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第七章 黒の主、【天庸】に向かい立つ
164:白き聖女は受難に嘆く暇もなく
しおりを挟む◎中央区(組合本部):合成魔物vsツェン、フロロ、サリュ
■サリュ 狼人族 女
■15歳 セイヤの奴隷 アルビノ
「<範囲回復>!」
「ううっ、メイド……【黒屋敷】か。助かったぜ」
「大丈夫ですか!? 早く避難を!」
迷宮組合本部の周りは大きな建物が密集していますし、人通りも多いです。
上空を飛ぶ謎の魔物から吐き出される、炎や氷のブレスは強力で、そこら中で被害が見受けられました。
私はとりあえず<範囲回復>しながら走り回り、避難するよう呼びかけていきます。
ふと上を見ればどうやらツェンさんとフロロさんが到着したようで、戦い始めた声が聞こえました。
二人が来ればもう安心、そう思っていたのですが……
なぜかツェンさんが吹き飛ばされ、謎の魔物の背中に下り立つや否や、そこに居た誰かを殴り飛ばしたようです。
そしたら今度は謎の魔物が暴れ出したじゃありませんか。
わわわっ、あちこちにブレスを吐き始めました。回復しに行かないとっ!
増えた仕事に追われていたら、今度はツェンさんが片方の翼をもいだようです。
そして落下する謎の魔物。
組合に落ちるかと思ったら、フロロさんが防ぎ、魔物は組合の向かいにある道具屋さんに突っ込みます。
ドンガラガッシャアアアン!!!
……うわぁ、あそこ、もう避難してますよね? さすがに。大丈夫ですよね?
「魔法使いは囲め! 壁で建物を死守しろ!」
「攻撃は前衛のみだ! 魔法と弓矢は効かないぞ!」
「竜人族のメイドが乗ったままだぞ! どうすんだよ!」
「知るか! 【黒屋敷】の連中がそう簡単にくたばるかよ! 構わず攻撃しろ!」
あっ、指示出してるの祝賀会でうちに来た【魔導の宝珠】の人ですね。
私も指示を仰いだほうが良いのでしょうか。
と思っていたら謎の魔物が道具屋さんから出て来ました。
暴れてますねぇ……あれ、首の所にしがみついてるツェンさんを振り落としたいんじゃないですかね。
ん? ツェンさんのせいで暴れてる?
いやいやツェンさんが離せばより自由に動いちゃうでしょう。
「ツェンさーん! 大丈夫ですかー?」
「サリュ! いいとこに来た! 悪いけど毒を回復してくれ!」
「毒?」
「尻尾がシャドウサーペントになってやがったんだよ! 背中ならブレスが当たらないと思って攻撃してたら尻尾の蛇が毒撃って来やがった!」
うわぁ……とりあえず治しておきましょう。
「<異常回復>!」
「よっし、サンキュー!」
「尻尾引きちぎれないんですか!? それとブレスが厄介なので首を何個か落として下さい!」
「無茶言うなよ! 翼一つ壊すのに<一点突破>六発かかったんだぞ!?」
えぇぇ……翼だけでトロールよりタフなんですか……。
でも魔法効かないらしいですし、私は回復優先でいきましょう。
……でもちょっと試しに撃ってみましょうか。
「<光の矢>! <光の槍>! ……だめですね。<聖なる閃光>! ああ、確かに効かないですね、悲しいです」
「おおい! 何やってんだバカ! あたしに当たるだろうが!」
ツェンさんなら大丈夫でしょう、多分。竜人族ですし。
仕方ありません。戦ってる皆さんの補助をします! ふんす!
「お、おい、なんだあの狼人族は……とんでもねえ魔法撃ったぞ……」
「さすが【黒屋敷】……規格外すぎる……」
「あれ、オークションで競り落とした【聖杖】じゃねえか……」
組合員の皆さんが謎の魔物を取り囲んでいる状況。
魔法使いの人たちは後方に下がって建物を守るようです。
前衛の人たちが剣や槍で攻撃してますけど……やっぱり素の物理防御力も高いみたいです。
ツェンさんで苦労してるくらいですから、普通の攻撃ではほとんど意味を為さないかもしれません。
それでもこの危機的状況に奮起する皆さんは勇敢です。
ツェンさんを振り落とそうと暴れる魔物、さらにブレスまでまき散らし、どんどん被害者が増えていきます。
周囲の建物も、魔法使いの人たちの壁系魔法では抑えられないようです。
私が頑張らないと!
