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最終章 毒娘、故郷の為に戦う
130:愛しき我が故郷は大変な目にあっているようです
しおりを挟む■アルフェドアランケリウス(略称アルス) 【剣士】 10歳
「アルス! 今度は北側に出たそうだ! 行くぞ!」
「分かったよ、父ちゃん!」
俺が【剣士】になって、ピーゾンがファストン村から出て行って……それから正式に父ちゃんの下で衛兵の見習いになった。
剣の稽古もするし、見回りもするし、森に入って実戦もする。
そんな毎日が続いた。
『アルスは【剣士】になったんだからこれから強くなるでしょう? 今度帰ってきた時に見せてもらうよ』
去り際、ピーゾンに言われた言葉が悔しくて、帰って来た時に見返してやるってつもりでさ、とにかく早く強くならなきゃって思ってたんだ。
あれから数か月、今では一人でゴブリンだってコボルトだって倒せるくらいになった。
「お前は上達が本当に早いな。俺よりももっと強くなれるぞ。お前は俺の自慢だ、アルス」
父ちゃんからもそう言ってもらえて嬉しかった。
でもいくら鍛えてもピーゾンに勝てるイメージがまったく掴めない。
だからまだまだ強くならなきゃって思ってた。
そんなある日、珍しくオーフェンから冒険者パーティーがやって来た。
【銀の鎖】っていうBランクパーティーだそうだ。
Bランクって、とんでもない強さじゃないか! 滅多に会えるもんじゃない!
そんな人たちがどうしてファストン村なんかに……って思ってたら、どうやらガメオウ山の調査に行くらしい。
だから一番近いファストン村を拠点にすると。
もしかしたら空いた時間で剣を教えてもらえるかもしれない。
よし! 仲良くなっておこう!
最初はそんな軽い気持ちを持っていた。
ガメオウ山に向かった【銀の鎖】は、その日の夕方には帰って来た。
どうやら山の様子が聞いていたものと違うらしく、村長や父ちゃんとも話し合って色々と確認していた。
「では元々山中に居たはずの魔物が下りてきていると?」
「そう考えるしかないだろう。でなきゃ魔物の縄張りが密集しすぎている」
「やはりガメオウ山に何かが起きているのか?」
「森で出たクレイゴーレムは? あれもこの辺りでの目撃はなかったはずですが」
「それも異変の一つだが、それ以外にも何かあるはずだ」
難しい話で俺には付いて行けなかったけど、どうやらガメオウ山は危険な状態らしく、すぐ近くのファストン村も同じように危険だっていう事らしい。
それから村長さんと【銀の鎖】の連名でオーフェンのギルドへ手紙を出した。応援要請だそうだ。
【銀の鎖】の人たちはガメオウ山の調査を一時中止し、ファストン村の防備に当たってくれた。
「魔物が多くなってこの村まで襲ってきかねないからな。とりあえず守れる状況を作らないと」
そう、パーティーリーダーのモーブビィさんが言う。
なんでも一時は冒険者を引退したけど、また復帰した人らしい。
復帰早々に大きな仕事を依頼されてめんどくさそうな顔をしていたが、実際真面目だし強いっていうのも分かってる。
ファストン村に外壁なんてなく、囲っているのは木製の柵だ。
だから土を盛って簡易的な防壁を作ろうと提案があった。ついでに堀も作る。
【銀の鎖】だけじゃなく俺たちももちろん手伝った。非戦闘職の人たちもだ。
自分たちの村を自分たちで守らないでどうするんだ、みんなそう思ってた。
とは言え、出来る限り避難した方がいいっていうのも分かるので、残りたい人以外はオーフェンへの避難を始めてもらった。
オーフェンから応援で来た冒険者のパーティーとかもあったし、しばらくすると王都からの援軍として騎士団も十人くらい来てくれた。
こんな辺鄙な村に騎士団が来るだなんて大事件だ。
大変な状況だと言うのに俺のテンションは上がっていた。
もちろんその間にも魔物の襲撃は実際にあった。土の防壁を越えられる時もあったし、畑や家が壊された時もあった。
怪我人だって出たし、その度に俺はあっちこっち手伝いをしていた。
村で戦える人は限られるし、全部を冒険者とか騎士団に任せる事なんて出来ない。
魔物は昼夜問わず襲ってくるし、こっちの人数も限られているんだから。
だから俺も精一杯戦ったし、精一杯動いていた。
これがいつまで続くんだろう、って不安はあった。
守っているだけじゃジリ貧だって応援に来た冒険者パーティーの一つをガメオウ山に向かわせたりもしたけど、どうにも数が多すぎて途中で逃げ帰って来たらしい。
騎士団だって十人だけじゃ村のみんなを守る事くらいしか出来ないし、オーフェンや王都から呼ぶにも時間が掛かる。
毎日、村長や父ちゃん、そしてモーブビィさんと騎士団の人が会議をして、ずっと話し込んでいた。
そして今日も魔物の襲撃。やっぱり唯一堀を作らなかった村の北側が一番危ない。
だからそこには騎士団の人たちが詰めているけど、俺と父ちゃんも一緒に戦うべく、村を走った。
北側に迫っていたのは大きな蛇の群れ。
リングスネークとフレイムヴァイパー。確かEランクとDランクだ。しかも数が多い。
俺が戦えるとすればリングスネークだけど、あくまで騎士団を抜けられた時の為の予備戦力。
そして騎士団の奮闘により、なんとか蛇の群れは全滅した。
フレイムヴァイパーの炎を受けて火傷を負った人も居る。
俺はその人を治療所に運ぼうとして――
「っ!? まだだっ! まだ終わってない!」
騎士団のその声に振り返ると、さらに大きな蛇が一匹、こちらに向かって来ていた。
取り巻きのようなフレイムヴァイパー十匹ほどに囲まれて。
真っ黒な大蛇――ダークボア……Cランクの化け物だ。
さっきの蛇の群れは先兵のようなもの。これが本陣。
Bランク冒険者は間引きに出ていて不在。騎士団は手負いの状態だ。
それでこんなのに襲われるだなんて……!
