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第五章 黒の主、未知の領域に立つ
116:トロールを殲滅せよ!
しおりを挟むC:前衛:エメリー【ハルバ・投擲】・ツェン【爪】・ジイナ【槌】
後衛:サリュ【光・神聖魔法】・ポル【鍬・水・土魔法】
■ツェン・スィ 竜人族 女
■305歳 セイヤの奴隷
探索の三日目、カオテッド大迷宮の四階層、仮称『火山荒野』。
四階層へ入ってから真っすぐ、火山方面にあたしたちは進んでいる。
所々、溶岩の小川や池がある真っ黒な地面の荒野だ。
あたしたちCパーティーは隊列で言うと三角形の左側。
とりあえず今日のところは真っすぐ行ってみようかとスライムや狼、トロールなんかを狩りつつ歩く。
探索速度は今までよりもだいぶ遅い。
そりゃ誰も入ったことのない階層だからな。
地図もなけりゃ情報もねえ。
となりでエメリーが歩きながら器用にマッピングしている。
その上で隠し魔法陣がないかとか、罠や魔物に気を付けて警戒している感じだ。
しばらく進むと、盆地のような場所があった。
隆起した岩に囲まれた丸い盆地。巨大な広場といった感じ。
いかにもだな、そう思っていると案の定。
「うわ、トロールの群れだ」
「集落……寝床? ただの遊び場でしょうか」
みんなで遠目に覗くと、二体のトロールが模擬戦のようにじゃれあい、その周りをぐるりと囲むトロールの群れ。
ぎゃあぎゃあと五月蠅く盛り上がるそれは、確かに遊びに見えた。
じゃあ集落なのかと言われると微妙。家や寝床があるわけでもないし。
まぁ地べたに寝てるのかもしれないが。
「仮に『トロールの集落』と名付けよう。で、奥に一匹いるあれは何だ?」
ご主人様が名付けると、それをエメリーが地図に書き込んでいた。
そしてご主人様の指差す方には、一段高い岩に座る、青黒い肌のトロールが居る。
他のトロールがボロ布に棍棒という装備なのに、そいつは何かの毛皮の外套を纏い、巨大な斧を担いでいた。
「トロールキングというやつじゃないか?」
「ツェンも見た事ないか」
「ないけど、トロールキングってヤツの存在だけは知ってるな」
「じゃあそれでいいか。やっぱここは【領域】で、あいつは【領域主】ってことかな」
そもそもエリアの基準が分からないが、【領域主】っぽいのが居るからそういう事だろう。
で、どうしようか、という話になる。
普通に乗り込んで戦うとすると、一つのパーティーで七体くらいのトロールと戦う事になる。
なんとも面白い乱戦だと嬉しくなるが、後衛陣にトロールの攻撃が当たりそうで怖い。
あたしと違って避けたり受けたり出来ないヤツだっているだろうし。
常に守りながら戦うってのもトロール相手じゃ難しいだろう。攻めないと。
「一番いいのは周囲の岩山に上って、上から遠距離攻撃を撃ちまくる感じかな」
ご主人様がそう提案する。一方的な戦いになりそうだな、それ。
楽なんだろうけどつまらないなー。
それにスキルとか武器とか連携の訓練にならないんじゃないか?
ご主人様もそう思ったのか、作戦を変えたようだ。
「ともかくあの数を一度に相手にするのはキツイと思う。上から遠距離で何体かは削る。それから降りて普通に戦うか。ちなみにトロールと一対一で戦いたいヤツいるか?」
手を上げたのは、あたし、ティナ、ネネ、イブキ、ヒイノ、エメリー、ドルチェ。
ヒイノとエメリーは珍しいな。
どうやらヒイノは盾受けしてみたい、エメリーはトロールの戦力分析がしたいという事らしい。
「じゃあキングとトロール七匹は残す。それ以外をまずは遠距離で仕留める。いい感じのところで降りて、一対一で戦ってくれ。戦わない人は後方支援な。ヤバそうなら手伝う感じで。キングは俺が行ってみるから」
『はいっ』
そうして盆地の外側から回り込んで、岩山に上る。見下ろす集落は大きな闘技場のようだ。
一応パーティー間の距離をとって、三方向から遠距離攻撃する感じだ。
あたしは撃たないぞ。撃ったら疲れてタイマンで戦えなくなるからな。
用意が整ったところで、ご主人様が手を上げ、振り下ろした。斉射の合図だ。
あたしの横ではサリュとポルが魔法を撃ち始める。
ジイナの魔法槌はそこまで範囲が広くないから届かない。
エメリーも<投擲>しないようだ。一対一に備えるのか。
という事で、あたしとジイナ、エメリーは襲って来るだろうトロールの対処。
岩山をよじ登ろうとするか、棍棒や岩を投げてくるか、それから後衛陣を守る。