「<光の壁>! <範囲回復>! <超位回復>! <光の壁>! <高位異常回復>! <範囲回復>!」
「おいおいおい……まじかよ、あいつ……」
「大司教ってレベルじゃねえぞ!?」
「聖女じゃねえか! 白い狼人族の聖女だ!」
ここまで連発してやっと持ちこたえる感じですか……さすがに厳しいですね。
どうにかしないと……あ、フロロさんが屋上から戻ってきました!
「すまん、サリュ! 壁は我に任せよ!」
「お願いします! 私は回復に専念します!」
良かった。これで少しは楽になる。
「来る途中で見たが、屋敷の上に風竜らしきものが飛んでおった。ご主人様は竜と戦っているやもしれぬ」
「ええっ! 大変じゃないですか! <範囲回復>!」
「ああ、出来れば早く駆け付けたいが……<岩の壁>! ……さすがにこの状況を放ってはおけん」
ううっ……確かに私たちが抜けたら絶対に戦線崩壊します……。
そうすればどれだけ被害が出るか……。
今はご主人様たちを信じるしか出来ないです……もどかしい。
「<一点突破>ぁ! よっしゃああ!!!」
『うおおおおっ!!!』
そう言っていたらツェンさんが山羊の首を落としたみたいです。これで氷のブレスは吐けません! 歓声が上がっています!
……でも相変わらず魔物は暴れています。むしろ余計に激しく暴れています。
やっぱり全部の首を落とさないとダメなんでしょうか。
……ツェンさん、早くして下さい!
■セイヤ・シンマ 基人族 男
■23歳 転生者
【剣聖】ガーブとの一戦が終わったのも束の間、今度は【天庸】のトップスリーらしきヤツらが現れた。
元凶のヴェリオと妖魔族、そして大きなワイバーンに乗った淫魔族。
おまけにアスモデウスとか言う公爵級悪魔族と合体させた風竜まで召喚しやがった。
どんだけ俺に執着してんだよ! 俺【勇者】じゃないから! 研究する価値なんかないですよ!
そう言いたいが、すでに言ってどうにかなる状況ではない。
問題はこれだけの戦力を投入されて、対するこちらの戦力が乏しいという事だ。
エメリーには妖魔族を、ウェルシアにはヴェリオを、天使組にはワイバーンと淫魔族を、それぞれ振ったはいいが、どれも危険に思える。
エメリーは何とかなるとして、ヴェリオに対するウェルシアは厳しいだろう。
元凶であるヴェリオが弱いとも思えない。自分自身を改造しててもおかしくはない。
ウェルシア自身がヴェリオに恨みを持ってるからこそ優先させたが……正直不安だ。
シャムシャエルとマルティエルも厳しい。相手が空だから頼むしかないんだが、見るからに強いワイバーンと未知数の淫魔族を相手にステータスが十分に<カスタム>されていない天使組でどこまでやれるか……。
本当なら俺が手助けしたい所だが、俺の相手は風竜悪魔だ。
風竜だけでも、公爵級悪魔だけでも強敵だろうに、なぜ合体させたし。
嫌がらせか! まぁ嫌がらせだろうけど。魔導王国とかに対する。
正直、どんな相手か予想もつかない。
相手が飛んでいる以上、俺も<空跳>を使い続けないと戦えないし、もうそれだけで無理がある。
おまけに背後には我が屋敷だ。絶対壊させねえぞ!?
他の家を壊させてもうちは壊させねえ!
メルクリオんちを壊させてもうちだけは壊させねえ!
そんな気概で望むしかない。
何とか早くに風竜悪魔を倒して駆け付けるか、エメリーあたりが倒してフォローしてくれるのを期待するか、それとも他地区に出掛けたみんなが戻ってくるのを期待するか……。
まぁ他力本願はしないでおこう。
俺はこいつを倒す事だけに集中しなければ。
<空跳>で上がる空の下、地上ではすでに戦いが始まっていた。
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