カスタム侍女無双~人間最弱の世界に転生した喪服男は能力をいじって最強の侍女ハーレムをつくりたい~

藤原キリオ

文字の大きさ
83 / 421
第四章 黒の主、オークション会場に立つ

80:商館に行くたび奴隷が増える

しおりを挟む


■フロロ・クゥ 星面族メルティス 女
■25歳 セイヤの奴隷 半面


 鬼人族サイアンの角が折れるというのは、力を失う事を意味する。
 文字通り、弱体化するという事だ。
 だからこそ鬼人族サイアンは角を誇りにするし、力を奉ずる集落にあって角を失くした者は完全に差別化される。

 それは樹人族エルブスに対する『日陰の樹人』より酷い。
 どちらかと言えば狼人族ウェルフィンの集落における白狼サリュと似たようなものだ。
 だからこそイブキは集落を出た。

 そしてエメリーと出会い、多肢族リームズの集落全滅という目にあい、闇奴隷に落ち、ご主人様と出会った。


 イブキにとってそのラセツという男はトラウマなのだろう。
 経緯は分からんが、少なくとも喧嘩などで殴っただけという事はあるまい。
 滅多な事では折れんが故に鬼人族サイアンの角は力の象徴なのだから。

 イブキはあくまで私事だと言った。それが私怨か恐怖かは知らん。
 だがそれを聞いたご主人様はこう言った。


「イブキはまだまだ弱いな」

「……はい」

「迷宮行くのに加えて特訓しないとダメだな。一緒に強くなろうな」

「……は、はいっ!」


 今のイブキを弱いと言えるのはご主人様しかおらん。
 そしてイブキもより強くならねばと思っていたのだろう。
 やれやれ、これ以上強くなるのかと呆れてしまうわ。
 しかし発破をかけたのは見事。さすがは我のご主人様よ。


 他の報告として、ジイナがミスリルを打てたと話した。
 ご主人様は大層喜んでいた。

 見習い鍛冶師だったジイナがミスリルを打てるというのは、<スキルカスタム>により<鍛治>スキルが強化されていたが故。
 我も打てたと聞いた時は、改めて<カスタム>の恐ろしさを感じたものだ。

 何にせよ、ジイナがミスリルを打てるならば我らの武器の修繕や整備も楽になる。
 やはりジイナの加入は我らにとって大きい。


「今度ジイナにミンサー作って欲しいんだよなー」

「ミンサー? それはどんな武器ですか?」

「いや、武器じゃなくて、肉をミンチにする料理道具」

「料理道具!? ミ、ミスリルで!?」

「ミスリルじゃなくてもいいけどお手入れが楽そうだろ? 鉄より在庫あるし」


 またジイナが虚空を見ておった。
 まったく、どこの誰がミスリルで料理道具を作ろうなどと言うものか。
 エメリーやサリュたちはそれでどんな料理が出来るのかと楽しみにしている様子。
 やはりご主人様には常識が欠けておるし、皆も毒されすぎだ。常識人たる我がフォローするしかあるまい。


 ちなみにジイナが試しにミスリルで作ったくわはポルに渡された。


「うわぁ! ありがとうなのです! すごいのです!」


 本人は喜んでいるのだが、作ったジイナどころかご主人様も含めた皆が怪訝な顔をしている。
 あれで戦うつもりなのだろうか。
 ポルは魔法特化にしたと聞いたのだが……果たして迷宮で振るう機会はあるのか。
 しかし魔物を耕すのを少し見たい気もする。


 そうして報告会は終わり、その日は改めてポルとドルチェの加入を祝っての夕食となった。
 ご主人様はお疲れなので、柑橘系の果物を浮かべた風呂に入ってもらい、ヒイノとエメリーを中心に豪勢な食事を用意した。
 もちろん我もサリュも手伝った。ドルチェもまぁまぁ料理ができるので助かる。
 ミーティアは……疲れているだろうから休んでいてくれ。いや、触れるな、いいから休んでおれ。


「いやぁ~最高だったよ、やっぱ家の風呂が一番だな! おおっ、すごい料理じゃないか、豪勢だな!」


 ご主人様にも喜んで貰えたようで何より。
 とは言え、さすがに疲れていたらしく、久々の帰還にも関わらず夜伽もなしに寝たらしい。
 我はそこまで固執してないのだが、一部の侍女連中はブーたれておった。


