ぽぽぽぽいぞなぁ!~物騒すぎるジョブになっちゃったので、私、スローライフは諦めます~

藤原キリオ

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最終章 毒娘、故郷の為に戦う

146:信頼し合える仲間同士だから共に戦えるって事です

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■ダンデリーナ・フォン・ジオボルト 【サシミタンポポ】 11歳


「<氷の刃>! <賽の目斬り>!」

「「「ガルルルルゥゥゥ!!!」」」


 息を荒げつつとにかく足を動かします。
 それは今までのどの戦いよりも速く、そしてより高い集中力を必要とします。
 スタミナ回復剤を飲まなければいけないのは分かっていますが、飲む隙もない。

 ただ走り、ただ斬るのみ。その繰り返しです。


 ケルベロスはわたくしにとって強大すぎる敵。
 見上げるほどの体格から繰り出される攻撃力と、見た目にそぐわぬ敏捷性。
 そして何より三つ首が本当に厄介です。

 時には炎、時には噛み付きと、わたくしを死へと誘う攻撃を次々に繰り出します。
 決して正面に立ってはいけない。
 だからこそ足を止めてはいけないのです。


 ソプラノ様からのバフも入っています。ネルト様も手助けして下さっているようです。
 わたくし一人ではなく、頼りになるパーティーメンバーの皆様からの補助を受け、それでも尚厳しい。
 かつてないほどの集中力で<流水の心得>を使い、自分でも過去最高と思えるほどの動きが出来ているのに、まだ遠い。

 ケルベロスとは――Aランクの魔物と正面から戦うというのはこういう事なのかと歯噛みします。

 これがピーゾン様であれば簡単に回避しつつ攻撃し続けられたのでしょうが……。


 いえ、比べても仕方ありません。わたくしはわたくしなのです。
 他ならぬピーゾン様に言われたのですから。ケルベロスを任せると。
 類稀なる戦術眼によってわたくしならばケルベロスと戦えると、そう判断されたのですから。
 出来ないはずがありません。戦えないはずがないのです。


「「「ガルルルルゥゥゥ!!!」」」

「くっ……!」


 接近戦であるが故、ケルベロスの咆哮が耳の奥まで響きます。
 おそらく″威圧″の効果もあるのでしょう。こちらを怯ませ、足を止めさせる為のものだと思います。
 ワンワングローブに<威圧耐性>があって良かった。
 マリリン様には改めて感謝をしなければなりません。


「ガガゥゥゥ!!!」


 左の首から炎が吐かれました。撒き散らすようなそれは、近くに居るだけでダメージを受けます。
 わたくしは即座に左へ――すると右の首が狙ったかのように噛み付いてきます。
 体勢が崩れていても<流水の心得>で無理矢理回避。さらに左の側面に回ります。
 追撃とばかりに右前足の爪撃。堪らず二刀を重ねるようにして防ぎますが、重量のある爪撃でわたくしは吹き飛ばされました。


「はあっ! はあっ!」


 倒れている暇はありません。すぐに再度突貫します。
 しかし周りの熱さに反比例して、冷や汗が止めどなく流れてきます。
 それは″死″が間近にあるという恐怖。


 わたくしは戦える。戦えるはず。

 ……しかしどう戦えば

 ……わたくしは……ケルベロスに……勝てるのですか……?


 折れかけた心を繋ぎ止めて下さったのは、わたくしが一番頼りにしている方の声でした。


「(バババッ!)――<水遁>! お待たせしましたわ! リーナさん!」

「サフィー様っ!」

「一時下がって回復を! 持たせますわ!」

「分かりました! お願いします!」


 サフィー様はご自分の仕事であったユグドレント討伐を熟し、即座に駆け付けて下さいました。
 さすがはサフィー様。本当にお強い方です。
 そしてわたくしにとっては本当に心強い。百人力とはまさにこの事。

 折れかけた心は治るどころか、より太く。

 サフィー様のおかげでわたくしもまた戦えそうです。
 共に並び、立ち向かいましょう。

 Aランクのケルベロス。強大なる敵。


 しかしわたくし達が並び立ち・・・・戦えば――負けるはずがありません!



