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第五章 毒娘たち、注目の的になる
109:毒殺屋ですが私を見ないで敵を見てくれますか?
しおりを挟む■ダンデリーナ・フォン・ジオボルト 【サシミタンポポ】 11歳
――ビュン――ビュン――ズガガン!!!
迫りくるエビルクラーケンの足は嵐のように、時に横から、時に上から襲い掛かります。
いかに騎士団の精鋭と言えども完全に防ぎ切れるものではありません。
出来れば手助けに向かいたい所ですが……騎士団の連携の中にわたくしが入っても邪魔になるばかり。
なればこそ、私は前へ。エビルクラーケンの懐へと入り、攻撃を加えるしかありません。
わたくしには皆さんのような多彩な攻撃手段も、とれる戦術もありません。
ただ近づいて包丁で斬りつける、それしか出来ないのですから。
右手には【魔包丁ベリサルダ】、左手には刺身包丁・脇差拵え。
ちぐはぐな二刀流にも<流水の心得>を用いての体捌きにも、やっと慣れてきたといった所。
まだまだピーゾン様が見せて下さるお手本のようにはいきませんが、それでも今のわたくしに出来る精一杯です。
足の動きに対して回避し、近付くのは問題ありません。
難しいのは、何本もの足が同時に襲ってくる所と、一本一本の足が強靭で、尚且つ太い事。
意識を集中して避けつつ、伸びきった足に斬りつけますが、さすがに包丁では無理があります。
魔剣の力が強いおかげか、抵抗なくスパンと斬れるのですが、それで切断というわけにもいかず、斬られた足はまだまだ使えるとばかりに次なる攻撃に入ります。
「仕方ありません――<氷の刃>」
右手の魔剣が氷に覆われ、それは左手の脇差と変わらないサイズにまで伸びました。
<氷の刃>は元々高い魔剣の攻撃力をさらに高め、尚且つ氷属性ダメージを与えるという格段の効果。
これでちゃんと根元まで斬りつければ、さすがに足も動かなくなるようです。
しかし問題は二点。
一つはサイズが急に変わるので間合いが変わってくるという事。
元より<包丁術>と<流水の心得>に頼った体捌きで訓練していますので、即座に距離をアジャストするというのは難しい。
今でも課題として訓練している部分でもあります。
二つ目は消費MP20という重さ。それに加えて持続時間が短いという点。
連発する事は出来ず、ここぞの場面で使うべきスキルです。
ただでさえわたくしのMPポーションはネルト様にお預けしていますからね。
まぁ仮に持っていても近接戦闘中に飲む事など出来ないでしょうが。
ですので、基本的には包丁で斬りつけるのを繰り返すだけとなります。<包丁術>のアーツは使いますけどね。
もどかしい気持ちもありますが、少しでも皆様の手助けになればと、とにかく避けて斬りつけていきます。
視界の端で見る皆様の戦いぶりは素晴らしい。羨望の思いが募ります。
サフィー様は多彩な<忍術>で、時にエビルクラーケンを怯ませるほどのダメージを与えています。(わたくしも少しビリッとしましたが)
遠目に見るミルローゼさんの剣捌きも素晴らしい。輝く剣はいとも容易く足を切断しているように見えます。
【唯一絶対】の他の皆様も音を聞くだけでダメージを蓄積させているような印象を受けますし、反対側の【誇りの剣】の皆様も、騎士団以上に安定した戦いぶりのように見えます。
どれだけ鍛錬すれば、どれだけ連携を積めばあの域に達する事が出来るのか……頭が下がる思いです。
わたくしの一番近くにいらっしゃるピーゾン様に至っては、わたくし如きが心配するまでもありません。
身の丈ほどの大きな魔剣を巧みに操りながら、ひょいひょいと躱し、後ろのポロリン様たちを確認しつつ指示出しする余裕さえあります。
しかし今は<衰弱毒>を付与させるべく邁進している様子。
何か考えあっての事なのでしょう。わたくしが気にする必要はありません。
そうした戦闘強者の皆様が束になっても、エビルクラーケンの脅威は変わらず。
果たして本当にダメージを受けているのか、実は回復しているのではないか。
そう思わせるほど、依然として正面の騎士団に対して苛烈な攻撃を仕掛けています。
……いえ、さすがに両サイドの大手クランの方にも攻撃を分散させ始めましたね。
これで騎士団は少し楽になるかもしれませんが、他はどうなるか……。
微力ではありますが、わたくしももっと攻撃を入れ、皆様の手助けをしなければ……!