 その翌日、ご主人様はドルチェの奴隷契約の為に奴隷商へと向かう。
 ジイナとポルも女主人への顔見せに連れて行くらしい。
 さらにいつものメンバー、エメリー、ミーティア、そして我……。


「フロロ……お前も来るのか?」

「行ってはまずかったら行かんが?」

「いや、奴隷を買いに行くわけじゃないからお前来なくてもいいんじゃないか、と」

「そうであればミーティアもいらんだろう?」

「いや、ミーティアはティサリーンさんに樹界国の報告あるかもしれないし」

「ふむ、我はどちらでも良いぞ。万が一奴隷を買う流れになっても我は何も口も出さん」

「本当だな!? 俺は買うつもりないからな! お前、変に扇動したりすんなよ!?」


 全く失礼なご主人様だ。人を扇動者扱いとは。
 我は見えた運命に基づいてアドバイスしているだけだ。
 何も他人の行動を縛ったりするつもりもないわ。

 ……まぁ口に出さなくても運命は早々変わらんからな。


 そうして七名でぞろぞろと【ティサリーン商館】へと向かう。


「あらあらあら、セイヤ様……まあ! ジイナ、綺麗になって!」

「はい、ご主人様に治して頂きました。その節はお世話になりました」

「まあまあまあ! 良かったわ~! それにポルも元気そうで良かったわ~、不安で押しつぶされているんじゃないかと心配していたのよ~。故郷の事は心配でしょうけど、きっと大丈夫よ。入ったばかりの情報だけど王都でね……」

「それはもう解決してきたのです! 心配かけてごめんなさいなのです!」

「えっ……解決?」

「はいっ! ご主人様が助けてくれたのです!」

「えっと……セイヤ様? ミーティア様?」


 ポルを買ってからまだ半月程度しか経っておらん。
 普通ならば、仮にポルから事情を聞いて樹界国へ向かったとして、王都にも辿り着けておらんだろう。
 それを往復したばかりか原因の排除と国政の復帰までしてきたのだ。
 女主人が呆けるのも頷ける。

 王位復帰の情報だけはもしかしたら得ているのかもしれぬ。伝書鳥か魔道具でな。
 しかし今ここに居るご主人様とミーティアたちが解決して戻ってきたとは思えんだろう。
 そんな速度で移動する術がないのだから。実際は走っただけなのだが。

 ともかくそうした話を女主人に伝えると大層驚いておった。
 そしてドルチェの奴隷契約を改めて行う。


「うわーっ! 私にもこれで女神様の御加護がっ!」

「祈るな祈るな、左手を見せ合うな、喜ばしいもんじゃないだろ」


 祈る気持ちは分からんでもない。
 ましてやドルチェは邪教から逃げる為に『女神』に頼っていた節がある。
 そこへきてエメリーの教育・・が入っているのだからな。


 さて、奴隷契約も終わったし帰ろうかという所で女主人が声をかけた。


「セイヤ様、是非見て頂きたい奴隷がいるのですが」

「!?」


 ご主人様がバッとこちらを見て来る。
 我は目を合わさん。何も口に出さん。
「お前、こうなると見越してたのか?」と目で訴えて来るが何も言わん。
 ツーンとそっぽを向く。


「あー、今日は奴隷を買うつもりなかったんですけど。ドルチェ入ってもう十二人もいますし」

「見て頂くだけで結構ですわ~」

「あー、じゃあ……見るだけで……」


 折れたな。

 女主人は一度部屋を出る。
 その間も我は何も言わんし、目も合わせない。


「……エメリーはどう思う? 奴隷を増やしたほうがいいか?」

「私はご主人様のご意思に従います。強いて言えばネネやサリュの代わりが居ないとは思いますが」

「ふむ、ミーティアは?」

「私も同意見です。加えて言うなら家事は問題ないと思いますが、戦闘面で言えば前衛過多かと」

「うん」


 確かに侍女十二人と人数は多いが、偏っているとは我も思う。
 迷宮でネネ以上の察知能力を持つ者はおらんし、回復できるのもサリュだけだ。
 そこは魔道具やポーションなどでカバーしておるが、編成を考えるならば考慮しても良いだろう。

 そして新しく入ったドルチェは種族的に非戦闘系ながら、ステータスは防御面が高く、戦うならばやはり前衛だろうという話が昨日あった。
 ヒイノに続き、二人目の盾役かと。

