っ組み合いを続ける【弓使い】と【剣士】の二人。
動けないのをいい事に、私は二人まとめて<グリッド>で囲み、<室内空調>を使う。
混乱していない【剣士】はすぐに気付いたようだ。
急激に温度が上がった事で、みるみるうちに汗が吹き出して来る。
驚きの表情で辺りを見回している。
多分、魔法攻撃を受けていると思っているはず。<火魔法>か何か。
でもHPにダメージはないし、周囲に魔法の痕跡も、何の変化もない。
私の<グリッド>は範囲が狭いから、その外には<室内空調>の影響も出ないのだ。
不思議そうな顔をしている【剣士】に向けてすぐに次の手。
「えっ……ぐっ……今度は急に寒く……っ!?」
溶岩地帯にでも居るかのような熱さから一転、今度は急激に寒くした。
途端に息が白くなり、歯はガチガチとうるさい。
汗で肌に張り付いた服が凍り付くような感覚があるのだろうと見るからに分かる。
そして【剣士】は膝から崩れた。
もう剣など持てない。身を縮めるようにして蹲る。
【弓使い】も混乱しているが同じように動けないようだ。
これが私たちの検証と訓練の成果。
部屋の温度を「暖かい・涼しい」とするだけじゃなく、それ以上「熱い・寒い」まで変化させられる。
「私が試せるわけじゃないけど、多分、溶岩地帯と雪山山頂くらい差があると思うよ。それをこんな短時間で操作出来るんなら温度差で人の身体は耐えられない。よっぽど心肺機能の強い魔物とかならまだしも、普通だったら心臓がやられるね。まぁ″魔法攻撃″じゃないからダメージはないだろうけど」
ピーゾンはそう言う。どうやら私が思っていたより恐ろしいスキルらしい。
グリッドの範囲が狭いから試せる魔物は限られる。
<室内空調>の温度操作に少なからず時間が掛かるから、素早い魔物とかにも向かない。
それでも止まっている人を戦闘不能にするくらいなら問題ない。
【弓使い】も【剣士】も意識があるのかも分からない状態だ。
でも気絶しているか分からないから、ちゃんと追加で攻撃はしておこう。
「<念力>」
蹲って地面に付けていた頭を、不可視の手が叩きつける。
【剣士】と【弓使い】が伏したのを見て、私は<グリッド>と<室内空調>を解いた。
ふぅ、と一息。
ポーションホルダーから下級MPポーションを出し、グビッと一気飲みする。
人相手に使ったのは初めてだけど寒くするだけで良かったかもしれないね。今日の反省会にでも相談してみよう。
さて、ピーゾンとポロリンはどんな感じかな。
■ピーゾン 【毒殺屋】 10歳
「来やがれウサギがっ!」
「ウサギを嘗めるんじゃないよ!」
ギャル男を倒した私はその足で筋肉ダルマへと向かう。
まるで「筋肉こそが俺の鎧だ」と言わんばかりの軽装。シャツのボタン閉めろと言いたくなる。
両手にはナックルを嵌めているね。
<腐食毒>でダメージ受けてないのかもしれない。
<毒雨>が当たらなかったのか、それとも結構いい武器なのか。
ただはっきり分かるのは、こいつが【拳士】系の職だという事。
まぁ私みたいに【剣士】と偽った【毒殺屋】と同じような可能性もあるけど……そんな非効率なことしないでしょ。自分で言うのもなんだけど。
少なくとも『拳』が攻撃手段なのには違いない。
「<闘気纏い>! うらぁっ!」
うわっ! なんか青白いモヤを噴き出し、筋肉ダルマの身体を包む。
モヤと言うか煙と言うか、色付きの風って感じ。
<闘気纏い>って事はこれが『闘気』なんだろう。オーラか! オーラバトラーか!
そこから繰り出される拳撃。連撃。リーチもあるし速さもある。
190cmほどの長身から繰り出される拳は、まさにヘビー級ボクサーだ。
いや、前世と違ってステータスの世界だから当然ボクサー以上の速度なんだろうけど。
「ちいっ! ちょこまかとォ!」
ま、当たらないけどね。威力と速さがあっても攻撃の出所がバレバレだから。
ジャブも使わず大振りのストレートとフックばっかだからね。ボクサー失格ですよ。
フェイントとか足技とか入ると難しくなるけど、それもなし。
オーラを全身に纏っているんだから蹴りだって有効でしょうに。
身体強化系の能力か、魔法効果が付与されているか、攻撃時に何かしら追加効果があるか……分かんないけど。その『闘気』ってやつ。
なんとなく冒険者じゃなくて″チンピラの喧嘩″って感じがする。
今まで魔物相手でも殴るだけで終わらせてきたのだろうか。
比べちゃ失礼かもしれんが試験官のネロさんの攻撃の方がよっぽどヤバかったよ。
ある程度筋肉ダルマの攻撃を見れたので、回避ついでにカウンターで軽く当ててみる。
殺しちゃマズイからもちろん魔剣の峰だ。
――ガッ!
かったい!? 何これ、オークキングより固いじゃん!
「効かねえよ! そんなんじゃ俺の『闘気』は破れねえ! 【闘気使い】を嘗めるんじゃねえぞ!」
ご丁寧に自分の職を教えてくれるのか……。
固有職の秘密主義はどうなったのか。
つまりは『闘気』によって防御力を上げてるってことか。いや、攻撃とか敏捷とかステータス全般かも。
『闘気』を使うのにMP消費してれば時間切れ狙うんだけど……MP使ってない可能性もわずかにある……かな?
ま、考えててもしょうがない。
やられる前にやりましょう。
覚悟はいいか? 私はできたよ!
私は魔鉈ミュルグレスを正しく握った。もう峰打ちはしない。
死にたくなかったら『闘気』切らすんじゃないよ!
――ブンッ! ブンッ! ブンッ!
「ええい! くそっ! なんで当たらねえんだっ!」
――ヒュン! ズバッ!
「があっ! てめえ……っ! やっぱその魔剣……っ!」
うん、斬れる。
私の魔剣、攻撃力が弱いって言われてたから心配だったけど、ちゃんと振ってちゃんと当てれば『闘気』の壁は抜ける。
とは言え防御力の高さはかなりのようで、斬り傷がつく程度だ。
これなら全力で斬っても死なないでしょう。
よし、もうお終いにしよう。
――ヒュン! ズバッ! ヒュン! ズバッ! ヒュン! ズバッ! ヒュン! ズバッ! ヒュン! ズバッ!
「ぐあああっ!!!」
回避しつつ右足の膝裏を中心に斬りまくった。さすがに立てなくなったらしい。
もんどりうって倒れている筋肉ダルマに向けて、左手でピストルの構え。
「<毒弾><毒弾><毒弾>……」
……ずいぶん掛かった。『闘気』は抵抗値の上昇効果もあるんじゃないか?
とりあえず麻痺った筋肉ダルマの右足に虎の子の中級ポーションをぶっかけておく。
止血だけしか効果ないだろうけどね。
慈悲だと思ってありがたく受け取りな。
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