カスタム侍女無双~人間最弱の世界に転生した喪服男は能力をいじって最強の侍女ハーレムをつくりたい~

藤原キリオ

文字の大きさ
23 / 421
第一章 黒の主、世界に降り立つ

23:スタンピードのその後

しおりを挟む


■チアゴ 虎人族ティーガル 男
■122歳 魔物討伐組合イーリス支部長


 その日、儂は想像を絶する経験をした。
 これまでの長い人生でも飛び切りと言ってよいほどのものじゃ。


 イーリスの街にスタンピードが迫る。
 その凶報を受け、儂は直ちに北門へと向かった。
 衛兵団、そして迷宮組合とも連携し街の防衛にあたる。

 それは当然じゃ。
 なんせ斥候の報告によれば魔物は多種族の群れが集まり、総数は千を超えるという。
 おまけに地竜ランドドラゴンが四体もいるとあっては、街そのものがなくなる可能性すらある。
 今から国や他街に応援を頼んだところで間に合うはずもない。

 衛兵は住民に避難勧告を出し、儂らはスタンピードを食い止めるべく、北門に陣を張った。
 報告の中では、噂の【黒の主】どもが先行して戦っているという。
 それでどれほどの時間が稼げ、どれほど数を減らしてくれることか……。
 淡い期待を胸に、儂らは続報を待った。


 随分遅い第二報が来たと思ったら、その内容に唖然とした。


「ほ、報告しますっ! 例のパーティーの手により魔物の群れは壊滅! スタンピードが消滅しましたっ!」

『はぁ?』


 その報告にしばし言葉を失くしたが、衛兵団長が確認したところ、千体以上居た魔物、オーガキングや地竜ランドドラゴンも含め、その全てが駆逐されたと言うのだ。
 誰も信じられるはずがない。
 彼らの力を一番知っているはずの迷宮組合のボリノーでさえ信じなかった。

 しかし言い争っていてもしょうがない。
 構えた陣はどうするのか、避難させた住民はどうするのか、再度調査をするべきではないか、色々と話し合っているうちに街道を歩いてくる人影が。


「あいつら……本当に帰って来やがった!」


 ボリノーの声が通る。
 先頭を歩く真っ黒の基人族ヒューム、そして五人のメイド。
 街道を歩く・・・・・というただそれだけで異質な六人。
 駆け寄ったボリノーが話を聞く。


「おお、支部長じゃないですか。どうしたんです?」

「お、お前ら! スタンピードはどうしたんだ! 本当に全滅させたのか! 怪我は!」

「ああ、あの群れやっぱりスタンピードだったんですか。倒しましたよ」


 事もなげにそう言う【黒の主】。
 近くによった儂と衛兵団長もその様子に訝し気になる。
 儂はともかく、衛兵団長は基人族ヒュームが魔物と戦うというその事自体に疑念がまだあるようじゃ。
 事前に儂とボリノーで説明はしておったんじゃがな、気持ちは分かる。


「それで出来るだけ回収したんですけど、解体をお願いしたいんですよ。あ、これは魔物討伐組合に言ったほうがいいですかね」

「か、回収? 千体をか? ラ、地竜ランドドラゴンもか?」

「ええ、ほら」


 そう言って【黒の主】はドサドサと魔物の死体を山のように取り出した。
 どれだけ容量のあるマジックバッグだというんじゃ!
 こんなの儂だって話にすら聞いた事ないわ!

 さすがに死体の現物を見た衛兵団長は信じないわけにはいかず、衛兵に指示を出し、現場の確認と避難解除を指示していた。
 そして【黒の主】へと礼を言う。

 団長は誇りある狼人族ウェルフィンじゃ。
 基人族ヒュームに対して頭を下げるのに抵抗もあるじゃろうが、そこは衛兵団をまとめる者。
 街を救った英雄に対して、ちゃんと頭を下げていた。
 脳みそまで筋肉で出来ているかと思えば、なかなか柔軟なやつじゃ。評価を上げよう。

 しかし、衛兵団長と紹介を受けた【黒の主】は「衛兵ならば」と、後ろに控えたメイドに指示を出す。


「イブキ、そいつ持って来て」

「はい」


 鬼人族サイアンのメイドが我々の前に寝かせたのは、縄で雁字搦めにされた女だった。
 紫がかった黒い肌、頭に生えた巻角、細長い尻尾……これは!


