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最終章 毒娘、故郷の為に戦う
143:最大火力、最高速度で行かなければいけない状況です
しおりを挟む無限に成長するスライム――そんなのは小説の中だけにして頂きたい。
過去に実例がある以上、何らかの弱点があるはずだし、倒せる手段は存在する。
おそらく過去に使った錬金薬とやらも、酸ではなく<枯病毒>と同じように水分を失くすような代物だったんじゃないかと予想している。
もしくはスライムの<溶解>に使う酸と中和するようなアルカリ性の何か。
んで、中和した上で普通に攻撃したとか……まぁ想像だけど。
とりあえず<枯病毒>が効いたんで万々歳です。
で、周りの戦況はと言うと、まずはネルトが狙い通りにゴーレムを撃破。
もうお前は【ゴーレムキラー】を名乗るべきだと思う。素晴らしい。肉をおごってやろう。
続けてユグドレントに足を引っかけまくり邪魔に徹している。嫌がらせってレベルじゃねえぞ、可哀想に見えるわ。
知能が低いのか知らんが、つまずいても、つまずいても立ち上がり前へ――そしてまたつまずく。
大樹の巨人さん頑張れ。見えない手なんかに負けるな。
……いや、負けてもらわないと困るんだけどさ、そんな気持ちになるよ。
ともかくネルトの方は時間的余裕が出来た。
一方でポロリンの方は厳しい。
Aランクの三体が襲って来ないのが幸いだが、いつ襲い掛かって来てもおかしくはない。
その前にサンダーライガーを倒したい所。
二体に<魅惑の視線>が効いたのは運が良すぎだろう。セクシー補正が乗ったのかもしれん。
……じゃあ効いた二体はオスか? ……いや、オークじゃあるまいし、虎まで魅了するわけがないか。
そのポロリンは帯電ダメージを食らいながら倒したのは見事だけど、残り四体はきつそうだ。
「ソプラノ! 混乱してない虎に<ハイキュアバブル>撃ってみて!」
「!? わ、分かりました!」
「ポロリン! なるべく一体ずつ戦えるように<魅惑の視線>を継続! ネルトも気にかけてあげて!」
「了解!」「ん!」
虎が操られている状態だとすれば、状態異常扱いと同じく<ハイキュア>で治せるかもしれない。
まぁ仮に効いても野生のサンダーライガーに戻るだけだから意味はないかもしれないが、足並みは乱せるかも……と期待。
それにしたってほとんどポロリン一人という現状に不安はあるが、入口を確保しないといつまで経っても厳しいままだ。
さっさと鳥どもを殲滅せねば。
そうして後方へと来てみれば、サフィーは飛び回りつつ<火遁>と<影縫い>を連発している。
フレスベルグは素早い飛行から氷魔法と爪撃を繰り出して来るらしく、複数から同時に攻撃されれば敏捷の高いサフィーでも全てを避けられない。
とは言えまだ動けているし、<火遁>も刺さっている。まだマシだ。
リーナがまずいね。グリフォンを相手に超接近戦を挑んでいるが、フレスベルグからの攻撃を無視してグリフォンに集中しているらしく、結構ダメージをくらっている。
「参戦するよ! リーナ! 一回下がって回復して来て!」
「っ! 了解です! お願いします!」
選手交代。グリフォンと対峙する。
視界の端ではグラトニースライムもケアしておく。
あいつがまた動き出したらすかさず<毒弾>を飛ばすつもりだ。
