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第三章 毒娘、色々と出会う
63:パーティーリーダーの奮闘ぶりをこっそり覗きます
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ピーゾンとロックリザードから30mは離れた。
木々に囲まれた獣道を、街道方向へと急ぐ。
先導するネルトの後ろに四人の生徒。少し離れてポロリンが手を引いたままのリーナとサフィーが居る。
シャボンとトトゥリアは完全に怯えており、ディオとマックスが勇気付けつつ歩かせていた。
しかしリーナとサフィーは後ろを振り返ったまま、なかなか足を前に運ぼうとしなかった。
無理やり引っ張るポロリンがさすがに怒る。
「リーナさん、サフィーさん! 何やってんですか! 早く逃げないと! せっかくピーゾンさんが抑えてくれてるんですから!」
「ポロリン様……わたくしはピーゾン様を置いて逃げるなど出来ません。わたくしは生徒であると同時に王女なのです。国を、国民を守らずして何が王族でしょうか。わたくしが固有職を得たその意義をここで見失うわけには参りません!」
ポロリンを見るその目は真剣そのものだ。
リーナからすれば一国民であるピーゾンを犠牲にしての撤退、そう思ったのだろう。
それはポロリンに伝わるのだが、説明するより早く逃げて欲しいとも思ってしまう。
ましてやリーナのその綺麗な顔立ちを間近に見つめられれば、言葉を失ってしまうのは男(?)のサガだ。
ポロリンは戸惑いながら、頭を掻き返答に困る。
「いや、あの、別にピーゾンさんを捨て駒にしてるわけじゃなくてですね……」
「そうですわっ! あのウサギさんを一人残しおめおめと逃げるなぞ公爵家の名折れっ! ワタクシが残りますからダンデリーナ様はお逃げなさいっ!」
今度はサフィーまでもが残ると言う。
リーナが残ると言うのならば、むしろ自分が残ると。リーナは先に逃げろと。
それがただの意地なのか、勝算があっての事なのか、ポロリンに判断は出来ない。
と言うか、二人ともさっさと逃げて欲しいと、ただそれだけなのだ。
「いや、サフィーさん、そうじゃなくてですね……」
「なぁに、ワタクシこれでも斥候役でしてよ! 足には自信がありますの! いざとなればワタクシ一人、余裕で逃げ切れますわっ! オーーッホッホッホ!」
「サフィー様、わたくしも足には自信がございます。残るのならばわたくしもご一緒いたします」
ピーゾン一人に地竜をまかせ、自分たちだけ逃げる。
そんな冒険者としては当たり前の選択をリーナは許さなかった。
王族としての矜持である。
守るべき民、しかも年下の少女を囮にして生き延びるなど恥であると。
それにサフィーが続いたのはリーナへの対抗心か、はたまた……。
いや、そんな事はどうでもいい。ポロリンはさすがにキレそうになっていた。
こっちは護衛として守らなきゃいけない。
さらにピーゾンから逃がすように指示を受けている。
かと言って道具屋の息子(?)に王侯貴族を諭すなど出来るわけがない。
可愛らしく頭を抱え数秒悩んだ結果、ポロリンは折衷案をとる事に決めた。
「ああっもうっ! ネルトさん! 四人連れて街道まで出ててくれます!? ボクこの二人と残りますから!」
「ん。まかせて」
「途中の魔物に気を付けて下さいね! さっきのイノシシとか狼とか居るかもしれないですし! こうなったらもうスキル解禁で!」
「ん。大丈夫」
意を決した表情を見せる王侯貴族に対して、道具屋の息子(?)が説得して逃がすのは不可能と判断。
ポロリンは四人の退避をネルトに護衛させ、自分は二人を守ろうと決める。
四人の護衛にネルトの索敵とスキルが役に立つ。
こちらにはサフィーが残るのだから斥候が分かれたほうが良い。
五人が遠ざかる足音を聞きながら、ポロリンはリーナとサフィーに目を向ける。
「さあ、ピーゾンさんを助ける為に行きましょう」と言っているように見えた。
ふぅと息を一つ、ポロリンは切り出した。