「魔族!?」

淫魔族サキュリスか!?」

「どうもこいつが魔物を操ってスタンピードを起こそうとしてたらしいです」

『なにっ!?』


 魔族が魔物を操りスタンピードを起こすなど前代未聞。
 そして千体ものスタンピードを単独パーティーで殲滅するなど前代未聞。
 その原因である魔族を捕らえるなど想定外もいい所じゃ。

 即刻、衛兵団に引き渡され、事実関係を確認後、報奨金が出るだろう事が伝えられる。
 儂は儂で山のような魔物の解体を指示しなければならん。
 どう考えても組合の解体士だけでは足りん。
 手の空いている組合員には総出でやってもらおう。


「【黒の主】、セイヤと言ったか。儂は魔物討伐組合の長、チアゴじゃ」

「ああ、どうも」

「街を救ってくれた事、感謝する。解体は儂らで引き受けよう」

「ありがとうございます。お願いします」


 なんじゃ、ちゃんとした青年ではないか。
 噂じゃ絡んだ輩を次々に投げ飛ばし、気絶させる冷血漢といった感じじゃったが……。

 やはり噂も種族も当てにはならんのぅ。
 それがこの奇跡のような日に改めて感じた教訓じゃ。

 しかし、この地竜ランドドラゴンの斬り口……首をスパッといっておる。
 こんな綺麗な倒し方、儂でもそうそう見た事がない。
 こりゃ大金が動くぞ。
 【黒の主】に一度仕舞ってもらいつつ、儂はほくそ笑んだ。


■サリュ 狼人族ウェルフィン 女
■15歳 セイヤの奴隷 アルビノ


 魔物の解体は三日か四日かかるそうです。
 私たちも手伝ったほうがいいかと思いましたが、下手に近づくとご主人様を基人族ヒュームだと馬鹿にする組合員もいるだろうと、完全にお任せする事にしました。
 衛兵さんに引き渡した淫魔族サキュリスの女の人も、尋問してその結果により報奨金が出るそうで、どちらにしろ数日間はイーリスの街に留まることになりそうです。


 カオテッドに向けて出掛けた矢先にスタンピードに巻き込まれ、舞い戻り、出れなくなってしまった。
 私はそれを『忌み子が呼んだ厄災』と思い卑下しました。
 しかし……


「もし今回の一件がサリュによるものだとしたら、やっぱ白狼は忌み子じゃなくて神様だな。おかげでCP稼ぎまくったし、みんな強くなれる。おまけに数日間は完全オフだ。こんなにゆっくり出来るのは初めてじゃないか」


 ご主人様はそう言って頭をなでて下さいます。
 みんなも私を怖がらず、笑って褒めてくれました。
 ネネちゃんはご主人様に頭をなでてもらった事が羨ましかった様子でしたが、それに気付いたご主人様がネネちゃんの頭を撫でると目を細めていました。


 宿に戻り、数日間何をしようかという話になりました。
 解体を依頼する魔物の死体を定期的に<インベントリ>から出しに行かないといけないので、下手に街の外や迷宮に狩りに行くわけにはいきません。
 組合の解体場も千体の魔物――ましてや地竜ランドドラゴンが四体も入らないのです。
 何回かに分けて出しにいくそうです。

 という事で街をぶらつこうとなりました。
 ちゃんと見て回るのは初めてで楽しみでもあり、緊張もします。

 私は『忌み子』なので村を出たことがありませんし、自由に買い物などしたことがありません。
 ネネちゃんも集落でもイーリスでも虐められていたので、したことがないそうです。
 ミーティアさんも罪人である以前に、国では「巫女さん」という重要な役割を担っていたそうで、やはり未経験。

 何よりご主人様が基人族ヒュームという事で、良い目で見られることなどないので、今までは好んで街に出るような事はしなかったそうです。


 しかし、どうやら私たちがスタンピードを食い止めたという噂が巡ったらしく、歩く先々で「ありがとうな!」と感謝の声をかけられました。
 こんなことは初めてで思わず涙が出そうになります。
 何かを為して、誰かから感謝される日が来るなんて想像もつきませんでした。
 ネネちゃんも同じようで、私たちはギュッと手をつないでいました。