■ポロリン 【セクシーギャル】 10歳


「ガルルルゥゥゥゥ!!!」

「くっ……! っ……!」


 マンティコアは見上げるくらいに大きく、口を開けば牙がいっぱいだし、ボクなんか丸飲み出来ちゃうんじゃないかと思えるほどだ。

 噛み付きが来ると牙にトンファーを当てて、受け流しのようにして身体をずらす。
 ピーゾンさんやリーナさんみたいな回避が出来ればいいんだけどボクじゃ無理だし、そうやって無理矢理逃げるしかない。


 爪の攻撃はまだマシだ。体重があるからすごく重いしトンファーじゃ受けきれないダメージが身体に通る場合もあるけど、ソプラノさんが回復してくれるし、クマクマブーツの<ノックバック耐性>もある。

 逆に<トンファーキック>でノックバックさせる時もある。
 と言うか、ボクがやれる攻撃なんてそれこそ<トンファーキック>しかないんだけど。
 他の攻撃アーツを出した所で怯みもしないだろうし、逆に攻撃されて終わりだと思う。
 だから確実に距離をとれる<トンファーキック>くらいしか出来ない。


 この体格で動きが速いっていうのも理不尽だ。
 猫みたいにしなやかな動きで、距離をとったと思ったらすぐ突進してきたり爪で攻撃してきたりする。
 翼があるから動きが素早いのかもしれない。飛ばないだけマシだけど。


 で、そんな近接攻撃だけでも厄介なのに、獅子は風のブレスを吐いてくるし、尻尾の蛇は毒のブレスを吐いてくる。

 ピーゾンさんは「無視して」って言ったけど、その意味がよく分かった。
 避けられないし、防げない。下手にガードしてるとその後に噛み付きとかが来た時に対処出来なくなる。

 だからもうブレスは全部食らう。痛いけど。
 ソプラノさんの回復を信じて、ひたすら耐える。


 実はボク、特訓している時にピーゾンさんの毒を受けた事がある。
 もちろん解毒ポーションを片手に持って、安全第一ではあったけど。
 ボクは盾役タンクだから状態異常がどんなもんか受けておいた方がいいって言うのと、ボクの【抵抗】が低いから本当に状態異常に掛かりやすいのかどうかを検証する為に。

 結果は一発で<衰弱毒>になったんだけど、その時、十秒に一度訪れる毒の痛みは相当なものだった。
 それがあるからマンティコアの毒ブレスも耐えられるんだと思う。
 やっぱり経験しておいて良かった。酷い特訓だったけど。


 そんな事を考えつつ、マンティコアの前に立ち続けた。

 馬鹿みたいだけど、こうしているとボクもパーティーを守ってるんだ、貢献してるんだって思えるんだよね。
 もちろんただの自己満足だけど。

 ボク以外のみんなが本当にすごい人たちばかりで。
 でも男はボクだけだし、だから守らなきゃいけないし。
 盾役タンクらしく身体を張るくらいしかボクには出来ないから。


 でも……。


 いくらソプラノさんが回復してくれても、どんどんダメージが増えていく。
 HPじゃなくて、心のダメージが。
 本当にこのままで守りきれるのか、ボクは立っていられるのか、何も攻撃出来ないボクはこのまま――



 そうして落ち込みそうになる時、いつも前を向かせてくれるのは、この人だった。



「お待たせポロリン! よく耐えた!」


 マンティコアの側面から大鉈の強襲。
 それはボクにとって待ち望んだ声。
 誰よりも頼りになる、誰よりも強い、リーダーの声だった。


「ピーゾンさん!」

「ポロリン、正面まだ受けきれる!?」

「やれます! 任せて下さい!」

「よし! じゃあ<挑発>しちゃって! 私は後ろから<枯病毒>で行くから! 速攻で蛇から倒すよ!」

「分かりました! <挑発>!」


 マンティコアの攻撃をボクに集中させれば、ピーゾンさんは攻撃し放題だ。
 <枯病毒>まで使うって言うから、早くケリをつけるつもりだろう。

 よし! もう大丈夫! これまでだって守れたんだから、あと少しくらい何でもない!
 さあ来い! マンティコア!



