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最終章 毒娘、故郷の為に戦う
142:処理しやすい所から処理していくしかないでしょう
しおりを挟む■ポロリン 【セクシーギャル】 10歳
敵はすっごく強そうな魔物ばかり。本当にボクの場違い感がスゴイ。
その魔物はボクらを包囲して、じりじり狭めていくつもりらしく、それは「どうしても逃がしたくない」って事なんだなと思うと同時に「魔物らしくないな」とも思う。
魔物を操る人たちの作戦に従って動いているのだろうと。
ボクたちは退路を確保すべく、入口側のグリフォン方面に強襲をかけた。
それに従って、周囲の魔物の足が早まる。
ボクたちが入口側を攻めるのを「そのまま逃げるつもりか」と判断したんだろう。
グリフォンとかが抑えているうちに挟撃しようと迫って来た。
本当なら全員で一気に入口を確保したい所だけど、周りの魔物はそうさせてくれないだろう。
だから魔物の足止めをしつつ、グリフォンとフレスベルグを排除しないといけない。
そこはリーナさんとサフィーさんの役割だ。
ソプラノさんは忙しなくバフを撒き、<MPドレイン>でMP回復を図っている。
ネルトさんはゴーレムとユグドレントの方をケア。ピーゾンさんはスライムのケアだったけど、鳥の方にも手を出すらしい。
かつてないほど動き、かつてないほどスキルを連打している。
いよいよピーゾンさんが人間やめた。前からおかしかったけど。
で、ボクは一番遠い獣軍団のケアが第一。
と言ってもその陣容がケルベロス、フェンリル、マンティコアというAランク三体とあのピーゾンさんがダメージを食らったサンダーライガーが五体。
ボク一人でサンダーライガー一体を倒すのも無茶なのに、こんなのまともに戦えるわけがない。
足が震えそうになるけど、ボクは男だし、みんなを守らなきゃいけないし、やれる事をやらないと。
ふっと息を吐き出して気合いを入れつつ、トンファーを構えた。
ボクたちを逃がすまいと速度を上げて迫って来たのはサンダーライガーの五体だけだった。
強力すぎる三体は、ケルベロスとマンティコアが左右に開き、崖沿いに進む。
どうやらゴーレムとかが動いた穴を埋めるべく、包囲を継続させたいらしい。
三体で三角形を作るように包囲陣を布きたいのだろう。
正直八体が同時に襲い掛かってきたら終わってた。その時は<ロングジャンプ>するしかなかった。
とは言えサンダーライガーもボクにとっては強すぎる魔物だ。油断は全く出来ない。
みるみるうちに距離を詰めてくる虎たちに対して、ボクは――
「<魅惑の視線>! <魅惑の視線>! <魅惑の視線>!」
強い魔物に状態異常は効きづらい。これはピーゾンさんの毒とかでも同じだ。
こちらの【魔力】と相手の【抵抗】のステータス、それに加えて【運】も絡んで来る。
Bランクのサンダーライガーはステータスも高いだろうし、ボクは【魔力】も【運】も高い方じゃない。
だから<魅惑の視線>は効かないんじゃないかと思っていた。
それを事前の作戦会議で投げたらピーゾンさんはこう言っていた。
「効けば儲け物のつもりで連打すべきだよ。Aランクにはキツいかもしれないけど、少なくとも普通のBランクくらいなら効いてもおかしくない。って言うか効きやすくなってる可能性もある」
「どういうことです?」
「獣系の魔物なら【操獣士】によって操られてるんでしょ? すでに精神が汚染されてるって事」
魔物としての本能を抑え込まれ、術者の洗脳によって動かされている。
精神が死んだわけではなく、一時的に操作されているだけ。
であれば緩くなった魔物の意思に干渉し、逆にこちらが精神汚染する隙がある。
つまり″混乱″は効きやすくなっている……かもしれないと。
正直ボクにはよく理解出来なかったけど、ピーゾンさんが自信満々に言うのだから、おそらく<魅惑の視線>が全く効かないという事はないのだろう。
そうして連打した結果、二体のサンダーライガーが混乱した。
やった! と喜んでいる暇などない。
さっきから心臓はバクバクだし、冷や汗が流れっぱなしだ。
混乱したサンダーライガーはすぐ隣のサンダーライガーに襲い掛かり、計四体が足止めされたが、残り一体は相変わらずボクに迫ってくる。
これをどうにかしないと、混乱から復帰したサンダーライガーも同時に襲って来るだろう。
こいつはボクが倒さなきゃ――なるべく早く! 前に出て!