「クルルルァァァ!!」
「よっ――ほいさぁ!」
グリフォンはどこかの巨人と違って知能が高いらしく、Aランクに相応しい戦闘強者だと感じる。
デカい図体で機敏に動き、強力な攻撃を連続して仕掛けてくる。
まぁ、避けてカウンターするんだけど、風魔法とか使われるとつらい。
使いそうになるタイミングで位置取りを考えないと、上手く避けられないし、味方に被害が出るかもしれない。
「ヒョォオオオ!!!」
「おっと!」
と、グリフォンに集中していると上空からフレスベルグの氷が降って来る。
なるほどリーナはこの連携にやられたのか。サフィー一人で鳥五体を抑えるのは不可能だし。
一応こっちにもちょっかい出しておこう。
あんまりやりすぎるとヘイト貰いすぎるから困るけどね。
「(<石化毒>で)――<毒弾>! <毒弾>!」
さすがに上に向かって<枯病毒>を撃つのは怖い。<麻痺>も動けなくなるから怖い。
<石化毒>なら万が一掛かっても一部が石化するだけで動けるし、ソプラノが治せるからまだマシだ。
とは言え<毒雨>は絶対に使えないけどね。ピンポイント狙いで<毒弾>しかない。
そんなわけでグリフォンを相手にぐるぐると接近戦でカウンターを入れつつ、上空に<毒弾>を撃つお仕事。
あー、脳みそが二つ欲しい。<並列思考>的なスキルは存在しないものか。
無理だろうなー、【毒殺屋】だしなー。
「お待たせしました!」
「よし! 私の対面をとるように動いて! 一気に沈めるよ!」
「はいっ!」
リーナ復帰。HP・MPを回復し、スタミナ回復剤もごっくんしてきたらしい。
グリフォンのヘイトは私に向いている。顔をこちらに向けるならば、リーナは尻狙いだね。
で、二人で挟みながらぐるぐると斬りまくる。
時々ヘイトがリーナに行ったりするけど気にせず攻撃。
フレスベルグに<毒弾>も継続……お、一羽墜落したね。翼が石化したのかな? ラッキー。
普通のグリフォンならここまでタコ殴りにされれば飛んで逃げてもおかしくない。
テイムされている影響なのか、Aランクとしての意地なのか、少し飛んでは風魔法を撃つくらいしかしない。
そこからまた爪や嘴で襲って来るのでこちらとしては願ったり叶ったりだ。
「<氷の刃>! <ぶつ斬り>! はあっ!」
そうこうしているうちに、リーナの渾身の一撃がグリフォンの首を斬り裂いた。
見事。チャンスを逃さずに即座に動けるのはさすがリーナだ。
しかし余韻に浸る暇などない。
「よし! サフィー! そっち任せて大丈夫!?」
「お任せくださいまし! あと三羽程度、余裕ですわ!」
フレスベルグは私が石化させたのが一体、サフィーが倒したのが一体。
他の三体は飛んだままだが、少なからず<火遁>でダメージは与えているはず。
問題はサフィーのダメージとスタミナだ。本人は気丈に振る舞っているけど一応気に掛けておこう。
「リーナはポロリンのフォローに行って! ″待ち″に徹して!」
「分かりました!」
「ネルト! 私がそいつ殺るから、サフィーと鳥をお願い!」
「ん」
「ソプラノ! サフィーの回復とバフよろしく!」
「はい!」
指示を出しつつ、ポケットから出したスタミナ回復剤を飲み込み、左手のユグドレントに向かった。
足を引っ張られ続け、つまずき続け、大変だったろう。可哀想に。
――私が楽にしてやんよ! この木偶の坊が!