三方向からの斉射をくらったトロールが慌てだす。
ドシドシと走り、どうやらよじ登るつもりらしい。
物を投げるって頭がないのかもしれん。バカっぽいし。
ある程度近寄ってくれば、ジイナの穿岩の波も使える。
いくらタフなトロールでもこれだけ連続して魔法を浴びせられればキツイだろう。
特にサリュの聖なる閃光は異常だ。
神聖魔法が弱点ってわけでもないだろうに、かなりのダメージが入るらしい。
さすがに一発で死ぬというわけではないが。
狙いを絞って撃ってくれている事もあり、ピンピンしているのが残っている。
そろそろいいか、とエメリーを見ると頷いた。行けるらしい。
「よっし! じゃあサリュとポルとジイナ頼むなー!」
「「「はいっ!」」」
あたしは軽く手を上げて、崖になってる岩山の淵を滑り下りる。ズザーッと。
エメリーも一緒だ。あたしが言うのも何だが、多肢族なのによくこんなトコ下りられるな。
間違いなく歴史上最強の多肢族だと思う。
崖を下りきるとすでにトロールが待ち構えていた。
振り上げられた棍棒がすぐに落ちてくる。
あたしはそれを両手をクロスして受け止めた。
「よし! <一点突破>ぁ!」
避けなかったのは、こいつの攻撃力が知りたかったからだ。
竜人族の竜鱗は物理・魔法防御が非常に高い。
それに加えて侍女服は『鉄蜘蛛の糸』製の上、ご主人様の<カスタム>で強化されている。
見るからに重そうなトロールの攻撃に対してどうかと思ったが、問題ないらしい。
衝撃は足元まで響き、靴が土に少し沈むが、耐えられるし痺れもしない。
いけると分かれば、もう受けるのはやめよう。
間違えて侍女服を破くような事があればエメリーに怒られる。
そこからは<一点突破>の練習。
三階層でガーゴイル相手にも試したが、逆を言えばそれくらいの相手でなければ試せないのだ。
タフなトロールなら問題ないだろうと、スキルを使い、右手の爪で刺すように殴る。
上背があるから狙うのは腹だ。
一番肉が分厚そうだが、だからこそ練習になる。
一発、二発、三発、避けながら同じ場所に打ち込む。
なるほど。全く同じ強さで打ってるのに、威力が増している。
一発目より二発目、二発目より三発目と、感触も相手の反応も変わっている。
そして五発目で腹に風穴が開き、背中から肉片が飛び散った。終わりだ。
ふむふむと満足して右手を見た後、周りを伺う。まだ戦闘は続いている。
援護に回らなければいけないな。
ちらりと隣を見れば、そこには四本のハルバードを広げ、舞い踊る修羅がいた。
……こいつはもういいや。
他のパーティーはどうか。
Aパーティーはネネが毒らせてから避け続けているらしい。問題なし。
ドルチェはダメっぽい。盾受けだけして槍はあまり効果がないようだ。
しかしミーティアとウェルシアがフォローに回っている。問題なし。
Bパーティーはイブキはともかく、ティナとヒイノはタイマンだと厳しいっぽいな。
ティナは避けつつ目や首を狙っているが巨人相手だと位置が高すぎる。
ヒイノは盾で受けるのを諦め、逸らすことに専念している。攻撃は最低限。
ここもフロロとアネモネが後方から魔法を撃ってるから大丈夫だと思う。
トロールキングに挑んでいるご主人様はすでに斬り終えたようだ。
やがて全ての戦闘が終了し、集合した。
おつかれーとご主人様が気楽に言う。
「やっぱあいつ【領域主】だったわ。ドロップ四個出た」
『おおー』
「それとトロールキングと戦ってみての感想だけど、あいつボルボラとほぼ同じくらい強いわ。魔法を使わないボルボラって感じ」
『!?』
ボルボラって【天庸】のやつだよな。
樹界国でご主人様が倒したってやつ。ウェルシアの仇の……。
つまり最低でもトロールキングを倒せないと【天庸】とは戦えないってことか?
そいつぁ……
思わず顔がにやける。
最高の練習台が見つかったじゃないか。
しかしどうやら皆は引き締まった顔つきになっているようだ。
なんだ、楽しいのはあたしだけか。
「と言っても、ミーティアが戦った樹人族はこんなパワータイプじゃないだろうし、【天庸】と言っても様々だろう。―――しかしラセツに限って言えば、パワータイプで間違いないと思う」
ご主人様がイブキを見る。
イブキの表情も険しい。
「とりあえずイブキはトロールキングを圧倒できるくらいにならないとな」
「ハッ!」
はははっ、楽しくなってきたな!
あたしも交ぜて欲しいぞ!
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