「ガルルルルゥゥゥ!!!」
「やああああーっ! <ピンクタイフーン>!」
飛び掛かって来たサンダーライガーの爪をトンファーで受けると、バリバリと雷のダメージが身体中を駆け巡る。
屈みたくなる痛みを無視し、カウンターとばかりに<ピンクタイフーン>の連続打撃を食らわせた。
一撃一撃、入れる度にもサンダーライガーの纏う雷がこちらに伝わってくる。
「ポロリンちゃん! <ヒールバブル>! <レジストバブル>! <ディフェンスバブル>!」
ソプラノさんの泡が飛んで来た。すいません、ホント助かります!
HP回復、抵抗と防御のバフ、それを受けつつ<ピンクタイフーン>の連続攻撃は終えた。
「<アタックバブル>! <リジェネバブル>! <MPドレイン>!」
次々にソプラノさんの支援が入る。よくそんなに早口でスキル連発出来るなぁ。
ホントすごい人だ。さすが聖女様。
どうやら<ピンクタイフーン>はそこそこのダメージを与えられたらしく、サンダーライガーの足は止まり怯んだ様子を見せる。
ここで攻めないとダメだよね! 触るのも痛いから嫌だけど!
ボクは姿勢を低く、サンダーライガーの下へと潜り込む。
「<ヘブンスター>! からの――<ハートアタック>!」
サンダーライガーの顎をかち上げ、脳を揺さぶりつつ、二足歩行させるように上体を起こす。
目の前に現れた胸部目掛けて、渾身の一撃。
サンダーライガーの胸に手甲のような魔剣の痕がボコリと刻まれ、そのまま後方に吹き飛ばした。
動かないけど死んでるかは分からない。
確認する余裕もなければ、喜んでいる暇もない。
ボクの視線は次の敵を捉えていた。
■ソプラノ 【泡姫】 25歳
最初に王都でこの指名依頼のお話を聞いた時、それは『オーフェン南部で魔物の増加』が見られると、それだけでした。
ピーゾンちゃんとポロリンちゃんは故郷を守りたい。
リーナちゃんは一人でも多くの民を守らなければと、私はその救済の精神に打たれたのです。
やはりこのパーティーに入って良かった。
この少女たちは高潔な精神を持ち、それを形にする力と、考える頭脳と、何より未来への可能性を多大に秘めている。
しかし幼いのは確かで、だからこそ私も共に歩み、その支えとなるべく進みたい、そう思ったのです。
オーフェンからファストン村、そしてガメオウ山へと進むにつれ、今回の騒動がただの『魔物の増加』では済まされない事態にあると分かってきました。
魔物を操る固有職の集団の陰謀。
その規模はファストン村だけに留まらず、オーフェンをも飲み込み、下手をすれば王都までをも壊滅させかねない。
一体どれだけの民が被害に遭うのか、想像を絶する災害が悪しき人の手により作られようとしているのです。
何としても阻止しなくてはいけない。
少女たちは勇敢にもそれに挑み、討ち果たそうと強い目をしていました。
私の半分にも満たない彼女たちの心は私より強く。
そしてその力もまた私など遠く及ばないほどに強い。
だからこそ必死に食らいついていくつもりで、私はこの戦いに臨んだのです。
Aランク七体、Bランク十体に囲まれた闘技場。それは悪意の象徴のようにも感じました。
私たちを逃がさない、囲い込んでじわりじわりと殺しに来る。
それは彼らが王国の民に向けて行っている事と同じで、今までオーフェンやファストン村に向けていた悪意がまるでこの狭い空間に凝縮されたような錯覚に陥ります。
街一つほどであれば簡単に滅ぼせそうなほど強大な魔物たち。
それと相対するのは私たちのみ。
ふと、『禁域』でのエビルクラーケン戦を思い出しました。
あの時、誰も戦った事のないSランクの魔物の出現に対し、総勢百名以上の力をもって相対しました。
その中には騎士団の精鋭も居ましたし、【誇りの剣】や【唯一絶対】といった王都を代表する有力クランの方々も居ました。
それでもエビルクラーケンは強く、騎士団の方々は次々に倒され、このままでは包囲を突破され王都に攻め込まれると、絶望的な気持ちを抱いたのです。
それを打破したのが【輝く礁域】の少女たちであり、私にはそれがまるで闇夜の中に太陽を見つけたような衝撃でした。