 エメリーさんとイブキさんは「ご主人様ならば感謝されて当然です」と平然としています。
 ご主人様はそういった声に手を軽く上げて応えていました。

 もちろんそれでも穿った目で見て来る人もいます。
 本当に基人族ヒュームごときが倒したのかよ、と。
 そういった目線はむしろいつものこと・・・・・・なので気になりません。

 私は街の人たちに感謝されているご主人様を後ろから見て、改めて思ったのです。
 ご主人様に出会えてよかった。
 拾ってもらって良かった、と。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~

津ヶ谷
ファンタジー
 綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。 ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。  目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。 その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。  その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。  そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。  これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。

異世界帰りの英雄は理不尽な現代でそこそこ無双する〜やりすぎはいかんよ、やりすぎは〜

mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
<これからは「週一投稿(できれば毎週土曜日9:00)」または「不定期投稿」となります> 「異世界から元の世界に戻るとレベルはリセットされる」⋯⋯そう女神に告げられるも「それでも元の世界で自分の人生を取り戻したい」と言って一から出直すつもりで元の世界に戻った結城タケル。  死ぬ前の時間軸——5年前の高校2年生の、あの事故現場に戻ったタケル。そこはダンジョンのある現代。タケルはダンジョン探索者《シーカー》になるべくダンジョン養成講座を受け、初心者養成ダンジョンに入る。  レベル1ではスライム1匹にさえ苦戦するという貧弱さであるにも関わらず、最悪なことに2匹のゴブリンに遭遇するタケル。  絶望の中、タケルは「どうにかしなければ⋯⋯」と必死の中、ステータスをおもむろに開く。それはただの悪あがきのようなものだったが、 「え?、何だ⋯⋯これ?」  これは、異世界に転移し魔王を倒した勇者が、ダンジョンのある現代に戻っていろいろとやらかしていく物語である。

【状態異常耐性】を手に入れたがパーティーを追い出されたEランク冒険者、危険度SSアルラウネ(美少女)と出会う。そして幸せになる。

シトラス=ライス
ファンタジー
 万年Eランクで弓使いの冒険者【クルス】には目標があった。  十数年かけてため込んだ魔力を使って課題魔法を獲得し、冒険者ランクを上げたかったのだ。 そんな大事な魔力を、心優しいクルスは仲間の危機を救うべく"状態異常耐性"として使ってしまう。  おかげで辛くも勝利を収めたが、リーダーの魔法剣士はあろうことか、命の恩人である彼を、嫉妬が原因でパーティーから追放してしまう。  夢も、魔力も、そしてパーティーで唯一慕ってくれていた“魔法使いの後輩の少女”とも引き離され、何もかもをも失ったクルス。 彼は失意を酩酊でごまかし、死を覚悟して禁断の樹海へ足を踏み入れる。そしてそこで彼を待ち受けていたのは、 「獲物、来ましたね……?」  下半身はグロテスクな植物だが、上半身は女神のように美しい危険度SSの魔物:【アルラウネ】  アルラウネとの出会いと、手にした"状態異常耐性"の力が、Eランク冒険者クルスを新しい人生へ導いて行く。  *前作DSS(*パーティーを追い出されたDランク冒険者、声を失ったSSランク魔法使い(美少女)を拾う。そして癒される)と設定を共有する作品です。単体でも十分楽しめますが、前作をご覧いただくとより一層お楽しみいただけます。 また三章より、前作キャラクターが多数登場いたします!

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

【モブ魂】~ゲームの下っ端ザコキャラに転生したオレ、知識チートで無双したらハーレムできました~なお、妹は激怒している模様

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
よくゲームとかで敵を回復するうざい敵キャラっているだろ? ――――それ、オレなんだわ……。 昔流行ったゲーム『魔剣伝説』の中で、悪事を働く辺境伯の息子……の取り巻きの一人に転生してしまったオレ。 そんなオレには、病に侵された双子の妹がいた。 妹を死なせないために、オレがとった秘策とは――――。

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

処理中です...