■ピーゾン 【毒殺屋】 10歳


 サフィーはユグドレントを撃破。
 やっぱり多少なりともダメージは入っていたようで、その上で見るからに弱点の<火遁>を連発したのが効いたらしい。
 ネルトの邪魔も上手くはまって、完封出来たようだ。

 そのままサフィーはケルベロスへ。
 これでケルベロスにはリーナ、サフィー、ネルトの三人で挑む事になる。
 まず問題ないでしょう。事故らなければいける。


 一方でフェンリルを虐めまくった私は少し遅れてポロリンの下へ。

 うわー、案の定ボロボロだわ。ボロリンだわ。
 いや、毒を使ってくるマンティコア相手に抑えきれるのはポロリンしか居ないと思って任せたけど、ソプラノの回復を受けて尚、やっぱり厳しかったみたいだね。

 それでもよく耐えたもんだよ、ホント。
 オーフェンの道具屋で引き籠ってたあのポロリンがよくぞここまで戦えるようになったもんだ。
 今も臆病でビクビクしたりしてるけど、それでもやる時はやってくれる。
 いい男になったもんだ。やっぱパーティー組んで正解だったよ。


 と、いうわけで急ぎ足で参戦。
 マンティコアの正面を引き続きポロリンに任せ、私は後ろから<枯病毒>で一気に攻める。

 体格のあるマンティコアだから<毒弾>が外れてポロリンにまで毒が掛かるなんてこともないし、蛇の尻尾さえ倒しちゃえば毒のブレスは吐けなくなるはず。
 そうなればポロリンの防御もより安定するし、私も戦いやすくなる。


 よし! と気合いを入れつつマンティコア戦に入ったすぐ後の事――。







「捕らえた! 抜けるぞ!」






 ソプラノの隣にずっと立っていたアロークのおっさんが急に声を上げた。
 おっさんはここまで全く戦っていない。ただの置物になっていた。

 この厳しい戦いで、私たちが苦戦を強いられているというのに、固有職ユニークジョブを保護する立場の管理局員は何もしていなかった。


 いや、「何もしない」ではない。


「他にすべき事があったから、何も出来なかった」のだ。


 この盆地――闘技場に突入する前、ネルトの<ホークアイ>はすでに捉えていたのだ。
 崖の上に固まっている幾人もの″人間″を。
 おそらく魔物を操っていると思しき、連中の姿を。

 だからこそ私たちは誘いに乗るように盆地へと入り、戦いに注視させる為に強い相手にも無理矢理挑んでいったのだ。

 本当なら<ロングジャンプ>で避難すべき時も、無茶を承知で押し通った。
 今もみんなダメージを受けながら戦い続けている。

 それも全て、その連中をおっさんの糸で捕らえる為。
 五人居るらしいその連中を誰一人逃がさず、確実に捕らえる為に、おっさんは遠く崖の上まで細い糸を出し続けた。


 そして、それはやっと実った。

 おっさんは言い放つや否や、左手から糸の束を射出し、崖に付着させると、その糸を今度は縮ませるようにシュンと飛んで行った。

 まさしくスパイ〇ーマンの動きだ。
 おそらくこの動きで王都から馬車の後を追ってきたのだろう。


 そんなおっさんの姿を見て少し安堵したが、だからと言って安心出来る状況でもない。
 術者が捕らえられたとしてもケルベロスもマンティコアも止まる保証なんてないんだから。
 ふぅ、と大きく息を吐いて、気合いを入れ直す。


「よし! みんなもう少し! 気合い入れて倒すよ!」

『おお!』


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