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最終章 毒娘、故郷の為に戦う
129:閑話のような本編だって必要になってくるんです
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ガメオウ山の中腹から上には森が消える。
茶色い粘土質の岩ばかりで荒野のような印象だ。
山道も安定せず、崖のような場所もあれば渓谷のような場所もある。
不規則で歪な山――それがジオボルト王国南部にある一つ、ガメオウ山である。
山頂付近に隠れるように、削られて作られた洞穴のような入口があった。
自然に出来た洞穴か、はたまた魔物が巣穴にでもしたのか、違和感のなさが伺える。
しかし少し踏み入れば、そこは歴(れっき)とした″秘密基地″であり″隠れアジト″であった。
そして、付け加えるならそこは――″牧場″でもあった。
「調子はどうだ? プップル」
カナーン帝国の暗部の一つ【幻惑の蛇】を率いる、左目に眼帯をした四〇手前の男――マニュエズが鋭い目付きのまま問いかけた。
プップルと呼ばれたのは丸々と太った二〇過ぎの男。
彼の周りには様々な大きさのスライムが纏わりつき、太った彼の体型をさらに膨張させているように見える。
「こっちは問題ないでふ。いくらでも増やせるでふし」
「そろそろ放流してもいい頃合いだ。徐々に増やしていけ」
「りょーかいでふ」
そう言ってマニュエズは次の部下の元へと向かう。
カナーン帝国の狙いはジオボルト王国ただ一つ。しかし狙う魚は大きい。
戦争を仕掛け、その勝利を確実なものとする為に皇帝ヴェルナンドと宰相ディミセンドリは、軍務卿以下複数の側近、重役と共に協議を重ねた。
色々と案が出る中、とった一つの方策が固有職狩りである。
これには【幻惑の蛇】とは別の新たに作られた暗部が役を担ったが、結果は芳しいものではなかった。
ほぼ失敗に終わったと言えるその結果をマニュエズも聞いている。
やはり新人に任せるべきではなかった。結果として王国を警戒させるに至っている以上、紛れもなく大失態だ。
呆れはするが、マニュエズが自分の任務をする事には変わりない。
ただ与えられた任務を遂行するのみ。それだけを考えている。
話は戻る。
帝国が戦争に勝利する為の絶対条件は、王国との国境を遮る″ティンバー大砦″を攻略する事だ。
砦自体が堅牢であり、詰めている騎士団の数も多い。さらには、その背後に精強で知られるティンバー辺境伯軍が控える。
そこさえクリア出来れば王都まで敵はなし。あとは巨大な王都をどう攻略するかという問題が残るのみ。
どうにかして砦の常備軍や辺境伯軍を薄く出来れば、という事で内乱を狙ったりもしたが、王国は思っていた以上に結束が強かった。そこは帝国には理解出来ない部分である。
案の一つとして白羽の矢が立ったのがマニュエズと、彼の率いる暗部【幻惑の蛇】である。
【操獣士】ベオウルフ、【魔樹育成士】プラティ、【鳥獣匠】イグル、【ゴーレムメイカー】フロストン、【スライムパパ】プップル――そして、【幻惑術師】マニュエズ。
魔物を操る事に特化した固有職六名による少数精鋭。
強大な力を有しながら、それでも暗部らしく、彼らは秘密裡に行動していた。
王国北部のタデル鉱山からロックリザードを王都に嗾け、アジトと決めたガメオウ山の付近、王国南部の大都市オーフェンにはワイバーンを向かわせたりもした。
結果、冒険者に倒されたのか被害はなかったようだが、自身の能力が王国の地、その魔物でも通用し、それが与えられた任務で有効であると確信する。
ティンバー大砦、辺境伯領から軍を動かす。
その為に、まず『禁域』を氾濫させる事にした。
王都にほど近い上級ダンジョンの氾濫は王都の騎士団と強力な冒険者たちを釘付けとする。