 そうなるとご主人様も入れて、十三人中、後衛は我とミーティア、サリュ、ポルだけだ。
 まぁ中衛というか遊撃扱いの者もいるがな。ネネとかティナとか。
 やはり前衛に偏っているのは間違いない。
 奴隷を増やすのならば後衛が良いのだろう。


 ……というかご主人様は気付いておるのか?
 その質問をしたという事は、もう買う気でいるという事だぞ?
 我が何を言うまでもないではないか。


「おまたせしましたわ~」


 女主人が帰ってきた。
 その後ろから付いてくるのは、やはり女性の奴隷…………が、二人。

 ご主人様が「二人ってどういう事だよ!」という目でこちらに顔を向ける。
 我は咄嗟に顔を背けた。目を合わせないように。

 しかし口は笑っていたかもしれない。
 知っていた・・・・・からな。二人だと。

 ふふふっ、いくら頑張っても覆せない運命もあるのだよ、ご主人様。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~

津ヶ谷
ファンタジー
 綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。 ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。  目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。 その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。  その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。  そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。  これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。

異世界帰りの英雄は理不尽な現代でそこそこ無双する〜やりすぎはいかんよ、やりすぎは〜

mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
<これからは「週一投稿(できれば毎週土曜日9:00)」または「不定期投稿」となります> 「異世界から元の世界に戻るとレベルはリセットされる」⋯⋯そう女神に告げられるも「それでも元の世界で自分の人生を取り戻したい」と言って一から出直すつもりで元の世界に戻った結城タケル。  死ぬ前の時間軸——5年前の高校2年生の、あの事故現場に戻ったタケル。そこはダンジョンのある現代。タケルはダンジョン探索者《シーカー》になるべくダンジョン養成講座を受け、初心者養成ダンジョンに入る。  レベル1ではスライム1匹にさえ苦戦するという貧弱さであるにも関わらず、最悪なことに2匹のゴブリンに遭遇するタケル。  絶望の中、タケルは「どうにかしなければ⋯⋯」と必死の中、ステータスをおもむろに開く。それはただの悪あがきのようなものだったが、 「え?、何だ⋯⋯これ?」  これは、異世界に転移し魔王を倒した勇者が、ダンジョンのある現代に戻っていろいろとやらかしていく物語である。

【状態異常耐性】を手に入れたがパーティーを追い出されたEランク冒険者、危険度SSアルラウネ(美少女)と出会う。そして幸せになる。

シトラス=ライス
ファンタジー
 万年Eランクで弓使いの冒険者【クルス】には目標があった。  十数年かけてため込んだ魔力を使って課題魔法を獲得し、冒険者ランクを上げたかったのだ。 そんな大事な魔力を、心優しいクルスは仲間の危機を救うべく"状態異常耐性"として使ってしまう。  おかげで辛くも勝利を収めたが、リーダーの魔法剣士はあろうことか、命の恩人である彼を、嫉妬が原因でパーティーから追放してしまう。  夢も、魔力も、そしてパーティーで唯一慕ってくれていた“魔法使いの後輩の少女”とも引き離され、何もかもをも失ったクルス。 彼は失意を酩酊でごまかし、死を覚悟して禁断の樹海へ足を踏み入れる。そしてそこで彼を待ち受けていたのは、 「獲物、来ましたね……?」  下半身はグロテスクな植物だが、上半身は女神のように美しい危険度SSの魔物:【アルラウネ】  アルラウネとの出会いと、手にした"状態異常耐性"の力が、Eランク冒険者クルスを新しい人生へ導いて行く。  *前作DSS(*パーティーを追い出されたDランク冒険者、声を失ったSSランク魔法使い(美少女)を拾う。そして癒される)と設定を共有する作品です。単体でも十分楽しめますが、前作をご覧いただくとより一層お楽しみいただけます。 また三章より、前作キャラクターが多数登場いたします!

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

【モブ魂】~ゲームの下っ端ザコキャラに転生したオレ、知識チートで無双したらハーレムできました~なお、妹は激怒している模様

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
よくゲームとかで敵を回復するうざい敵キャラっているだろ? ――――それ、オレなんだわ……。 昔流行ったゲーム『魔剣伝説』の中で、悪事を働く辺境伯の息子……の取り巻きの一人に転生してしまったオレ。 そんなオレには、病に侵された双子の妹がいた。 妹を死なせないために、オレがとった秘策とは――――。

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

処理中です...