「先に言っておきますけど、ピーゾンさんの戦いに参戦はしません。あくまで離れて警戒するだけです。それは約束して下さい」
「なっ……! どうしてですか! 一刻も早くピーゾン様をお助けしなければ!」
「そうですわ! ワタクシたちがなぜ残ったとお思いですの!?」
「ボクたちはピーゾンさんの戦いを視認出来る距離までしか行きません。理由は近寄って見れば分かります。その代わり、他の魔物が出てきた時にはボクらで対処します。そのつもりでいて下さい」
珍しく男らしい言葉を使ったが、どう見ても真剣な目をした美少女であった。
ともかくその圧に押されたのか、リーナとサフィーはポロリンに付いて再び森の奥へと向かう。
バキバキという木々の音、ガキンガキンと打ち付けるような音。戦闘音は未だ鳴り続いている。
少し足を踏み入れた所で、木々に隙間からピーゾンとロックリザードの姿を確認出来た。
ポロリンは「静かに」と言いながら、それを見るようハンドサインを出す。
二人が戦いを見やすいように自分の前に出し、ポロリンは一歩下がる。
リーナとサフィーは木に半身を隠すようにして、それを覗き見た。
そこで繰り広げられる戦いに二人の目が見開かれる。
敵は地竜とも呼ばれるロックリザード。
対するは魔剣持ちとは言え、年下の新人冒険者。
結果がどうなるかなど火を見るより明らか……のはずだった。
「な、なんですの、あの動きは……」
「あ、あれはスキル? いえ、魔剣の能力でしょうか……」
「あーいえ、ピーゾンさん、あれが普通なんです」
ポロリンの言葉にリーナとサフィーはそろって背後のポロリンに振り返った。
美人二人の視線にポロリンは一瞬たじろぐ。こう見えて実は男の子なのだ。
「えっと、ピーゾンさんがボクたちを逃がしたのは自分が囮になるつもりじゃなくてですね…………邪魔だったんですよ」
「「邪魔……?」」
「ええ、敵の標的を自分だけに向けたほうが戦いやすい。一対一なら絶対に負けないと」
「ま、まさか……」
「そ、そんな……」
「まぁ安心して見ていて下さい。ピーゾンさんすごく強いですよ。絶対負けません」
と言うか負けそうならネルトさんもボクもすんなり後退しませんよ。
そんなポロリンの言葉が信用できるはずもなく、かと言って目に映るピーゾンの動きは異常で……リーナとサフィーは無言のまま、ただ戦いを見つめるしか出来ない。
「よっ! ――よいしょっ!」ガンッ!
「グルルウウウオオオ!!!」
「ほっ! まだまだぁ!」
これは現実なのか、この子は本当に年下の女の子なのか、リーナとサフィーからすればそれはそう思わせるものだった。
鈍重ながら鋭く強烈なロックリザードの攻撃。長く伸びる舌と破壊力のある尻尾。大質量の突進。
それを時に跳ね、時に半身で躱し、それと同時にガンッと魔剣で岩の鎧を叩く音が聞こえる。
冷や汗を流しつつ、視線は戦いから逸らす事が出来ない。
そのままサフィーは背後のポロリンに問いかけた。
「……ポロリンさん、ピーゾンさんは先ほどダンジョンは一階しか行っていないと……」
「ええ、出来たばかりのダンジョンで全一階だったんですよ。だから嘘じゃありません。それをピーゾンさん一人で攻略して魔剣を手に入れまして」
「んなっ!?」
「ダンジョンボスはどうしたのですか? まさか御一人で倒して……」
「コボルトキングだったそうです。あーと、これ言っていいのか……ピーゾンさん職の制限で武器が装備できなくてですね、今は魔剣を装備できてますけど。だからその時はスキルだけで勝ったらしいです」
「……武器なしでコボルトキングを!?」
「なんと……」
ダンジョンボスと考えればコボルトキングは弱い部類だ。
しかし仮に自分たちが単独で戦って勝てるかと言われれば否である。
それをピーゾンは武器なしで勝ったというのだ。
余程に強力な魔法か、スキルか……そうでも考えなければ不可能。
「あ、あの動きは魔装具によるものですの?」
「えーと、確かに魔装具は優秀ですけど今使ってるのはブーツの<跳躍強化>くらいだと思います。他は<気配察知>とかですから動きとは無関係ですね」