「防衛態勢!! 固めろ!! 村民を南側に避難させ――」
「分隊長! もう来ます! 間に合いません!」
「くっ……! 防げッ! 意地でも通すなッ!」
騎士団の気概を削ぐように、フレイムヴァイパーの炎が薙ぎ払われた。
それは炎の壁となり、思わず両手で顔を隠したくなる。
手の隙間から見えたのは、炎の壁を突き破って騎士団に襲い掛かるダークボアの姿。
丸太のような突進をくらい、炎のダメージと相まって、騎士団は吹き飛ばされた。
飛んで来た騎士団に潰されるように、近くに居た父ちゃんも動けない。
そしてダークボアの漆黒の目が俺へと向けられる。
軽々と丸飲み出来そうな大きな口を開け――
「シャアアアアァァァァ」
「う、うわあああああ!!!」
全ての″終わり″を感じ、俺は身を縮めて頭を抱え込んだ。
そして――
「何やっとんじゃコラアアア!!!」
――ドガン!!!
何が起こったのか分からなかった。
とにかく俺に迫ったはずのダークボアの牙は、いつまで経っても届いて来なかった。
聞こえた声にどこか懐かしい印象も受けた。
恐る恐る目を開ける。
そこには――真っ黒な大きな剣を持った、真っ白なウサギの背中があった。
……は? ウサギ?
■ピーゾン 【毒殺屋】 10歳
オーフェンに着いた翌日、すでに私たちはファストン村へと旅立っていった。
終点はオーフェンではない、ファストン村だと。
オーフェンもまた心配ではあるけど、そこを忍んででも行かせてもらった。
防衛戦力として近衛騎士を残して行こうかとも思ったけど、四人とも一緒に来てもらった。
ファストン村まで普通の馬車で三日掛かるし、途中に宿場町はない。野営だ。
危険性がある上に、私たちだけで走っていける距離ではないのでお願いした。
ファストン村までの道はこれまでの街道ほど広く立派な道というわけではない。
途中まではそうでも、そこから枝道に分かれ、普通の馬車が交差するのが精一杯くらいの幅で草を刈り取られただけのような道が続く。
南に行くに従って魔物と遭遇する事も増えるのに、そういった道だから余計に警戒が必要だ。
実際、馬に乗る近衛騎士二人だけでは瞬殺出来ない場合もあり、時には窓から身を乗り出して私が<毒弾>を撃ったり、サフィーが<忍術>を放ったりとやりながら対処。
それも難しい、馬車を止めざるを得ないという場合は、全員で降りて一気に殲滅する。
とにかく早くファストン村に行く為、なるべく戦闘時間を短くして進んだ。
野営時の夜警に関しても近衛騎士だけじゃなく、私たちも加わった。
当然「殿下に夜警させるなんて!」と反発をくらったが「わたくしは冒険者なので当然です」と断固譲らず、全員でのローテーションとした。
ファストン村に着くまでに近衛騎士を疲弊させるわけにもいかないし、むしろ着いてからが本番な気がしている。
実際、夜警していても魔物が襲ってくる事もあるわけで、やはり私たちも夜警して正解と思った次第だ。
魔物避けのお香を焚いたりもしたが、完全に防げるわけじゃないと知った。
と、そんなペースで行くとさすが国王専用馬車と言うべきか、二日でファストン村近くまで来られた。
早朝にオーフェンを出て、翌日の夕方手前といった所。
正直かなり飛ばしたという自覚はある。
しかし飛ばして良かったとも思った。何やら村の様子がおかしいのだ。
村を囲うように見慣れない土壁が出来ていて、その周りには堀まで掘られている。
オーフェン側へと向かう道に続く部分――北側にだけ堀はなく、そこを出入り口にしているらしいが、ちょうどそこに魔物の群れが襲撃しているのだ。
大きめの蛇は『禁域』浅層にも居たフレイムヴァイパー、火を吹く蛇だ。それが十匹くらい居る。
さらに大きな黒い蛇、これは『禁域』でも地下五階以降でしか見かけなかったCランクの魔物――ダークボア。
それらが村の入口を強襲している。
対応している騎士団らしき人たちはフレイムヴァイパーの炎に焼かれ、ダークボアの突進をまともに喰らった。
「っ! みんな出るよ! 雑魚処理優先! ソプラノは急いで騎士団の回復を!」
『はいっ!』
馬車から飛び出し、最高速で駆け付ける。速さだけならサフィーの次に速いぞ、私は。
ダークボアは入口に布陣した騎士団の壁を破り、村へと侵入。
誰か倒れているのか、その人に狙いをつけているようだった。
チッ! 蛇の分際で、うちの村の敷居を跨ごうとか――
「何やっとんじゃコラアアア!!!」
――ドガン!!!
蛇の背後から横へ。魔剣で顔面を殴りつつ、正面に立った。
どうやら誰か襲われる寸前だったようだ。間に合ったっぽい。よし。
私の視線は蛇から離さない。こいつが私の一発で死ぬようなヤツじゃないって知ってるし。
ただ、背中に誰か……おそらく村の住人が倒れている以上、正面から戦うしかないんだけどね。
ダークボアはダメージを受けつつも、私を標的に定めたようだ。
大きく口を開き、鋭い牙を見せ、威嚇してくる。
「はんっ、上等! 掛かって来なさい! かば焼きにしてやんよ!!!」
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