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第四章 毒娘、潜り始める
95:禁域初心者ですが上級ダンジョンの洗礼を受けました
しおりを挟む初めて足を踏み入れた上級ダンジョン『禁域』。
地上部からの階段を下りた先にあるのは今までとは少し違う光景だった。
鈍く光る石煉瓦のような建材なのは、それこそ初級ダンジョン『はじまりの試練』と同じ。
しかし規模と言うか、造りが一目で違うと分かる。
「うわぁ……立派ですねぇ……」
「ん。広い」
高さ4m、幅10m以上はある地下通路。
今までに見なかった柱や梁などがあり、それが立派で、重厚感がある。
まるでお城だ。地下に造られたラスボスが居そうな城の中を歩いているような感じ。
まぁ『クリハン』的ではないけどね。あれダンジョンどころか屋内で戦う事がそもそもないし。
レトロなRPGの世界だ。
「これなら探索陣形じゃなくて基本陣形でも大丈夫かも」
「そうですね。ピーゾン様が前衛でサフィー様とネルト様が後衛ですか」
「ボクは前でいいですけどリーナさんは地図見ながらですよね? 前衛はマズイんじゃないです?」
「リーナを中衛に置いておこうか。ネルトも中衛で<グリッド>。後衛は斥候のサフィー一枚で接敵までは行こうかな」
ダンジョン探索の際はいつも2-2-1の探索陣形を基本としていた。道幅と警戒の観点でね。
でもこれだけ広いし、周りに他の探索者も居ない。
おまけに敵が強いとなればいつもの基本陣形(前衛:ピーゾン・ポロリン・リーナ、後衛:サフィー・ネルト)の方が良さそう。
ただリーナは地図を見ながらルートを決める係だから最前衛は危険だし、前衛の斥候能力が不足になるからネルトも必要だ。
そんな感じで結局は2-2-1になっちゃったけどね。
じゃあ陣形を変えようかという所で、未だ最前線で警戒していたサフィーが声を上げる。
「来ましたわよっ! 皆さん警戒をっ!」
「はやっ! もう!? ネルト!」
「ん。<グリッド>……アラクネ」
アラクネ!? ネルトの言葉に私とポロリンがギョッとする。
ベット湿地で戦ったCランクの魔物だ。それが最序盤に出て来るの!?
しかしネルトの言葉は続く。
「……が、四体」
『四!?』
「……と、大きめの蛇が五体」
『ちょっ!?』
なんだそりゃ! いきなり二組の魔物の群れかい! 『禁域』鬼畜すぎるだろ!
どうやらこの先にあるいくつもの分かれ道、四つ角の右からアラクネ、少し遅れて左から蛇が来るらしい。
「基本陣形! アラクネから倒すよ! サフィーとネルトは遠目で一発撃って、それ以降、サフィーは蛇を! ネルトはポロリンのフォロー! ポロリンがアラクネを抑えつつ私とリーナで速攻で倒すよ!」
『了解!』
「アラクネも蛇も毒は効かないつもりでいてね!」
そうして『禁域』の初戦は幕を上げた。
潜り始めてから早すぎる接敵、高ランクの魔物、その規模。
色々と驚かされたが、これが上級ダンジョンとしての『普通』なのか、氾濫の兆候があるが故の『異常』なのかは分からない。
結果で言えば、アラクネはベット湿地で戦った時よりも楽に処理できた。
あの時に比べてリーナとサフィーが加入しているし、ポロリンやネルトも経験を積んでいる。
おまけに地面がゆるいわけじゃないしね。動きやすいっていうのもある。
ポロリンが抑えつつ、私とリーナが斬る。ネルトはポロリンが崩された時に備えて<念力>の準備。それだけで終わった。
すぐ後に襲って来た蛇はフレイムヴァイパーという3m級の赤黒い蛇。
口から炎を吐いてくるDランクの魔物らしい。
が、サフィーが遠距離から<水遁>と<投擲>で攻撃しつつ、ネルトも<念力>で攻撃を加え、近くまで来た頃にはすでに瀕死だった。
アラクネを処理してすぐに突っ込み、斬るだけで終わった。
ドロップした魔石と、フレイムヴァイパーの蛇皮も運良く一つドロップしたので回収。
ふぅと一息つきつつ見回せば、みんなに安堵感が見える。
やっぱり驚きと緊張があった。『禁域』の初戦だからってのもあるだろう。
しかし結果を見れば全然問題ないとも言える。もちろん油断は出来ないが。
「ビックリしましたけど、ちゃんと戦えて良かったです」
「オーーッホッホッホ! ワタクシたちの手にかかれば敵じゃないですわ!」
「サフィー様、油断はなりません。気を引き締めて参りましょう」
「んー、あれが続くと戦ってる時も索敵が必要かも?」
感想も反省も人それぞれ。いいね。こうして言い合える環境は。
「ともかく今日は感触掴むだけにしておくから、なるべく近くの魔物だけ倒していくよ。近場の道に進んでみて何度か戦ってみよう。間引きはしなきゃいけないしね」
『了解』
♦
それから地図を頼りに、順路を通らず、脇道や行き止まり、小部屋なんかを目指して探索してみた。
もちろん二階には行かない。あくまで地下一階だけ。
分かった事は出て来る魔物がDランク上位~Cランクという事。初戦のアラクネは一階層にしては強い部類だったらしい。
種類にしても十種類以上は見た。一階層だけなのに。
そして単独で居る魔物が全く居ない。必ず複数で、群れと呼べる規模の場合もある。
さらには二~三種類の魔物の混合だったりと、そうなった場合は非常に戦いづらい。
その都度、敵に合わせて戦略を変えるような戦い方になり、指示ばっかで大変だった。