「<跳躍強化>だけで出来る動きではありませんわよ? 例えば魔剣の能力であるとか、固有職特有の回避系のスキルですとか……」
「まぁそう思われるのも無理ないんですけど、あの回避はスキルじゃないんですよ。スキルは時々放ってるアレです。詳しく説明できませんけど、大ダメージを与えるようなものじゃありません。確かに凶悪ではありますけど、言ってしまえば補助スキルです」
【毒殺屋】の情報は出せないポロリン。しかし説明するのが難しい。
本人が聞けば「ネタバレすんじゃねえよ」と言いそうだが、ポロリンとしてはこれでも秘匿しているつもりである。
ピーゾンのスキルはデバフばかりで、確かに凶悪で強力なのだが、一撃必殺というわけではない。
時間をかければ決定打になるが、あくまで補助スキルなのだ。
「ではあの動きはステータス……いえ、それだけでは説明つかないでしょう。剣の扱いにしてもわたくしの目には近衛騎士以上に卓越した剣捌きに見えます。回避能力に関しては誰とも比べようもないほどの……」
「そうですわ! 回避スキルでもない、敏捷上昇スキルでもない、魔剣の能力でもない、仮にレベルが相当高くステータスの恩恵があろうとも特別な力がなければ……」
これもポロリンは何と説明したものかと悩みながらも答える。
「本人曰く″才能″だそうですけど、ボクはそれだけじゃないと思ってます」
「才能……確かにそれもあるでしょうが……」
「はい。それは戦闘の才能とか、回避の才能とか、怖いもの知らずの精神力とか、柔軟な思考力とか、そもそも考え方が普通じゃないとか色々あるんですけど」
本人が聞いていれば「それは褒めているのか」と突っ込んでいることだろう。
「なんて言うか″戦う″って事に誰より真面目に取り組んでいるんだと思います」
「真面目、ですか」
「えっと、こないだ三人でオークの集落を潰したんですけど」
「「えっ」」
「オークが四〇体とオークキングが居まして全部倒せたんですよ。あ、もちろんオークキングはピーゾンさんですけど」
「「んなっ!?」」
それは冒険者でない二人からしても分かるありえない大戦果。
聞いただけでもBランク、いやAランクパーティーの案件だ。
それをDランクパーティー、しかも年下の女子三人が行ったという。
「それくらいボクたちも戦えるようになったって事なんですけど、ピーゾンさんもボクも、戦い始めてまだ一月ちょっと。ネルトさんに至ってはまだ十三日くらいです。あ、その時は四日目か。」
「「はあっ!?」」
それはもう本当に異常としか言えない。
確かに固有職の能力が強力な場合はある。
しかし固有職だからこそ能力やスキルの把握に時間が掛かり、まともに戦えるまで一般職よりも時間を要するのだ。
それは何より自分たちがよく分かっている。
固有職と判明してからここまで戦えるようになるまで一年以上掛かっているのだから。
そして一年以上掛けても尚、オークとの複数戦闘など考えられない。
ましてやオークキングなど……。
「ピーゾンさんは誰より深く柔軟に職とスキルを考察します。そしてそれを実戦で使えるように自分も特訓しますし、ボクらにも特訓させます。″戦い″に対してやっぱり真面目なんだと思います。ボクらが戦えるようになったのは確実にピーゾンさんのおかげですよ。ピーゾンさんが居なかったらボクなんて未だにオーフェンで籠ってるかもしれません。アハハ……」
それは戦闘狂とか戦闘中毒とかではなく″戦闘に対して真面目に取り組んでいる″とポロリンは付け足す。
実際は元・廃人ゲーマーとして趣味の延長だったりするのだが、ポロリンは良い子なので良い風に捉えてくれているらしい。
そこまで聞いたリーナとサフィーに言葉はない。
無言でピーゾンとロックリザードの戦いを見守った。
そしてややあって、ドシィィィンという豪快な音と共にロックリザードの頭が斬り落とされたのを、唖然とした顔で見るのだった。
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