■ベオウルフ 【操獣士】 18歳
アジト内の″牧場″から従魔を出入りさせる為の『従魔門』。
その前に広がる″庭″を、迎撃の地とした。
マニュエズさんからは「逃がす事は許されない、確実に殺すべし」と言われ、俺たち五人の従魔の中でも最高の戦力と言えるだけの魔物を集めた。
どれもこれもAランク。各々自慢の魔物だ。
これをたった七人の侵入者に当てるのはさすがにやりすぎだとも思ったが、実際にここまでの戦いを聞くに油断は出来ねえし、確実性を求めるなら当然だなと改めた。
俺たちは五人で″庭″の周囲にそびえる崖の上に居る。
察知の働かない程に離れた場所で、″庭″からは見られない位置。
そこで伏せたまま、望遠の魔道具で覗いていた。
ヤツらは案の定、″庭″と″従魔門″を怪しんだらしく、警戒を保ちつつ″庭″へと入る。
そのまま″従魔門″の方へと歩みを進め、″庭″の中心に来た時に″従魔門″から俺たちの魔物が次々に現れた。
驚くヤツらを後目にすぐさま包囲へと展開。
ヤツらは逃げたいのか、退路を確保したいだけなのか、イグルの魔鳥部隊の方へと走り、攻撃を仕掛け始める。
ここまで来て逃がすわけにはいかない。
俺たちの従魔は包囲をしつつ、殲滅すべく動き始めた。
ただ俺の従魔は強いのを並べ過ぎた。
ケルベロスは炎、フェンリルは氷、マンティコアは風と毒を使う。
同時に接近戦となれば同士討ちになりかねないので、まずはサンダーライガーのみが仕掛け、三体は包囲を継続させた。
相手はたった七人。こちらはAランクとBランクの多種多様な魔物。
正直グリフォンだけでも十分戦えるし、少なくとも包囲を突破される事はない――はずだった。
「はあっ!? ちょっ! どういうことでふ!?」
最初に声を荒げたのはプップル。
自慢のグラトニースライムが明らかなダメージを受けている。それにはプップルだけでなく俺たち皆が言葉を失くした。
グラトニースライムを相手にしたら、俺の自慢の三体を使っても勝てる見込みがない。
どんな攻撃をしても吸収されてしまうのだから。
まさか例の国宝級の錬金薬を……? いや、『白ウサギ』は何か魔法を放っているように見える。
錬金薬の効果を模した魔法? スキル?
全く意味が分からないが、とにかくグラトニースライムにとって致命的なのは確かだ。
「ぐっ……! くそっ!」
続いて声を上げたのは無口なはずのフロストン。
圧倒的な防御力と破壊力を持つクリスタルゴーレムが土煙を上げて沈む。
おそらくミスリルゴーレムを殺ったとされる、非生物にも有効の『即死』系手段。
こちらの魔物が現れてから詠唱している風もなく、何かを構える動作も見せず、だと言うのに倒された。
「えっ、ちょっと! 何やられてるんですか!?」
さらにプラティのユグドレントは何かにつまずいたように倒れ、起き上がり、また倒れを繰り返している。
土魔法で足元に岩でも作られているのかと思えば、そんなものは見えない。
不可視の何かによって邪魔をされている。
しかしヤツらを見ても……あの黒猫か? 魔法使いっぽいのはアイツだが……。
杖も構えず、視線もキョロキョロさせている。あれで魔法を使っているようには見えない。
俺のサンダーライガーも″混乱″にでもされたのか同士討ちを始め、一体はピンクのくまに潰された。
何が何だか分からない。俺たちの想像以上の何かが次々と起きている。
分かったのはヤツらが見掛けに反して異常な強さを持っている事。
そしておそらく、帝国の情報にもない未知の固有職の集まりだという事。
「ああああっ! 私のピーちゃんがああああ!!!」
考えに浸る間もなくイグルが絶叫した。
紺イヌ……ダンデリーナと戦っていたグリフォンが白ウサギの加勢によって倒された。
イグルの育て上げたAランクのグリフォンを、たった二人の剣技だけで。
……って、ちょっと待て!
いや、あの白ウサギはグラトニースライムに魔法使ってたはずだろ!?
あんな強力な魔法(かスキル)を持ちながら、剣技のスキルも持ってるってのか!?
それだけじゃねえ。ダンデリーナの回避能力も異常だったが、白ウサギの回避は異次元だった。
剣も魔法も回避も優れた固有職なんか……。
「まさか……【勇者】……か?」
フロストンが呟く。
馬鹿馬鹿しい! それこそ御伽話の世界じゃねえか!
「くそっ! うちの三強にも攻めさせるぞ! いいな!」
「…………(コクリ)」
「ピーちゃんの仇とってー!」
これだけやられりゃ同士討ちもクソもねえ!
ケルベロス、フェンリル、マンティコアも同時に攻めさせる!
あの七人を残らず殺して――
……七人?
俺の目は、女に囲まれながら全く戦闘に参加していない、唯一の男に止まった。
この期に及んで何もしないなんて、あいつは一体……。
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