彼女たちが居なければエビルクラーケンは倒せなかったのではないかと、そう思ったのです。
今回のこの状況は、その時と同じか、それ以上の絶望感があります。
だからこそ、これを止められるのは彼女たちしか居ないのではないかと思うのです。
だからこそ、私は全力を尽くし、支えにならなければと。
事前に行った作戦会議は、綿密であり、綱渡りのようだとも思いました。
全てが上手くいったとしても、誰が死んでもおかしくない。それほど危険なものだと。
止めたい気持ちと、やらなければという気持ちが交錯していました。
それは実際に戦い始めた今でも抱いています。
不安と恐怖、それを抑えつけて前を向く強い意思を持たなければと。
私はただひたすらにアーツを打ちこみ続けるのです。
心を落ち着かせ、広い視野を持ち、パーティー全体を補助する為に。
グリフォンに対するリーナちゃん、フレスベルグ五体を同時に仕掛けるサフィーちゃん。
そこから始まった戦いは、その時点ですでに無謀と言えるものですから、私も精一杯の援護を入れます。
一方でポロリンちゃんはサンダーライガーを惑わしながらも一人で正面から立ち向かう。
盾役であるポロリンちゃんが身を削り、自力で攻撃しなければいけない現状に、思わず声を上げ、過剰な回復を投げてしまいました。
ネルトちゃんとピーゾンちゃんも大変です。
二人とも本当にすごい力を持っていますが、相手は御伽話に出て来てもおかしくないほどの魔物。
紛れもないAランク。グラトニースライムなどはSランクでもおかしくはありません。
ネルトちゃんはクリスタルゴーレムを倒す事が第一ですが、その前に″大樹の巨人″ユグドレントが大きな歩幅で近づいてきます。
「<念力>」
――ドォォォン
足首を掴んだのか、引っ掛けたのかは分かりません。
<念力>の見えざる手を使い、ユグドレントを倒しました。
ただダメージがあるわけではありませんし、倒したまま<念力>で抑えつける事も出来ないようです。あの巨体ですからね。
しかしネルトちゃんはそんな事お構いなしと次の手に移行。
ゆっくりとした動作で起き上がろうとするユグドレントを「邪魔できればそれで十分」とばかりに無視。
狙いは倒れたユグドレントの脇からドシドシと迫るクリスタルゴーレム。
「<グリッド><ルールシュレッド>……むぅ」
ゴーレムである以上、種類が変わろうが大きさが変わろうが、核となる魔石の位置は変わりないはずです。
それでも外したのは、やはりミスリルゴーレムが微動だにしなかったのに対して、クリスタルゴーレムがどんどん近づいてきているからなのでしょう。
<ルールシュレッド>は本当に狭い範囲での斬撃らしいです。
当てるのは難しく、リーナちゃん曰く、おそらくネルトちゃん以外に運用出来るとすればピーゾンちゃんくらいしか居ないというほど。
″文武両道の天才″リーナちゃんがそう言うのですから相当の技術なのでしょう。
「<ルールシュレッド>……<ルールシュレッド>……よし」
それでも三発目で成功させたネルトちゃんは流石です。小さく作った握り拳がその喜びようを表しています。
こちらまで40mほどの距離まで迫っていたクリスタルゴーレムが大きな音を立てて倒れました。
そのすぐ後ろで立ち上がったユグドレントを見据え、MPポーションを二本一気にぐびっと飲んでいました。
一方で戦闘開始直後から動き始めているピーゾンちゃん。
相手は事前に予想していたスライム系最上位種、グラトニースライム。
大きさはレイクスライムほどではありませんが、漆黒のその身体は全てを溶かし飲み込むと言われています。
近接攻撃はもちろん無理。弓矢も無理。魔法にしても吸収されてしまうらしく、そして取り込んだ分だけ大きく成長すると。
かつて″災害″として現れた時は、村一つを飲み込み、多くの犠牲者を出したと言います。
討伐するまでにかなりの時間が掛かり、結局は巨大な落とし穴にはめた状態で、スライムの<溶解>以上に強力な酸の錬金薬を大量に使う事でなんとか倒せたと。
使用した酸の影響で、その地に緑が戻る事はなく、今も枯れきった土地となっているようです。