もうちょっと作戦や戦術を細かく練った方が良いかもしれない、というのが私の反省点。
私以外のメンバーにも反省点はある。
ポロリンは受けが甘く魔物を通してしまう場面もあったし、期待を込めて使った<魅惑の視線>が効かなかったりと、そうした場合のフォローも含めてポロリンだけでなく全体で考える必要性が出てきた。
白銀のトンファーだとCランクの魔物を倒すのに時間が掛かるというのも考えもの。防御だけなら問題なさそうだが。
ネルトは<ルールシュレッド>の位置取りが甘く、大してダメージを与えられない時もあった。
何よりやはり消費MPの問題がある。魔法使い系職にも関わらず、実は私の方がMPは多いのだ。
なるべくMPを使わせないようにするか、MPポーション以外の回復手段の確保か、装備でどうにかならないか考える必要があるかもしれない。
リーナは近接物理オンリーという事で全体的に安定していた。
課題を挙げるとすれば、やはり二刀流の扱い。特に<流水の心得>と<包丁術>を併用した時の扱いがまだまだ。
『クリハン』流に言わせて貰えば「当ててはいるけどクリティカルにはならず、カスダメージばかり」という状態。やはり数を熟す必要があるね。
サフィーは斥候、遠距離、近距離にと縦横無尽な活躍ぶりだったが、手札がありすぎて最善手をとるのが難しそう。
例えば初戦のアラクネ+フレイムヴァイパーの群れの時、サフィーは間近に迫るアラクネから処理しようとする。
場合によっては正解なのだが前衛が揃っている状況であれば、後方のヴァイパーに攻撃して欲しい所だ。
その辺の瞬間的な取捨選択、考え方がパーティー戦闘だと難があるように思えた。
「ですよね……失敗しました……」
「んー、どうしよ」
「訓練あるのみですね」
「仰る通り、面目ないですわぁ」
そんな話をしつつホームへの道を歩く。
反省点は多い。しかし得たものもまた多い。
適度に強い魔物との連戦、多種の魔物との混戦というのは今までにない経験だし、そこから見える反省点は得難いものがある。
経験値という意味でも非常に美味しい。
今日一日だけでも全員がレベルアップした。地下一階でしか戦っていないのに。
この依頼期間は一月なので、その間に『禁域』浅層の間引きを行い続ければどれほど上がるのだろうか……テンションが上がる。
金銭面でも美味しい。
全ての魔物が魔石を落とすというわけではないが、八割方は落とす。Cランクの魔石が大量だ。
ついでにドロップ品で素材なども落とすので、それも売れる。
地上部で普通に討伐依頼をこなし、時間をかけて解体しても普通は魔法の鞄など高ランク冒険者でなければ持っていない。
だからこそ金稼ぎにはダンジョンの方が向いていると言われるのだろう。
まぁ私たちの場合、地表での依頼にしても魔法の鞄を三つも持っていて(しかも一つはマリリンさん製)、リーナが<解体>スキル持ちなので時間的にも量的にも他の冒険者とは桁違いになるのだが。
ともかく今日一日だけでも結構な買い取り金額を叩き出した。
まさに新人にあるまじき金満パーティーと言えるだろう。ハッハッハ。
「そんなわけで装備を整えるのも手だと思うんだけどね。具体的にはトンファーと、ポロリンの外套、ポロリンとネルト用の魔法の鞄」
「ええっ!? このトンファー、まだ買って一月も経ってないんですけど……」
大事そうに握るのやめなさい、はしたないですよ。
でもかなり愛着があるらしく、買い替えはあまり乗り気ではないようだ。
まぁ無理して替えさせるつもりもないけどね。
基本的にポロリンは盾役だし、防御だけ考えるなら不足というわけではない。
「マリリンさんのお店に行くのでしたら、ワタクシの忍装束をファンシー装衣風にお願いしたいですわぁ。出来るのであれば、ですけど」
「そしたらポロリンの武術着もファンシー装衣風にしたいね。そうすればお揃いだよ」
「えっ、ボク、スカートは嫌ですよ!?」
今でさえミニスカチャイナなのに何を言うか。
まぁスクール風のチャイナが想像出来ないからマリリンさんに聞いての様子だけど。
でもそこまでパーティーで衣装を合わせるんなら、やっぱりモフらせたいなぁ。
今のポロリンの装備はミニスカチャイナとグリーブブーツだけだしね。
「外套は?」
「どうでしょう? ネルトさんやサフィーさんみたいに丈が長いとトンファー振るのに邪魔そうですけど」
「ポロリンさんはそうかもしれませんわねぇ。ワタクシはこう、後ろにバサッとやって攻撃しておりますけれど」
「んー、私は特に気にならない」
「あとは動物モフモフシリーズじゃなきゃ何でもいいです」
『えっ』
女性陣から「なぜ!?」という目が向けられる。
なぜこれだけ可愛く、これだけ高性能なのにポロリンは拒否するのかと。
むしろ一番似合いそうなのにと。
「嫌ですよ、絶対! ボクは普通のデザインでいいです!」
「うーむ、これはマリリンさんと相談案件だねぇ」
悩ましい。動物モフモフシリーズ以外にもファンシー系の外套があるのは知っているが、ポロリンに動物モフモフシリーズを着させたいという願望もある。可愛いし。
なんとか説得できないものか。
そんな事を悩みながら、その日はギルドで清算し、ホームへと帰った。
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