「はあっ! <微塵斬り>ッ!!!」
■ミルローゼ 【ホーリーセイバー】 27歳
固有職というものは非常に偏った性質を持つ。
汎用性のある職というものはほとんどなく、あっても『汎用性のありすぎる職』という、尖った職が多い。
非戦闘職でもそうだが、戦闘職となると余計に顕著になると感じている。
【唯一絶対】はそうした固有職でも十全に戦えるように、そしてパーティーとしても組み込めるように集めたクランだ。
取っ掛かりを掴むまでが大変な固有職。自分の能力を使いこなすまでの道のりは険しい。
しかし使いこなせればそれは大きな武器となる。
能力が尖っている分、その分野では一般職を超える事も出来る。
だからこそ私はクランを興し、皆の能力解明の手助けと、成長を促したのだ。
そうして集められたクランの中でも精鋭と言える十八名は、『禁域』の深部という未曽有の危険地帯でも戦えると判断し選んだメンバー。
最低でもBランク上位。そしてパーティーとして連携する事に重きを置いた面子となっている。
しかしまさか『フラッドボス』がエビルクラーケンだとは思わなかった。
Sランクだという予感はあったが、海の魔物がダンジョンで生まれるなど想像の埒外だ。
案の定、誰も大した情報を持っておらず、弱点らしい弱点も見えない。
我々の総攻撃で足や本体にダメージは入れたが、それが『大ダメージ』とは全く言えない。
怯まない様子を見る限り『カスダメージ』と言ってもいいかもしれない。
これだけ食らえば、仮に相手が亜竜だとしても一撃死。悪くても瀕死になるはずだ。
だと言うのにエビルクラーケンはピンピンしている。弱点もそうだが相性の問題もあるように感じる。
魔法攻撃に関しては高火力のものを一点集中して放った方が良い。いくら高火力でも広範囲ではダメだ。
近接攻撃にしても打撃や刺突が効きにくい。
ならば斬撃に頼りたい所だが、防御力と柔軟性が段違い。
足を斬り飛ばせるほどの斬撃となると私の攻撃くらいしか有効な手立てがない。
私の【ホーリーセイバー】の<聖なる恩寵>は武器に神聖属性を付与するスキル。
それに加えて魔剣の攻撃力を合わせる事で、ヤツの足を斬る事が出来ている。
とは言っても、ヤツの足は数えるのも億劫になるほどの量だ。
一本二本斬った所で、それを『大ダメージ』とは言えまい。
それでも斬り続けるしか出来ないが……果たしてどこまで持つか……。
と、我々であっても苦戦している敵に対して、まともに戦えている集団が視界の端に見える。
精強なる騎士団が聖女たちの回復で何とか持っているような現状、だと言うのにだ。
言うまでもなく【輝く礁域】なのだが。
彼女たちがオークキングやロックリザードを倒したのも知っているし、うちのバカ共を打倒したのも知っている。
今回の『禁域』の間引きに関しても、どのパーティーより成果を上げていると情報は得ている。
固有職になったばかりの十歳、十一歳では考えられない戦績。
理外の能力と、理外の成長速度。
興味があったのは確かだが探るわけにもいかず、ましてやダンデリーナ殿下が加入したとなれば纏わりつくわけにもいかない。
結果として【輝く礁域】自体をアンタッチャブルとする気風が冒険者ギルド全体にあったのだ。
そこへ来て今回の大事。初めて見るその戦いぶりに私は動揺を隠せなかった。
後衛の黒猫は【魔法使い】系統だろうが、何をやっているかは分からない。おそらく不可視の攻撃をしている。
それを守るピンクの熊――ポロリンという少女の名前はギルド内である意味一番有名だ――は黒猫を守るべくエビルクラーケンからの猛攻を的確に防いでいる。
得物が盾でなくトンファー(?)なのにも関わらず、本職の盾持ち盾役よりも安定しているようだ。
あの華奢な身体のどこにそんな力強さがあるのかと疑念が尽きない。
一方で遊撃として縦横無尽の動きをしているのはストライド公爵家のサフィー嬢。