当然、私たちにそのような錬金薬などなく、どうしたものかと思案した結果、ピーゾンちゃんが「とりあえず私がやってみるわ」と名乗りを上げたのです。
もしダメなら、それこそ<ロングジャンプ>で王都に飛び、有事の為に王城に保管しているであろう錬金薬を持ってくるつもりで。
ピーゾンちゃんの毒は普通のスライムにさえ効かないと聞きました。
スライムに状態異常攻撃は効かず、だからポロリンちゃんと出会うまでは避けていたそうです。
ワイバーンは倒せてもスライムは倒せない。そんな話を聞いて驚いたのを思い出します。
「<毒弾>! <毒弾>! <毒弾>!」
そうして仕掛けたピーゾンちゃんの初手は<毒弾>の連発。使う毒はもちろん――<枯病毒>です。
枯病という難病を引き起こす、強力な毒。
味方に当たるのが怖いと、ピーゾンちゃんもあまり使いたがらない毒ですが、ここぞとばかりに使いました。
万が一味方が枯病になったら、これもまた即座に<ロングジャンプ>で王城からエリクサーを貰おうと。
はたしてグラトニースライムに<枯病毒>が効くのかという不安はありましたが、ピーゾンちゃんには勝算があったようです。
『<枯病毒>って″水分を奪う″病気にするんだと思うんだよね。だから食らえばミイラみたいになるし、血液も枯れるから動かせなくなる。まぁ部分的ではあるし量にもよるんだけど』
それは治療術士よりも病気や人体の構造に詳しいような口ぶりでした。
『人って六割か七割が水分で出来てるって言うじゃん? スライムなんかほぼ十割が水でしょ。どんな能力を持っていようがスライムはスライムなんだし。だったら<枯病毒>刺さりそうじゃない?』
いつものように軽く、当然のように紡ぐ言葉は説得力があります。
まぁ長年治療に携わっていた私からして『人の六割から七割が水分で出来ている』というのは初耳でしたが、口は出しません。
ともかく倒せる可能性があるのなら挑戦してみようと、事前会議ではそれで終わったのです。
そうして放たれたピーゾンちゃんの<枯病毒>による<毒弾>。
それは次々に漆黒の巨体へと突き刺さり――
――シュウウウウウ……
当てた箇所を大きなスプーンでくり抜くような、見るからに「効いた」と分かる変化をさせたのです。
溶けるような音。白い煙が立ち上り、全てを溶かすスライムが、逆に溶かされているような変化を。
「よしっ! <毒雨>! <毒弾>! <毒弾>!」
効いたと分かった所で、ピーゾンちゃんはさらに追い打ち。<毒弾>に加えて<毒雨>も使います。
おそらく練習以外で<枯病毒>の<毒雨>を使うのは初めてのはずです。それをこの場で使い始めました。
<毒弾>は消費MPも低く、速度があり、ピンポイントで狙えるので味方への被弾を考えずに済むと、<毒霧>や<毒雨>を普段の戦闘で使う事はほとんどありません。
しかし今は味方が互いに背を預けているような状況。
さらにピーゾンちゃんも少し前に出て放った事で、味方を気にせず撃てると、そう判断したのでしょう。
相手が大きなスライムであれば、広範囲の<毒雨>で一気に削るべきだと。
グラトニースライムが悲鳴を上げる事はありませんが、明らかにダメージを受けているのが分かります。
動けず、もがく事も出来ず、ただ萎むように溶かされていくような。
実際はピーゾンちゃんの言う通り、水分が奪われているのでしょうが、傍目から見れば溶けているように思えました。
こちらに接近する事が出来なくなったと見たのか、ピーゾンちゃんはグラトニースライムを放置し、後方――グリフォンの方へ走ります。
リーナちゃんとサフィーちゃんの救援へ。
スライムはまだ死んだわけではありません。しかしいつでも倒せると判断したのでしょう。
それよりもリーナちゃんたちが危険だと。
全く、いつもその視野の広さ、冷静な分析力には感嘆するばかりです。
何とも頼もしいリーダーではありませんか。
私も精一杯ついていく事にいたしましょう。
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