氾濫の為に希少な『瘴気水晶』はいくつか使う事になるが、だからこそその存在を知った者は『瘴気水晶』を探すのに躍起になるだろう。
上手く氾濫が起き、フラッドボスが王都へと攻め込んでくれれば万々歳だが、それは欲をかきすぎといった所。
氾濫が防がれようが、フラッドボスが倒されようが、少なからず王都の戦力は疲弊するし『瘴気水晶』に注視せざるを得なくなる。
その上で王国南部の流通の要、オーフェンが危機的状況となればどうなるか。
しかもオーフェンだけでは対処の難しい規模の問題が起これば。
当然、王都から援軍が出る。騎士団、そして冒険者も出るだろう。
しかし疲弊した状態で尚且つ『禁域』も探り続けなければならない。
いきなりオーフェンにスタンピード級の魔物の群れに襲わせたりはしない。徐々に魔物を放つ程度だ。
となれば最初に送る援軍は少数、そしてそこまでの強者は送れないだろう。
ただ魔物が増えているだけでは『禁域』の危険度の方が上なのだから。
こちらは魔物の量をだんだんと増やす。そうなると送られた中途半端な援軍だけでは対処が出来なくなる。
王都から徐々に強者を送るようになってくる。
こちらとしては騎士団にせよ、冒険者にせよ、各個撃破して戦力を奪いやすくなる。
対処出来ないほどの魔物の群れはスタンピードへと姿を変え、それを操る【幻惑の蛇】によって北上を始める。
オーフェンから北へ、北へ――やがて王都へ。
援軍を各個撃破し、戦力の減った王都。
となれば頼りはティンバー大砦の戦力しかない。必ず王都に呼び寄せる。
そこが戦争を仕掛けるチャンスだ。
一気にティンバー大砦を突破、ティンバー辺境伯領を踏破し、一気呵成に王都へと攻め込むのみ。
つまり、今マニュエズら【幻惑の蛇】が行っているのは、王都から徐々に強者を呼び寄せる為の餌撒き。
いつまで経っても終わらない魔物の増加。
援軍を以ってしても、なかなか対処出来ないくらいの塩梅で徐々に増える強い魔物。
王都からさらに強い援軍を呼ばねば、とオーフェン側が考えるくらいの攻勢。
そういった難しい匙加減、忍耐強さが必要とされる任務だった。
「また少し援軍が来たよー、マニュエズさーん」
「そうか、規模はどのくらいだ? イグル」
「馬車一つと馬が二騎だけー。でもねー、なんかすごく立派な馬車だってー」
「ふむ……」
馬車一つと馬二騎だけというのは″援軍″と呼ぶには小さすぎる。
しかし″立派″となると貴族か、もしくは名のある冒険者パーティーという可能性もある。
後者だとすると『禁域』に潜る数を減らしてこちらに寄越したか、他地方に散っていた有力パーティーを呼んだか……。
仮にAランクだとしてもクランでなくパーティーであれば余裕で対処は出来る。
しかしマニュエズに油断などない。
「一応、見張らせておけ。そいつらがこちらに来る事も考えられる」
「りょーかいでーす」
王国にもしっかりと強者は居る。それをマニュエズは知っている。
自身の手がけたワイバーンもロックリザードも何の被害も出さずに倒された。
『禁域』の氾濫は成り、Sランクのエビルクラーケンが出現したらしいが、それも冒険者や騎士団の精鋭たちによってすぐに倒された。
そうした猛者が王国にも居るのだ。
だからこそ慎重に各個撃破しなければならない。
それに――マニュエズは眼帯に覆われた、失われた左目を触る。
昔、自分の左目を奪った男はまだ王国に居るはずだ。
忘れもしない。
かつて王国に忍び込み、固有職狩りとして暗躍していた過去を思い出す。
その時に自分の前に立ちはだかったのは、やはり王国暗部の人間だった。
暗部vs暗部。それはマニュエズの敗走に終わった。
捕まらなかっただけマシだった。仲間は全て捕らえられた。
その男一人の力により、マニュエズのチームは崩壊した。
「【操糸者】――アローク、か」
その呟きは暗い通路に消えた。
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