以前は忍装束を装備にしていた事から、斥候職の最高峰【忍者】なのではと噂されていたが、どうやらそれは正しい。
軽戦士並みに動きながら魔法――おそらく忍術――を放つ姿は、固定砲台となりがちな【魔法使い】系統と一線を画す。
その攻撃も通常の魔法とは全く違い、派手な見た目に相応しい高威力に見える。
何やら放つ前に手をバババッと動かしているが、そうした予備動作が必要なのだろう。
それを抜きにしてもやはり【忍者】という職が希少にして最高と言われるのがよく分かる。
そこまでは百歩譲って良しとしよう。
年齢に相応しくない強さと習熟具合を大目に見ても、だ。
まずダンデリーナ殿下。国から最も厚く保護を受けるべき対象のはずだ。
しかし今現在、殿下は私よりも本体に接近して両手の短剣を振るっている。
伝え聞く噂で、殿下は容姿端麗にして文武両道の天才であり、固有職を授かった国の至宝であるとは聞いている。
実際に戦う姿を見れば『天才』と、確かにそう言えるのかもしれないが……。
エビルクラーケンの無数の足を流れるように回避しながら近づき斬りつける様は、天才という表現では追いつかないのではないか。
私でさえ本体に近づくのが困難で足を相手取っているのに、なぜあのような動きが出来るのか。
職の恩恵か、スキルの恩恵か、はたまた殿下自身の才能か。
いずれにしても『天才』という枠では収まりきらない素晴らしい″剣士″だと感心する。
これが十一歳の王女様だと思うと、一人の冒険者として情けなくも思うが。
しかしダンデリーナ殿下までは千歩譲って良しとしよう。
大問題は【輝く礁域】のリーダー、十歳の少女、『白ウサギ』ピーゾンだ。
ベルバトスとギャレオを倒したのも、ロックリザードを倒したのも、オークキングを倒したのもこのピーゾンだと調べは付いている。
昇格試験でネロさんをも倒したと噂に聞いた。
当然疑って掛かったし、いくら真実だという裏付けがあっても信じられないという思いが勝っていた――今日までは。
彼女の戦いぶりを何と表現すれば良いのか分からない。
私より優れた体捌きを見せているダンデリーナ殿下より、さらに一段階か二段階は上の動きを見せている。
回避は舞い落ちる木の葉の如く、当たりそうになってもなぜか当たっていないと錯覚するレベル。
同時に身の丈ほどもある魔剣の大鉈を振るうが、それもコンパクト且つ的確。お手本のようなカウンター。
驚くべきはそうした異次元の動きをしていながら、パーティーメンバーへ細かい指示を飛ばしている事だ。
それはリーダーとして当然と言われれば耳が痛いのだが、あれだけの猛攻を受けながら、さらにメンバーの動きも見ているという事に他ならない。
何をどうやって把握しているのか、そういうスキルでも持っているのか、謎は深まるばかりだ。
そしてもう一つ、さらに驚かされる事があった。
「<毒弾>!」
これだ。
ピーゾンの職の固有スキルなのは間違いない。さっきから毒の液弾を飛ばしている。
これが何を意味するか。
つまり、ピーゾンは【デバッファー】系統の職であり、決して【剣士】系統の職ではないという事だ。
あの回避能力はどうだか分からないが、少なくとも大鉈を扱うあの剣術は、職の恩恵でもなくスキルでもない可能性が高い。
それが才能か努力かは分からないが、私にはダンデリーナ殿下以上の『天才』に思えて仕方ない。
羨ましくもあり、恐ろしくもある。
冒険者の先達として、Aランクとして負けていられないという気持ちもある。
しかしこのフラッドボスを前にして、共に並んで戦う事を心強く思う、その気持ちが一番強かった。
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よろしくお願いします!
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